ネイティブ広告 メディアの救世主たり得るか?

“ネイティブ広告”(Native Advetising)をめぐるホットな議論が続いている。
2013年には米国の広告主の約半数が試行するともいわれる新たな広告。
新時代のWebメディア、モバイル・ソーシャルメディアとともに台頭した広告トレンドを解剖する。

米国メディア業界では、2012年夏ごろから、ネイティブ広告の是非をめぐる議論が活発です。文末のリンク集は、その一部にすぎません。
ある調査に依れば米国の過半の広告主がこれを試そうという意向を示しているといわれます(参照 → 調査結果)。
その「ネイティブ広告」とはいったい何でしょうか?
筆者は、ネイティブ広告を、従来の印刷メディアから発展してきた広告手法のひとつ、「記事体広告」「タイアップ広告」のモダンな再来とひとまず定義します(後ほど、改めての定義を行います)。

記事体広告
一見広告らしくなく、記事のような構成でつくられている広告のことをいう。
広告(advertising)と記事(editorial)を合わせてアドバトリアル(advertorial)とも呼ばれる。
記事体広告・Weblio

ちなみに、この「ネイティブ」の語が用いられた理由は明瞭ではありません。
しかし、“このメディア(形式)のために生まれた、生粋の……”という文脈で理解しておけば良いはずです。

ネイティブ広告と呼ばれる広告フォーマットが同時多発的に生まれてきたその背景は何か、そしてなにが“モダンな”要素なのか、の2点について議論に入る前に、どのようなものがネイティブ広告と呼ばれているか、3つほど例示をします。

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The Quartz:記事タイムラインに挿入されるネイティブ広告
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Twitter:タイムラインに挿入される Promoted Tweet

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ITmedia アプリ:タイムラインに挿入される「メッセージプラス」広告

広告市場の減退が進む中、広告主は広告効果(成果)について鋭敏となり、より効果の高い広告フォーマットをメディア運営者に求めるようになっています。
特に Web メディアでは、過去20年もの間、さまざまな広告フォーマットが考案されてはきたものの、基本的には、“バナー”と総称される「ディスプレイ広告」と“リスティング”と総称される「検索エンジン連動型広告」 の2種以外は、大きな存在とはなり得なかったと言っていいでしょう。
印刷メディアで誕生した記事体広告フォーマットも、Web メディアにおいては比較的小さな存在でしかありません。
このように、広告フォーマットの発展が停滞する中で、広告主の需要の減退も進んでいるのです。

他方、メディア読者の視点からも、大量のディスプレイ広告をくぐり抜けながらお目当てのコンテンツを閲覧する“苦痛”が、積み重なってきています。
これはどういうことでしょうか?
試みに、筆者が著名な Web メディア掲載記事を任意に調べたところ、記事1ページ中に15もの広告枠が設置されているケースがありました。
読者が、ひとつの記事内で広告に注意を払える余地が有限だとすれば、上のケースでは、読者一人当たりの有限な広告価値を、メディア自身が1/15にまで希釈してしまっているとも取れるでしょう。

では、メディア運営者にとっては何が問題でしょうか?
そこには、広告価値を高めなければならない、というプレッシャーがつねにあります。
このプレッシャーが、広告面積をさらに大きくするなどの悪目立ちを加速させているかもしれません。
あるいは、上記のようにさらに広告枠を増設するという悪循環を引き起こしているのかもしれません。

ここまではオーソドックスな Web メディアを念頭に、ネイティブ広告が台頭してくる背景です。
しかし、これとは別に見逃せない大きな潮流が影響していると見ます。
それは、モバイル化とソーシャル化の潮流です。

先に掲げたネイティブ広告の例示に、戻りましょう。
そこでは、Web メディアにおけるネイティブ広告、次に、ソーシャルメディア(Twitter)におけるそれ、そして、モバイルアプリ(メディア)におけるそれを紹介しました。
たった3つの例示ですが、共通する重要なポイントがここに浮上してきます。

  1. ベースとなるメディアのコンテンツと広告のトーンが一致している(融合している)
  2. インストリーム、つまりタイムラインの内側に広告が現われ、消えていく(バナーなどは、タイムラインの外側に固定されている)
  3. ユーザーとのインターフェースであるスクリーンサイズに対して固定的でない(小さなスクリーンから大きなスクリーンにまで柔軟に対応する)

1.の「コンテンツと広告のトーンが一致する」は、従前からの記事体広告の特性を継ぐものです。
一般にディスプレイ広告では、広告自体のデザインやコピーは広告主側によるものですが、記事体およびネイティブ広告は、基本的にメディア運営者側がコンテンツとの兼ね合いを意識しながら作り上げるのが一般的です。
2.「インストリーム」うんぬんは、メディアのコンテンツ表示形式に“ストリーム”や“タイムライン”と呼ばれる形式が浸透してきたことを意味します。
このストリーム型メディアでは、従来可能だった固定的な広告枠が設置しにくい、もしくは、その視覚的効果が低いということになります。ストリーム内に動的に現われる広告フォーマットが新たに誕生したのです。
3.「スクリーンサイズ」との関係は、モバイル化・タブレット化が急進展している現代では、最も大きな制約事項かもしれません。
スマートフォンの小さなスクリーンに15もの広告を配置しようとすれば、それは自殺行為です。
モバイルにおいて、ユーザーの視点がどこに集約されているかといえば、スクリーンのほぼ全域を支配するコンテンツそのものだといわざるを得ません。
多種のスクリーンサイズに適合するには、タイムライン形式にのっとる、コンテンツの表示形式に広告も合わせるのが最適なのです。

以上が、ネイティブ広告が、モダンな広告フォーマットとして誕生した理由です。
これらがもたらす期待値は、明瞭です。

  • 読者の視点から……雑多なノイズが抑制され、お目当てのコンテンツに没頭できる
  • 広告主の視点から……読者が嫌うものとしての広告から、コンテンツ同様の精読率で接してくれる広告が生まれる
  • メディア運営者の視点から……読者とのエンゲージメント強化を第一義に広告を制作できる

以上を踏まえて改めて「ネイティブ広告」の再定義を試みたいと思います。

  1. 固定的に設置された広告枠と異なり、ユーザー行動の主眼であるコンテンツと同様の表示形式を持った広告であること
  2. 編集コンテンツに対し、その品質や表示トーンが一致する、もしくは近似するコンテンツ性の高い広告であること
  3. ソーシャルやモバイルなど、読者のメディア接点の変化や多様性に最適化した広告形式であること
  4. テクノロジーと人間の編集力が関与する余地のある広告形式であること

最後の「テクノロジーと人間編集力が関与する余地のある広告形式」には注釈が必要でしょう。
以前の「記事体広告」では、メディア運営者がその企画や制作に携わる、すなわち編集力を全面的に行使するため、品質管理はできても生産性は高まりません。
しかし、ネイティブ広告で例示したTwitterの「Promoted Tweet」などは、形式においては技術的運用が寄与しやすく、人間力という高価なコストを抑制できます。つまり、システム的合理化の可能性がありそうです。

最後に、述べたようにこれから勢いを増すことが予想されるネイティブ広告ですが、問題点も見えてきています。

ひとつは、当然のことながら広告とコンテンツの境目がなくなることによる弊害です。
商品レビューを仮装したようなアフィリエート目的が勝ったブログメディアに出会うことがままあります。
長期的にはメディアの信用失墜という自業自得の結果にいたるとはいえ、これをどう抑止するか。メディア運営者が自らを律していく姿勢が求められます。

次に、上に述べたように「ネイティブ広告はスケールしにくい」という指摘がなされています(たとえば → これ)。
これは、「記事体広告」という人間パワーにだけ頼る古い仕組みをどう革新できるかに関わっています。

そして最後に。ネイティブ広告に期待できる良さのひとつは、“広告だらけ”化の現象を抑止できそうだということなのです。
もし、ネイティブ広告がメディアの救世主であるとすれば、“ネイティブ広告だらけ”にならないようにすることもまた、メディア運営者のガバナンスにかかっているはずです。
(藤村)

執筆に当たって参照した記事等:

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