オンラインメディアとしてピューリッツア賞を初受賞する一方、
過度なリブログ手法で記事を大量生産する——。
毀誉褒貶のある米Huffington Post。
創業者が、そのメディア手法について語る。
近年、躍進著しいオンラインメディアに共通する顕著な傾向に、“アグリゲーション”や“リブログ(リポスト)”の多用があります。
米 Huffington Post は、このアグリゲーションやリブログの手法を報道メディアビジネスの中核にすえ大規模に組織化したという点で、メディアビジネスの成功を揺るぎないものにしたと同時に、数多くの批判を招いたという点でも、その典型的な存在といえます。
本稿では、この HuffPo の創業者であり、いまもなお主幹としての役割を果たす Arianna Huffington 氏が、オンラインメディアが直面する課題について自らコメントした、Memburn のインタビュー記事「Paywalls, aggregation and the ‘third metric’: Memeburn interviews Arianna Huffington」(ペイウォール、アグリゲーション、そして“第三の指標”について:Arianna Huffington インタビュー)から、上記のポイントについて言及した箇所を紹介します。

Paywalls, aggregation and the ‘third metric’: Memeburn interviews Arianna Huffington | memeburn via kwout
まず本論に入る前に、アグリゲーションとリブログについて、簡単に整理します。
アグリゲーションについては、拙稿「メディアの未来を切り開く、キュレーションメディア」が以下のように説明します。
「アグリゲーション(Aggregation)」とは「集合体」のことで、情報を「アグリゲート」、すなわち収集するという意味合いを含みます。
Yahoo!ニュース(トピックス)や Google ニュースは、検索エンジン技術や専任スタッフを用いてインターネット上の各報道機関やメディア企業、そして企業の発表情報などを日々刻々“収集”します。
そして、収集した記事を、読者が使いやすいように整理分類などして改めてメディアとして情報発信を行っています。
他方、リブログについては、「IT 用語辞典 BINARY」が次のように解説します。
リブログとは、Tumblr をはじめとするブログやミニブログなどのサービスにおいて、他の記事を引用する形でエントリーを投稿すること、またはそのための機能のことである。
例えば Tumblr では、リブログの機能はボタンとして用意されている。気に入った記事を見つけた場合に、リブログのボタンをクリックすることで、その記事のコピーを自分のアカウント上で投稿することができるようになっている。
以上2種の手法を肯定的な文脈でとらえるなら、ネット上に遍在するコンテンツをもれなく収集する手間を肩代わりしたり、バケツリレーのように伝達し合うという点で、有意義な役割と説明できます。
他方で、“それは、他人が生み出したコンテンツの価値をかすめとって商売をする”と、やっかみにも似た否定的な文脈でとらえられるケースもままあるのです。
たとえば、HuffPo のサイト内検索で、“This article originally appeared in(この記事の初出は…)”との語句を検索すれば、該当する記事は1000件を超えることがわかると、あるブログは指摘します(「The Duplicate Content Myth. Busted!」)。
つまり、HuffPo サイトでは、話題(トピックス)の初出を外部に持つコンテンツが数限りなく生産されていることがこれでわかるというわけです(それらすべてを“複製コンテンツ”と呼ぶのは、いささか極端かと思いますが)。
さて、当事者の Huffington 氏の言葉を紹介していきましょう。
まず、女史は“オンライン報道の健全性についてどう考えるか”という包括的な問いに応えてこう述べます。
とても健全だと考えています。そこに“ジャーナリズムの黄金期”を見る人たちがあるぐらいです。既成のジャーナリズムはたくさんの重要事を喪失してしまいました。私の言いたいのは何かと言えば、たとえばイラク戦争(報道)です。大型弾道ミサイル(大量殺戮兵器)の存在という誤報を持ち込んでしまいました……(中略)
オンラインにはもっと数多くの“声”が必要なのです。もっと数多くの人々が、数多くの真実を公にできれば、ほんの少しの情報(による誤報道)の代わりに数多くの情報を得ることができ、ジャーナリズムを改善できると考えます。
次に、オンラインジャーナリズムの進化について議論が進み、女史自らがアグリゲーションの動向に触れます。
私は、(逆に)危殆に瀕しているような既成メディアがアグリゲーションを取り入れようと動いているのを見ています。
HuffPoでは、それが自ら執筆したのか、アグリゲートしたものか、あるいはブロガーが書いたものであるかに関わらず、Web でもっとも良質なコンテンツを提供することをサイトの出発点から読者に対し約束してきました。
それが意味することとは、あなたが良いものを執筆したら、HuffPo はそれにリンクするということ。それは HuffPo の読者にとって重要なことだということです。また、それは(オリジナルコンテンツを執筆した)あなたにとっても重要なはずです。なぜならそれがトラフィックをもたらすからです。
Huffington 氏が言いたいのは、HuffPo では自らの手になるオリジナルコンテンツであろうと、アグリゲートされた他メディアのコンテンツであるかは問題ではなく、良質なコンテンツを自らの読者に届けることが重要だと述べていることです。
ジャーナリズムの多様性が確保されなければならないとする、先の氏のオピニオンを補強する考えに、それはつながります。
多様な“真実”を読者に届ける必要があるからです。
また、アグリゲートされたコンテンツに対しては、返礼として、オリジナルのコンテンツに対するトラフィック(HuffPo からの読者流入)がもたらされるとする点も、HuffPo 流オンラインジャーナリズムの倫理と理解すべきなのでしょう。
続いて、質問者は“アグリゲーションやリブログはなくなる気配がない、この問題をどう考えるか”を訊ねます。
Huffington 氏の応酬は次のようなものです。
私は、アグリゲーションやリブログをめぐる議論は、それが何たるかをよく理解しないような人々によってなされていると思います。
というのも、オリジナルコンテンツを利用しながら(オリジナルコンテンツに対し)リンクを張らない、あるいは、リンクは張ってもオリジナルコンテンツの大半を利用するなどの行為は、明らかに正しいアグリゲーションではなく、エンゲージメントや法的なガイドラインを守らない行為なのです。
私たちは、編集者に対して継続的に守るべきガイドラインを教育しており、いったんこれが遵守されれば、(アグリゲーション行為は)完璧にウィン−ウィンとして機能するのです。
ここで、「ウィン−ウィンとして機能」とは、HuffPoが外部にあるオリジナルコンテンツをアグリゲートしたり、あるいは、リブログすることで、HuffPo自体はその読者に有益なコンテンツを紹介することができる一方、それを読んだ読者に対して、的確にオリジナルコンテンツの所在を知らせ、また、訪問させることができるという、双方にとっての“益”を指しているはずです。
冒頭に述べたように、コンテンツ過剰の時代には、価値あるコンテンツがどこにあるのかを伝えることが、価値あるコンテンツを生み出すことと同じくらい高い価値を発揮するというわけです。
紹介したインタビュー記事は、たとえば、ニュースアプリやペイウォールなどにも言及する興味深いものですが、本稿ではあえてアグリゲーションおよびリブログという話題に絞って扱いました。
繰り返しになりますが、これこそソーシャルメディア(口コミ)全盛の時期にあって、オンラインメディアを成功に導く肝とも呼べる要素と理解するからです。
このインタビューでは取り扱われていない、もう一つの重要な HuffPo の特徴が、記事に付随する膨大な読者コメントがあります。
内製・外製にかかわらず、話題のトピックスが存在し、それに対する論及やまとめが生成され、さらにその周囲に読者コメントが生じ活性化された会話の輪が広がっていく。
このような新しいジャーナリズムの姿を生み出し、同じく新たな報道倫理が生成されつつあるのです。
アグリゲーションやリブログは、ある種の価値を与えるものなのか。あるいは、それを奪い去る者なのか。
最終的な意義や評価の確定は、これからなされることになります。