デジタル絶好調の米 Atlantic が打ち出す、近未来 Webメディア “QUARTZ”

近年、売上倍増、デジタル広告を中心的収入源へと成長させるなど
目ざましい展開を見せる米 Atlantic Media。
同社が開始した新メディアは、これからの時代の Web メディア像に触れるものだ
そのポイントを検証していこう

創刊155年を迎えようとする米国の超老舗メディア The Atlantic のデジタル路線が好調です。
同誌を傘下に擁する Atlantic Media オーナーの David G. Bradley 氏は、同社の最近の業績推移を「この4年間で、売上は2000万ドルから4000万ドルへと倍増し、3年連続黒字。特にデジタル広告売上が広告収入の65%に達した」と述べます(The New York Times Covering the World of Business, Digital Only“)。
同社の最近の業績は、印刷、電子いずれのメディア事業も好調とされていますが(「153年の老舗雑誌『Atlantic』、デジタル強化で勢い復活」参照)、とりわけても同社のデジタルメディアへの積極戦略が大きくものを言ったことに、間違いはありません。
そのデジタルメディアへの取り組みに長けた Atlantic Media が、印刷メディアを持たない“デジタルファースト”な Web メディアを最近スタートしました。老舗メディアであり同社の屋台骨をなす The Atlantic とは好対照に、これからの Web メディアのあり方を強く意識した意欲的なメディア。それが Quartz です。本稿では、Quartz のどこが新しく、デジタルメディアの未来を体現する点とはなにかを確認します。

まず Web メディアとしての新しさについて確認していきます。
Quartz は、印刷メディアとしての母体を持ちません。他方、スマートフォンやタブレット版アプリを(プラットフォームごとに)個別に用意することもしていません。ひとつの Web サイトで多種のスクリーンサイズや機器に対応する“レスポンシブ デザイン”のアプローチを採用しているのです。

Quartz画面(左からPC、iPad、そしてiPhone版)

Quartz画面(左からPC、iPad、そしてiPhone版)

上記の画面で左端が、大きなスクリーンを備えたデスクトップ PC の Web ブラウザから見た Quartz。中央は iPad の Web ブラウザから見たもの。そして、右端が iPhone で同じく Web ブラウザから見た Top 画面です。
iPhone 版では、そのスクリーンをフルに利用するため、他には備わっている左側サイドバーを排して記事のインデックス情報を広く表示します。左上にサイドバーに代わってメニューを表示するためのアイコンが設けられています。
この iPhone 版におけるメニュー表示など、明らかにモバイル向けアプリを模したインターフェースを用いています。モバイルデバイスからのアクセスを強く意識した“Web アプリ”の文法を採用したのが、Quartz の第一の特徴です。

次に、メディアデザインとしての特徴です。下図をご覧下さい。
Quartz の見た目上の大きな特徴は、Top 画面から新着順に記事を表示するブログ風インターフェースです(実際、同サイトはブログ CMS として最も普及した WordPress をベースに開発されたとのことです)。

Quartzのページ要素(左は記事先頭、右が記事末)

Quartzのページ要素(左は記事先頭、右が記事末)

すでに「ストリーム型メディアの勃興 Web メディアの転換点」 でも触れたところですが、Quartz では、印刷メディアに範を求めたページ型メディア構成を弱めて、ストリーム型(あるいは、タイムライン型)メディア構成を採用しています。各種記事テーマというカテゴリメニューはあるものの、基本はジャンル混在で、Top 画面から記事を垂直方向にスクロールしながら読み継ぐアプローチです。

記事タイトルをクリックして“ページ”へジャンプするナビゲーションは設けず、あたかも Twitter や Facebook などのように、ひたすら垂直方向に記事全文を連ねて表示していきます。読者に求められる操作の基本は、スクロールだけなのです。
ストリーム型のメディア構成を採用したことは、印刷メディア=ページ型メディアで常識であるような複雑なデザイン、記事を取り囲む各種メニュー、多種の広告とリンクといった煩雑な要素が極力抑制されることに結実しています。これも目に付く特徴です。

広告については、後ほども触れることになりますが、通常、記事タイトル上部および右サイドバー、そして下部、場合によれば記事本文中にも配置されるディスプレイ広告類が排除され、唯一、記事末(それは次の記事タイトルの上、でもあるのですが)に大型のレクタングル(四角の)広告が残されています。
他の記事などのへのリンクもほぼ排除されています。上記画面図内で強調しているように、サイドメニューやソーシャル系サービスへの投稿ボタンなどのコントロール類も悪目立ちしない色調を採用し、コンテンツ閲読への集中を乱さない配慮をしているのがよくわかります。

広告モデルについて、改めて整理しましょう。Quartz に現われる広告フォーマットはごくごくシンプルです。
Web メディアでは大小さまざまな広告フォーマットがてんこ盛りとなっているのが普通です。
タイトル上の大きなバナー、記事本文右ヨコにスカイスクレーパー、記事本文の上下にテキスト型、本文中にはレクタングル、そしてページ下端にリスティング型広告……といった多種の広告を配置することは、今となっては常識の範囲内です。
これに対し、Quartz では、タイムラインのように続く記事と記事の間に、比較的大型なレクタングル広告が現われるのみです。
しかし、このレクタングル広告と同時に、編集記事の間に差しはさまれて現われる[SPONSOR CONTENT]のサインが付されたネイティブ広告、すなわち記事体広告が重要です。
ネイティブ広告については、「『さようなら、ページビュー』 Webメディアの経済モデルが変わる」で紹介しました。ストリーム型メディアにおける広告フォーマットとして主役となりそうなのが、このネイティブ広告です。
簡単に確認しておくと、ネイティブ広告は、編集記事のトーンを活かすように制作した記事体広告が一般的であり、タテ方向に流れるコンテンツへの読者の集中を乱さないように設計されています。配置とそのテーストが、コンテンツに集中しようとする読者にエンゲージすることをめざしているわけです。
10月中旬現在の Quartz では、広告主4社がレクタングルとネイティブ広告の両方に現われます。大小様々な広告フォーマットがあれば、その数だけさまざまな広告主とクリエイティブを掲載できるはずですが、Quartz はそのような煩雑さを嫌ったようです。逆に、限られたフォーマットで十分な収入を得なければならないというプレッシャーが Quartz にあることはもちろんです。

最後に見えにくい点ですが、アグリゲーションメディアとしての Quartz にも触れておきます。
同メディア掲載の記事は、記事体広告を除き基本的に署名が付されています。この署名を見ていくと「Source: Reuters」「Source: Dezeen」というように他メディアからの転載(編集)記事にたびたび出会います。“ブレーキングニュース”、すなわち、速報的なニュースを追いかける代わりに、特定のテーマに沿ったコンテンツ(たとえば、「China Slowdown」「Low Interest Rate」といったテーマが掲げられています)を継続的にフォローするために、外部執筆者と配信元の多様化を重視したアグリゲーション型の編集姿勢打ち出しているのも、Quartz の特徴といえそうです。

以上を整理すると次のようになるでしょう。Web メディアの将来の方向性として意識すべき特徴といえるはずです。

  1. モバイルからのアクセスを強く意識、多種のスクリーンサイズや機器に対応するサイト構築
  2. ページ型構成を捨てストリーム型構成を軸とするメディア設計
  3. 煩雑な広告、コントロール類を排除して読者のコンテンツ体験純度を高める
  4. 多種の広告フォーマットを排除、ストリーム型メディアに適したネイティブ広告を重視
  5. コンテンツ配信元を多様化するアグリゲーション型メディアの方向性

これらの特徴を一挙に取り揃えてスタートを試みたのが、Quartz です。めざすは、世界各国のビジネスエリート層を対象として地域ごとに別版を作る前提、かつ、特定ビジネステーマに焦点を当てたミドル(中規模)メディアとのことです。
述べてきたような設計や特徴が、このビジネス系メディアとしてのゴールに寄与するのか注目してその成果を待ちたいと思います。
(藤村)

参照した記事等:

モバイル広告の成長を阻むものは何か? 英国デジタルメディアの主張

モバイル広告が売れない最大の理由は、エージェンシーの問題なのか?
英国のデジタルメディア企業に対する調査結果から、
モバイル化トレンドの中、課題に直面するメディアの動向が見えてくる

英国のデジタルメディア運営者らによる協議団体 Association of Online Publishers(AOP)が、会員を対象とする調査結果を発表しています(AOP Content and Trends Census 2012:調査結果全文は会員限定公開)。
調査は、モバイルメディア市場の状況をメディア企業らがどのようにとらえているかというデータ、そして、今後どのように取り組むべきかについての分析を示しています。
示された内容は、わが国のデジタルメディア関係者にも見逃せない結果となっています。

本稿は、AOP 自身による調査のハイライトを伝えるレポートの紹介を中心に、筆者自身の見解を交えていくものです。

モバイル広告 成長を阻害する要素

最初に物議を醸しそうな調査結果を示します。
英国のデジタルメディア企業らは、モバイル広告(スマートフォンおよびタブレットの広告市場)の成長を阻害する第一の要因を「モバイル市場に対するエージェント(メディアレップ)の姿勢」と見ています。
第二は「実入りの少ないネットワーク広告」。そして、第三に「社内の営業スキル(不足)」です(下記チャート参照)。

スマートフォン/タブレットからの売上増収の阻害要因|UK Association of Online Publishers Content and Trends Census 2012より

スマートフォン/タブレットからの売上増収の阻害要因|UK Association of Online Publishers Content and Trends Census 2012より

ここでいう「エージェントの姿勢」とは何でしょうか?
おそらく、メディアレップらが販売したい、あるいは販売しやすい広告商材は Web 系の広告商材であり、モバイルのそれは、2次的、あるいは従属的な商材としか見ない。このような現象と想像できます。
それは、印刷媒体が中心的な広告商材だった折に、Web 広告商材が直面したものに酷似しています。
メディア企業のために広告を販売するエージェントの多くは、モバイル広告商材だけでなく、従来の Web 広告商材も販売しています。
両者を比較すれば、モバイル広告は価格帯から、あるいは、その効果(測定)その他、Web と異なる販売スキルが求められるという点においても、いまだに Web 広告商材ほどにこなれたものではないということかもしれません。
また、Web 広告では行動ターゲティング、リターゲティングなど、大量の広告在庫を用いながら表示精度を向上させるテクノロジー面での進化を続けていますが、モバイル分野ではまだ、読者ターゲティングの決め手となる商材開発が進んでいないことも背景にあるでしょう。

モバイル広告売上が伸びない要因の第二は、ネットワーク広告と見なされています。
ネットワーク広告(その代表格は、Google、Apple が提供しているものです)は、メディアレップや企業内営業組織が満たせない需要を収集する役割を果たしますが、精読率の高いモバイルユーザーを魅了する高効率な広告フォーマットを、モバイルメディアに提供できずにいます。また、上記のように十分な個人ターゲティングの仕組みを持たないなど、成熟前期を脱しきれずにいます。
さらに、第三の阻害要因にあげられた社内の営業もまた、第一の要因とされた、エージェントの取り組み姿勢がモバイルへとシフトしない不満とまったく同様の現象でしょう。モバイル広告の魅力を活かした営業をなし得ない状況にあるという結果を示しています。自社内外の営業組織や要員が、いまだモバイルへ注力しきれないという状況が見えてきます。

トラフィックの成長とモバイル広告の未成熟

上記のデータで注目すべき点があります。モバイル広告増収の阻害要因として「読者層の規模」をあげる意見に対し、上記エージェントの取り組み姿勢を指摘する声が倍近くある点です。
言い換えれば、読者層の開拓もしくは今後のその成長には、相対的に楽観的であるということです(これは、スマートフォン市場について。タブレットについては大きく懸念が表明されている)。

レポートはこう述べます。

モバイルからの収入の潜在余力を十分に満たすまでにはさらに時間がかかるだろう。
調査では、87%のメディア企業が少なくとも11%のトラフィックをモバイルから得ていること。そして、そのトラフィックから6%程度の売上を得る者がたったの29%にしかすぎないということが判明した。
しかしながら、メディア企業らはモバイルを通じたコンテンツ消費から得られる増収の可能性について、依然として肯定的だ。
タブレットメディアの91%、モバイル(スマートフォン)メディアを運営する85%が、来年における大きな事業機会の成長を予測している。

成長へ向けた事業戦略

このような調査結果やその他データを交え、AOP のレポートはモバイル化トレンドの下、メディア企業の動向について以下のポイントをあげています。

  • (モバイル分野の)広告収入は力強く成長する。——12か月以内にエージェントらはモバイル広告の需要が倍増するのを確認することになる
  • メディア企業は個別プラットフォーム専用のコンテンツ供給を止めていく。——コンテンツ形式を可能な限り多様なプラットフォームへと自動的に適合する技術を活用することになる。たとえばひとつのCMSによってすべてのプラットフォームへコンテンツを配信するなどである
  • コンテンツのばら売り手法の活用が成長する。——(メディア企業は)たとえば、New York Times と Flipboard が提携した事例のように、メディア企業は、サードパーティとの連携によりコンテンツのつまみ食い的な利用法を拡大していく。これにともないコンテンツ単位での課金手法も成熟していく
  • ユーザーデータの価値がますます高まる。——ユーザーは無料で品質の高いコンテンツを手に入れる代わりに、自らのデータを差し出すモデルを受け入れていく。それにより、ユーザーに関するデータ資産の潜在価値はますます高まる。この分野はメディア企業がより一層焦点を当てる分野となる

以上は、私たちが直面する状況に照らしても、日英の市場動向に大きな差異はないといえるでしょう。
わが国のデジタルメディア企業にとっても、このレポートが示唆的である点は、以下の4点に集約できるはずです。

  1. モバイル市場の成長に見合った売上のシフトが進んでいないこと
  2. その理由として、販売に関わる層で特にモバイルへの適合が進んでいないという人的・組織的課題がある
  3. しかし、状況は、今後1年程度で大きく進展するだろう
  4. そのためにも、技術的採用による高効率化と新たなビジネススキームへの挑戦が必須である

これからの12か月が重要な時期になるとレポートは伝えているのです。
(藤村)

アップルとの決別以後を語る フィナンシャルタイムズ HTML5 アプリ戦略の現在とこれから

ネイティブアプリを向こうに回して、HTML5アプリ路線を推し進める Financial Times
本稿では、そのHTML5アプリをめぐる戦略の現実と、将来に向けたモバイル戦略を紹介する

昨年(2011年)夏、Apple が決めたアプリ内課金収入をめぐる規約の厳格化に反発し、英国の経済紙 Financial TimesFT)が Apple の運営する「App Store」でのアプリ配布取り止めたことは、よく知られた事実です。
FT は、App Store からの撤退に合わせて、HTML5 を用いた Web アプリをリリースし、従来のアプリユーザーに対しそちらへの移行を促したのです(その経緯については → こちら を参照)。
以後、OS やデバイスを特定したアプリ(これをネイティブアプリと呼びます)開発を今後も促進すべきか、あるいは、FT が選択したように、プラットフォームの差異に影響を受けにくい、(Web ブラウザから利用する)Web アプリを開発していくかべきかという、“ネイティブ vs. Web”議論がいまに至るまで続くことになります。

Financial Times の HTML5 アプリ 左)ブラウザからアクセスすると、アプリへ誘導される 中)アプリへアクセス中 右)ブラウザ内でアプリが起動した

Financial Times の HTML5 アプリ 左)ブラウザからアクセスすると、アプリへ誘導される 中)アプリへアクセス中 右)ブラウザ内でアプリが起動した

この議論には、HTML5 の成熟度をめぐる純粋に技術的な論議もさることながら、OS やデバイスをつかさどるベンダーと開発者との間のビジネス面での利害得失に絡む側面もあり、複雑な様相を見せています。

本稿では、昨夏、反 App Store 戦略を打ち出し一躍注目の的となった FT アプリの現状と、そのビジネス戦略、そして HTML5 アプリの将来性などについて、FT 電子版責任者への最新インタビューの紹介を中心にして整理をしていきます。
紹介するのは、TabTimes 掲載「The Financial Times marches to a different app drummer; embraces HTML5, Android, Windows 8」(フィナンシャルタイムズは、アプリで他と違う道を行く HTML5・Androdi・Windows 8 を強く支持) です。語るのは、注目を浴びてすっかり有名となった FT 電子版の総責任者 Rob Grimshaw 氏です。

記事は、FT 電子版の有料購読者が、この7月にはじめて印刷版のそれを上回ったとします。さらに、電子版が5月に200万ユーザー、9月には300万に達するなど順調に成長しているとしています。この数字には、ユーザー登録制の無償閲覧者を含んでいます。ちなみにこちらの 記事 では、昨年8月段階で FT のネイティブアプリユーザーは「55万」であったとしています。
さらに、電子版の新規購読者の15%がモバイルユーザー(スマートフォンおよびタブレット)であり、そのモバイルユーザーからのアクセスが、すでに Web サイト全体の1/4に達しているとのことです。

この順調な成長を受け、「HTML5 アプリは、ネイティブアプリとの闘いで勝利に近づいている」と Grimshaw 氏は胸を張る一方、アプリ開発者の興味深い動向を以下のように語ります。

開発者は、ハイブリッド型アプリの開発を増やしています。
ハイブリッド型アプリとは、ほとんどのコードを HTML5 で書きつつ、ストアで配布するために、あるいは、ネイティブアプリならではの機能を追加するために、軽いネイティブ(アプリとしての)ラッパーで HTML5 のコアコードをパッケージしたものです。

ここで語られる(HTML5 アプリをくるんで、ネイティブアプリに見せる)「ネイティブラッパー」とはどんなものでしょうか?
Publickey の記事「HTML5 のモバイルアプリを“ネイティブアプリ化”する『PhoneGap』が正式版に。オンラインでの変換サービスも発表」が参考になります。

jQuery Mobile のようなマルチデバイスに対応したモバイルアプリケーション用フレームワークと組み合わせると、HTML や JavaScript などの Web 標準の技術で容易にマルチデバイス向けアプリケーションを開発し、それをさまざまなデバイスに対応したネイティブアプリケーションへと変換可能になります。

ネイティブ化したアプリケーションは、当然ながら AppStore や Android Market(引用者注=現在はGoogle play と改称)などで販売可能です。

ただし PhoneGap のネイティブアプリケーション化は、ネイティブコードへとコンパイルするのではなく、Web アプリケーションをラップして実現する方式なので、アプリケーションの実行速度はそのままです。

「PhoneGap」というフレームワークに関する記述ですが、Grimshaw 氏が語るネイティブラッパーは、おおむねこのようなもののはずです。
開発者(アプリ提供者)にとり、ネイティブラッパーがもたらすメリット・デメリットは、次のようなものです。

  • アプリのコアとなる部分を、HTML5 によって OS やデバイスに依存しない実装を行うため、開発済みアプリを他のプラットフォームへと移植する際の変更を軽減できる
  • Web 標準である HTML5 中心の開発ながら、ネイティブアプリの姿を持つため、App Store 等で配布、販売が可能
  • OS 固有の API 等を用いない分、アプリの実効速度などでネイティブアプリに劣る。同じ理由で、OS が固有に提供する機能や UI などを利用できないケースがある

ここにアプリビジネスの展開という面で面白いことに気づきます。
冒頭述べたように、FT はApple によるアプリ販売面での規約厳格化と衝突し App Store とたもとを分かったのですが、ネイティブラッパーでパッケージする手法とは、むしろ Web 標準で開発したアプリをネイティブ化することでストア経由で配布するための手立てであるのです。
技術における原理主義的論争のように伝えられがちな“ネイティブ vs. Web”議論ですが、実はストア(App Store や Google playなど)を司るプラットフォーマーとアプリ開発者との間の虚実ある駆け引きの面が強いことがわかります。

記事に戻りましょう。Grimshaw 氏はこう語ります。

アプリの販売環境(ストア)は、アプリ提供者にとって重要な課題です。読者との関係を築こうと思っている(FT のような)プレーヤにとってはなおさらです。
私たちは、いかなるストアとも取引するのに支障はありませんが、もし、読者との直接の関係を築けないなら、そこにはいられません。(読者との直接的な関係性は)高価な広告販売や購読制を維持するための死活問題なのです。

Apple は、頑固で実利主義的です。彼らは30%(手数料を)徴収できると思えば取るでしょう。アプリ提供者の使命は、資産は自らが築くべきだということです。多くのメディア企業は、その素晴しいコンテンツによりブランドや資産を築き上げきたのですから、自らの存在を人に伝えるためだけに Apple  や Androidのストアにいなければならない必要はないと思います。もし、ストアの規約が自らに適さないのであれば、自信を持ってそう振る舞うべきなのです。

同氏が語るのは、プラットフォーマーとの付き合いはケースバイケースだということです。
それを裏づけるように、記事は、FT がメジャーのメディアとしては初めて Windows Store でアプリを配布を始めた存在であること、また、Google play でもネイティブアプリを配布している事実をあげます。
その理由を、同氏は両ストアとの関係が極めて良好、言い換えれば好取引条件(ユーザーのデータを保持できること、アプリ内課金への非チャージ)であることを明瞭に認めているのです。
つまり、FT が推進する HTML5 アプリ化戦略は、多プラットフォームへの適合という観点での開発生産性を高めるメリットと、ストアとのタフな条件交渉を優位に進める手法でもあることがわかります。
ストアの集客力等を活かしてネイティブアプリをマーケティングするのも、あるいは、ストアとの条件交渉が決裂すれば、独自のマーケティングを行うことも可能という、意思決定の自在さを担保する後ろ盾だという意義が見えてきます。
FT の HTML5 アプリ戦略は、ストアから単に遠ざかるための施策ではなく、ストアでの販売、ストア外での展開のいずれをも柔軟に採用できるためのものなのです。

最後に、FT 電子版が見ている近い将来のニュースメディア市場について確認しておきます。

今のところ、私たちのメディアではモバイルと PC からのアクセスは継続的に伸びています。読者はかつてはあり得なかったような状況からモバイルでアクセスしてきます。また、デバイスを取っ替え引っ替えしながら、1日中 アクセスしてきます。
しかし、この状況は変化します。1年か2年の間に、モバイルからのアクセスがメインとなるでしょう。中国やブラジルを見てください。人々は最初からモバイル経由でインターネットにアクセスしているのです。モバイルは、短期間で PC からのアクセスを“絶滅種”へと追い込んでしまうでしょう。

Financial Times 電子版の戦略の現在と未来が確認できたと思います。FT はまず印刷版購読者を電子版のそれが追い抜くことを肯定しています。
また、PC からのアクセスのための Web メディアを維持しつつ、モバイルデバイスからのアクセスがあれば、それを HTML5 ベースの Web アプリへと誘導し、着々とモバイルユーザーを獲得しているのです。
いずれ、モバイルからのユーザー層が同社の主要な読者層になると分かっているからです。ニュースメディアの未来を見すえたその動向を、今後も見守っていかなければなりません。
(藤村)

「さようなら、ページビュー」 Webメディアの経済モデルが変わる

広告経済の低迷と、従来型の広告を嫌うトレンドが、新たな兆候を見せている
ソーシャルメディアに象徴的なストリーム型メディアは、
堅固だったページビュー型経済モデルを揺るがせつつ
Web メディアに新たな流れをもたらすのだろうか?

「広告はクールじゃない」——。
実在する人物でもあるショーン・パーカーとそう語り合うのは、スクリーン中の Facebook CEO マーク・ザッカーバーグです(映画「ソーシャル・ネットワーク」)。
Facebook がようやく成長軌道を描きはじめた時、映画はパーカーに「(ビジネスに走って)パーティーを11時に終わらせるんじゃない」とも言わせています。
いずれも、広告ビジネス開始によって成長にブレーキがかかったり、ユーザーの離反を招くことを良しとしない西海岸的雰囲気をよく伝えるシーンがそこにあります。

出典:Flims Goes With Net「アメリカのサイバー法の権威、ローレンス・レッシグによるソーシャル・ネットワークのレビュー」

出典:Flims Goes With Net「アメリカのサイバー法の権威、ローレンス・レッシグによるソーシャル・ネットワークのレビュー」

さて、現実界で「バナー広告はリーディング体験の邪魔になっている」とのオピニオンを発するのは、“デジタルマーケティング界のロックスター”? ミッチ・ジョエル氏です(氏のバイオグラフィは → こちら)。
本稿では、同氏によるタイトルからして刺激的な論、SEO Japan blogさようなら、ページビュー」を紹介し、Web メディアをめぐる最新課題へとつなげていこうと思います。

ページビューは、ページという単位で作られた HTML ファイルが、ユーザーにアクセスされページが表示された回数を表わす指標です。
さらに言えば、1回バナー広告を表示する機会を「インプレッション」と呼びます。1つの Web ページに5つの広告掲載枠を備えていれば、1ページビュー=5インプレッションとなり、その回数と単価を乗じたものが(バナー)広告収入を決定づけます。

このページビューを根幹にすえた Web メディアの換金商材が、バナー広告(インプレション型広告)というわけです。たくさんのページビュー(人気のある Web サイトで)があれば、インプレッション単価を有する広告をたくさん表示(販売)できます。その法則がシンプルなため、この15年もの間、何度かその終焉の可能性が語られながらも、変化の速いインターネットの世界においては異例なほどこの経済モデルは長続きしてきたのです。

本稿で取り上げる「さようなら……」は、このページビューに基礎を置く経済モデルに改めて終焉を告げるものといえます。

ほとんどの場合、バナー広告はリーディング体験の邪魔になっているように感じたし(あの点滅する物体である)…… 広告プラットフォームが成熟するにつれて、1つのウェブページ上にできる限り多く詰め込むこと、もしくは、さまざまな異なるサイズを用意して、ページのそこら中にバナー広告を散りばめることが重要なことになったように思われる。 appssavvy の Eric Farkas がこう言っている:“いくつかの最も人気のあるサイトやアプリ(Facebook、Twitter、Spotify、Pandora、Instagram)を見てみると、ページビューから広告収入を得ているものは1つもない。”

「さようなら……」が指摘するページビュー型ビジネスの問題点を整理すると下記のようになります。

  1. ページビューが収入に結びつくため、読みづらいページ分割(多ページ化)などが生じる
  2. ユーザーの注意を引こうとするバナー広告が、コンテンツ周辺のそこかしこに散りばめられ、読者のリーディング体験(閲覧)を阻害する
  3. バナー広告(インプレッション型広告)自体に技術的進化があまりないまま現在に至っている
  4. バナー広告がフィットしないタイプのメディアが増えている

1.〜3. は、いずれもページビューを増やし広告インプレッションを増量することに向かってひた走ることが、ユーザー(メディアの読者)の閲覧体験を阻害する結果となっていることに結びつきます。
バナー広告は、コンテンツにひたろうとするユーザーの注意を別のほうへとそらしたり、寸断したりする要素を含んでおり、そもそもが歓迎されにくい面があります。
Google ら検索エンジンが検索連動型広告を発展させたことは、同じ広告型経済モデルながら画期的なことでした。3.に挙げた技術的デッドエンドを克服した過去唯一ともいえるモデルでした。
また、4. は、ページ型でないコンテンツが増えていることを指します。動画や自動的に最新情報を生成するようなコンテンツ、さらに後で触れるストリーム型のように、1ページ、2ページとカウントしにくい巻物のようなメディアが次々と台頭しています。

では、ページビューに堅く結びついた広告経済モデルはどう変化していくのでしょうか? これまた想定できるシナリオを整理してみます。

  1. バナー広告の技術的進化(ユーザーの関心ある分野などに広告表示を絞り込む)により、広告に対するユーザーの態度を寛容なものにしていく
  2. バナー広告などをあきらめ課金モデルに切り換えていく(cakesapp.net などに萌芽は見えている)
  3. バナー広告とは異なる形式(フォーマット)の広告を開発していく

3.について補足します。
ストリーム型メディアの勃興 Webメディアの転換点」で述べたように、ブログ、そして Facebook や Twitter に代表されるストリーム型(タイムライン型)メディアが、ソーシャルメディアを使い慣れたユーザーにとり好ましいメディア形式となっていく傾向が見えてきました。
“巻物”と上記しましたが、時間さえあれば上下方向にスクロールして無制限にコンテンツを読める形式では、ページ形式にレイアウトされていない分、そこに広告を設置しようとすれば新しい広告形式(フォーマット)が必要になります。

このように、ストリーム型(タイムライン型)メディアが勃興すれば、その表現形式にフィットした広告フォーマットに関心が高まります。
それが、「ネイティブ広告」という概念で語られ始めています。

ネイティブ広告とは何なのか? iMediaConnection によると、ネイティブ広告は、“ユーザーの消費体験にシームレスに統合するようにデザインされた広告ユニット”として定義されている。 インターネットの大部分で、私たちはネイティブ広告ユニットを見つけたことがないと思う。しかしながら、インターネット中に存在する満場一致のネイティブ広告ユニットは、理想主義の夢である。テレビでは、満場一致のユニットが“スポット”で、デジタルにおいてそれに相当するものがバナーだ。ただし、これらのユニットはネイティブではない。 SEO Japanネイティブ広告の機会とネイティブな収益化

少し抽象的に定義すれば、ネイティブ広告は、コンテンツと広告の境界線を取り払うものです。さらにいえば、そのような広告=コンテンツを、巻物状となったコンテンツストリームの中に挿入していくものを想定します。
従来から“インストリーム広告”といった形容をしてきたものを、広告の空間配置上の特性にとどまらず、広告をコンテンツ化していく動向として、Web  メディア業界は注目しているのです。
すでにメジャーな実例も出てきています。ストリーム型メディアの本流である Facebook や Twitter は、このインストリーム広告の開発に熱心です(動向は、「広告のコンテンツ化潮流は、メディア倫理を改めて浮上させる」で整理しました)。
さらには、Facebook、Twitter を追う立場の Tumblr もやはり非バナー系の広告の開発や試行を行っています(こちら を参照 )。

これらの試行が、いずれもソーシャルメディア系で取り組まれていることには、メディアの表現形式がストリーム型であることに加えて、そのソーシャル性に理由があります。
たとえば、ストリームを見ているユーザーにとって、親和性の高い人物の「いいね!」が介在したり、あるいは、ユーザー本人が、スポンサー企業やその商品のページを「いいね!」したものに絞って、コンテンツを表示するなど、“広告の(ソーシャルな)コンテンツ化”を強化できれば、それは単にストリーム上に点々と挿入されただけのインストリーム広告を脱し、ユーザーの嗜好に即したネイティブ広告へと昇華できるかもしれません。

今後、ネイティブ広告は、インストリームという形式上の特性を離れ、従来の広告が広告主からクリエイティブを渡されて掲載するだけのものと異なり、コンテンツの作り手やメディアの責任者らが自ら創造することによりコンテンツとしての“魂”を吹き込まれたもの、という定義を色濃く持つことになるのかもしれません。

過度な SEO やページ分割などが横行するように、ただひたすらなページビュー増大路線は、片や広告主自身がページビュー型経済モデルに敬意を払わなくなりつつある傾向とも相まって地盤沈下の流れにあることは間違いありません。
むろん、それでも膨大なページビューを資産化している Web メディアが早々にそこから退出するはずもないでしょう。
となれば、ソーシャル性が高い、あるいは専門性の高いコンテンツに重きを置くようなメディア群から、ネイティブ広告や課金型経済モデルへのシフトが始まることは自明です。
ソーシャルメディア、モバイル型メディアの台頭、広告経済の停滞に見合った潮流変化の大きなポイントとして、これに注視しなければならないはずです。
(藤村)

モバイル、ソーシャル、ペイウォール New York Times その取り組みを語る

デジタルメディアの各種トレンドに意欲的に取り組む New York Times。
同紙は近年取り組んできたペイウォール化にも一定の実績を築き話題を呼んだ。
同紙編集幹部が肉声で述べる、これまでとこれからの New York Timesを紹介しよう

New York Times (以下、NYT)は、米国の数ある新聞メディア中でも、その規模、知名度においてトップクラスのブランドです。
同紙は、他の新聞メディア同様、昨今のインターネット優位の環境下で財務的な苦戦を強いられる一方、そのインターネットをめぐっては、早くから Web サイト開設(NYTimes.com)やその有料化(“ペイウォール”化)、数々のソーシャルメディアへの取り組み、そしてモバイル化など、果敢な挑戦と技術投資をこれまで続けてきました。

本稿は、Web サイト Talking Points Memo に掲載された NYT のメディアの現場責任者(Assistant Managing Editor)Jim Roberts 氏(同氏バイオグラフは こちら)へのインタビュー「NY Times’ Jim Roberts: ‘The Pace Of Change Gets Faster And Faster’」を紹介します。
NYT がメディアのデジタル化、ソーシャル化、モバイル化にどう取り組んでいるのか、先端を行く新聞メディアでの認識と活動の一端を見ていきたいと思います。
本稿は、上記記事の一部の紹介であることをあらかじめお断りします。その全体や表現の正確性については、ぜひ出典を確認して下さい。

インタビューは、現在、NYT が直面する状況を同氏に訊ねることから始まります。

——NYT での25年間で、最も劇的な変化は何だったと見ますか?

Jim Roberts 氏:間違いなくデジタルへの移行です。それは巨大なものであり、現在進行中です。
変化は激しいものです。そこかしこに生じる破壊的なテクノロジーへの対処にはたくさんのエネルギー、想像力を求められるものです。
われわれ同様、すべての組織(や企業)がそれに直面しているのです。

われわれは、Web を習得したと思ったら、すぐ次に、人々が携帯から情報を得るというまったく新たな環境に直面しています。タブレットは、さらに独自の利用法や情報消費スタイルを生みだしています。
また、ソーシャルメディアはどこにでも存在するようになりました。
もしあなたと4年前にこのような会話をしたとすると、Twitter については話題にしていなかったでしょうね。たぶん、スマートフォンは話題にしていたでしょう。しかし、タブレットについてはしなかった。
変化のペースはどんどん速まっています。破壊的な断絶は一層素速くやってきます。

続いて、氏は同紙が直面する課題に言及します。

ソーシャルメディア(に対処すること)は、さまざまな意味でチャレンジです。
私は、いまだにそれをどう説明すればいいか分かりません。それは、ひとつの生き方のようなものです。ソフトウェアに止まるものではなく、日々進化を続けるものです。人々はそこから毎日、情報を得ています。それはとてつもなく柔軟なものです。これとうまくやっていくためには、われわれもとてつもなく柔軟でなければならないことを意味します。

そして、モバイルも、そのすべてにおいてチャレンジです。
私は、トラフィックのパターンを観察し、自分たちの読者がどう振る舞っているかを注意しています。彼らはわれわれのWebサイトへのアクセスを減らしてはいませんが、スマートフォンやタブレットでの時間をどんどんと増やしています。

もうひとつのチャレンジが、動画です。
われわれは動画をもっと習得しなければと思います。ライブ動画をマスターしなければならないし、そこで敏捷にやっていけるようになりたいのです。

Roberts 氏は NYTimes.com の責任者でしたが、同時にデジタルコンテンツ全般に手腕を発揮しました。ソーシャルメディアへの取り組みは、自身も Twitter のフォロワーが5万人を超えるなど非常に積極的です。記事では同氏のソーシャルメディアへの取り組みを訊ねます。

——NYT におけるソーシャルメディアへの取り組みで、あなたの役割は何ですか?

昨年、リビアのカダフィ大佐が殺害されたときのことを思い返します。それが起きたとき、私は社内のソーシャルメディアチームに、こんな大事件のためには、(Twitterのタイムラインのような)速報フィードを持つべきだと言いました。そのようなわけで、フィード専用の New York Times Live という Twitter メディアができました。ハリケーン「アイリーン」の災害報道にそれを用いたのですが、こういう使い方をしたのはわれわれが初めてでした。
というわけで、私の役割はチアリーダーで、ときどきスタッフをそそのかすのです。基本は、彼らが積極的に、ソーシャルメディアを実験してみるよう奨励しています。

——記者が1日中、Twitter上をうろつくようなことを、ジャーナリズムへの影響という点でどう考えますか?

自分のソーシャルメディアについて言われているようですね。それはまったく Twitter の問題ではありません。確かに私は Twitter を多く使っています。しかし、それは人がソーシャルメディアを通じて情報消費するたったひとつの方法ではありません。それは繰り返し強調しておくべきですね。
ソーシャルメディアはジャーナリズムにとって良いものです。それはわれわれに気づきを与えます。それはシンプルで、情報をもっと良くします。損なうもの以上に良くしてくれることは確かです。そして、情報の流れを多様なものにします。

——あなた自身が、Twitter を通じて得た情報を共有していますね。

それは重要なことなのです。特定の人々の、個別の情報だけを追いかけるのは好きではありません。もし、ニュースというものを追いかけようとするのなら、それが NTY であったとしても、たったひとつのメディア(組織)が、価値ある情報を独占できると思うのは馬鹿げたことです。
違ったポイントから言えば、これは NYT での自分の仕事のひとつなのですが、デジタル(メディアの分野)において、他のメディアや出版社がどうやっているのかを観察するということでもあります。
というわけで、私は競争相手のフィードをたっぷり見て感心したりしています。私が感心し、競争相手が興味を持っているような事象があれば、それを周囲に共有するのです。

次に、NYT が近年取り組みを始めた注目の動向、“ペイウォール”(Web サイトを有料化する等によって、自由なアクセスを制限するアプローチ)について、記事は訊ねます。そして、新聞メディアの内部では電子メディアの成績に対してどう考えているのか、話題が転じていきます。

——NYT がペイウォールを開始したとき、あなたの考えはどうでしたか?

懐疑的でした。いや、懐疑的以上でしたね。私は反対派でした。読者とわれわれとの分離という、ペイウォールがもたらす代償について大いに心配しました。
NYTimes.com がなしてきたことは、これをアクセスされやすいものにすることです。若い層に対しては特にです。ペイウォールはこの若い層、そしてグローバルな読者を損なうのではないかと心配したのです。
しかし、大変に嬉しいことにこの層を堅く維持できています。確かに多少のページビューの低下はありました。しかし、読者層については依然堅調なのです。

——記者や編集者は Web トラフィック(アクセス状況)にどう関心を払っているのですか?

ひとつ注意を払うべきことは、投書のリストです。自分の記事が掲載されれば、それがどんな反響を得ているか、投書リストに関心を持つものです。記事への(ページビューなど)トラフィックがどうだったかに執着しているのかはわかりません。めったに記者から「自分の記事のトラフィックがどうだかったか」と訊かれることはありません。
われわれは誰しも良い結果を求めるものです。そして、自分の仕事に人々が関心を払ってくれているのかを知りたいものです。
われわれの Web サイトの読者規模からすれば、関心をもってもらえれば、間違いなく大きなトラフィックを得ることは分かっているでしょう。

インタビューは、最後に興味深いテーマに触れます。それは NYT のようなブランド性のある新聞内で、記者らが個人のブランド性(パーソナルブランド)をめざすべきかどうかという点です。

——執筆者がパーソナルブランドを築くことに力点を置いていますか? 会社として目指していることはどんなことですか?

答えは、複雑です。われわれはブランドが最も重要なものと信じています。私がいうブランドとは New York Times もしくは NYTimes.com のことです。それがあるからこそ、多くの人がわれわれの仕事を読み、見て、耳を傾けてくれるのです。
同時に、パーソナルブランドという力が台頭していることも理解しています。それはとても良い仕方でわれわれに浸透してきています。
私は、パーソナルなブランド化には肯定的な側面があると思います。
社内の記者らにソーシャルメディアで存在感を築くよう奨励しています。しかしながら、義務づけてはいません。
彼らがソーシャルメディアに対して前向きに付き合えるようにしなければと思うのです。われわれとしては、ソーシャルメディアと付き合い、そこで何ができるのかを経験させたいのです。
(そのようなわけで)ちょっぴり微妙な質問でしたね。

NYT は、新聞メディアとしては異例なほどテクノロジーに意欲的です。それは“未来の新聞”メディアの存立に危機感を持っているからかもしれません。
同時に、そのスタッフがテクノロジーやソーシャルへの親和性を高めていく文化の転換に注力をしているようにも見えます。
冒頭の「巨大で、速い変化」に対し「大きくて、歴史ある組織が、その変化に適合していくさまを見るのは嬉しい」と Roberts 氏が率直に語る箇所があります。
それはまさに変化に適合する意識や文化こそ重要な鍵を握っていることを述べていると受け取れます。

(藤村)