モバイル広告の成長を阻むものは何か? 英国デジタルメディアの主張

モバイル広告が売れない最大の理由は、エージェンシーの問題なのか?
英国のデジタルメディア企業に対する調査結果から、
モバイル化トレンドの中、課題に直面するメディアの動向が見えてくる

英国のデジタルメディア運営者らによる協議団体 Association of Online Publishers(AOP)が、会員を対象とする調査結果を発表しています(AOP Content and Trends Census 2012:調査結果全文は会員限定公開)。
調査は、モバイルメディア市場の状況をメディア企業らがどのようにとらえているかというデータ、そして、今後どのように取り組むべきかについての分析を示しています。
示された内容は、わが国のデジタルメディア関係者にも見逃せない結果となっています。

本稿は、AOP 自身による調査のハイライトを伝えるレポートの紹介を中心に、筆者自身の見解を交えていくものです。

モバイル広告 成長を阻害する要素

最初に物議を醸しそうな調査結果を示します。
英国のデジタルメディア企業らは、モバイル広告(スマートフォンおよびタブレットの広告市場)の成長を阻害する第一の要因を「モバイル市場に対するエージェント(メディアレップ)の姿勢」と見ています。
第二は「実入りの少ないネットワーク広告」。そして、第三に「社内の営業スキル(不足)」です(下記チャート参照)。

スマートフォン/タブレットからの売上増収の阻害要因|UK Association of Online Publishers Content and Trends Census 2012より

スマートフォン/タブレットからの売上増収の阻害要因|UK Association of Online Publishers Content and Trends Census 2012より

ここでいう「エージェントの姿勢」とは何でしょうか?
おそらく、メディアレップらが販売したい、あるいは販売しやすい広告商材は Web 系の広告商材であり、モバイルのそれは、2次的、あるいは従属的な商材としか見ない。このような現象と想像できます。
それは、印刷媒体が中心的な広告商材だった折に、Web 広告商材が直面したものに酷似しています。
メディア企業のために広告を販売するエージェントの多くは、モバイル広告商材だけでなく、従来の Web 広告商材も販売しています。
両者を比較すれば、モバイル広告は価格帯から、あるいは、その効果(測定)その他、Web と異なる販売スキルが求められるという点においても、いまだに Web 広告商材ほどにこなれたものではないということかもしれません。
また、Web 広告では行動ターゲティング、リターゲティングなど、大量の広告在庫を用いながら表示精度を向上させるテクノロジー面での進化を続けていますが、モバイル分野ではまだ、読者ターゲティングの決め手となる商材開発が進んでいないことも背景にあるでしょう。

モバイル広告売上が伸びない要因の第二は、ネットワーク広告と見なされています。
ネットワーク広告(その代表格は、Google、Apple が提供しているものです)は、メディアレップや企業内営業組織が満たせない需要を収集する役割を果たしますが、精読率の高いモバイルユーザーを魅了する高効率な広告フォーマットを、モバイルメディアに提供できずにいます。また、上記のように十分な個人ターゲティングの仕組みを持たないなど、成熟前期を脱しきれずにいます。
さらに、第三の阻害要因にあげられた社内の営業もまた、第一の要因とされた、エージェントの取り組み姿勢がモバイルへとシフトしない不満とまったく同様の現象でしょう。モバイル広告の魅力を活かした営業をなし得ない状況にあるという結果を示しています。自社内外の営業組織や要員が、いまだモバイルへ注力しきれないという状況が見えてきます。

トラフィックの成長とモバイル広告の未成熟

上記のデータで注目すべき点があります。モバイル広告増収の阻害要因として「読者層の規模」をあげる意見に対し、上記エージェントの取り組み姿勢を指摘する声が倍近くある点です。
言い換えれば、読者層の開拓もしくは今後のその成長には、相対的に楽観的であるということです(これは、スマートフォン市場について。タブレットについては大きく懸念が表明されている)。

レポートはこう述べます。

モバイルからの収入の潜在余力を十分に満たすまでにはさらに時間がかかるだろう。
調査では、87%のメディア企業が少なくとも11%のトラフィックをモバイルから得ていること。そして、そのトラフィックから6%程度の売上を得る者がたったの29%にしかすぎないということが判明した。
しかしながら、メディア企業らはモバイルを通じたコンテンツ消費から得られる増収の可能性について、依然として肯定的だ。
タブレットメディアの91%、モバイル(スマートフォン)メディアを運営する85%が、来年における大きな事業機会の成長を予測している。

成長へ向けた事業戦略

このような調査結果やその他データを交え、AOP のレポートはモバイル化トレンドの下、メディア企業の動向について以下のポイントをあげています。

  • (モバイル分野の)広告収入は力強く成長する。——12か月以内にエージェントらはモバイル広告の需要が倍増するのを確認することになる
  • メディア企業は個別プラットフォーム専用のコンテンツ供給を止めていく。——コンテンツ形式を可能な限り多様なプラットフォームへと自動的に適合する技術を活用することになる。たとえばひとつのCMSによってすべてのプラットフォームへコンテンツを配信するなどである
  • コンテンツのばら売り手法の活用が成長する。——(メディア企業は)たとえば、New York Times と Flipboard が提携した事例のように、メディア企業は、サードパーティとの連携によりコンテンツのつまみ食い的な利用法を拡大していく。これにともないコンテンツ単位での課金手法も成熟していく
  • ユーザーデータの価値がますます高まる。——ユーザーは無料で品質の高いコンテンツを手に入れる代わりに、自らのデータを差し出すモデルを受け入れていく。それにより、ユーザーに関するデータ資産の潜在価値はますます高まる。この分野はメディア企業がより一層焦点を当てる分野となる

以上は、私たちが直面する状況に照らしても、日英の市場動向に大きな差異はないといえるでしょう。
わが国のデジタルメディア企業にとっても、このレポートが示唆的である点は、以下の4点に集約できるはずです。

  1. モバイル市場の成長に見合った売上のシフトが進んでいないこと
  2. その理由として、販売に関わる層で特にモバイルへの適合が進んでいないという人的・組織的課題がある
  3. しかし、状況は、今後1年程度で大きく進展するだろう
  4. そのためにも、技術的採用による高効率化と新たなビジネススキームへの挑戦が必須である

これからの12か月が重要な時期になるとレポートは伝えているのです。
(藤村)

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