メディア企業がめざすべき新たな戦略を予感—[CCC BD購入者に映像配信 同タイトルを無料で]

出版社ら、書籍・雑誌など印刷媒体を事業の中心に据えてきたメディア企業は、遅かれ早かれメディアのデジタル化戦略の策定を迫られています。
ここで多くを述べませんが、その場合、選択肢はいくつかに限られてくることでしょう。

本業(印刷媒体の販売)を守りながら、少しずつデジタル化を試みる。あるいは、本業を食ってしまう可能性があったとしても、印刷媒体とデジタル媒体を競わせる。もしくは、本業と完全に切れた分野で、新たにデジタル専業的な事業を立ち上げ、本業の衰退に備える……。
いずれも、印刷媒体事業とデジタル媒体事業との間で、境界線をどうひくかに腐心している構図です。

しかし、興味深い融合的アプローチが近接領域では生まれているようです。
2011.11.04付「日経MJ」紙の記事「CCC BD購入者に映像配信  同タイトルを無料で」がそれを伝えています。
同紙は記事をWeb等に公開していませんので、引用で紹介することとしましょう。

カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)は『TSUTAYA』で映画のブルーレイ・ディスクを買った客に同じ映画を無料でインターネット配信するサービスを始めた。いったん映像ソフトを買えば、機器やメディアによらず視聴できる環境を提供する。BD購入者の囲い込みと映像配信サービスの利用拡大を狙う。

TSUTAYAはインターネット経由での映像配信サービスも運営していますが、まだまだリアルな媒体を購入する消費者が多いということでしょう。顧客は購入したタイトルを自宅の再生専用機やPC等で再生、鑑賞するわけですが、媒体を持ち歩くでもしない限り、どこででも自由にタイトルの続きを再生できるというわけではありません。それに対してインターネット配信ならば、どのデバイスかなど関係なく自由な視聴が楽しめます。
すなわち、TSUTAYAは「光学媒体か、デジタル媒体か?」ではなく、「光学媒体を買えば、リアルもデジタルもひとまとめに提供」して、より自由なタイトルの鑑賞を魅力として打ち出しているのです。

こうすることで、まだまだなくならない光学媒体への需要を手放さず(さらに言えば、より営業強化して)、デジタル媒体の利便性も伝達できるかもしれません。デジタルを食わず嫌いする消費者に、その利便性を味わってもらう絶好のマーケティング 機会になりそうです。

この融合的アプローチの唯一の難題は、 光学媒体とデジタル媒体両方で、売り上げられるわけではないことです。
TSUTAYAは、2つの商品から得られたかもしれない売上の一方を手放してでも、顧客の背中をデジタル配信へと押したかったということでしょう。

「ブルーレイ・ディスク」を印刷媒体と置き直して見れば、書籍や雑誌のデジタル化戦略のヒントにもなるのではないでしょうか。
(藤村)