電子書籍市場は新ステージへ—[電子書籍アプリは制作した後がたいへん、売上げUPには施策が必須]

電子書籍の世界標準を目指す規格EPUBに、日本語出版の要望を大きく取り入れた最新版EPUB3が可決されました
他方、電子書籍市場をこれまでもリードしてきたAmazonは新型カラータブレットKindle Fireを発表。さらに年内にも日本語版電子書籍の流通を開始するとの報道も現われました。
このように、表層を見れば、海の向こうのトレンドという段階から、いよいよわが国にも“電書”の波が本格的に到来かという気配にもなってきました。
さて、果してこれが奔流となっていくのでしょうか?
そんな折りに、わが国市場への浸透に欠かせない悩みや課題をまっこうから取り上げた記事があります。
JAGAT社団法人日本印刷技術協会サイトの「電子書籍アプリは制作した後がたいへん、売上げUPには施策が必須」がそれです。

電子書籍アプリは制作した後がたいへん、売上げUPには施策が必須 – JAGAT via kwout

記事では、「コンテンツの質やクオリティはもちろん」だが、問題はいかにしてそれを需要に結びつけるか? という点をあからさまに論じています。
こんな風にです。

iPhoneアプリは42万本以上もあり、ダウンロード数は150億を超える(2011年7月時点)という激戦地区。そのなかでアプリを販売するというのはハンパなく大変で、たとえば売り上げトップ10のランキングに入るためには有料版で1日5,000DL(ダウンロード)は必要なんだとか(電子書籍ジャンルでは1,300~1,500DLくらい)。

これまで、良くも悪くも流通上の仕組みが多くの版元の参入を許していた状況から、自らノウハウを築き上げることによって競争上の差別性を創り出す時機にさしかかっているのでしょうか。

世間での賑々しい話題とは別の場所で、このような地味な、しかし真摯な取組みが浸透をしていることに、新たなステージの到来を感じるのですが、どうでしょうか。
(藤村)

電子書籍市場、見えない壁を越えるには?—[「ジョブズ伝」電子書籍でも登場 紙とほぼ同じ価格で ]

先ごろ亡くなった、Apple元CEOのSteve Jobs氏の伝記が発売になりました。
モバイル分野で、音楽プレーヤーの分野で、そしてもちろんパーソナルコンピュータ分野で頂点を極めつつある同社。
その“奇跡”とも言われる復活と絶頂期を導いたJobs氏の伝記です。
大方を悲しませた同氏の“遺言(?)”という要素もあって、その売れ行きは推して知るべきでしょう。

さて、この伝記をめぐり日経新聞電子版が興味深い記事を掲載しています。「『ジョブズ伝』電子書籍でも登場 紙とほぼ同じ価格でです。
なにが興味深いかと言えば、記事はこのベストセラー化必至の同書が、単行本と同時に電子書籍でも刊行されること。そして、これが電子書籍ブームの試金石となると述べているところです。

講談社は新刊とともに、電子版もヒットを期待する。これまで同社の最大のヒット作は、2010年5月に発売した京極夏彦氏のミステリー小説「死ねばいいのに」。ダウンロード数は「数万」(書籍販売局次長の藤崎氏)だった。ジョブズ氏に関心を持つ読者層は電子版を好む可能性も高いため、伝記は「過去にない数字を目標にしている」(同氏)という。

さらに興味深いのは、やはり記事が、わが国だけの電子書籍出版事情でなく、それを世界の事情と比較している点です。
下記の表(記事より引用)を参照下さい。

日本の電子書籍市場がなかなか立ち上がらない理由のひとつに、よくその値付けが挙げられます。書籍(印刷物)と変わらない、もしくは高く設定していては……という指摘です。
しかし、上記比較表を見ると、わが国“電書”市場に流れる電・紙共通定価ポリシー”が、それだけで必ずしも世界の趨勢に逆行するわけでないことがわかります。

もちろん、国内での書籍(印刷)の定価が高くないか? という点が目に付きますが、これは別の議論として触れないこととしましょう。
英国やドイツではものの見事に書籍(印刷)に対して電書の定価が同じ、もしくは高く設定されているのです。とても興味深い状況です。

さて、問題は、電書の定価を共通、もしくはより高く設定している欧州などでは、わが国市場に比べて電書の普及度がどうなのかということです。そこに焦点が向かいます。
聞けば欧州(フランス)などでは電書市場が鳴かず飛ばずということのようです。実はこの種の価格政策によってなかなか読者が電書へと向かうインセンティブが生じない、故に市場が不活性ということはあるのかもしれません。
いずれ世界の市場規模などが確認できた際に、もう少し詳細に仮説を検証したいと思います。
(藤村)

本らしさから“電子書籍”らしさへ—[Kindleは「本らしさ」を殺すのか?]

米国では“電子書籍”が、いよいよ立ち上がってきました。
周知のように、この市場の中心にはAmazonがいます。またB&NのNookがあります。そして、AppleのiPadがいます。
いずれも販売は好調であり、特にKindleの成長の可能性には期待が高まっています(「アマゾンKindle事業事業の成長は続く参照)。
そこただ中、流れをさらに加速させると予感させる新製品が登場しました。
Amazon Fireです。
Amazonが初代のKindleを発売開始したのが、2007年。その4年にして「Fire」が登場、いよいよAmazonは読者に対し、電子を通じた読書体験の変革を迫るタイミングにきたとするのが、ブログ マガジン航の「Kindleは『本らしさ』を殺すのか?」です。
大変に刺激的な状況を伝えるこのブログポストを紹介しましょう。

Kindleは「本らしさ」を殺すのか? « マガジン航[kɔː] via kwout

同記事では、ニコラス・G・カー氏の言葉「未来は常に過去の衣をまとって登場する」を引きながら、これまで本の電子化を推し進めるプレーヤーが、電子書籍の事業化を紙の(従来の)本を“再現”するためのメタファを取り込みながら誕生していることを指摘します。「紙の本のルック&フィールにできるだけ近づけるようデザインされて」きたというのです。

しかし、記事のポイントはその模倣的段階が徐々に終わり、本来の、言い換えれば、過去存在していなかった電子の書籍が生み出されるタイミングだということです。つまり、「紙の本らしさ」を脱する動きが浮上してきたというわけです。

初期の電子書籍はユーザインタフェースのデザインコンセプトとして、紙の本のメタファーを採用していたわけです。しかし、メタファーは飽くまでメタファーで、それは飽くまでマーケティング戦術であり、従来からの読書家に心地よく電子書籍を使ってもらう手段だったのです。

ジェフ・ベゾスはビジネスマンであって、伝統的な本を守るつもりなど決してないとカーは断じます。むしろ彼は従来の本を破壊したいのであって、Kindle Fireにおけるマルチメディア、マルチタッチ、マルチタスク、アプリの導入はその一環なのだと。

Kindle Fire、そしてそれに先行するiPadとNook Colorにより、我々は電子書籍の真の美意識を目の当たりにしているのだとカーは書きます。そしてそれは、印刷されたページよりもウェブにずっと近い。

詳しくは記事に直接当たられることをお勧めしますが、結論を言うなら、「Fire」は、「本らしさ」重視のデザインを徐々に脱し、逆に「Webらしさ」、あるいはiPad登場時によく語られた「アプリらしさ」へと近づいていくというのです。
「Fire」はそのような過渡期を押し広げる重要な存在かもしれません。
カラー液晶、音楽や映像、そしてAndroid OSをテコに機能拡張要素を持たせた「Fire」を“邪道”とみなす声もあるようですが、上記したような遠大な第一歩を担う製品、と理解すべきなのかもしれません。
(藤村)

情報探索の3類型とは—[Three Mindset of Search]

米国About.comに「情報検索の3つの類型」(Three Mindset of Search)という調査結果が掲載されています。

allabout

原文は英語ですので、日本語でこれを紹介したブログポストに触れておきましょう。
Current Awareness Portalの「人が情報を探す3つの理由がそれです。
記事では上記の調査結果についてこう述べています。

リポートでは人が情報を探す行動を3つのタイプに分けており、それぞれの構成比率は、ピンポイントの答えを求める“Answer Me”タイプが46%、そのテーマに関して全体的な理解をしようとする“Educate Me”タイプが26%、何か面白いことがないか探すという“Inspire Me”タイプが28%、となっています。

詳細は原典に当たっていただく必要がありますが、何より人の情報探索ニーズ、あるいは探索モードは大きく3つ、それぞれ異なるのだという認識は大切です。
特に、情報を読者に向けて発信していく立場の、コンテンツホルダー(メディア企業)にとっては、読者に対しそれがどのような目的(文脈)に即して提供していくべきかと深く考えさせるものです。
さらに言えば、3つのモードのそれぞれに最適化したメディア形式も想定できるはずです。別の機会に論じてみたいと思います。
(藤村)

“アプリ経済”、ひたすら加速—[モバイルアプリケーションのダウンロード数、2015年までには980億件を突破か?]

TechCrunchがスウェーデンの調査会社Berg Insightがまとめたモバイルアプリケーションの市場規模に関する調査結果を伝えています。
モバイルアプリケーションのダウンロード数、2015年までには980億件を突破か?がそれです。

昨年、有料アプリケーション、アプリケーション内販売、定期購読料などによるアプリケーションストアでの売上は16億ポンド(21億5000万ドル)だった。
これが2010年から年率40.7%の成長を続け、2015年には118億ドルになるということらしい。

2010年に約1700億円という市場規模は、例えば、わが国の市場(パッケージソフト市場)2兆2000億円(2009年の値、IDC Japanの調査による)に比べても小さなものにしか見えません。しかし、これが15年になるとどうでしょうか? 国内市場は低迷、もしくは縮小ということを計算に入れれば、その半分ほどの規模までに到達するというのです。

人口に占める利用者比率が著しく高いモバイル(携帯電話等)分野で、かつ、利用者が1人当たり数本ものアプリを購入する可能性が高い市場。
こう考えると、高くても数百円程度が常識のモバイルアプリの市場の可能性が、計り知れないほど大きく見えてきます。
スマートフォンの普及が本格的に加速したばかりの現在。モバイルアプリが果たす経済的効果はIT産業に止まらないインパクトを秘めているはずです。

モバイルアプリケーションのダウンロード数、2015年までには980億件を突破か? via kwout

補足)著名なアナリストMary Meekerが先日(2011年11月18日)に行った講演では、
全世界のモバイルアプリと広告の成長(2008年から11年まで)が分かりやすくチャート化されています。
(藤村)