メディアのデジタル化が開く根本的な変化——メディアとコンテンツの“アンバンドル化”

このBlogでは、筆者の目に止まったメディアの現代的な課題、とりわけデジタルメディア“革命”に関わる現象、記事を紹介しています。
今回は、記事の紹介ではなく筆者自身が考えていることを、簡略に書き記しておこうと思います。

昨今、私たちが目にしているメディアをめぐるデジタル革命には、大きく二つの潮流が生じています。
ひとつは、従来印刷や放送といった、多くは“アナログ”なフォーマットを持ったメディアが、デジタルフォーマットへと変身を遂げようとする現象。たとえば、昨今話題の電子書籍はこちらに属しているでしょう。

そして、もうひとつは、Webメディアのように、多くがすでに十数年前からデジタル化を実現している分野に訪れている新たな現象です。こちらは、さまざまな方向性を見せており、A地点からB地点へ移行する、といった目に見えやすい変化として指摘しづらいものです。

本稿のテーマは、後者すなわち、すでにデジタル基盤を持つメディアに訪れている変化について触れることです。
結論から言うと、この分野での変化は多様な現象を伴っているものの、その根本にはメディアと、そこに含まれるコンテンツ(記事)の分離(アンバンドル化)の傾向が顕在化していることが共通しているのです。以下その点に注目してみましょう。
まずはその現象例を、順不同に挙げます。

  1. 読者が読みたいコンテンツを探しだし、それだけ読んで立ち去るような仕組みが当たり前となっている
  2. 広告表示過多になっているWebメディアのコンテンツから、広告を除去して表示する仕組みが公然と提供されている
  3. 上記と同様、コンテンツを、読者が読みたい部分のみ取り出して読みやすくする仕組みが公然と提供されている
  4. コンテンツを、PCだけでなく大型TV、タブレット、そしてスマートフォンというように、多様なデバイスで体験することが当たり前になってきている
  5. ソーシャルメディアやまとめサイトのように、コンテンツの周囲に、発見、要約、議論といったコンテンツに連動する価値が顕在化してきている

現象は、このように挙げ始めれば枚挙にいとまがありません。
1は従来、検索エンジン革命として認識されてきたことですが、これがWebでのコンテンツ体験の基本スタイルになってきています。読者にメディアを丸ごと体験して欲しいと願うメディア運営者も、昨今はこれに適合しつつあります。
2や3は、各種ブラウザ用に提供される「広告ブロック」のようなアドオン、そして、WebブラウザSafariの「リーダー」機能、ブックマーク機能から発達したInstapaperRead It Later、そしてEvernote(Clearly)、さらにはWebブラウザでコンテンツ(記事)を読みやすくすることだけに徹したReadabilityなど、数多くのサービスやアプリケーションが、メディア運営者が設けたパッケージを取り払ってしまう機能を提供しています。

Instapaperで取得した記事情報を「テキスト」で表示した

あるWebページをInstapaperで取得、「テキスト」オプションで表示したところ。
元のデザインははぎ取られ、テキスト中心の表示となる

4は、もはや常識的な動向です。
5は、コンテンツがバラバラに読まれる傾向をさらに助長し、メディア運営者の意図とは別に、テーマが関連するようなコンテンツを収集し、それをまとめて見せるといったことが、熱意さえあれば一般ユーザーにも可能となっているものです。これはCGMといった潮流の一端を形成するものであると同時に、起点となる他者の記事をごく容易に引用したり整理し直す技術的進展と見れば、上記1〜4と踵を接するものであるとわかります。

これらに共通するのは、各コンテンツはメディア運営者が送り出したフォーマットから分離不可な状態(新聞と言えば、あの専用用紙に印刷され宅配されるという一意のフォーマット)から、印刷で、PCで、そしてスマートフォンで…と多様化する段階に突入していることです。
そして、さらにその状態が高じて、ユーザー(読者)自らが提供されているフォーマットを自由に”ハック”してしまえる状況であることをも示しています。

大づかみ言えば、メディアがアナログからデジタルへと舵を切った時に、すでにこの課題は避けられないものでした。

この一連の現象を、別の見方からすれば、メディア運営者が思い描くシナリオが崩れることを意味します。
例えば、あるコンテンツを読者が読む際に表示すべく設置した広告を、読者がいともたやすくそれをすり抜けてしまいます。
あるいは、あるコンテンツを読んだ読者を、同じメディア内の他コンテンツへと誘導したくとも、そうなりません。
Webメディア運営者が直面している難しい課題とは、広告収入機会が減少しているという景気変動的なリスクとはまったく別に、このように、メディア運営者のシナリオを裏切るようなハッキング行為が、第三者、読者らによって容易になってしまっていること。それにより“良いコンテンツを創ったはいいが、それを収益化する広告表示機会が失われていく”“読者とメディアの関係が希薄化しなかなか定着させられない”というリスクとして台頭しているのです。

筆者は、冒頭に記したように、このような現象をメディアとコンテンツのアンバンドル化という普遍的な現象と見ています。
ではアンバンドル化はメディア運営者に悪いことばかりなのでしょうか? 実はそうとも言えないことに気づきます。

  1. そもそもライトワンス・リードメニー(一度制作・編集したものは、そのまま多様に使える)な状態は、メディア運営者の“夢”でもあったこと
  2. 上記は、同時にさまざまな収益モデルを開発する可能性をもたらすこと
  3. 読者が多様な表示を求めていることは、これまで以上に読者とのコンテンツ接点が広がる可能性があること
  4. 従来のWebより読者に喜ばれるフォーマットが創造できれば、読者との関係、絆がさらに深まる可能性があること

などがすぐにでも考えつきます。実際に読者はかつてないほど大量のデジタルコンテンツに自在に触れうる豊かな環境を自覚し始めているのです。
では、メディア運営者はリスクをどのようにチャンスへと変えていくべきなのでしょうか? 稿を改めて検討してみたいと思います。
(藤村)