“メディアの未来”を夢想する——時間、場所からの自由、そして次は?

前稿「クラウド革命が消費者にもたらすもの」で、消費者が用いる多種のデバイスが、それぞれクラウドとつながる時代について述べました。併せてそのような時代に来たるべき“メディアの未来”についてわずかばかり言及しました。
今回は、その点についてもう少し考えてみたいと思います。

この約20年弱の間に、アナログの伝達形式に依っていたメディアに対し、デジタルのそれがもたらした衝撃は、「時間(的制約)からの自由」「空間(的制約)からの自由」の2つに集約されると見ます。“ある時間・ここでなければ”という制約や強制が、この20年弱の間にほとんど力を失ってしまったということです。

詳しく述べるまでもないでしょう。まずは、PCとWebにより、時間を問わずメディアと接することができるようになりました。次に、インターネット接続可能な携帯が多く普及し、場所を問わずメディアに接することが可能となりました。

これらは“伝達形式”について述べています。が、深く考察すれば、この自由が、経済的側面や会話性・参加性という要素をはらむことで、伝達形式に止まらずメディアの内容までを劇的に変化させているとの理解にも到達するはずです。

さて、で、その次は? です。答えが見えているわけではありませんが、いくつかの兆候が感じ取れます。
たとえば、Masatake Hori氏のブログ「Lifehacking.jp」 に「新しいウェブ版のFoursquareは位置情報のキュレーション・プラットフォーム」が投稿されています。一読して、その示唆する可能性について大いに刺激を受けました。これをご紹介しましょう。

“地理情報サービス”ですでに多くの利用者を得ているFoursquare.comは、ユーザーがどこにいる、というチェックイン情報を受け、その周辺に位置するおすすめレストランなどを可視化するサービスを強化しています。ここで重要なのは、“近くにあるお店”情報という以上の付加価値をもたらそうとしていることです。記事から引用します。

ユーザーの自然な行動が価値を生む
たとえばちょうど昼ご飯頃に Foursquare にアクセスすると、自分の位置情報と時間から、近くにある「昼ご飯に適した場所」が表示されます。

これまでだと「食べログ」などといったアプリでは「半径 x キロ以内の店」といった表示に限られるわけですが、Foursquare は:

  • 私の過去のチェックイン → 「どうもピザが好きらしい」といった嗜好の表出
  • 友人のチェックイン → どんなクラスターに属しているかの表出
  • 付近の店でどんな人が、どんな時間にチェックインしているか

こういった情報をすべてもっているわけですので、最適なマッチングができるのです。これはすばらしい。

Masatake Hori氏の推定通りに仕組みが実現しているとすれば、 「ガイドブックや地図などあらかじめ調べたりする必要なく」「自分の好みをある程度計算に入れて」「知りもしない人ではなく、信頼できる知人が好んでいる」ようなお店情報を、いま・ここで提案してくれることになります。参考にしたくないはずがありません。

デジタルなメディアがもたらした自由さの上に、リアルタイム性やあなた個人の、といった要素が加味されたこんなサービスを見てしまっては、新次元の情報提案能力を有したメディアの姿を夢想してしまいます。さてそれを何と呼べばよいのか、まだわからないのですが。
(藤村)

クラウド革命が消費者にもたらすもの——アプリか? HTML5か? の先にあるもの

ITを語ろうとする際、もはや“クラウド”というキーワード抜きにそれを行うのは困難です。
これまでは、大がかりな費用と期間と手間をかけて行うものであった企業における情報化投資は、クラウドの台頭により、膨大な初期投資を必要とせず迅速に行うことが可能になりつつあります。まさに“クラウド革命”と言われる変化です。

しかし、クラウド革命は企業の情報化投資にインパクトを与えるだけではありません。
政府や自治体の情報インフラに影響を及ぼし、そしてついにその影響は、個人、消費者の世界に到来しつつあります。

ITmedia オルタナティブブログに、山崎秀夫氏が興味深い投稿をしています。「パーソナルクラウド(消費者クラウド)サービスと繋がり革命の凄さ!!」は下記のような視点を提供しています。

パーソナルクラウド(消費者クラウド)サービスと繋がり革命の凄さ!!:インターネットの第二の波とソーシャルメディアマーケティング:ITmedia オルタナティブ・ブログ via kwout

<ネイティブアップスが主、HTML5が補足>

iCloudに典型的に見られるように視聴者は雲=webを意識しないで活用するのが理想となります。そうなればプル型のブラウザーよりプッシュ型のネイティブアップスが主、HTML5がそれを補足する形に進むでしょう。筆者は何時も「昨日自宅で作った原稿がいつの間にか会社のパソコンにそっと置かれている。小田急線の中でスマフォで読める。」のを何故か「魔法だ」と感じていますが、企業と異なり、生活者にはこの魔法感覚が大切だと思っています。不思議なユーザーインターフェースですよね。

一方企業クラウドはどう考えてもブラウザー中心、HTML5中心です。

<専門性を喪失する多様な機器の繋がり>

企業クラウドに対する特徴は、幾つかありますが、まず挙げられるのが多様な機器が巻き込まれる点でしょう。企業クラウドの場合、基本がパソコンとラップトップパソコンであり、後は多少モバイル機器が加わる程度です。

一方パーソナルクラウドはパソコン、スマートフォン、タブレット、スマートテレビ、ゲーム機、音楽端末、自動車など多様な機器が繋がります。

これが興味深く感じられた理由は、最近つとに目にすることが多くなった“ネイティブアプリか? HTML5か?”といった技術(的ソリューション)議論のその先へと、ブロガーの視線が届いていると感じるからです。
クラウドと結びつくことで、消費者の体験のどのような部分が変化するのか?
それは従来、コンピュータという特別なデバイスだけがネットワークとの接続を司っていた状況が変化するということです。つまり、身の周りにあるカメラが、電話が、そしてTVがクラウドと結びつき「魔法」の箱へと変身するのです。
消費者にとり、クラウドとはこれまでバラバラに手にして、触れていた個々のデバイスを知的に連携させ、容易に高度なアウトプットへと導いてくれる存在です。カメラやTVが元来そうであるように、キーボードやマウスではなく指先などの直感的な操作によりそれが実現するという体験も見逃せません。

さて、このようなコンシューマをめぐるクラウド革命が、筆者の関心事である“メディアの未来”にも大いなる変革をもたらすだろうということも、最後に付け加えておきたいと思います。
20年も前に、MicrosoftのCEOであったBill Gates氏が“Information At Your Fingertips”というスローガンで述べたビジョン、「指先ひとつで情報を操れるように」なることは、それはそのままメディアの革命でもあるからです。
その時々、異なる状態から、求めるコンテンツを容易に引き出し、駆使する。デバイス、アプリ、そしてメディア(コンテンツ)のそんな連携が可能になることに、消費者のクラウド革命の意義の一端があると受け止めるのです。メディアにおけるクラウド革命、その方向に向かって材料は整いつつあります。
(藤村)

「次のアクションにつながる」情報フローとは何か—[Evernote Clearly が埋める日常の情報フローの「継ぎ目」]

Evernoteはデジタルな情報であればなんでも、クラウドへと保管できる便利な情報整理ツールとして知られています。
したがって、“情報の保管=後で読む”ためのツールとして意識されている方々も多いことでしょう。筆者もその一人です。
そのEvernoteがChromeブラウザ用拡張機能「Evernote Clearly」をリリースしました。
ブログLifehacking.jpがこのClearlyを取り上げています。「Evernote Clearly が埋める日常の情報フローの『継ぎ目』」がそれです。

同投稿には刺激的される意見が含まれています。本稿ではそれに少々こだわってみようと思います。まずは、その箇所を引用してみます。

ウェブページを読む際に、広告やよけいな部分をそぎ落として本文だけをじっくりと読みたい。そんなニーズに対応する機能は Safari にもありましたし、Instapaper のようなツールがそれを可能にもしてくれていました。

しかし案外なかったのが、「スタイルを除去したページを読んでから次のアクションにつなげる」というソリューションです。

Lifehacking.jpの3層表現Evernote Clearly が埋める日常の情報フローの『継ぎ目』」より

引用中の「ページを読んでから次のアクションにつなげる」の意味を示したのが、上図です。
ここでブログの筆者は、Clearlyが何と何をつなげると言っているのでしょうか?
それは上図で、Webコンテンツ(「Input」)と後で読む系ツール(「Read it later」)、そして、各種ソーシャルメディア(「Sharing」)の3層でしょう。Clearlyは「Input」(Webブラウザ)に連携し、以後の2層をスムーズに繋いでいくのです。

改めて「……次のアクションにつなげる」の表現に着目してみましょう。

デジタルコンテンツ(「ページ」)を読むという行為は、それ自体で終わらないのだと、ブログの筆者は語っているようです。
ページを読む行為は、「保管する」「改めて読む」などへと繋がっていきます。さらに、そこからソーシャルな知人たちへと共有したり、あるいは、自らのブログ等の記事へと送り込むというように、「次のアクション」があると述べているのです。

少し敷衍すると、デジタルメディアの時代、あるいはソーシャルメディアの時代には、読む、保管、共有あるいは表現へと連なる動線が、オフライン時代のそれとは異なり大きく進化しようとしているのです。
読書やメモ、表現(文章を書く等)は、それ自体とても人間的な営為です。この時代は、これらが緊密に結びつき加速する仕組みを整えてきました。
そして、今後はこれをさらに促進支援するような 仕掛けやデザインが誕生するのではないでしょうか? Clearlyだけがその解ではないはずです。
(藤村)

新メディア形式の誕生か—[「WIRED シングル・ストーリーズ」刊行にあたって]

少々個人的なお話から始めます。

自分自身がWeb専業メディアに長く携わってきたことに、関係してなのかあるいは無関係にか、軽いコンテンツを浴びるほど読むよりむしろ歯ごたえのあるコンテンツを少しだけ味わいたい……との欲求に駆られることがあります。そんな“ある程度じっくりと”とのニーズに適合するメディア(もしくはコンテンツ)の形式とはどのようなものかと考えてみました。

それは、通勤時間の往復プラスアルファぐらいの時間で読み切れるものではないでしょうか。

ここからがさらに個人的なのですが、遠距離通勤の私の場合、それは往復で3時間〜程度で読み切れるものが最適となります。
新書サイズで言えば100〜200ページ程度でしょうか。また、雑誌の読み応えある特集部分などもその要件を満たしそうです。
さらなる欲求としては、このようなテーマの“冊子”をその時の気分次第で選択できるよう、数種類は持ち歩きたいところです。
と、こんなボリュームとテーマに電子書籍のメリットを組み合わせた形式に、いま欲求を感じているところです。

そんな折りに出会った告知が「 『WIRED シングル・ストーリーズ』刊行にあたって」です。

海外版『WIRED』のアーカイブから、未邦訳の傑作記事をお届けするeBook限定のシリーズ「WIRED シングル・ストーリーズ」の刊行を、11月下旬よりスタートします。 「WIRED シングル・ストーリーズ」では、US、UK、イタリア版『WIRED』の過去の記事のなかから選りすぐりの「記事=ストーリー」を独立したパッケージ商品として、1本¥170から販売していきます。 テクノロジー、サイエンス、ビジネス、カルチャーなど多彩なテーマ、『WIRED』ならではの斬新な切り口、そして一流ジャーナリストたちの筆力……日本の新聞や雑誌ではお目にかかることの少なくなったロングフォームジャーナリズムの醍醐味を、日本語で存分に堪能していただくことが可能になりました。 電子デヴァイスを通して気軽にアクセスでき、30分~1時間ほどの読書時間で無理なく読み通せる、かつてなかった読み物の形式「シングル・ストーリーズ」。12月以降は、毎月2本ずつ新作をリリースしていく予定です。ぜひお試しください。

諸手を挙げて賛同したい企画です。「WIRED」という実績あるブランド、「eBook限定」という切り口、そして「1本¥170から」との価格政策、いずれも腑に落ちる企画です。

むろん、“過去記事の再利用”ではとか、“テーマが狭そう”など異見も予想します。しかし、本企画が成功すればそれぞれ得意な出版社からの後続企画を期待できます。また、分量に合わせて原価が小さくなるとは言えないので、 大胆な値付けを行うためにも当面はこのような再利用系企画が妥当でしょう。

ところで、このような重厚な書籍と軽い単発記事(コンテンツ)の中間に位置するメディア形式が、すでに米国では発進済みでした。昨今、出版をめぐる台風の目である、Amazonによる「Kindle Single」がそれです(2010年10月サービス開始)。

Kindle Singles
kindlesingle.netの「What is a Kindle Single?」ページ

Kindleという同社の電子書籍リーダーに照準を合わせ、「 5000〜30000ワードで、30〜90ページ相当」の軽量ながらまとまりのある多ジャンル向けのメディア形式が「Single」です。肝心の品揃えはまだまだ豊富とは言えませんが、ある程度にはなってきたようです(販売ページ参照)。

ややもすると「軽薄短小」との評価に傾きがちな、インターネット時代のメディア、ジャーナリズム。
それに対し読み応え、歯ごたえをもたらす。また、死蔵されがちな過去の特集記事のような価値あるコンテンツを蘇生させるため。「シングル」形式の電子書籍の流れに期待したいのです。
(藤村)

“ポストPC時代”を遠望する—[スマホを持つとパソコンの使い方はどう変わる?]

日経ITProが、「アンケートで知る、スマートフォンユーザーの動向」とのテーマの調査結果を報じています。「スマホを持つとパソコンの使い方はどう変わる?」です。

スマートフォン市場の急拡大がもたらすインパクトを、「ポストPC(PCの“後”)時代の到来」とする意見を見かけるようになりました。
あるいは、PCを駆逐するスマートフォン……こんな過激なイメージまで飛び出してきました。
中には、故人で、まさにスマートフォン時代の幕開けを演出したSteve Jobs氏がそう呼んだという説まであるようです(Steve Jobs proclaims the post-PC era has arrived)。

それはともかく、ではスマートフォンの急増はユーザーの行動をどう変えるのか? そして、それはPC時代とどう違うのか、については正確な情報はなく推測の域を出ないままでした。
今回ご紹介する記事「スマホを持つと…」は、その問いに答えるべく数々のデータを提示しているのです。

その中からひとつだけ、データを取り上げてみましょう。zu06

図 PCの所有形態別にみたスマートフォンを持って変わったこと

記事での解説を見てみましょう。

(上記の)図は所有PC別に「スマートフォンを持って変わったこと」を聞いたものである。いずれの場合も、最も多かったのは「ネットの利用頻度/時間が増えた」こと。次いで「PCの利用頻度/時間が減った」「自分の情報感度が高まった」が同程度で続く。スマートフォンを持つことによるネット利用時間の増加は、ネットを介した様々なサービス市場の広がりを期待させる。

実際、自由回答からは「得られる情報が増えて仕事の効率が上がった」「電子書籍の購読やゲームをするようになった」など、スマートフォン利用による”新たな価値”について触れた回答者も目立った。

どうでしょうか? これまで感覚的に理解していたことが、具体的に確かめられたと言えそうです。

具体的に、スマートフォンの登場によってどんな事態が起きているのかポイントを整理してみます。「PCの利用頻度/時間が減った」を除くと、下記のようなことです。

  • インターネットの利用頻度や利用時間が増える
  • 情報感度が高まる(ネットの各種情報への接点が広がる、利用法が深まるなどでしょうか?)
  • 「スマートフォンならではの機能」が便利に使える(ソーシャルやマップなど多彩なアプリを活用できるということでしょうか?)

いずれも納得感のあるポイントです。
スマートフォンの登場を契機に、私たちユーザーの行動は変わりつつあります。上記のポイントの向こう側に私たちの近未来図を垣間見た気持ちです。
(藤村)