メディア価値の奪回 広告テクノロジーの破壊的進化と向き合う

メディアの価値ではなく、ターゲット(読者)の価値に焦点を当てる広告テクノロジー。
メディアは、どのようにして自身の価値を再定義するのか?
メディア価値再生の起点となる2つの視点を取り上げる

前回「『メディア価値』の希薄化にどう備えるか? 」で、広告テクノロジーの進展によって、メディアこそが読者を最もターゲットできるとの価値観が覆されつつあることを説明しました。
広告主は、“自分の製品を欲する潜在顧客が、(たぶん)ここにいるはず”との期待感によってメディアから広告枠を購買してきました。しかし、潜在顧客(の条件を満たすCookie)をターゲットできるようになったいま、特定のメディアの広告枠に囚われずにずい所で広告を表示すればよくなったとも述べました。メディアに広告を掲出し続ける価値観そのものが疑われることになったゆえんです。

本稿では、逆にメディアを運営する者の視点から、“メディアという場”こそが広告価値の源泉となり得るという仮説づくりに取り組みます。

前稿をもう少しだけ振り返ります。事情はこうでした。

  1. インターネットを回遊するある存在(ユーザー)が、以前どのようなページを通過してきたか、その履歴のデータベース化が進んでいる
  2. ユーザーがあるページを訪れた場合、広告主はデータベースに問い合わせ、そのユーザーがターゲットであるかどうかを確認できる
  3. ターゲットだと確認できれば、そのページの広告掲載権をめぐるセリに参加する
  4. 競り落とせば、広告枠にターゲット向けに最適化した広告を表示ができる

こう書けば長たらしく響く一連の処理を、リアルタイム、すなわちユーザーがあるページにアクセスして記事を閲覧しようとする瞬間に完結できるところまできたのです。
こんな状況下で、メディアが果たせることは狭くならざるを得ません。
メディアが果たせることの第一義は、広告主が求めるようなターゲットを多く自らのページに誘致することです。
しかし、広告主にとって好ましいメディアは、ターゲットの集客力だけでは決まりません。セリ落すための広告単価も重要な要因です。
最新の広告テクノロジーを駆使すれば、ターゲットに対してもっと値付けの安いメディア(もしくは、ソーシャルメディアやWebサービスなどの広告枠でよい)を選択して広告を購買、表示すればよい。理論的には、そうなります。
広告主がターゲットする潜在顧客は、広告単価の高いメディアに訪れることもあれば、もっと安価に広告枠を提供してくれる場所にも出没します。広告主にとり、ターゲットは特定のメディアにだけ現われるわけではないからです。

このように、最新の広告テクノロジーは、プレミアムなメディアだけがプレミアムな顧客候補を独り占めにしているわけではないとの証明を、メディアに向かって痛烈なかたちで突きつけようとします。
筆者が前稿のコンセプトを「メディア価値の希薄化」としたのは、そのような理由からです。

では、(広告主にとって)“メディア(が果たす)価値”は、永遠に失われてしまったのでしょうか? メディアができることはないのでしょうか? 本稿では2つの方向性を考えます。

ひとつは、メディア運営者の協力抜きに広告主は、そのターゲットとコミュニケーションできるのかということです。
たとえば、先ごろ「“除菌”テレビ発売へ、イオン放出機能搭載」という発表がちょっとした話題になりました。
商品に対する論評は目的ではありませんが、従来ならばまったくマッチしないような機能を組み合わせたと見えるこの商品には面食らいます。では、このような新規性の高い、ユニークな商材では潜在顧客をどのようにターゲットすれば良いでしょうか?
広告テクノロジーを駆使すれば、あるインターネット上で回遊するユーザーの嗜好は、どのようなページを訪問してきたかという履歴から類推できるとされます。
“ページ”はある製品のレビュー記事である場合もあれば、なんらかのQAサイト内のページでもあるはずです。(Cookieの相互取引が成立すれば)ECサイトのどの商品ページ、ということまで追跡できます。つまり、具体的な行動と商材のひも付けからそのユーザーの関心領域を捕捉できるというわけですが、上記商材では“潜在顧客”条件の定義が複雑でしょう。
さらに言えば、以前にはまったくカテゴリ上存在していないような(たとえばiPadのような)商品を発売するような際ではどうでしょうか?

こう考えれば、“潜在顧客をターゲットし”“ユーザーごとに最適化されたメッセージを届ける”という条件の設定自体が非常に高度な思考と見えてきます。トライ&エラーも重なることでしょう。
メディアを運営する当事者には、このようなマーケターに対して優越する少なくともひとつの重要な権限が残されています。
それは“アジェンダ設定”ということです。
いま、なにが重要か、どんなことが魅力的か、メディアの編集者が肯定的なテーマを訴えることができます。そして、その(メディアの)場、雰囲気、文脈を形成していく主導権を、メディア運営者には持たされているのです。あるいは、メディアの魅力はそこに尽きる、とさえ言えるかもしれません。
説明してきた広告テクノロジーは、いったん形成されたメディアを分類し、そこを訪れたユーザーの行動履歴を収集しマッチしていくことはできますが、それをリードする機能は本質的に有していないのです。
もちろん、そもそもアジェンダ設定というメディアに許された権能を、メディアを運営する当事者、編集長が十分に生かすべく力量を発揮しているかが次なる課題となるのでしょうが。

もうひとつ、別の視点からメディアが優越する価値の軸を考えてみます。

メディアを運営する当事者はこう考えるのです。
広告主が、ターゲットを識別できるようになったとしても、そのマーケティング価値はつねに保証されるものではないと。
たとえばこういうことです。
高級別荘地の分譲を誘致するWebサイトを訪れたユーザーだからといって、昼時に近いB級グルメブログで、ターゲットを発見したので高級別荘地を訴求する広告を表示したとします。その広告効果には疑義が生じないでしょうか。
疑義が生じるとすれば、それはターゲット(ユーザー)の意識における“モード”が、高級商材を訴求する際にフィットしないというミスマッチに起因するはずです。

メディア側からの視点では、メディアが果たす役割には、単に良質の読者を一見の客として誘致するだけではなく、繰り返しの来訪を促し、さらには購買へとつらなるような参加行動を誘引する磁場、力学をもたらすことを主張するはずです。
影響力あるメディアは、その空間で読者を特別な“モード”へと送り込むのだと。
モードとは、場合によれば“求める商品を探して、購買ボタンを押そう”という文脈かもしれません。あるいは、“これを買おうかどうしようか? だれか背中を押してくれないか”というものかもしれません。はたまた、“今度の夏休みにどこへ行こうか?”という心理状態であるかもしれません
つまり、その場から離れると空中に蒸発してしまうようなデリケートな雰囲気であり、だからこそそれは他では再現できない固有の価値なのです。

ここで、参考になる書物を紹介しましょう。印刷メディアでも、また、デジタルメディアでも話題に上ることの多い小林弘人氏の著作『新世紀メディア論』です。

新世紀メディア論4小林弘人『新世紀メディア論——新聞・雑誌が死ぬ前に

なによりも大切なことは、そのコミュニティの『温度』を感じ、感覚的に『刺さるコンテンツ』をセンスし、人の流れを理解することが肝要なのです。

これはわたしの持論ですが、「雑誌の本質はその形に非ず」なのです。本質は、「コミュニティを生み出す力」なのだと考えています。コミュニティを生成するには、ライブなリンクとコンテンツの再利用を促すことです。

氏の指摘は有効です。「雑誌」(メディア全般にも適用できます)に重要なのは、静的なコンテンツという中心ではなく、それを取り巻くように生じている「コミュニティ」であるというのです。筆者(藤村)の用語で拡張するなら、コミュニティとは磁場であり、モードです。
その場にいること、そこに参加することで得られるモードの切り替わりこそメディアが他に譲り渡せない価値の中心に据えなければなりません。そうしなければ、ターゲットはメディアを離脱した後に、別の場所でやすやすと収穫されてしまうことでしょう。

商品やサービスを、積極的に調べたり選んだり、そしてその場で語り合いたくなるようなメディアとはどのようなものでしょうか?
編集者やメディアのスタンスにフィットしているので、記事や広告が訴求するイベントやセミナーに参加したくなる。
そのメディアが紹介する記事は信頼性が高いので、安心してそれを候補の一番に据える気になる……。
このような雰囲気の醸成は、一朝一夕には実現し得ない代わりに、その場の外では創れない優位性となるはずです。また、メディアの運営者がこのような雰囲気、モードを壊すような要素を、メディアの場から排除することも重要です。さまざまな高級ブランドなどが腐心していることがこのようなことです。

さて、小林氏が好んで使う用語“空間の司祭”(=メディア運営者)は、読者をコミュニティとして組織する者の言い換えです。あるいは、その場をリードするモデレータの言い換えでもあります。
メディアが本来備えた重要な価値を、外部的な視点から希薄化される以前に、メディアを運営する当事者が“この場でなければ提供できない”価値創造に取り組むことが重要です。
読者と会話しているのは、他のだれでもない。運営当事者であり、読者同士なのですから。
(藤村)

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