「メディア価値」の希薄化にどう備えるか? 破壊的広告テクノロジーの登場がもたらすもの

テクノロジーの進化が停滞してきた Web メディア分野
その停滞を揺るがすのが、ビッグデータを駆使する各種の広告テクノロジー企業だ
本稿は、破壊的な広告テクノロジーをひっさげ登場したプレイヤーらに
広告価値の根幹であるメディア価値が揺さぶられるに至った理路を検討する

Web メディアのここ数年間を振り返ると、テクノロジーの視点からは、その進化は意外にも漸進的だったと見なせます。JavaScript/Ajax が普及し Web サイトの動的な表現力に影響を及ぼしましたが、Web メディアという事業を一変しかねないかと問えば、変化は限定的でした。
次に“モバイル革命”への応答として HTML5 が次の大きなトレンドとして注目され、 また、レスポンシブデザインなどが動き始めましたが、本当の大きさが見えてくるのはこれからです。
ただし、進化が漸進的というのは、メディア事業者(本稿ではメディア企業と総称します)にとってのみ当てはまると言うべきかもしれません。
メディアの中心からではなく、周辺から地殻変動が次々と中心に向かって押し寄せた数年でもあったからです。
ブログ運営基盤、動画投稿サイト、そしてソーシャルメディア全般が巨大な成長を続けています。また、元来“メディア”とは呼ばれないようなさまざまな新興 Web サービス、モバイルアプリが誕生、成長しています。メディア企業はこれらとの連携に追われるという逆転現象が、この数年、常態化した光景です。

ところで、メディアの周辺にありながら中心のメディア企業の根幹を破壊しかねないテクロノジー的変貌が、もうひとつ生じています。本稿の主題、広告テクノロジー分野です。

いきなり広告の話題に入る前に、まず、こんなくだりから入っていきましょう。
イーライ・パリサー『閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義』からの引用です。
FilterBubble2

閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義

ウォールストリートジャーナル紙がおこなった調査によると、CNN にヤフー、MSN など、インターネットの有名サイト50カ所には、データ満載のクッキーや個人データを追跡するビーコンが1カ所あたり平均で64も用意されていたという。

人々が訪れるページの裏では、「オンラインにおけるユーザーの行動に関する情報」という巨大な市場がうごめいている。そのような市場で活躍しているのが、ブルーカイ(BlueKai)やアクシオム(Acxiom)など、あまり知られていないが大きな利益を上げている個人情報の企業だ。アクシオムは、ひとりあたり平均で1500項目もの個人情報を集めてデータベース化しており、そのカバー率は米国人の96%に達する。このほかに、信用情報から尿失禁の薬を買っているか否かにいたるまで、あらゆるデータを所有している。

『閉じこもる……』は、インターネット上の新たなテクノロジー動向と、それにともなう危機意識を「フィルターバブル」という視点で鋭く説く好著です。
フィルターバブルとは、Google、Facebook、Twitter ら現在のインターネットの覇者がおしなべて取り組んでいるパーソナライゼーションが、錯綜し膨れあがった状況を指します。
例示されているものとして、Google パーソナライズ検索があります。いまや同じキーワードを用いた検索であっても、そのユーザーごとに得られる検索結果は異なるようになっていることは広く知られています。
また、Facebook でも表示される情報にはパーソナライゼーションが施されています。多くの友達を持ちながらも、ユーザーのタイムラインに表れる“近況”は、アルゴリズムが働き一定の整理や選別がなされることで“ほどほど”の情報量に刈り込まれ、かつ、重要性の高い情報は届けられるようになっています。
これらは、それぞれ実装上のテクノロジーこそ異なれ、過去の行動やソーシャルグラフを加味して個々のユーザーごとに最適化した(パーソナライズ)情報を提示するというフィルター機能を、次々に提供しようとしている点で共通しているのです。
『閉じこもる……』の危機意識は、これら幾重にも折り重なるように提供された見えないフィルターにより、ユーザー自身は直視できていると信じる現実世界から、実は遠ざけられているということに帰結します。

ところで、本稿ではフィルターバブルが、現実界の認識を歪め見えにくいものにしているというジャーナリスティックな視点とは少々異なる方向に進んでいこうと思います。
『閉じこもる……』の引用文を念頭に置きながら、もうひとつ別の書物を紹介しましょう。横山隆治・菅原健一・楳田良輝『DSP/RTB オーディエンスターゲティング入門』です。

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DSP/RTBオーディエンスターゲティング入門

DSP/RTB によって1インプレッションの売買が瞬時にできるようになった現在、最適な広告を最適な人に届けるオーディエンスターゲティングが有効になった。インプレッションごとにどんなユーザーが見に来ているのかを判断するには、自社が持つ内部データと第三者から提供される外部データを活用する。

外部データとは自社以外の「オーディエンスデータプロバイダ」から提供されるオーディエンスデータのことである。

外部オーディエンスデータの提供元であるDMPは、海外では、AudienceScience、BlueKai、eXelate、Demdex などがあり、国内では筆者が所属する株式会社オムニバスなどがサービスを提供している。これら DMP を行っている企業は数多くの媒体にオーディエンスデータを管理するためのタグを設置し、サイト訪問者の閲覧データを取得する。取得したデータはサイトを横断して関連のあるカテゴリーごとに集計をし、セグメントと呼ばれる単位で管理が行われる。広告主はこのセグメントを利用したい場合、セグメントを配信プラットフォームの DSP と連携することでセグメントの対象者へ広告を配信することが可能となるのである。

気づかれたでしょうか? 紹介した異なる書物の2つの引用文には、ひとつの共通項がありました。「BlueKai(ブルーカイ)」という社名がそれです。
挙げられている「DMP」(データマネジメントプラットフォーム)や「オーディエンスプロバイダ」、あるいは「個人情報の企業」と呼ばれている企業群が果たす役割は、インターネット上に散在する“個人情報”を収集し、それを分類したデータベースを構築することです。この二つの引用文は、共通する事象を“危機意識”と、“広告テクノロジーの最先端”という両側面から述べていると理解すべきなのです。

先に断っておくと、ここで「個人情報」とされる情報は、これらに企業においては完全に匿名的なものであることが説明されています。
収集されるデータとは、各サイトにアクセスしたあるユーザーの行動履歴に関するクッキー(Cookie)情報なのです(クッキーについて知りたい向きはこちらへ)。

さて、ここからは本題です。個人情報の収集と広告テクノロジーの先端が、どう交差しているのか簡単な説明を試みます。
ある匿名ユーザー(あるいはブラウザがといってもいいでしょう)が、あるサイトのどんな記事を読んだか等の情報は、ブラウザを搭載したそれぞれのコンピューティング機器のクッキーファイルに記入することができます。一般的には訪問されたWebサイトが記録用に来訪者のクッキーに情報を記入します。ユーザーの行動履歴がクッキーに記録されていく理屈です。
この情報を大規模に収集すると、インターネットを回遊する多くのユーザーが、それぞれどのページ(それがどんな種類のサイト、もしくはどんな内容のページか)に関心を持っているかという大規模なデータベースが構築できます。
ここで匿名ユーザーを「ID」と呼ぶとすれば、ID ごとにどんな関心興味をもっているかをその行動履歴を収集したデータベースから抽出できることになります。
広告主からすれば、むろん、自社が販売したい製品(カテゴリー)に関心を持つ ID を含んだ利用可能なデータベースがここに誕生したというわけです。
さらに、行動履歴には単に関心興味というカテゴリー分類だけでなく、価格サイトやECサイトをいつごろ訪問したかなどの情報の切り口も加味することにより、購買に非常に近い状態の ID を理屈の上では同定することも可能です。

広告テクノロジーの進化はこのような巨大データベースの構築にとどまりません。
従来なら、このような ID を同定できたとしても、氏名・住所・電話番号・勤務先など本来の意味での個人情報がなければ、DM を送りつけたり電話で勧誘するなどといった実行手段がありませんでした。ところが“進化”は、機微な個人情報を取得しなくても、それぞれの ID に対して適切な広告を配信する手段を生み出したのです。
映画「マイノリティ・リポート」で描かれたような、壁面の大ディスプレイが通行者一人ひとりを同定して語りかけるようなことがインターネット上で可能になっていると想像して下さい。
それが、『DSP/RTB オーディエンス……』で解説されている最新の広告配信テクノロジーなのです。

もう少しだけ、要約を続けさせて下さい。
先の引用で、「DSP」とは「デマンドサイドプラットフォーム」の略語で、広告主側が広告を発注する(入札する)取引市場システムです。「RTB」は「リアルタイムビッディング」の略語で、多種多様なWeb ページにある ID がアクセスしてきたとき、そのページに設けられた広告枠一つひとつをセリ(競売)にかけ、競り落とした広告主の広告を配信するまでをシステム的につかさどります。
もちろん、ここで「ID」と書いたのは上記オーディエンスデータを参照して条件が同定済みである来訪者という意味です。
したがって、広告主の側からすると、「このような種類の ID がアクセスしてきたら、いくらまでの価格を上限にして広告枠を買う」といった条件をセットしておき、そのような ID からの Web ページへのアクセス一つひとつのセリに参加するというわけです。
概要が見えてきたでしょうか? DSP/RTB の仕組みが誕生したことにより、商品への関心や趣味などの情報を判別ずみの各 ID に対して、インターネット上のずい所に設けられた広告枠を通して適切な広告を配信できるのです。

想像できるように、このような仕組みがリアルになるためには、非常に膨大な量(たぶん数百万単位)のクッキー情報を取得、更新し続けるビッグデータ系の IT インフラが不可欠です。また、広告枠の競売、ID ごとに最適な広告配信などを一挙に処理した上で、Web ページをアクセスした ID に広告を高速に表示するネットワークインフラの構築もまた生命線となります。
このようにして、多種多様な Web ページ上の広告枠をめぐって、超高速なトランザクションを継続維持するわけです。

さて、筆者の問題意識のほうへ歩みを進めます。
DMP のビジネスモデルは大ざっぱに言えば、こうです。
DMP は多くのメディア企業と提携しそのページ内にユーザークッキーを取得するためのビーコンを設置します。この提携サイトを広げることで ID を可能な限り多く収集し分類することができます。
広告主は ID 情報と各 Web ページの広告枠の情報とを組み合わせて、広告配信権を(システム的に)競り落とします。この際の利用料として  DMP への支払いが生じます。また、DMP と提携した Web サイトはこの ID データ利用料の折半を受けるというのが一般的なモデルとされます。

ここでメディア企業にとっては、2種類の収入機会が生じたことになります。
ひとつは DMP にユーザークッキー取得のためのビーコンの設置料金です。
もうひとつは、もちろん、自社メディアへ来訪したユーザーに対して広告を表示するという広告掲載料です。
従来に比べれば ID データを販売する機会が増えているわけです。
また、RTB が取り持つ広告枠の販売は競争入札制が基本原理ですから、需要の高い広告枠を運用するメディア企業は理論上高値の広告収入が期待できます。
こうしてみると、広告をめぐる商取引テクノロジーの変化はメディア企業に“福”をもたらすように見えるかもしれません。しかし、そうとばかりも言えません。

『DSP/RTB オーディエンス……』の副題「ビッグデータ時代に実現する『枠』から『人』への広告革命」がいみじくも喝破するように、「だれに広告を見せるか」をほぼ確定できる時代にあっては、“広告価値”の帰属性は(メディア企業が運営するという意味の)「メディア」から限りなく分離していくことを意味します。
たとえば、マーケティング上、求める種類の ID に的確に広告を出せるなら、高値のついた商業メディアではなく、もっと安価な場所で広告を買いそこに広告を配信すれば良いからです。
狙った読者層と出会うために良い媒体の広告枠を購入する、という「読者価値」と「媒体価値」が密接に結びついていた広告価値観の大きな転換が、ここに示唆されています。
この転換は甚大な影響をメディア企業に及ぼさずにはいません。そうだとして、メディア企業にはどのような判断が可能でしょうか。次回に、続けて検討していきたいと思います。
(藤村)

キュレーション 逆説的メディアの構想

趣味のためのメディア隆盛期には、「もっと多く」がメディアの提供者と読者に共通する価値だった
いま、情報の過剰という“るつぼ”のなかで、
異なる原理、価値観が生じてはいないか?
情報過多・価値減衰に悩むメディア分野で、新たな事業モデルの仮説構築を試みる

本稿では、最近自分自身が構想しているメディアのありようについて、思い切って試論、私論を述べてみます。
どんなことを考えているのかと言えば、案外シンプルなことです。
「たくさん読みたがる読者に向けたメディア」、その逆に、「(たくさん)読みたくない読者に向けたメディア」。
この二つを分け、後者について考えみようということです。

本論に入る前に少々の寄り道を許して下さい。
筆者のバックグラウンドについてです。
社会人になって初めて雑誌編集に携わったのが、30年ほども前のこと。それは当時産業として活況を呈していた建設業者向け経理実務誌というニッチ媒体でした。
その後、非出版業界での会社勤めをはさんで、次に、雑誌編集に携わったのはおおよそ20年ほど前。パソコン系の出版事業を手広く営む会社での仕事でした。
そこで驚きの体験をしたことが、冒頭の二つのメディアの方向、という観点につながります。

その職場には、PC やエレクトロニクス、そしてソフトウェアについて、それがスタッフ自身が最も好きなモノ、ことがらとして熱く語るスタッフが溢れかえっていました。
“自分が最も好きなこと(得意なこと)を読者に向かって語る”ことがメディアづくりの神髄であるという雰囲気がそこにはありました。
以後、筆者自身、関わるメディアの選択には(無意識ながら)、自分が最も好き、あるいは、最も知識や体験として自信があるものという背景があり続けた気がします。
これを逆に、読者の側から見るとどう説明できるでしょうか? “好き”という関心を共通軸に、「もっと多く、存分に情報を摂取したい」との欲求がメディアを支える原動力であることを意味します。

このビジネスを方程式にすると、

ビジネスの発展(売上)= 読者の数 × コンテンツあるいは媒体数

と表されます。その変数は、「読者の数」の増大、「コンテンツあるいは媒体数」の増大であり、いずれも「数を増やす」ことが最重要の成功要因だと理解できます。
勘の鋭い読者には既におわかりのように、成長を謳歌していた時代の「雑誌」ビジネスの多くは、このような「数の増加」を基調に打ち立てられてきたのだと理解します。

さて、「好き」をテコにしたメディアビジネスが、「もっとたくさん」という原理へ純化するのは自然でした。
しかし、情報過多が深刻(?)な課題となったとすれば、「増産」原理での成長余地は限定的です。
人間は不思議なほど柔軟な存在で、「好き」が作用するケースでは、これほどに忙しい現代であっても、(情報)接触時間をジワジワと増やしています(最近の調査結果でも、メディア接触時間の増加が確かめられた)。その意味で「ジワジワ」は限界効用が逓減した結果、増産による残された成長余力を表わすものと見なければなりません。
ここに対極のメディア市場があることに気づきます。
(情報接触に)「なるべく時間を使いたくない」「たくさんは要らない」という意識が働く市場です。それは、おもに“仕事(義務)として情報に接しなければならない”分野と想定できます。あるいは役職と関わった情報ニーズであるかもしれません。時間は割きたくないが知らなければならない。
仕事上のテーマ(義務)として情報収集(接触)しなければならない領域があるのです。

その場合の方程式は、

ビジネスの発展(売上)= 読者の数 × 1/コンテンツあるいは媒体数

となるはずです。

読者にとり、いかに多すぎる情報に接触しないですませるか。あるいは限られた時間を効率的に過ごすために、いかにムダ・不要な情報を遠ざけるかなどの工夫が付加価値となります。
方程式では明示されませんが、情報接触量を減らすことで得られる読者の「可処分時間」という見えない変数がそこには含意されています。情報を選別したりまびいたりする作業がそのような変数に関わります。
「好き」が作用する媒体の事業は、読者に好まれるコンテンツをいかに数多く生産して売上をかさ上げするかという方程式で説明できたのに対し、逆方向の「情報接触を絞り込みたい」というニーズも存在しており、この場合、「コンテンツあるいは媒体の数」の増分は、読者の満足を下げるということに注意しなければなりません。
しかし、内心疑問も湧き上がってきます。「なるべくなら読みたくない、限定したい」という情報ニーズをターゲットとするメディアを構想することは逆説的ではないかと。
可能な限りページ数を絞り込む方向性の媒体を、売買することは可能でしょうか?
薄くぺらぺら。10分もあれば読み切れるようなメディアに、何もかもが無料になりたがるような時代においてそれなりの対価を設定するのには勇気が要ります。

下図をご覧下さい。ただちに筆者の仮説に入る前に、Just the News というたった数行で構成される“ニュース”サイトについて検討をしてみましょう。

JustTheNews日々のニュースを数行に絞り込んで届ける Just the News

米国の Max Temkin というデザイナーが個人で運営するもので、ブログのようなものかもしれません。1日1回、4〜5本のニュース記事へのリンクと、長めの論説記事(Long read)へのリンクが1本だけ掲載されるホワイトスペースが勝ったページです。
それぞれの行がリンクをなしていることさえ気づきにくいぐらいの、超ミニマルなページなものです。
この Just the News について触れた記事も紹介しておきましょう。

The Next Web 掲載「Just the News: A curated online news service that cuts out all the noise」(Just the News:あらゆるノイズを切り捨てたオンラインニュース キュレーションサービス)です。
記事は、Temkin 氏がこのようなメディア(ページ)を考案した経緯を述べています。

自分はつね日ごろ、プレーンで白いページにほんの数行の厳選されたニュースが盛られているようなものがあったらと願っていた。広告はなく、ソーシャルボタンやコメントもないような(ページだ)。ついに待ちくたびれてしまった。自分でそれを作ることに決めたんだ。

記事には補足的なことが種々述べられていますが、見ての通り。多くを語る必要もないでしょう。
いかにして、その日、人が注意を払うべき4つ、5つの話題に絞り込むかが重要なポイントです。
時間つぶし、数合わ、増量のためのゴシップネタなどは排除されています。
「ある日、重要な記事が5つに満たなければ、ポストするリンクも減らす」「読み応えある長文記事が1本しかないような日がきてもよい」とさえ Temkin 氏は述べます。
ご本人はデザイナーながらも広告バナーはおろか、メディアロゴなどまで不要物として排除してしまっています。
しかし、ここで終わっては単に“アマチュア”の余技議論となりかねません。

ここで「厳選する」「不要な情報の排除」という価値に焦点を当てることで、「なるべくなら読みたくない」「読むこと以外への可処分時間を確保したい」と望む読者に向けた逆説的なメディアの事業化が可能かと考えてみたいのです。
キュレーションだからこそ可能な新たなメディア価値観。それが厳選するということではないのか。これが筆者(藤村)の視点です。
おびただしい数で産出される「まとめ」「キュレーション」記事の数々は、実は「もっとたくさん読みたい」という文脈の上に存在しているように見えます。
「もっと絞り込みたい」という文脈の上で実現するメディアの事業モデルは構想できないでしょうか。

そこで、筆者もまた饒舌は控えつつ(笑)、事業化のための仮説を箇条書きしてみます。

  • 相対的に時間が足りない(限られている)というタイミングに提供して、メディア価値が引き立つように設計する(余暇時間には、むしろ時間消費型の閲読スタイルに読者は向かうだろうから)
  • “これさえ読んでおけば安心”という心理的担保を提供する。他のニュースを知らないことの心理的不安を取り除くことが肝要(たとえば、絞り込むことで失われる情報の網羅性を担保することなど)
  • 上記同様、その方面の権威がピックアップ(キュレーション)した、という心理的担保を用意する
  • そのニュースについてもっと詳しく知りたいという意向に備えて、詳細な記事群へとドリルダウン可能な構造を整える
  • 広告や煩雑なナビゲーションを排除してビジネスモデルを組み立てるために、購読型(課金)の仕組みとする……

特にキュレーションからの収入モデル/キュレーターへの報酬モデルについては、具体的に考えるところがありますが、いささか生々しくここで述べるのは避けようと思います。
ひとつのポイントは、紹介される記事(ニュース)の価値とキュレーションの価値(への金銭的対価)をどう分離できるかというにあります。
ニュース記事を日々生成しそれを生業とするコンテンツホルダーらと次元を異にする収益モデルを生み出すこと。そして、Temkin 氏の試みの背景にあるように、良質のジャーナリズムへの尊敬が貫かれる仕組みを生み出すこととが相まってこそ、「少ないことは、豊かなこと」が実現されるはずです。
(藤村)

“コンテンツ”へのバイアスを捨てる メディア事業再考

変化の時代から逃れられないメディアビジネス
コンテンツ価値にこだわる思考が、事業の硬直化を招く——。
情報価値へと立ち返り、
メディア事業を再考するためのヒントと事例を検討する

メディアのビジネスを考えるとき、筆者が最も重視するのは「テクノロジーは、メディアに対して両義的に振る舞う」という命題です。メディアに取り組む立ち位置によっては、テクノロジーは無慈悲で冷酷に振る舞います。しかし、逆に、希望に満ちたチャンスをもたらしもします。
その図式は、あらゆる産業ですでに起きたか、あるいはこれから起きようとしていることと変わりはありません。
その際に重要なのは、(メディア)ビジネスに対するスタンス(立ち位置)です。
いまは、明瞭には見通すことができない大きな変動が進行している時代です。目を大きく見開き、柔軟にそして肯定的に考えるべき時なのです。

と、そう考えているはずの自分が、不明を突かれた体験を告白することから本稿を始めようと思います。
取り上げるのは paidContent 掲載「Don’t think of it as content, think of it as information」(それを「コンテンツ」としてではなく、「情報」と考えよ)です。

デジタルメディアから利益を生むため、また、ソーシャルが破壊的創造をもたらすいま、コンテンツ企業、あるいは出版社は何を為すべきか? いま行っていることとは別のことを考えなければいけないはずだ。

記事は、米国のメディア関連ベンチャー Betaworks のCEO John Borthwick 氏の示唆に富むオピニオンを紹介します。同社は URL 短縮化サービスの Bitly やリアルタイムに Web サイト来訪者を解析するサービス Chatbeat などで知られる一方、米大手新聞社 New York Times と組んでソーシャルなニュース提供サービス News.Me を開発したりとメディアとの連携を武器にするベンチャー企業です。
では「別のこと」とはどんなことでしょう? 記事はこう述べます。

メディア企業が創っているものを「コンテンツ」と考えるのを止めてみること。代わりに、それを「情報」なのだと考えてみることだと(Borthwick 氏は)述べる。
コンテンツという語を使うことの問題は、そうすることによって、コンテンツを包む、あるいは流通させる“パッケージ”や“コンテナ”のほうを考えてしまいがちだということだ。
しかし、(いまやメディアビジネスにおいて)パッケージに関連する部分はほとんど破壊されつつあるのだ。

記事はまたこうも述べています。

メディア企業が創り出しているものを、パッケージされるための存在としてコンテンツと考えるのではなく、「情報」を創造しているのだと考えれば、ユーザーへ提供する情報価値に焦点を当てることができると、Borthwick 氏は言う。
パッケージや流通システムは、それが雑誌であろうと、新聞であろうと、そしてモバイルアプリであろうとも、二義的なものとなる。メディア企業は、ユーザーが何を、どう求めているかを理解することだけが重要なのだ。

不明を突かれた思いとはこの指摘に関わっています。
筆者(藤村)は従来から、単に“情報”の伝達にとどまるのではなく、いかに付加価値を与えるかを探求することによって、商業メディアは機械生成的なメディアやソーシャルメディアの多くに対し差別化できるという思いを軸に立論してきました。
デザインが付加価値となる、あるいは、多様なメディア形式(“パッケージ”と同義です)へとアウトプットすることなど、問題意識は“情報からコンテンツへ”でした。Borthwick 氏のオピニオンはそのような一方通行の思考であったことを見事に突いたのです。

たとえば、Bitly は、文字数制限があるツィートに長い URL を記述するために便利な短縮ツールとして広く受け入れられましたが、以後、どのような(Web 上の)情報がツィートされているか、それがどう拡散していくかなど分析するためのツールとしても成長していきました。コンテンツに対する情報としての意義の一端が、ここに見えてきます。

筆者を含めてメディアビジネスに携わる人間の多くのスタンスは、述べてきたように“いかに情報に付加価値を与えるか”であり、その現代的な解として多様なパッケージ形態をめざすという枠組みにとらわれています。しかし、Borthwick 氏のオピニオンをいれるなら、出口が広がる可能性があるのです。

では、どんな可能性が考えられるでしょうか?
デジタルメディアが追求可能なビジネスモデルを思いっきり拡張して見せたのは、『フリー〜<無料>からお金を生みだす新戦略』を2009年に世に問うたクリス・アンダーソン氏です。
同書に先駆けてメディアのビジネスモデルについての思考実験を公開したブログは、重要なヒントになります。氏のブログ The Long Tail の「What does the “Media Business Model” mean?」(メディアのビジネスモデルとは何か?)です。2008年に書かれたこのポストには考えるべきメディアのビジネスモデルが、更新を重ねながら25種(!)も掲げられています。

これら多くのメディアのビジネスモデルのなかで、“コンテンツから情報へ”の文脈と接点があるものとして、「コンテンツのライセンス(シンジケーション)」と「API 課金」があります。
前者は従来からニュースの配信事業者(通信社)のモデルとして存在しておりよく知られたものです。これにテクノロジーの要素を加えれば、ニュースを API 経由で自在に需用者が取り出す仕組みが考えられます。つまり、メディアにおける形式部分(パッケージ)は、コンテンツを創り出したメディア企業がではなく、それを API 経由で利用する個々の需用者が、自らの消費者に向けて創り出すことになります。
ここでは深入りしませんが、どの記事をどんな読者がアクセスしているのかといった、Bitly のようなメタコンテンツ情報を API により外部へと提供する事業も考えられそうです(API については「API をビジネス視点で考えてみる」が参考になります)。

CNET Japan 掲載「アイスタイル、『@cosme』内のデータを外部へ提供するAPI『apicos』公開」はその一例と言えます。
また、TechCrunch 掲載「Old Publishers Dive Into The New: Pearson Inks API Billing Deal With Zuora; Adds Food To The Mix」(老舗出版社 Pearson、API 課金システム開発の Zuora と提携を発表)も事例として参考になります。
いずれの例も、メディアのなかにあるコンテンツ群をデータベースとして見なし、それを外部事業者が呼び出しそれぞれの事業に組み込んで活用するという手法です。
コンテンツを、第三者である事業者がそれぞれの事業機会に即して柔軟に再利用できるようにするというのが、この“コンテンツの情報化”の意義と言えます。
従来の私たちであれば、自ら創り出したコンテンツの価値を重く見るがために、その収益化も自身が作り込むパッケージによって果たそうと考えがちでした。
むしろ、自らとはまったく異なる市場を持つ事業者が創造する事業機会へと委ねることで新たな収益化を模索する仕方が見えてきます。

また、直接の収益化を留保してでも、“コンテンツから情報へ”のアプローチを積極的に取り入れようとする試みもあります。ITmedia ニュースlivedoor ニュース、自社メディア記事をCCライセンスで公開 転載自由に」もその例です。
このケースでは、個々のニュース記事を第三者に“再利用可能”と宣言することで自社のサービス価値の周知拡散を図っていると理解します。あるいは付帯して営むブログサービスなどでの二次利用促進、記事の増産が進むなども意図しているのかもしれません。ともかく、この宣言によって多くの第三者が、再利用を意図してアクセスしてくることが見込めます。

このように、自らが創り出した宝物であるコンテンツを、あえて固定的なパッケージから分離して流動的に扱ってみること。そのことにより、情報の拡散が加速し、新たな収益機会を生み出すことにもなると仮定してみることは、重要なトレーニングとなるはずです。
テクノロジーがメディアに対して両義的な可能性を広げるとき、いかに肯定的なスタンスでそれに取り組めるか——。メディアがこれからも変化に満ちた長い道のりを歩むために重要な視点となるはずです。
(藤村)

コンテンツ アンバンドル時代 CMS刷新が生み出す新たな事業機会とは

この10年間、Web メディア企業は CMS を活用してきた。
しかし、スクリーンやデバイスの多様化、
そして、メディア形式とコンテンツが分離しやすい環境下で、
収益を重畳化していく際の重要な武器として、改めて CMS がハイライトを浴びる。

完全にデジタル化されたメディア運用環境では、コンテンツはメディア(という形式)に対しアンバンドル化される(分離可能になる)趨勢にあると、本ブログではたびたび述べてきました(「メディアのデジタル化が開く根本的な変化」「“アンバンドル化”の先にあるもの」参照)。
アンバンドル化の潮流のただ中にあっては、メディア事業者がビジネスモデル(たとえば、広告表示)を“バンドル”して送り出したメディア形式から、ユーザー(読者)はコンテンツを容易にアンバンドル(分離)して体験できます。メディア事業者からすればなんとも切ない状況でしょう。

しかし、冷静に考えてみるとアンバンドル化の潮流は必然であり、それは機会(チャンス)でもあることがわかります。
読者はスマートフォンを持って戸外に出ても、先ほどまでデスクトップ PC の大スクリーンで眺めていたメディアに、小さなスクリーンを通してアクセスすることができます。
スクリーンはさらに多様に分散し、かつ、ひとりがそれら複数を機会に応じて使いこなすようになることも自明です。
このような多様なスクリーン・利用環境を通じてメディアにアクセスする時代に、スクリーンサイズや利用環境に対して固定的にメディアを作り込むスタイルは、読者の限定、コストの増大といったメディアの衰退要因を抱え込むことになってしまいます。
メディア提供者(事業者)もまたアンバンドル化をテコに多様化の波に乗らなければならないゆえんです。

さらに補足をすると、メディア形式を多様化しなければならないのは、なにもモバイル化が急だから、ということにとどまりません。読者にとり、コンテンツの味わい方そのものがそもそも可能性として多様なのです。
美しく印刷され紙の触感を楽しみながら味わう仕方から、Web サイトをクリックしながら、あるいは、モバイル機器を文字通り指先の操作で利用することまで、ひとつのコンテンツを消費するスタイルには、デジタルな時代では自由であり多様であるという“機会”が備わっています。
メディア事業者にとって、このような多様性=アンバンドル化潮流を積極的に事業機会として取り入れなければ損だとさえ言えるでしょう。

さて本題です。そのためアンバンドル化潮流に効果的に適合していく“仕組み”が必要となります。複数のスクリーンサイズを意識していちいちコンテンツを制作するのは合理的ではありません。ひとつのコンテンツから、可能な限り労力を抑制しつつ多彩な機会(チャンス)を生むのでなければなりません。
これを実現する技術基盤のひとつに CMS(コンテンツ管理システム)があります。
本稿では、コンテンツアンバンドル化の潮流にあって、メディア事業者が効率的で新たな事業機会を創造する武器としての CMS ついて考えてみたいと思います(CMS の概要についてはこちらを参照)。

officercomCygnus Digital Mediaが運営する警察官向け専門メディア、Officer.com

材料とするのは、メディア事業者(パブリッシャー)向けメディア eMedia Vitals 掲載「Building the ‘perfect’ CMS」(“完璧な”CMS を構築する)です。記事は、多くの印刷雑誌に加えて30以上もの Web サイトを運営する米メディア企業 Cygnus Digital Media が取り組む CMS の変更をテコとする大きなメディア再構築プロジェクトを紹介しています。

2010年の4つの関連サイト再構築以降、Cygnus は読者と広告主のために鋭意サイトの改善に取り組んでいる。昨年には15ものサイト開設やリニューアルを果たし、今後の数か月の間にも7つの新サイト・リニューアルが計画されている。
Cygnus 幹部によれば、これらプロジェクトの範囲からした同社の CMS 投資は、他社製品を購入することに比べれば極めて小さいとのことだ。しかも、投資はすでに元が取れているようだ。
CTR(広告のクリックスルー率)から見て、広告効果は新システムとなり3倍にもなった。
デザインリニューアル後のサイトでは、PV と来訪者数で10〜20%増を果たしたと別の幹部が証言する。
また、読者とのエンゲージメント(結びつき)も同様に改善した。警察官向け専門 Web サイト Officer.com では、新しいコメントシステム採用でコメント数が200%増を示した。また、多くのサイトでは、目立つ場所に設置したことで Facebook の「いいね!」が50〜100%増えた。これについて、同幹部は「ソーシャルからの来訪者数が、われわれのサイトにとって重要なトラフィック源となり始めた」と述べる。

実際のところこれらの効果を、“CMS の変更”だけで実現できるわけではないでしょう。記事は詳しく述べていませんが、広告効果を上げる、サイト内の他記事への回遊誘導、ソーシャル系ナビゲーション機能など、デザインをはじめとする総合的なリニューアルの効果があっただろうことは想像に難くありません。
これらは素晴しい成果ですが、力点を置き紹介したいのはその背景、見えない要素についてです。

Cygnus は同社が持つ Web サイトの製品効果を向上させる手法として、(同社内で)共通 CMS を採用するという戦略的な決定を行った。
同社技術陣は、それまでの(CMS の)Drupal から、PHP と HTML5 を開発言語とする社内開発の CMS へと移行を進めた。
「もし、Web サイトのみの開発を行うだけなら以前のままで良かったかもしれない。しかし、われわれは印刷、Web サイト、そしてモバイルへとコンテンツを再利用していくことに競争優位性を見ており、このフローを創り出すために(開発言語の) PHP 等を活用することが重要だった」と前掲幹部は述べる。
プロジェクトのゴールは、創り出したコンテンツを幾度となく何らか他のメディアで活用できるようにしておくことだった。
そのために技術陣は、“完璧な CMS”を構想し、優れたコンテンツワークフローシステムを目指して印刷媒体の編集者らと緊密に協業を行った。

2000年代初頭、コンテンツを数多く制作しなければならないメディア事業者にあって、CMS に求められたものは、制作と配信を効率化する仕組みであり、また以後のコンテンツ管理(データベース化)など、“生産システム効率化”の方向性が色濃いものでした。しかし、それ以降、CMS には SEO(検索エンジン最適化)や読者の閲覧や広告表示やクリックスルーのようなマーケティング効果の最適化などが新たなニーズとして次々に積み重なっています(「マーケティング実践のための CMS 」についてはこちらを参照)。
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一般的な CMS 関連概念図(Web 担当者 ForumCMS 導入&活用ガイド」より)

それぞれのWebサイトでは見てくれは異なるものの、全体として共通のデザインのフレームワークを共有し、重要な2つのメリットを手に入れることができた。
ひとつは、全サイト共通で目玉となるような機能を追加するのが迅速化された。「共通フレームワーク抜きでは、これだけのサイトに短時間で機能を実装する方法はない」。
ふたつめは、広告営業チームが Cygnus が擁するサイト群の広告枠を横断的に販売できるようになった。「標準的な広告枠が実装されており、サイト横断的にそれを販売することが容易になった」のだという。

そして最新の CMS への要望は、新たな収益機会を生み出すために多様なメディア形式への対応に至っています。モバイルへの対応はその最たるニーズです。

新サイト構築が新たな営業機会を広げる中、Cygnus はデジタル版での収入多様化の模索を続けている。
「自分たちだけでなくすべてのメディア企業が、バナー広告に過度な期待をしてきた。(いま)われわれは多様な収入系統を通じて、より良いバランスを探し求めている」。
代替策は e コマースであり、モバイルへのますますのアプローチだ。

そのために、Cygnus の新 CMS ではHTML5 のサポートを果たしました。これは Web サイトを各モバイル機器へと最適化することを意味します。しかし、Cygnus はそれに止まらずアプリ開発にもチャレンジします。アプリ化したメディアで読者、広告主にとっての価値をいま体験しているところだとします。

新 CMS でモバイル向けに社内開発を継続している。これは迅速なリターンを得るための投資である。
「タブレット用アプリについて言えば、もっとやることがある。しかし、Web メディアについては今年劇的な改善を成し遂げた。新しい自家製 CMS の効能はとても大きい。開発陣が実現したことは本当に見事だ」。

このように Cygnus 幹部は述べます。多数の Web メディアを迅速かつモダンなシステムへとリニューアルすること、そして、繰り返し述べてきたようなメディア形式の多様化に適合するダイナミックな動きは、注目に値するものと言えます。
印刷媒体(雑誌)・Web サイト・モバイル用アプリケーション……。多様なメディア形式、そして多彩な表示機器。このような複雑な環境で、事業機会は多様化させながらもコンテンツ制作の労力は軽減するという取り組みに CMS 活用の現在のテーマが現われています。
(藤村)

* 本稿が紹介する記事中に製品等への言及がありますが、本稿では製品の論評を意図するものでないことを了承下さい。