未来の Web メディア/その実装形とは

近未来のデジタルメディアの行方はどうであるのか。
米 Atlantic Media がしかけた独創性の高いビジネス系メディア、Quartz
本稿は、Quartz のいったい何が新しいのかを具体的に検討する。

デジタルメディアのビジネスをめぐるトレンドを眺めれば、そこにはピンポイントのソリューションが次々に誕生してきます。
各種の“広告テクノロジー”しかり。“ネイティブ広告”しかり。“レスポンシブデザイン”しかり……。といった具合です。
しかし、われわれが求めるのは、その実装形です。具体的に参照できる新たなメディアの姿そのものなのです。そしてそれは、ピンポイントの個別的な実装ではなく、継続可能なビジネスの形をなしていなければなりません。

米老舗メディア企業 Atlantic Media が昨年後半に開設した Quartz については、このブログでも何度か言及してきました(たとえば → これこれ)。
注目のメディア Quartz のその後を、Digiday が関係者からの取材記事「Is Quartz the Very Model of a Modern Publisher?」(Quartz はまさにモダンな出版モデルなのか?)を掲載しています。

本稿では記事の要点を紹介しながら、デジタルメディア、特に Web メディアの近未来形、その向かう方向を検討していきます。

最初に、Quartz の特徴、そのなにが未来的なのかについて整理しておきます。できれば、上記した当ブログ関連記事も併せて参照して下さい。

  • 印刷媒体は刊行せず、デジタル専門メディアとしてスタート
  • ターゲット読者を、英語を話すビジネスエクゼクティブとして、米・英・アジア版を同時にスタート
  • 開設時から“モバイルファースト”である前提で開発
  • トップページに各コンテンツへのインデックス面を設けず、いきなり最新記事から読み下るタイムライン型のインターフェイスを採用
  • 各種のバナー広告を排し、タイムライン中に巨大なビジュアルを用いたスポンサードコンテンツを配置
デスクトップとiPhoneで見たQuartz

デスクトップとiPhoneで見たQuartz

記事「Is Quartz the Very……」は、開設後8か月を経た Quartz の現状を「この8か月の間、スタッフを、広告主を、そして読者と売上を増やしてきた」と評した上で、同メディア発行人の Jay Lauf 氏のコメントを掲げています。

Quartz という新メディアブランドの躍進は)ソーシャル Web の大きな恩恵です。それがいかにしてトラフィックを拡大するか、それも優良なトラフィックを、示しています。

ここで、Quartz 発行人が「ソーシャル Web」という言い回しをしていますが、 Facebook ページなどの取り組みがあるのは事実ながら、それ以上のどのような施策を行っているのか残念ながら明らかにしていません。
サイトのメニューや記事面を見る限りでは Facebook や Twitter、そしてLinkedIn などへの共有投稿を促しているように見える程度です。

けれど、Quartz へのリファラ(トラフィックの流入源)について、記事は以下のように述べています。

Lauf 氏によれば、31%のトラフィックが直接やってくる。また、50%以上がソーシャルからだ。また、モバイルからは25〜31%の間で揺れているという。

モバイル流入が3割程度は、いまとなっては常識の範囲ですが、ソーシャル(メディア等)からの流入が5割は驚異的です。また、“ノーリファラ(直接流入)”が3割という点も、ブックマークやメールマガジンだけでなくメールなどによる共有が含まれるとすれば、そのソーシャルな共有文化との親和性には驚嘆すべきものがあります。

Lauf 氏はこうも語っています。

 “質は量にまさる”。使い古された言い回しですが、コンテンツの質が問題であり、インターフェイスデザインの質が問題であり、そして広告の質が問題です。
それがわれわれのしていることの重要なポイントであり、質にこだわることはとても効果があることは立証されたと確信します。実際のところ、読者は、もしそれが品質の高いものなら広告を好むのです。

Quartz の広告について見ていきましょう。開設時には、ボーイング、シェブロン、クレディスイス、そしてキャデラックの4社であったブランド系広告主は、現在では、ラルフローレン、KPMG、キャセイパシフィック、ロレックス……といったブランドの11社が加わるに至っています。
この躍進は、高品質のコンテンツと高品質の広告クリエイティブが引き寄せる読者トラフィックだというわけです。

もう少し、具体的に述べます。

ブランド訴求指向の広告主は、高品質で大きなビジュアルをメディアに求める一方、煩雑な他の広告との混在を好みません。また、メディアの中心ターゲットが、可処分所得の高いビジネスエグゼクティブであるという点も、大手広告主を魅了する材料です。Quartz はこのようなブランド系広告主の要件を満たす材料を完備してスタートしたといえそうです。

この点について、記事は次のように述べています。

多くの広告主は、なかなか捕まえにくい富裕層にリーチしたいと欲している。
たとえば、the Mendelsohn Affluent のような調査によれば、富裕層の集合はデジタルコンテンツに対して貪欲であるとされる。彼らは複数のデジタル機器を使ってインターネットにアクセスする。また、彼らは雑誌のヘビーユーザーでもある。Quartz は、これらの富裕層を、雑誌スタイルのタブレットフォーマットを使ってうまく引きつけているように見える。

Quartz が展開するスポンサードコンテンツの制作は、スポンサー側(代理店)と Quartz 編集チーム内のマーケティングチームの共同作業であり、目を引く大きなビジュアルや簡潔ながら練られたコピーなど、他の広告や余計なナビゲーションが表示されない分、ブランド指向の広告主にアピールする商材になっているといえます。

Quartz ビジネスの特徴であるスポンサードコンテンツについて、さらに見てみましょう。
記事の見解も交えながら、Quartz のスポンサードコンテンツの特徴を整理します。

  • インストリーム(記事のタイムライン中に)にスポンサードコンテンツを配置している
  • 他の広告要素は完全に排除して、ユーザーの注意力分散を避け精読率を上げている
  • Quartz 専用にタイアップ記事を制作している
  • 記事とスポンサードコンテンツは、ビジュアル面などルック&フィールは親和性をもたせているが、純コンテンツと異なる背景色を用いたり「SPONSORED」のラベルを明示したりと、宣伝と編集の分離を意識している
  • CPM (広告を何回表示したかをベースとする)オーソドックスな広告成果指標を用いている

他のメディアの“スポンサードコンテンツ”には、純粋に編集コンテンツであるかのような見せかけているものや、編集部がその内容に関与しない(品質管理をしない)コンテンツを掲載するなど、問題を含んだ要素を顕在化している例が少なくない中、“品質”にこだわる Quartz は、読者の最終的な期待値を裏切らないよう注意していると言えそうです。

さて、もうひとつ、近未来のメディアに欠くべからざる要素について、Lauf 氏が良い発言をしています。それはエンジニアリングについて、です。

われわれは、開発者・エンジニアの本当の重要さを学んでいます。それは広告、また、メディアづくり全体の両方について、彼らエンジニアが、読者にとっての“差別性”を創り出せる範囲(の広さ)です。彼ら開発者はわれわれがやることすべてに不可欠の存在なのです。

Quartz がはじめから“モバイルファースト”を前提にして開発されたことはすでに触れました。他のメディアのように、Web があってネイティブアプリがあって……という“散乱”した展開に対して、Quartz では、レスポンシブデザインによって統合的に多種のスクリーンサイズに適合すると同時に、従来の Web メディアでは考えにくかったユーザーインターフェースや工夫を施しています。
複雑さを排し、シンプルであっても実装した要素は先進的、高度である、という点で、Quartz のエンジニアリングチームやデザイナーらの仕事の確かさと感じさせます。

すぐれたエンジニアリングチームを組織して、それを効果的に機能させてメディア開発を行うことこそ、今後ますますメディア界での差別化要因になるだろうと直観させる点が Quartz にはあるのです。
米国の老舗メディア企業が展開する最も未来を先取りしたメディアの行方について、業界関係者はもっと関心を注いで良いでしょう。

未来の Web メディア/その実装形とは」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: スマートフォン時代のニュースを突き詰めるメディア「Quartz(クオーツ)」を徹底解説 | nanapiマーケティングマニア

コメントする

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中