ジャーナリズムは黄金期を迎えたのか?/新興メディアの視点

Jeff Bezos 氏による名門新聞 Washington Post の買収をどうとらえるのか?
新たなジャーナリズム全盛期の到来ととらえる、メディアベンチャー論客らの視点を確認する

Huffington Post の創設者で、いまも総責任者である Ariana Huffington 氏が、Washington Post を買収した Jeff Bezos 氏をギリシャの哲人ヘラクレイトスになぞらえ、その買収の意義を評価する論を自らのメディアに投稿しています(Huffington PostBezos, Heraclitus and the Hybrid Future of Journalism 」)。

この論の中で、Huffington 氏は“ジャーナリズムが黄金期を迎えている”と述べます。以下はそのくだりです。

まず、これ(Washington Post 買収)は“新聞の未来”をうんぬんするところから、“ジャーナリズムの未来”——それがどのような形態をとっていようとも——の話題へと踏み出すための機会であるということだ。

新聞産業の惨状を伝える多くのニュースがあるにもかかわらず、つまるところ、ニュースの消費者にとって私たちはある種のジャーナリズムの黄金期にいる。
そこでは、偉大なジャーナリズムというものの供給不足が解消され、人々はそれに飢えることはない。
そして、そこには新参者と既存のメディアビジネスとを連携させようとする数々のビジネスモデルが試みられている。

そして、Jeff Bezos 氏は間違いなく、その新たなものを提案することになる。(太字は引用者による)

Huffington 氏が語る“未来のジャーナリズム”のイメージをつづめるなら、それは(論のタイトルにあるように)、良きジャーナリズムの伝統とデジタル時代の技術とのハイブリッドということになります。

間違いなく未来はハイブリッドなものになる。公平性、厳密さ、ストーリー性、そして深い調査といった、従来のジャーナリズムの最良の経験に、速さ、透明性、そしてそれらにましてエンゲージメントという、デジタル時代に可能となる最良の道具とがコンビネーションするのだ。

Huffington 氏はこのようなコンビネーションの実現を、自らの Huffington Post や、そして、Bezos 氏傘下の Washington Post の将来イメージに重ね合わせて見ているのです。

ところで、この“ジャーナリズム新黄金期”説は、いくつもの肯定や否定の反応を引き起こしています。
ここでは、Huffington 氏の論を肯定面で敷衍する論を紹介しましょう。
Huffington Post 同様、米国の急成長メディアベンチャーを代表する Business Insider の CEO 兼編集長 Henry Blodget 氏「Journalism Has Entered A Golden Age(ジャーナリズムは黄金期に入った)」です。

Henry Blodget "Journalism Has Entered A Golden Age"

Henry Blodget “Journalism Has Entered A Golden Age”

Blodget 氏は、ジャーナリズムの黄金期説を肯定してこう述べます。

私は、新聞ビジネスについて(黄金期だと)語っているのではない。
ジャーナリズムについて語っているのだ。

Huffington 氏がまさに「それがどのような形態をとっていようとも」と述べた点に、Blodget 氏も呼応していることがわかるでしょう。
同氏は、「ジャーナリズムはいまや、過去いかなる時よりも秀でた形態にある」として数々の例示をします。

本稿ではそれらを以下に手短に紹介することにします(いくつかのポイントは省略しています)。ここには勢いのある米メディアベンチャーらに共通する主張が鳴り響いています。

  • 世界は、過去に比べて圧倒的に良く伝達されるようになっている
    ……多くの著名な既存メディアビジネスが縮小の憂き目に見舞われつつも、それを上回る数千もの新たなブログ、ソーシャルメディア、動画サイトが誕生している時代だ。
  • 地球上のすべてのジャーナリストは、いまやほぼすべての人々と直接つながるようになった。それも即座に
    ……インターネットの時代、すべてはクリックするだけだ。すべてのストーリーは、永続的に保存され、いつ、いかなる場所でも見ることができる。(ジャーナリズムというものの)20年前の姿と比較してみたまえ。
  • 既存のニュースビジネスの悪戦苦闘は大いに誇張されている
    ……新聞ビジネスの困窮ぶりが伝えられるにもかかわらず、世界のニュース収集・出版規模は、過去10年の間、劇的に増加してきた。閉鎖や縮小の報もあるが、総じて新聞や雑誌は依然として存続している。そして、重要なことはプロフェッショナルなデジタルニュースの事業は拡大しているのだ。
  • デジタルニュース組織はいまや、才能あるジャーナリストの新世代を雇用しており、より良く、より広範囲、そしてより継続可能なものとなっている
    ……かつてのケーブル TV や CNN のようなネットワークなどは、現在に比較すればちっぽけなものに過ぎない。今日における生粋のデジタルメディアは、すでに秀でたジャーナリズム、タレント、リーチやリソースを産出し、継続的にそれを増加させている。今後の数十年で膨大な数の新たに国際的な(デジタル)メディアが生み出されるだろう。
  • 急増するモバイル機器はどこにあっても24時間のニュース消費を可能なものとしている
    ……20年前まで、ニュースの消費は朝夕の新聞と、TV・ラジオの放送に限られていた。一方その後の20年はインターネット接続の有無という制約に縛られてきた。そしていま、私たちは、ついにいつどこにおいても、その手のひらの上で重要なニュースを速やかに得られることになったのだ。
  • 今日のジャーナリズムは、あらゆる形式においてその報道を提供できる
    ……ジャーナリズムは、そのストーリーを伝えるためにもはやテキストや偶々得られた写真、放送番組のパッケージに限定されることはない。今日のジャーナリストは、報道のためにベストな道具や形式の最良なものを選択できる。そして、報道を効果的、効率的にするためにそれらをミックスすることができる。
  • 出版に際して、いまでは数多くの配信形式を自在に活用できるようになっている
    ……いまでも、紙や電波、ケーブルなどの配信網は存在するが、デジタル配信のほうが非常に柔軟で安価、そして遍在的だ。デジタル化によってコンテンツは自由に移動が可能になった。また、デジタル配信の分野においては、情報をコントロールし制約を与える巨大な存在はない。デジタル出版は、数多くの配信手法を用いることができ、特定の配信者への依存性を減じることができる。
  • いまや、かつて以上にメディアに厳密さと集合的な英知がもたらされている
    ……20億人もの毎日インターネットに接続する“事実関係の確認者”(として振る舞い得る読者)によって、すべての情報は即座に試され、議論され、誤りが指摘され、時には、事実の情報により、かつてないほどの速さで報道は訂正されるようにもなった。
  • 優れたジャーナリストがビジネスを行うにことは、かつてないほどに容易になっている
    ……もし、ジャーナリストになりたいと思ったら? なれば良いのだ。必要なものはノート PC、カメラ付きの携帯電話、ブログとソーシャルメディアのアカウントが必要なもののすべてだ。

Blodget 氏はまだまだリストを続けられると書きますが、ここに紹介したものだけでも十分に満腹でしょう。

Huffington 氏、そして Blodget 氏の両氏に共通するのは、ジャーナリズム(の価値)はなんらかの形式や基準によって担保されるものではないということです。
現代の優れたジャーナリズムを生み出す基本原理は、希少性にではなく、だれもがジャーナリズムに参加可能という(供給の)潤沢性にあるということでしょう。いいかえれば、“(供給の)量は(少数者による)質を凌駕する”との思想です。

少しでも米国のメディアビジネスに通じる読者なら、Huffington Post も、Business Insider も、そのオリジナル情報を大胆に利用するような記事スタイル、膨大な薄給ブロガーを組織するといった点で毀誉褒貶あることを認識していることでしょう。
いずれ、この圧倒的な供給量が質に転化する黄金期の到来を期待して良いのでしょうか?

従来メディア(ビジネス)に対する破壊的側面を携えた新メディアモデルが、栄光の歴史をもつメディアブランドへの尊敬を活かしながら、どのようにして“ハイブリッドモデル”を実現するのか。
筆者は、いまは楽観も悲観も許さない段階だと感じています。

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ジャーナリズムは黄金期を迎えたのか?/新興メディアの視点」への1件のフィードバック

  1. 興味深い論考、ありがとうございます。。
    ただ、個人的には“(供給の)量は(少数者による)質を凌駕する”との思想に違和感を覚えます。。
    リアルタイム・速報性重視の事案には当てはまると思いますが、
    調査分析においては、やはり「プロ」の存在が重要かと考えます。

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