“読者開発”とは何か/ジャーナリスト その新たな職能定義

業界に大きな話題と影響を与えた、New York Times「イノベーション・レポート」。
そこでハイライトを浴びた「読者開発」(Audience Development)とは何か。
その意義と変化を通じて、メディア界の重要課題を検討する。

今年春、メディア業界に衝撃をもたらした New York TimesNYT)の内部文書「イノベーション・レポート」。
それは業界の最新トレンドを分析しつつ、同社内部の課題に容赦なく自己批判の刃を当てるものでした。
ていねいに考察すべき論点が、いくつもそこには盛られていますが、中でも注目を浴びたコンセプトに「読者開発」(Audience Development、AD)がありました。

AD は、日本ではなじみの薄い概念だったためか、「イノベーション……」が打ち出した新奇なコンセプトかのように扱う向きもありますが、2000年代から、米国のテック系メディア企業でそのような部署や担当を置くケースがあります。筆者(藤村)が2005年に提携交渉を行った米メディア企業でも、すでにそのような所管部署があったことを記憶します。

このように2000年代にはすでに機能していた、AD の主要業務とは、以下のような項目に整理されます。social

  1. 読者の流入促進
  2. 読者のサイト内回遊の強化
  3. (会員制を運用しているなら)読者の会員化促進

つまり、トラフィックの拡大からマネタイズ策へとつなげる業務分野であり、読者の新規獲得からエンゲージメントの強化を促進する部門でもあります。

このような業務は、かつてデジタル以前の編集部内では非本流の業務として扱われてきました。もしくは編集部という収益部門から分離し、コストセンターで行われることもありました。
要するに、“コンテンツの魅力”により1.〜3.は自ずから実現するのが王道という考え方が根強かったのです。

2000年以降、検索エンジンとメディア(もしくはコンテンツと)の関係が深まるにつれ、検索エンジン対策が、1.のメディアへの流入強化策そのものとなりました。つまり、SEO=AD である時代が出現したのです。
こうなると、編集者や記者による片手間の業務という域を超え、極めてテクニカルな専門業務になっていきます。
2.の回遊強化も、デジタルメディアの時代ではページ設計と各種リンクの配置、あるいは、レコメンデーション機能の設置など、編集や記者の手に負えない取り組みになっていきます。
いいかえれば編集業務とは分離され、メディア運営の共通基盤(インフラ)の課題として技術部門等が担うことになっていきます。

ここに落し穴があります。
個々の編集や記者の手に負えない課題と見なされるやいなや、それは再び、彼らにとり“他人事”、つまり、意識の圏外へと追いやられてしまうということです。

このような検索エンジン時代のレジームを揺るがすことになるのが、ソーシャルメディア時代の到来です。
ソーシャルメディアの影響力が、検索エンジンのそれを相対化してしまう時代には、編集者や記者一人ひとりが1.〜3.に取り組む姿勢が必要になります。
改めて AD 業務を編集部門配下に置き、編集部門長がこれに責任をもたなければならない時代がやってきているのです。

ここで紹介する Digiday シニアエディタ Lucia Moses 氏の「The newest important person in newsrooms: audience-development czars(編集部内の最新重要人物:“読者開発”という皇帝)」は、キーパーソンらのコメントから、この AD(業務)の存在感を浮き彫りにしています。
本稿では、それをかいつまんで紹介していきましょう。

NYT「イノベーション……」は、同メディアのコンテンツをより多くの読者に触れさせるべく、読者開発のスペシャリストの必要性を説いた。同レポートは、これを部署横断型アプローチにより実現すべきとしたが、他のメディアでもすでに着手していることだ。

Washington Post では、過去4年の間に、2名いた検索エンジン担当スタッフを、9名体制によるチームとして編集部内に配置している。

Slate では、トラフィックおよびソーシャルメディア担当ディレクタを数年前にはじめて採用したが、現在、それは3名のチームとなっている。

Time および Entertainment Weekly でも AD 担当を編集部内に置いている。

「イノベーション……」をまとめた NYT 自身は、つい最近になり、Alex MacCallum 氏を編集幹部に指名し、読者を拡大し、コンテンツへより深くエンゲージさせるという使命を与えた。声明によれば、同氏は編集局長および編集長にレポートすることになり、検索エンジンとソーシャルメディア、その他を戦略的に用いて読者(規模)を成長させるチームを築く。

このように、各メディアでの取り組みを見る中で、見逃したくない点は、いずれの事例でも AD 業務を、編集部門(の指揮下)に組み込んでいることです。
これが一般的な事業体におけるマーケティング組織や開発部門の位置づけと異なる点です。
AD を、編集部門長(局長、あるいは発行人)もしくは編集長の重要なミッションとして扱う体制が、最新のメディア組織論に合致するのです。

記事はその点について、以下のように述べます。

AD 担当幹部の役割は、ソーシャルメディアの隆盛とともに進化している。かつての仕事は、(気乗りしない)編集者や記者らに SEO を手ほどきすることだったが、現在では、変化し続けるソーシャルメディア、アプリ、(記事ごとに発生する)ユーザーコメント、さらにコンテンツディストリビュータやキュレータら外部のパートナーへと、並列的に関与することを求めるものとなっている。

読者との出会い、さらにはエンゲージメントの深まりをつかさどるのは、コンテンツの力だというのは、編集者や記者が信じ込みたがる命題です。そしてそれは決して間違いではありません。
けれど、一方で、「イノベーション……」が、メディア業界のキーパーソンの言葉を引いて以下のように述べていることを忘れてはなりません。

まず自分の読者を見つけなければならない。読者は黙っていてもやってきて、記事を読んでくれるわけではない――それを理解するのは、まさに人生観が変わるような体験だった。(平和博氏の前掲記事より)

AD は、編集者や記者らの職能に改めて組み入れられなければならない、重要な能力であり、経験なのです。

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