モバイルエディタの時代/“編集”という職能の転回点

モバイルとソーシャルの時代を迎えたメディア。
その新たな環境へと架橋する存在として、
モバイルエディタが台頭している。
モバイルエディタとはなにか。
そして、その存在理由を問う。

つい最近、著名な英国の雑誌社 Condé Nast でデジタル部門を統括する人物が、衝撃的な発言をしました。同社 Web サイトを来訪するデスクトップ(PC)ユーザーは、来訪者全体のたった 4% に過ぎないというのです。
Digiday に掲載された取材記事は、同社がデジタルコンテンツのパフォーマンス向上を果たすべく実施したデザインリニューアル、共通 CMS 再構築などについて追ったものです。その中から発言をもう少し紹介しましょう。

Web ページをデザインしようとすると、われわれはデスクトップ(PC)用サイトの見え方をどうするかに取り憑かれてしまう。(しかし)われわれの PC 用 Web サイトの読者は、われわれの英国内読者の 4% に満たない。読者は、YouTube や Twitter を通じてわれわれをフォローしており、彼らにとって、われわれが記事をポストした Twitter が(Condé Nast の)ホームページなのだ。

ソーシャルメディアは、今では検索より大きなトラフィック源だ。それは今年始まったことだ。それが何故なのか時間をかけて調べてきた。その答えは、モバイルなのだ。
というわけで、われわれは記者、広告主ら顧客を再教育しているところだ。“この10年の、最初の半分はPCと検索の時代だった。残り半分はソーシャルメディアとモバイルのものだ”と。

程度の差こそあれ、このような事情は日本でも共通しています。

国内のネット利用者について調査しているニールセンは、この5月に「今冬ごろにはスマホからのネット利用者が PC からの利用者を超える可能性も考えられる」と発表しました。英国でと同様の事態、すなわち、モバイルからのアクセスが PC からのそれを凌駕するという大転換の波が、いま私たちメディアの業界を襲っているのです。

ニールセン調査:国内のインターネット利用者数 25ヶ月推移

ニールセン調査:国内のインターネット利用者数 25ヶ月推移

このような転換期の訪れに同期するようにして、編集者や記者に関わる職能上の変化も生じていくものと考えられます。
筆者が着目する兆候は、「ソーシャルエディタ」や「モバイルエディタ」といった肩書きを有する人々が、目に見えて増えてきていることです。

このような現象を真っ向から論じた論説、記事として、 Mario Garcia「The rise of the mobile editor(モバイルエディタの台頭)」や Shan Wang「What it means to be a mobile editor, as told by mobile editors themselves(モバイルエディタ自身が語る、モバイルエディタであるとはどういうことか)」があります。

前者は、メディア業界を対象にコンサルティングを手がける論者らしく、モバイルエディタの存在を職能的に定義し、今後すべての編集者が備えなければならない資質やスキルを、先導する役割と位置づけます。
Mario Garcia 氏が唱えるモバイルエディタの定義は次のようなものです。

  • 従来のスタイルから“マルチメディア”な時代への変化の中で、記事の伝え方をよく理解していること
  • タブレットやスマホのメッセンジャーなど、それぞれ違いを理解し異なる戦略を実現できること
  • モバイルでの成功とは、記事の伝え方、デザイン、技術、ユーザ体験、広告などの要素を協調させることであることを知っていること
  • 自らの仕事をモバイル戦略の一部として位置づける重要性を強く認識していること。それなくして自らの業務上の成功はない
  • 編集部内に向けて、自らの業務を模範、メンターとして提供すること。特に従来型の記事の伝え方から、デジタル時代のそれへと転換していく筋道について

後者 NiemanLab 掲載記事は、“モバイルエディタ”の肩書きをもつ、Bloomberg News、BBC、Wall Street Journal、Guradian のキーパーソンらが自らの日常的な業務をどう説明するのか伝えており、貴重です。

彼らが語る自らの仕事ぶりについて、細かくは紹介できません。ただ、彼らに共通するポイントがあります。
それは、モバイルエディタとして取り組む仕事の多くが、ルーチン、すなわち定式化されていないということです。いいかえればモバイルエディタが直面し取り組まなければならない課題は、いま、この瞬間にも拡大しつづけているということです。

たとえば、以下のような業務や課題があるでしょう。

  • スマートフォンのスクリーンに最適化したタイトル、見出し、記事の再編集
  • スマートフォンユーザに適した記事(オリジナル・再編集)企画
  • スマートフォンユーザが多くアクセスする時間帯向けの記事(配信)企画
  • スポンサードコンテンツをモバイル用に企画、編集
  • プッシュ通知の作成
  • Vine や Instagram 用の動画フィード制作
  • ソーシャルメディアを介したユーザへの告知
  • Facebook や各種ニュースアプリ向けのフィード作成
  • スマートフォン向け UI、ナビゲーション等の検討
  • スマートフォン製品とスマートフォン用 OS の変化に対応する調整作業
  • アプリの開発、アップデート

以上の多くが、数年前には存在していなかったような業務であり、定型化しづらい負荷のかかる業務であることが見て取れます。
残念なことは、モバイルエディタが帰属する組織が、伝統的なメディア企業であればあるほど、この種の新しい職能の発生に対し冷淡であったり、組織的な取り組みを欠きがちであるということです。

モバイルおよびソーシャルメディア時代の読者の行動と嗜好の変化に敏感に反応するモバイルエディタ。
時代の要請として誕生した新たな職能を孤立させず、長期的なキャリアパスや組織論をもって報いていくべきことは、新たなメディア経営の重要戦略となるはずです。
と同時に、個々のメディア人にとっては、自らを鍛えあげるべき新たなキャリア像でもあるのです。

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モバイルエディタの時代/“編集”という職能の転回点」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: ●編集者の必須技能 Web標準技術、モバイル、クラウド、アプリ世界とGoogle検索世界 | ちえのたね|詩想舎

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