75年めの最先端——「Consumer Reports」誌のデジタルメディア展開を読む

1936年創刊、今年75周年を迎えた米国の「Consumer Reports(以下、コンシューマリポート」。筆者と同世代以上なら、同誌に関わりの深いラルフ・ネーダー氏の60年代における派手な活躍ぶりとともにその名を記憶していることでしょう。

The New York Timesが、そのビジネスの現在の”絶好調”ぶりを紹介しています(次の記事)。記事に即してそれを確認していきます。

この記事でも述べていますが、コンシューマリポートは非営利事業として営まれています。消費者に“中立公正なレビュー記事”を提供し続けるための運営ポリシーからでしょう。しかし、“非営利”と言いながら驚くなかれ。同事業の年商(売上)は雑誌およびWebサイト等を合わせて約140億円にも達するのです!

もちろん稼いだ売上は、取り上げる3600にも及ぶ商品やサービスのテスト(そのためのラボ施設も立派なもののようです)、記事執筆費用に費やされます。
確かに、メーカー側に偏らない“中立公正なレビュー記事”を謳う同誌のことですから、ヒモの付かないよう製品やサービスを購入するだけでも多額に上ることでしょう。自動車評は、特に同誌の金看板です。

次に、筆者が関心を持つデジタルメディアにおける展開を見ていきましょう。
同誌がWebサイトを開設したのは97年。以後、成長を続け、その(有料)講読者は、02年に100万人に、そして今では330万人に達しています。同誌サイトにある年表には「最も成功している有料購読制サイト」と誇らしげに記されていますが、ため息の出るようなレベルです。

加えてもうひとつ、同誌がなし遂げた”偉業”を紹介しています。今夏、同誌のWeb版講読者による売上高が、雑誌版を上回ったというのです。雑誌版の売上は01年以降安定しており(多くの印刷媒体は2000年以降、売上を落とすものですが)、その水準を維持しつつ、Web版の成長や、また最後に触れる関連事業が増収に寄与して現在の成功をもたらしているものと見られます。
さらに10年にスマートフォン版を、今年になりiPad版も投入しさらにデジタル展開を加速しています。これらも多様な有料化施策の一翼を担っているようです。

さて、大づかみに事業の現況を見てきました。もちろん、その活況ぶりを羨んでばかりでは能がありません。記事を通じて見えてくるポイントを少しだけ確認しておきましょう。

ひとつは、“信頼のおける製品レビュー情報は、月約6ドルの購読料金を支払ってもソンではない”という消費者を意識したバランス感です。クルマはもちろん、数百ドルの家電製品でも、数年は使い続けることを考えれば誤った購買はできないということでしょう。言い換えれば、消費者として“元を取った”と思える媒体は、このようなレビュー(消費者に成り代わって試用、評価してくれる)分野では大いに可能性があるということでしょう。

そして、もうひとつ。忘れてならないのが、長く貫いてきた事業運営ポリシーに対する読者=消費者の信頼感でしょうか。
メーカー側からの広告を受け付けず購読料金や寄付金にのみ拠って立つ中立性が、長い年月の中で認知され、消費者に対し運営費を有償で支えなければとの意思を醸成しないはずがありません。
広告を掲出せず購読料金だけで、というのはなかなか真似のできない特異な例に見えるかもしれません。しかし、消費者(読者)と媒体運営者との長期にわたる信頼感の積み上げという観点には学びがあります。共感や信頼の基盤を抜きに安定した個人課金の積み上げは難しいのではないかと思えます。

最後になりましたが、WebサイトConsumerReports. orgは、その周囲にConsumer Reports Networkなるメディアネットワークを伴っています。
詳しくはサイトを見ていただくとして、その中の主要サイトは買収したものなのです。NPOと言えば、M&Aなどと縁のない“清貧”をつい想起してしまいますが、デジタルな分野では、他のアグレッシブなインターネット企業と同様に積極的なM&A戦略を採用していることにも驚かされもし、納得もするところです。このような展開があればこそ、成長期を脱した印刷媒体事業を継ぐWeb等のデジタル事業が次なる成長を支えていけるのでしょう。
(藤村)

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