Web 開発者は IT 部門に所属してはならない!? メディアが突き当たる組織論的課題

デジタル化を推進するメディアの重要資源はエンジニアだ
しかし、エンジニアの役割は皆同じと考えてはいけない
技術部門の“攻めと守り”を見通した組織論が、重要なマネジメント課題となる

これまでも本稿では、メディアのデジタル化、デジタルメディアのビジネス課題を多く論じてきました。
メディアのデジタル化が新段階に突入するにつれ、従来の“広告か、さもなければ個人課金か”という、二大命題に収まらないさまざまな仮説や挑戦が浮上します(ここに、デジタルメディアをめぐる“いま・ここ”の課題があります)。
浮上する新たな事業課題を実現するためには、システム製品の導入、新技術の開発、あるいは新たなビジネスメソッド(手法)といった個別の要素の遂行だけでは不十分です。これらを掌握してプロジェクトを遂行する、事業収支にまで責任をもつ能力が求められます。
このような役割は、ビジネスの中核機能であり簡単に外部(外部パートナーやコンサルタント)へと委ねるわけにはいきません。

そう考えれば、既に存在するスタッフやチームに対するモチベーション喚起策や部門の配備など、企業内の人事・組織論的課題が、実は“旧くて新しい”大きなものとなって見えてきます。

今回、焦点を当てて考えてみたいのは Web 開発部門、あるいは Web 開発者の位置付けについてです。

題材としたいのは、デジタルメディアのビジネスを専門的に論じる Web メディア emedia Vitals 掲載の「Should your Web team report into IT?(Web 開発チームは、IT 部門に帰属すべきか?)」 。同メディア CEO で、About.comをはじめ数々のデジタル系メディアの事業にたずさわってきた Prescott Shibles 氏によるブログ投稿です。

Shibles 氏は、かつての職場で長時間の議論の末、上司であった COO/CFO に「さあ、議論は終わりだ。Web 開発者は IT 部門の配下に置く!」と宣告されたことが忘れられません。

議論は8、9年前のことだ。しかし、そこでの問題は今もなお多くのメディア企業やマーケティング系企業にとり重要なテーマだ。
もし、上司が「Web 開発者は IT 部門に従属させる!」と主張したなら、君は強くそれに異議を表明する必要がある。Web 開発者はマーケティング部門、あるいはメディア部門に統合すべきなのだと。

当時 Shibles 氏はデジタルメディア部門(もしくは、Web を介して販売を行うような事業部門=マーケティング部門)に属しており、配下に Web 開発者(チーム)を擁していたのが、“開発者は IT 部門にいるべきだ”とされ、スタッフを引きはがされた経緯があるようです。
上司が考えたことはわからないではありません。技術者は似通ったものに見えますし、似たような能力を有する資源が間接部門と事業部門に分散しているのは、すべからく効率性を重視するタイプのマネジメントにとり非効率と映っておかしくありません。

ここで企業における IT の位置付けについて、簡単に触れておくことにします。
いまやどのような企業にとっても、IT がその事業基盤に大きな役割を果たしていることは論をまちません。しかし、事業の基盤であればあるほど、その役割は重要で、その結果、“攻め”と“守り”の両極へと役割期待が拡大してしまうのです。

ポイントはこうです。

  • 人的労働の自動化・効率化によるコスト引き下げは、競争優位性を高める(攻めの側面)
  • 新しいビジネスモデル構築は、新たなシステム開発を伴う(攻めの側面)
  • 事業運営をリアルタイム化・俊敏化するには、各種データを蓄積し分析するシステムが必要である(攻めの側面)
  • IT は、重要な事業基盤なのだから、24時間・365日停止してはならない(守りの側面)
  • 事業基盤であるシステムの構築や更新には投資的要素が大きくなり、失敗や投資過多に陥るリスクへの万全な対策が必要だ(守りの側面)

IT は専門性を必須とします。開発会社やある種のインターネット企業などを除けば、“デジタル”を標榜する企業であってさえ、IT 系スタッフは全体に対して少数になってしまうというのが一般的です。
本ブログのテーマであるデジタル化を加速するメディア企業にあっても事情は同じです。希少資源であるが故に IT スタッフの位置付けはつねに定まらないものなのです。

例えば、Web メディアを運営する企業では、“攻めと守り”の両極化は深刻な齟齬をきたすことがあります。
24時間 × 365日ダウンしないことを求められる一方、インターネットのトレンドをキャッチアップするメディアの開発やリニューアルプロジェクトは日々続々と誕生します。
安全安心が第一というお題目でこれらを遅延させることは、事業を推進する立場からみればフットワークの悪さとして映ることでしょう。
また、メディアの効率的な運営を支える CMS(コンテンツ管理システム)などは、メディアビジネスの基盤中の基盤であるため可用性が最重要。できればシステムは枯れたものにしたいところですが、この分野を他社メディア企業との競争優位性へと位置付けようとすると、厳しい機能追加競争に乗り出さねばなりません。

IT に求められるこのような両面性は、そのスタッフが所属する部門やミッションにより大きく振れることが経験上理解できます。
こんな事情を整理すると下表のようになるはずです。

WebDevlopper
Shibles 氏の論に戻ると、氏は Web 開発スタッフに自らの帰属を考えさせるえるための論点として以下の5つを掲げています。

  1. これからの5年、どんなビジネスに属していたいのか?
    ……組織が成長すれば、いずれ手続きや標準を重視する文化が高まってくる。“ガレージを出なければならない時”がやってくる
  2. 自分たちの部門の目的はなにか?
    ……間接部門である IT にはリスク回避と継続性が求められる。一方、事業部門であれば、競争優位のための“破壊的断絶”や今までとは違う手法が必要になる
  3. ビジネスを追求するスピードをどれほど重要視するか?
    ……事業部門と間接部門の感覚の違いは、コメント不要でしょう
  4. 管理者は、業務をサポートしてくれる存在か、それとも単なる官僚的か?
    ……こちらもコメントを避けましょう。
  5. 自分たちがめざすのは事業の成長か、それとも利益の追求なのか?
    ……上記したように、おうおうにして企業は IT に対して二兎を追わせようとする。しかし、それは両立し得ない

エンジニア諸氏をどこに帰属させるか、というテーマは、デジタル化の道をひた走るメディア企業にとり避けられない大いなるテーマです。
エンジニアの扱いに慣れないマネジメントであればあるほど「エンジニア同士まとめておけば良い」と考えがちです。

述べてきたように、片や全社の業務システムがダウンしたりしないようにと心を砕くスタッフと、片やライバルを出し抜くためにいかにクールなものを創れるかと取り組むスタッフとでは、その存在は重なりにくいことがわかります。
もし、それでも大部屋主義に意義があるとすれば、両極化しやすい役回りを定期的にシャッフルし、そのエンジニアの将来の芽を摘まないようにする育成的な配慮が挙げられます。ここから先はその会社が抱く価値観に従うしかありません。
(藤村)

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