コンテンツに価値を取り戻すために ミネラルウォーター事業に学ぶ5つのアプローチ

コンテンツの供給と広告ビジネスは“過剰性の時代”に突入している
下落するコンテンツの価値を取り戻すためになにをすべきか?
付加価値の乏しかったはずの“水”が一大産業へと変身した理由にヒントを探る

希少性の経済から過剰性の経済への移行がもたらす大変化を、見事に喝破したのは『フリー <無料>からお金を生みだす新戦略』を著したクリス・アンダーソン氏でした。
資源の有限性=希少性が、取りも直さず商品価値の源泉であった経済が、インターネット上の資源については逆転を始めた。
希少なはずのコンテンツが引用や複製が無制限に連なって、結果として価値のヒエラルキー(序列構造)を突き崩そうとしている——。

こう感じているメディア関係者は少なくありません。
だれもが情報発信でき、情報流通が高度化した今、ひとつの情報(コンテンツ)が他の情報に対する明瞭な差別性を訴えることが一筋縄ではいかない時代に入りました。
コンテンツ制作コストの低減にどの商業メディアも取り組みますが、突き詰めれば、それは一般消費者がコストフリーで情報発信をするのと大枠として似てきてしまう皮肉な現象にも見舞われています。
商業メディアはもちろん、従来ならば“メディア”を名乗らなかったようなWebサイトが、“同様の”コンテンツと“同様の”広告収入を争うことになり、結果として、消費者の前にコンテンツが溢れかえっているのだとも言えます。

そこで今回考えてみたいのは、かつて商業メディアが生み出すコンテンツに宿っていたはずの神性、価値をいかにして取り戻すのか? というテーマです。
あらかじめ断っておくと、同義反復の矛盾に陥らないよう「(価値あるコンテンツのために)もっと良いコンテンツを作る」という命題はあえて除外して考えてみたらと思います。
ここに参考にしたい記事があります。MediaPost の一角に位置する Online Publishing Insider というブログメディアに掲載された「How To Turn Your Inventory Into A Valuable Commodity」(在庫をいかに価値ある商品へと転ずるか)です。

記事はユニークな例示を用います。それは潤沢(過剰)性の象徴とも言える“(飲料)水”の産業化に学べということです。

だれも水を欲する。それをタダで手に入れていたのは、そう遠い過去のことではない。
しかし、最後に、乾きを癒やすために水を飲んだ時を想定すると、それは蛇口から出た水ではなかったはずだ。われわれは、ボトル入りミネラルウォーターを買うことに慣れてしまっている。
飲料水の販売は、数十億ドルの収益を稼ぐ産業へと成長している。それは基本的にタダ、有り余るもののはずなのだが。
これはパブリッシャー(メディア企業)が学べる価値あるレッスンなのだ。

水と空気はタダ、という時代は多くの人にとり常識でなくなりつつあります。
近くのコンビニエンスストアへ足を運べば、二けたにも及ぶ多様な飲料水商品が並びます。ここにコンテンツの価値低下に悩むメディア企業の学びがあるはずだというのです。さらに論を紹介しましょう。

デジタルメディアが生み出す在庫品目は、とても“水”に似ている。
有り余るほど存在し、まったくタダというわけでないにしても、低価格化を突き進んでいる。
景品のようにタダとなるか、ほんの小銭稼ぎとなるか……。われわれは差別性のない商品在庫の海でおぼれかけているのだ。

ある調査(Ignition One)によれば、広告予算は順調に伸びているにも関わらず、デジタル広告の販売レートは年々下落している。広告ビジネスは明らかに需給バランスを欠いた過酷な状況に直面している。
また、別の調査(comScore)では、2012年には4兆にも及ぶ広告在庫が生成されるとする。
単純に言って、これらの在庫を埋めるほどの広告需要は存在しない。広告価格は下落していく。

ここで言わずもがなの交通整理をすると、Webではコンテンツページが表示されるたび(ページビュー)に生成される広告表示機会(広告インプレッション)を得ます。これが“(広告商品の)在庫”を意味します。在庫はつねに生成され続けストックしておくことができない電力のようなものです。
インターネットが誕生して以来、基本的に総ページビュー・総インプレッションは伸び続けてきました。在庫が積み上がってきたのです。問題はその増分を広告掲載ニーズが十分に満たせなくなっていることです。

各々のメディアは、自社のページビューをさらに増やして収入増を目指すわけですが、総量としての需給バランスが崩れれば自ずと価格低減圧力が顕著になります。メディア企業をこの数年悩ます現象です。あたかもコンテンツが(商品としての)自らの価値を失っていくかのように見えるのです。

では、そもそも差別的な価値、需給バランス上の価値に乏しい“水”はどのようにして、産業としての活性化を築いているのか。記事は以下のように述べます。

メディア企業が、ミネラルウォーター販売ビジネスのリードに従うなら、より良いアプローチに出会えるだろう。
蛇口からの水が「ペリエ」に変身したように、普通の広告がリッチなメディアへと移行していく。
在庫品目に変わりはないが、もっと親しみやクールさがあるように——パッケージは変化していく。
ミネラルウォーター販売ビジネスが、消費者に“苦労して稼いだカネを水(のようなもの)に使うのか”と考えさせまいとしてきた手法を、メディア企業は学ぶことができるだろう。

付加価値に乏しい水道水(最近では、自治体も水の品質をPRするようにしていますが)に対して、商品性の高いミネラルウォーターにいくつかの特徴が備わります。記事が指摘する5つのポイント、示唆を以下に要約しましょう。

  1. 不純物を取り去る——ミネラルウォーターを売る最初の大きなマーケティング策は有害な不純物を取り除くことだった。同じように、メディア企業は、取り散らかした雑物を読者の視界から取り除き、コンテンツに適合した広告を配置することで、パフォーマンスを向上できるはずだ
  2. パッケージングする——ボトルデザインは精巧に美しくデザインされ芸術品のような造形で、消費者の注意や想像力をつかもうと競り合っている。同じように広告もまた読者の感性を刺激しつかもうとする。そのパッケージ上の重要要素は、見かけ、音、動きなどを動員していくことだ
  3. カスタマイズする——ライフスタイルやテイストに合わせるべくミネラルウォーターの品ぞろえはバラエティに富んだものとなっている。飲料メーカーは、各種属性上のターゲット向けに製品を有しているように、メディア企業もどんなタイプの読者をもターゲットできるようにし在庫価値を上げるようにすることになる
  4. 影響を与える——著名人が特定のブランド商品(飲料水)を推奨すれば、人々はまるで自分が著名人であるかのようにその商品を推したがる。メディアは、ソーシャルメディアに対し自社のコンテンツと広告商品を共有できる機能を連携させ影響力の連鎖の中で注目を得るようにする
  5. ストーリーを伝える——数多くのミネラルウォーターが、消費者にうんちくなどを含めたストーリーを伝えようとしている。メディアもコンテンツが読者のと適切なブランド(を持つ広告主)がスポンサーしやすいようにしていかなければならない

これらは、最低限、言い換えればベーシックな努力だと記事は結論しています。型どおりにこれを遂行すれば見返りが保証されるわけではないと。
そのためにも、「水に4ドル払うことについて考えてみるべきだ」との結語は示唆的です。
一見無価値にも見える素材に価値を与えるべきアプローチは、もっともっと多様であっていいはずです。
もともと魂を込めた創り上げた価値あるコンテンツです。その正統な意味を読者や広告主へと訴求するアプローチが必ずあるはずです。
(藤村)

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