「The Dailyは救済可能だ!」 タブレット専用メディア、サバイバルの条件

News Corp. の大胆なプロジェクト、iPad 専用メディア「The Daily」が廃刊を決めた。
タブレット専用“日刊紙”が抱えた課題は何だったのか?
その教訓から、これからのデジタルメディア戦略を考える。

12月3日、米国 News Corp. が 2011年2月に創刊した iPad 専用(その後、Android や Kindle Fire など他デバイスへも展開)“日刊紙” The Daily の廃刊を表明しました。

2011年半ばには、Daily に続き New York Times Bloomberg など新聞系、そして Conde Nast や Hearst など雑誌系の大手メディア企業が iPad と iTunes Store が提供する定期購読(と配信の)システム「Newsstand」をプラットフォームとするビジネスに取り組みを始めていました。その中でも、Daily は iOS5 から提供された Newsstand に先行、かつ、ネイティブ iPad メディア、つまり印刷媒体や Web 媒体を経ずいきなり iPad 専用媒体を立ち上げる大胆な試みとして注目を集めていました。

Daily 廃刊については、創刊時の報道同様、国内外から多くの報道が現われています。中でも、日経新聞電子版「『iPad新聞』廃刊の真相 米メディア王の誤算と教訓」(会員限定記事) および CNN.co.jp米ニューズ、iPad専用新聞を廃刊へ 読者確保できず」は、その標準的な報道、論評として確認しておくべきでしょう。

2つの記事が伝える“廃刊へいたる”ポイントは、以下のとおりです。

  • 有料購読者の獲得目標が80万人であったのに対し、実際は10万人超に止まった
  • 100名を超える記者・編集者を擁する運営コストは年間2500万ドル以上であるのに対し、年間売上は300万ドル程度に止まった
  • 有料でも毎日読みたいと思わせるコンテンツを欠いていた
  • コンテンツを提供するプラットフォームが狭すぎた

この論評には気になる点があります。まったく新規に創設した有料電子媒体が2年に満たない期間で10万人の購読者を獲得したことへの評価が低いことです。
過去、「新聞社サイト有料化 本格的に離陸するのか?」で取り上げたように、たとえば日経電子版は、2年間で「有料会員20万人」と発表しています。
もちろんこれは、印刷版、そして、約140万もの電子版無料会員のすそ野があってのことです。
同時期の New York Times 電子版の有料購読者32万(無料購読会員100万人)、Financial Times 電子版が25万人(同400万人)もベンチマークとして加味すれば、Daily は、目標には届かないまでも奮闘と評価されてしかるべきでしょう。

そう考えると、Daily の蹉跌について、もっと内在的な視点でのとらえ直しが必要に思えます。そこでデジタルメディアビジネス内部からの視点をここに紹介しようと思います。
米国の起業家 Jordan Kurzweil 氏のユニークなオピニオン、GIGAOM 掲載「Why I tried to buy The Daily」(なぜ私は Dailiy を買収しようとしたのか)がそれです。
“ユニーク”というのは、同氏がこの記事で廃刊を決めた Daily の買収をしかけていることを公表したからです。むろん、大向こうウケを狙った口ワザの面もありそうですが、同氏の起業家としてのバックグラウンドを考え合わせるとジョークだけとも言い切れません。

同氏は、Daily が生き延びるための施策を5つを挙げていますが、その前に、News Corp. の“前歴”についても言及しています。それをまず紹介しておきます。
同氏によれば、News Corp. が前例のない規模でデジタルメディアに投資を行うのは、Daily が初めてではありません。
最初は Web 初期(96年)の時代に400名ものスタッフを擁して手がけた iGuide(解説記事 → こちら)です。次は、記憶に新しい MySpace への投資(解説記事 → こちら)、そして、今回の Daily
いずれもが分不相応な投資やスタッフへの高額な賃金を注ぎ込んでは、すぐさま不本意な撤退をしたという点で共通しているとします。

さて、5つの施策を要約してみましょう。いずれもデジタルメディアを運営する当事者にとっては、関心あるポイントのはずです。

  1. 「日刊」では足りない……Daily は文字通り日刊紙。1日1回更新される仕組みだった。しかし、そもそもニュースに更新時や締め切りはない。つねにそれはリアルタイム・ノンストップで生じるのだ。Daily は、正規の(締め切りのある)ニュースに加えソーシャルからの情報、そしてブログ記事などを組み合わせて、リアルタイムなメディアとすべきなのだ
  2. もっとテクノロジーを……Daily はもっとコンピュータパワーを用いるべきだ。特に外部のコンテンツを探しだしキュレーションする仕組みを構築し、それを編集者は活用できなければならない。また、ソーシャルの仕組みを編集者が使えるようにすべきなのだ
  3. “壁”を打ち砕く……Daily のコンテンツと広大な Web との間には厳然とした壁がある。壁は砕かれるべきでありコンテンツは解き放たれるべきである。コンテンツやそれ用いた会話はすべてのプラットフォーム(タブレットのみならず、スマートフォン、そして Web)へと開かれているべきだ。それが常識でありユーザーが求めるものだ。彼らが有料購読者であればなおさらだ。そして、それは非購読者へと開かれ、検索エンジンのクロールにも開かれているべきだ
  4. ユーザー体験を修復する……Daily がこだわったのは古典的な雑誌スタイルであり、ユーザーが望まないたぐいのインタラクティブ性によって混乱を引き起こした。しかし、ユーザーインターフェイスを変更することによって、Daily を、読者がニュースにアクセスし消費する、生きた場へと変化させることができる。ニュースを知ることと、それを読者間で会話へと広げることは同じくらい重要であり、そのためには、より小型のスマートフォン型デバイスに精力を注ぐべきだ
  5. 質素であること……Daily はまるでスタートアップ(ベンチャー)のように振る舞うべきだった。大会社の一事業部門のようにではなく。年間3000万ドルを使うに任せたのは News Corp. の過ちだった。ヒトやコストの圧縮が必要だが、これは Daily が生き残り、合理的な成長に必要なことである

国内では、Daily を購読することもできないため、最も重要なポイントであるコンテンツ品質について直観を行使することができないのがもどかしく残念です。
この点については、やはり自身がスマートデバイスに手を染め、購読型メディアも運営する Marco Arment 氏の論が参考になりそうです。

今日の出版マーケットにおいて、The Daily のような出版物が存在する余地はない。iPad が発表されるずっと以前にその全盛期は終わっていたのだ。

老舗のニュースサイトがニュースについてはもっとも優れている。読み物や特集記事は、大部分のブログがそうであるように無料にするか、あるいは The New Yorker や The Atlantic などのマガジンのようにカネを払うに値するほど優れた内容を常に載せるかのどちらかでなければならない。しかし The Daily が提供したのは、役に立たたずのニュースと記憶に値しない読み物や特集の呆れるほどのミックスだった。
maclalala2「The Daily はなぜ失敗したのか」)

痛烈な論評ですが、

The Daily が失敗したのは、iPad が出版存続のプラットフォームとして適さなかったためではない。

出版にとって、アプリがウェブサイトより本質的に劣っているために失敗したのでもない。

優れたコンテンツにカネを支払おうとするひとが少なすぎたために失敗したのでもない。(同上)

と述べていることは、記憶に値します。

Daily の蹉跌を教訓に換えたメディアが立ち上がってくることに、今後は期待が高まります。Arment 氏自身のメディア The Magazineもその候補のひとつです。いずれそれについては、子細に検討してみましょう。
(藤村)

執筆に当たって参照した記事等:

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