アプリ幻滅期を超えて モバイルアプリ開発、3つのブレークスルー

アプリ開発の負荷とその効果への懐疑論が台頭している。
果たしてアプリの先行きにブレークスルーはあるのか?
本稿では、モバイルアプリをめぐる新たなステージを紹介する

スマートフォン、タブレットの急速な普及は、メディア運営者に成功と失敗の新たな機会を突きつけます。
ユーザーは、モバイルデバイスを得てメディアとの接点を広げようとしています。その一方で、PC の大型スクリーン中心に成熟を遂げた広告収入モデルが、小さなスクリーンでうまく機能しているとはいえません。
また、ここまでデジタル化を果たしたメディア運営者には、Web メディア運営能力は蓄積したものの、モバイルデバイス分野でのそれは不十分な状態です。そこには大小様々な断絶が待っているのです。

中でも克服すべき大きな課題が、スマートフォンやタブレットをプラットフォームとするメディアアプリ開発です。
アプリ開発が、メディアの退潮トレンドへの重要な処方箋のように喧伝されてきた時期があります。しかし、海外の事例でいえば、News Corp. の iPad 専用ニュースアプリ The Daily の廃刊(参照 → こちら)のように、アプリ開発は、現在では“微妙な問題”へと転じてしまったかに見えます。
メディアアプリは早くも幻滅期に入ったのでしょうか?
そこにブレークスルーはあるのでしょうか?
本稿は、メディア運営者によるモバイルアプリ開発をめぐる新たな段階に触れた paidContentHow publishers are getting over the app debate: 3 examples」(メディア運営者は、アプリ問題をどう克服するのか:3つの事例)の紹介を通して、この問題を整理していきます。

How publishers are getting over the app debate

How publishers are getting over the app debate

まず、「How publishers are getting over……」は、メディアアプリが過度に喧伝され、その結果、幻滅を招いてしまった経緯について述べています。

メディア企業にとり、デジタル時代の急な変化の中にあって、アプリが印刷時代の栄光の日々の再現をもたらす方法だとする期待があった。
それは、印刷版の雑誌や新聞のコンテンツ(や広告)を読まんとする読者に、アプリが美しいレイアウトの再現に加え、こけおどしの会話性までもたらすという“空騒ぎ”だ。

しかしこの“約束”は果たされなかったと記事は述べ、代わってアプリ化の実践とその幻滅を赤裸々に公表した MIT Technology Review 誌の例(「Why Publishers Don’t Like Apps」:メディア企業はなぜアプリを嫌うか)をあげた上で、過度な期待に続いて起こった揺り戻し現象について述べます。

同氏(MIT Technology Review 編集長 Jason Pontin 氏)は、アプリ開発のためにスタッフのコストや外注費にどれくらいを費やしたかを述べ、それがたったの353人の iPad 版アプリ購読者しか生まなかったことを示した。
彼はアプリ開発というものが、1回の投資ですむものではなく、さまざまなデバイス、OS に向けて広げ、営々とそのアップデートと戦っていかなければならないものであることを発見したわけだ。

また、同氏は、アプリメディアへの基本的な問いにまで到達してしまう。それはすなわち、「どうして、読者は外部とのリンクを取り払われた箱(アプリ)の中でコンテンツを読まなければならない?」ということだ。

これが、モバイルアプリ版メディア開発をめぐる典型的な栄光と幻滅の物語です。しかし、これが物語の終わりではありません。記事は、ここに続く第2章があることを述べます。
そこには2つの変化が生じているというのです。要点を整理します。

    1. アプリ開発コスト問題のブレークスルー:

さまざまなアプリ開発ベンダーが、低廉で既製品型のアプリをメディア企業向けに提供を始めている。これによりメディア企業は素速くしゃれたアプリを提供できるというソリューションを得た。これら既製品型アプリは、多くの外部リンクを備える Web のようにでない代わりに、ソーシャル時代の基本である共有機能を備える。これらによりアプリ開発はコストがかかりストレスフルなものという認識を過去のものにしつつある。

    1. アプリ化する方向性の選択:

コンテンツに多くのリンクを備え、コメント投稿など読者との会話性を重視するニュース型メディアでは、アプリはシンプルに Web ページの代替をめざすことになる。
一方、読者とのエンゲージメントをより深めていくタイプのメディアでは、“一品もの”的な機能を実現すべく、専門力を持つパートナーの力を借りてより多くの投資をアプリ開発にしていくことになる。

記事では、前者のシンプルな既製品型アプリ基盤の例として 29th Street Publishing というベンチャー企業のフレームワークとその適用例を紹介しています(同社の情報は → こちら)。
次に、もう少し豊富な機能やカスタマイズを盛り込んだ雑誌型アプリ開発基盤として、MAZ を紹介します(同社の情報は → こちら)。
MAZ は PDF コンテンツをアプリ化する基盤で、高いビジュアル性を売りにする一方、コンテンツのソーシャル共有やコマース対応などのカスタマイズ性に富むというアドバンテージを有します。
シンプルとゴージャス、違いはあるにせよ、MIT Technology Review が暗礁に乗り上げたように、メディア運営者が自らアプリを内製開発していく時期は過ぎ去ろうとしています。メディアが自ら開発に乗り出すのは、“メディアが自ら印刷機や DTP ソフトまでつくり出そうとするようなものだ”とするコメントを、記事では紹介しています。

では、リンク拡散型のニュース型メディアにとってのアプリ開発にはどんな変化があるでしょうか?
記事は、「Web をそのままアプリという箱につめる」方向性を示します。代表格は FT.com です(参照 → こちら)。
こんな具合です。

あるタイプのメディアにとっては、Web 技術の急速な進歩で(ネイティブ)アプリ開発が不要になりつつある。FT.com の事例はその最も顕著な例だ。……だが、だれもがそれにならうべきかどうかはメディアのタイプによる。リンクを大量に備えるようなコンテンツでは、モバイル Web サイトが最適だろう。
だが、(アプリ開発に対し)モバイル Web サイトを優先するとしても、アプリがモバイルデバイスのホーム画面にアイコンとして存在しユーザーにアピールをしていくことの重要性は失われない。これが、FT.com をはじめとするモバイルサイト化を選択するメディア企業においても、アプリ開発を継続する理由である。

さて、紹介してきた記事に筆者(藤村)のオピニオンを加えて、改めてメディアのモバイルアプリ開発をめぐる現状の課題と今後を展望しておきます。

  • 機能・操作性・パフォーマンスの観点で、モバイルデバイスに最適化したアプリは、高いメディア体験を提供する
  • だが、アプリの内製開発は、初期開発と継続維持の両面で負担が重い
  • ソリューションとして、一品もの開発に代わり共通のアプリ開発基盤を提供する動きが活性化している
  • プラットフォーマー(Apple や Goolge ら)のビジネス支配や、Web と違い孤立化しやすいというアプリの特性を嫌うメディア企業が顕在化してきた
  • FT.com など、HTML5 を用いてアプリとモバイル Web サイトの中間的な方向をめざす動きが具体化している
  • モバイルデバイス上のユーザー行動は、アプリ中心となっており、その点でもメディア開発はハイブリッド型アプリへと傾いている

アプリは、Web と違い、ドメインを越え出る発散型のユーザー行動態様になじみにくい部分があるのは事実です。それは逆に、アプリがエンゲージメント志向のメディア形式に親和性が高いことも意味します。
つまり、ユーザーはアプリ内コンテンツに継続して接触する時間は長くなり(あるいはいったんアプリを起動すれば、数多くのコンテンツを閲覧する)、結果として高いエンゲージメント性を見せることになります。ドメイン横断型の行動態様とエンゲージメント性は、当面トレードオフの関係にあることを念頭に置きながら最適なメディア戦略を描くべきでしょう。

一方、筆者が課題として強く意識するのは、アプリの存在を認知しダウンロードにいたる動線が未確立な点です。
Web 検索からアプリのダウンロードを促したり、アプリ内のコンテンツを Web からリンクできるような動線構築が、すべてのスマートデバイスプラットフォームと、アプリ提供者に共通する課題なのです。
本稿では深入りしませんが、モバイル Web ブラウザからのアクセスに対してアプリへの動線を自動的に表示する手法(参照 → こちら)や、アプリ内コンテンツへのディープリンク技術(参照 → こちら)、そして Web 検索からアプリダウンロードへのハードルを下げる手法(参照 → こちら)などが台頭してきました。
アプリ開発の幻滅期をくぐり抜け、次のステージが姿を現わそうとしています。
(藤村)

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