会話型メディアの試み/ステートフルなメディア小論

コンテンツ消費が断片化する、いま。
断片化の動きをつなぎとめ、ユーザーの転換に追随できる方向が、ステートフルなメディアだ。
本稿ではその概念を整理する。

前回(といっても時間が経ってしまいました)の「メディア消費の断片化を超える/ステートフルなメディア小論」では、いま、コンテンツを消費しているユーザーのコンテキストが消失してしまったり、転換したりするようなきっかけが起きにくいメディアの概念として「ステートフルなメディア」を提示しました。

“ステートフル”と“ステートレス”を簡単に復習しておきましょう。

ステートとは、一連のやり取りをする上でのセッションの「状態」のこと。前後の状態を維持することをステートフルと言い、一方、その状態を維持しないことをステートレスと言う。ステートフルだと、一つのプロセスが前後の状態を逐一把握しておかなければならないため、拡張性に欠ける。
ITpro『“4つの力の結節”に基づきアプリケーションを開発せよ』、ガートナーのペッツィーニ氏が提唱」・太字は引用者)

これは、システムアーキテクチャの話題ですが、この論を念頭にメディアの実装形へと敷衍してみましょう。

  • ステートフルなメディア:始まりも終わりもなく、次々に話題が継起するメディア。始まりも終わりもないため、形式的な前置きや繰り返しがなくシンプルである代わりに、途中参加・離脱が難しい。コンテキストの共有が切れると、その回復が困難
  • ステートレスなメディア:話題は適切に区切られており、毎回、話題の概論から始まるため、どこから参加しても理解しやすい。コンテキストの共有が強くないため、途中参加・離脱がしやすい。代わりに、同じ概論を何度も読む(聞く)ことを強いられ、冗長性が高い

ステートフルなメディアの実装イメージは、いま流行のLINEなどメッセージングサービスに重ね合わせることができます。えんえんと続く会話のイメージをそこに想像できるはずです。会話

メッセージングサービス上の会話は、まさにステートフルです。
飛び交うコトバは、それまでのやり取りを背景にしている分、極端に短くシンプルになります。
「あれを」「どう?」「了解!」といった語彙で十分にコミュニケーションが成立します。電子メールのようなサブジェクトや、メールの始まりや終わりの文句は不要で、それが会話の継続性を高めます。

では、この会話の継続性を、メディアの具体的な実装イメージ、すなわち会話型メディアとして描いたらどうなるでしょう。

メディアX:「あの件の判決が出ましたよ」
ユーザーA:「どんな論評が出ている?」
メディアX:「○×新聞で社説が出ています。□△ブログで評論家の高橋さんが記事を書いています」
ユーザーA:「高橋さんがなんて書いているのか、出だしを読み上げて」
……しばらくして……
ユーザーA:「例の判決、続報が出ていないかな?」
メディアX:「5つ記事が出ました。順に読み上げますか?」……

これは、Google NowやSiriのようなインテリジェントナビゲーターを念頭に置いた筆者のあくまでも妄想です。けれど、このようなナビゲーターがメディア界に登場するのは時間の問題でしょう。
注目してもらいたいのは、ひとつひとつのコンテンツ(トピックス)は、簡潔性をもって存在していたとしても、それをつなぎ合わせる会話型ナビゲーターとユーザー(コンテンツ消費者)の間で、ステートフルな関係性を築けるということです。

もう理解できるように、ステートフルなメディアでは、ユーザーが身を置くコンテキストに変化や転換が生じたとしても、会話のスイッチは切れづらく、柔軟に継続することができます。
大切なことは、「あれ」「これ」という簡潔な語彙で会話が成立するハイコンテキストな関係の持続です。

コンテンツひとつひとつの簡潔性は維持しつつも、ユーザーのコンテキストの消失、転換によって会話性が途絶えないメディアの実装形が、メディアの近未来を描きあげるひとつの視点であるはずなのです。

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