デジタル化・モバイル化の大命題に直面するメディア。
数多くのやるべきことに抱える事業が課題に立ち向かうために、
マネジメント層が重視すべき指標がある。
数多くの著名メディアを傘下にする
News Corp.(ニューズ・コーポレーション)のデジタル部門トップが重視するポイントとは
本稿は、デジタル化、特にモバイル化の大波に洗われるメディア(そのビジネスと組織)の現状を判定する指標を紹介します。
指標を提言するのは Raju Narisetti 氏による「We need to talk: 26 awkward questions to ask news organizations about the move to digital(ニュースメディアのデジタルへの移行を確認する“26の嫌な問い”)」です。
氏は、過去、米 Washington Post、Wall Street Journal で要職を歴任、現在は News Crorp. でデジタル戦略を担うトップ(上級副社長)を務めています。
氏のオピニオンについては、すでに「モバイルと広告の革新に資源を投入せよ WSJ幹部が述べるデジタルメディア戦略」でも取り上げています。
「We need to talk:……」は、表題のとおりデジタル・モバイルへのシフトを進めるメディア組織のシニアスタッフ向けに、厳しい問いを数多く列挙したメモです。
挙げられた数々の問いを整理すると、大きく4つのグループに分類できます。
- 読者のモバイルシフトの把握とモバイル化に対応する組織編成
- 有料購読者の獲得、無償購読者から有償購読者への移行施策
- 広告事業(あるいは商材)の革新と、編集組織との有機的連携
- デジタルおよびモバイル、国際化に適合できるスタッフ編成とマネジメント
いずれも重要ですが、全部を紹介するのは無理として、筆者(藤村)の視点から特に重要と思えるもの取り上げてみましょう。
問い1. デジタル版読者の何パーセントが、スマートフォンだけでアクセスしているか?
問い2. 何人のジャーナリストを編集部に擁しているか? その内、何人がモバイル専任か? むろん、タブレットではなくスマートフォンを対象として。
問い3. また、何人の開発者(Web/アプリ側とサーバー側)を擁しているか? そして何人がモバイル専任か? スマートフォンとタブレット担当の比率にブレークダウンするとどうか?
Narisetti 氏が、これら1.のグループに属する問いで強調するのは、モバイルへの専任体制です。
それは Web とモバイルの編集や開発責任をあいまいにしないこと、さらにはスマートフォンとタブレットとを混同しないことです。
「“われわれは、毎月数百万もの大量のデジタル版へのアクセスがある”といった表現に安住しないように」と、クギを刺します。
問い6. 毎日、何人の有料購読者がWebサイト/モバイルにアクセスしているか? それは、全体のアクセス数に対してどれほどの比率になっているか?
問い7. 有料購読をしていながらアクセスのない読者を、月に1〜2回程度へのアクセスへと引き上げる施策に責任を有する担当者はだれか?
特にペイウォールや、印刷版を含み各種デジタル版への360°アクセスを運用するメディアにとって、その中に存在する無償アクセス者、有料購読者の比率、そして、その比率の遷移を掌握することが重要です。
後ほども触れますが、これら各種タイプの読者を擁していながら、業務分掌によって分断されていては、メディア事業の長期的な戦略実現に向けた歩みを果たせません。
問い9. 広告収入の何パーセントがデジタル版からか? その内、何パーセントが(タブレットではなく)スマートフォンからか? それを「問い1.」と比較せよ
問い11. 広告(販売における)イノベーションチームは会社に存在するか? だれがそのメンバーであり、チームはどう機能しているか?
「問い9.」 は重要です。
「モバイル広告は儲からない」という言い訳は、実務に携わる多くの人々の間での共通感覚です。これだけの理由で、モバイルへの対応を遅延させたいという心理が肯定されてしまいます。
しかし、読者アクセスの増大と重ね合わせて視ていれば、成長分野を収益事業へと転じようとする問題意識をつねに刺激できます。
問い15. 編集部のスタッフを年次評価するための、最も重要な5つの指標を挙げられるか?
問い22. 日々のコンテンツについて、どれを無償アクセス可能にし、どれを有料購読者専用とするか決定権を誰が持っているか? その責任者は、同時に有料購読者を獲得する責任を持っているか?
問い24. 編集責任者が、過去6か月の間で何回広告営業担当者と打ち合わせを持ったか?
これらは特にメディア経営、もしくは編集部門を率いるマネジメントに向けられた鋭い問いです。
とりわけ「問い22.」におけるような分断は、小さなメディア事業体というより、新聞社などの編集や編成組織優位の事業体においては生じやすいはずです。
開発者と編集者、記者そして、編成マーケティング等の視点を融合し、モバイル時代への全面的な対応へと目を向けさせなければなりません。
長期的な戦略視点からして、従来組織的習慣を固定したり、いたずらに業務分掌の縦割り化のみが進んでいないか。
26個の問いは、まさに、頭が痛くなるような「嫌な問い」ではあります。
けれど、過渡期、変革期のメディア事業の進展度合いや健全度を判定してくれる素晴しい視点であることも明らかです。
マネジメントはつねに、これらの問いに答えていかなければならないのです。