Webメディア 終わりが見えてきた/Facebook「Instant Articles」、Twitter、Snapchat 白熱の攻防

Facebook がメディア企業にコンテンツのダイレクトホスティング「Instant Articles」を開始。
一方、Twitter がニュースアプリ CIRCA など買収の動きがとの観測。
膨大なアクティブユーザーを擁するプラットフォームの各々が、
ニュースメディアに的を絞った動きを見せる。
メディアとプラットフォームは共存共栄が可能か、新たな動向を整理する

Facebook が、米大手メディアに対しコンテンツのダイレクトホスティングをスタートして大きな注目を集めています。The New York TimesBuzzFeedNational Geographic ほか6誌(紙)のコンテンツが、各々の Web サイトのリンクによる投稿ではなく、直接、Facebook に投稿されることになります(たとえば → 「Facebook がメディアにユーザデータと広告収入を保証する高速ニュースサービス Instant Articles を開始」参照)。

一方、投稿した写真が短時間で消滅するという、カジュアルなメッセージングを目的とするアプリ Snapchat が、これまた大手11媒体と組んだニュースメディアチャンネル「Discover」をスタートし話題を集めています。
また、他方、ソーシャルメディア大手の Twitter は、昨年末にはミレニアム世代を対象にした人気を誇る Web メディア Mic.com の買収を試み、最近では、身売りが噂されるユニークなニュースアプリ CIRCA の買収にも意欲を示しているとされます。

Facebook の MAU(月間アクティブユーザー数)は、いまや14億人(モバイルだけでも12億超)、Twitter のそれが同3億人超、そして、Snapchat においても同約2億人を超えると見られています。膨大なアクティブユーザーで、この三者はまさに“プラットフォーム”の名に恥じない存在です。その三者が同時期に、ニュースメディアに対して三様のアプローチで触手を伸ばしているようでなのです。
それは同時に、強力なソーシャルプラットフォームが複数並存する時代にあって、各ニュースメディアがいかに自らの事業を守り、かつ拡大していくのか、難しい舵取りを迫られていることを意味します。

このようなテーマについて、米 Business Insider が、同社記者 Alyson Shontell 氏の論説「Snapchat, Twitter, and Facebook are at war over the future of news — and one of them tried to buy a media companySnapchat, Twitter, そして Facebook ニュースの未来をめぐる闘い——内1社はメディア企業を買収しようと試みる)」を掲載しています。
本稿は、この概要を紹介しつつソーシャルプラットフォームとニュースメディアのこれからの関わり合い方について、探っていきます。

Snapchat, Twitter, and Facebook are at war over the future of news — and one of them tried to buy a media company

Snapchat, Twitter, and Facebook are at war over the future of news — and one of them tried to buy a media company

まず、記事は Twitter の動きについて伝えます。昨年末、同社 CFO が CEO に宛て、Mic.com 買収の必要を述べたメッセージが偶発的に漏えい、また、ニュースアプリ CIRCA の買収に同社が興味を示していることに触れます(CIRCA については、事業の見通しが不透明で、売却先を探しているとの報道も出ていました)。
当事者らは、その動きについて肯定も否定もしないため、当然ながら情報の確度は不明です。記者や編集組織を持つ Mic.com はもちろんのこと、ニュースアプリ CIRCA もまた、編集要員を擁する組織です。Twitter は、編集スタッフを擁する事業を自らの中に取り入れる、さらにいえば、メディア事業体そのものを手中にすることで、数多くのメディアと競合するスタンスへと転換するのでしょうか?

一方で、ある意味で明瞭な動きを見せるのは、Facebook です。すでに述べたように同社は、メディア事業体、もしくは編集組織を手中にしたいのではなく、あくまでコンテンツを所有したいのだと、記事は説明します。メディアは、コンテンツを自社サイト中心にパブリッシュするのではなく、Facebook を優先せよというわけです。まさに“Facebookファースト”です。
その見返りに、同社はメディアに対して News Feed 中の当該記事の前後に埋めこむ広告の売上をシェアします。メディア自身の営業行為で Facebook 上の広告を売った場合、売上の全額をメディアに渡すとしています。
そうまでして、Facebook が魅力的な記事のダイレクトホスティングにこだわる意味は何でしょうか?
記事は Facebook の強いモバイル指向にあるとします。記事はこう書いています。

現在は、ユーザーがリンクをクリックし、一つの外部記事、動画のリンクからコンテンツをロードするのに、時間がかかりすぎる。——“平均で8秒かかっている”とされる。もし、ユーザーがスマートフォンなどで Facebook を閲覧しているとして、リンク先の外部サイトがモバイルに完璧に最適化されていなければ、とりわけ時間を要する。
もし、ダイレクトホスティングが始まれば、この時間をスピードアップすることができ、UX(ユーザー体験) を改善できる。これにより、ユーザーは長期にわたりコンテンツへエンゲージし続けることになる。

つまり、Facebook はメディア事業体を買収する気はさらさらなく、魅力的なコンテンツを手に入れ、ユーザーのモバイル上での UX を向上し、さらに言えば、ユーザーがリンクを通じて外部へと流出してしまうことを防ぐことを目的とするというわけです。
であっても、メディアには気がかり点が残ります。

FacebookのInstantArticles概念

FacebookのInstantArticles概念

ユーザーの News Feed にコンテンツを表示させるのは(Facebook の)アルゴリズムだ。これがメディアに Facebook との協調を迫ることになる。
もし、この協調を好まなければ、Facebook からのトラフィックを得るという関係を遮断されるという“懲らしめ”を受ける可能性がある。

“遮断”は極端にしても、Google が「モバイルフレンドリ」アルゴリズムで、モバイル対応した Web サイトを優先するのと同じように、“News Feedフレンドリ”アルゴリズムが作用することがないとは言えないでしょう。

3番目に、Snapchat のアプローチを確認しておきましょう。
同社は1月から11のメディアとの協業チャンネル「Discover」をスタートしています。パートナーメディアは、Discover に最適化したフォーマットにて、1日5本程度のコンテンツをダイレクトホスティングします。
新たな取り組みが注目を集めたためか、盛大なユーザーからのトラフィックが Discover のスタートを祝いました。
ある“証言”では、Discover コンテンツの閲覧数は、1日で数十万PVから数百万PVに及ぶといいます。それもコンテンツ1本ずつに!(たとえば → 「スナップチャットにメディアと広告が集まる理由——米利用者の7割が18〜34歳、『Discover』は1日100万人が閲覧 – メディアの輪郭」参照 )
Discover パートナー側のメリットは何でしょうか? ここでも、膨大なトラフィックを下敷きにした広告売上のシェアのようです。記事は次のように説明します。

Snapchat は、メディアが自ら広告を売った場合は、売上の100%をメディアに支払う。もし、Snapchat が広告を売った場合には、40%を支払う。

さて、Snapchat にはメディア事業体を保有する、もしくは、コンテンツ内製機能を持ちたいとの欲求はないのでしょうか?
同社 CEO Evan Spiegel 氏は次のように述べると、記事は語ります。

われわれは、編集的な見識を取り戻そうと試みている。というのも、われわれ以外で、われわれよりも賢く“何が重要であるのか”理解している人がいると信じているからだ。それは専門的な仕事であり、とても難しいことなのだ。

つまり、専門的な仕事としての“編集”は、自分たちの仕事ではないと説明するわけです。ただ、それを完全に外部に頼るのかと言えば、“No”です。
同社は、CNN の売れっ子政治記者を、Snapchat 内部のフルタイムな報道担当責任者として招き入れていることも事実だからです。

さて、このようにプラットフォーマーが三者三様のアプローチで、メディア、そして、記者・編集能力を有する人間たちにアプローチしていることが見えてきました。
また、すべてではないにせよ、既存メディアの側もこれを歓迎する動きを見せていることも事実のようです。
このような新たな動きをどう解釈すべきでしょうか?
筆者(藤村)は次のように考えます。

この事態を、1995年前後を基点として始まった Web メディアの成功法則が、20年を閲してついに最終段階を迎えることになったと理解すべきでしょう。
それは、Web 上に自らのサイトを構築、最初は検索エンジンを、次に、大小のソーシャルメディアを味方にしながら、つねに自らの Web サイト中心に集客を図り続けるという Web メディアの文法がもはや無効になろうとしているということにほかなりません。
いまや、中心にあるのは Web メディアではありません。プラットフォームなのです。
そして、個別の Web メディアごとに潤沢な広告収入を得ることが困難になってきたという課題もまた顕在化してきます。
膨大な利用者を擁するプラットフォーマーでなければ、潤沢な広告収入を得ることできない。いいかえれば、膨大な利用者、モバイルの利用環境に最適化したネイティブ広告、そして、人を惹きつける高品質なコンテンツという三位一体の組み合わせがなければ、メディアの存続が難しくなってきているとも言えます。

Webメディア 終わりが見えてきた/Facebook「Instant Articles」、Twitter、Snapchat 白熱の攻防」への2件のフィードバック

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