Facebook、Apple など各種プラットフォームが、
自らの閉鎖空間に直接コンテンツをホスティングするよう求めるアプローチを、いっせいに見せている。
自らの Web サイトを軸にして、コンテンツの公開や課金制を組み上げてきた既存メディアは、
これにどう対応すべきか?
Wall Street Journal などを擁する大手メディアグループトップのオピニオンを紹介しよう。
Facebook が、そして Apple が、進展するニュースアプリのトレンドに参入し、パワープレイでパートナー開発に着手していることは周知のとおりです。また、2社に続き Google もまた同様のアプローチを準備中であるとも、メディア業界では伝えられています。
これまでに米大手メディア各社が Facebook が提案する Instant Articles にコンテンツを提供しています。また、Apple News についても多くのメディアの参画が、サービス開始前の段階ながら発表されています。
“プラットフォーム”と呼ばれるテクノロジー勢力が、一様にニュース、ジャーナリズム分野に押し寄せるこのトレンドは、既存メディアの運営者にとってどのような意味があるのでしょうか?
それは肯定的に見るべきなのか、あるいは否なのか。
本稿では、Wall Street Journal などを傘下に擁する大手メディア企業 Dow Jones の CEO である William Lewis 氏の考えを紹介します。
The Guradian 掲載、Mark Sweney「Dow Jones chief’s tech warning on news undermined by ‘cats on skateboards’(Dow Jonesトップ、ニュースが面白おかしい記事に侵食されていると警鐘)」です。
同氏は、前 the Daily Telegraph 氏の編集長であり、記者および編集あがりのベテランジャーナリストのひとりです。
記事は、同氏がたとえば Facebook Instant Articles のパートナーとなるような取引は、コンテンツをコントロールするという点において(メディア運営者に対し)脅威を投げかけるものと警鐘を鳴らしていると伝えます。
われわれ、そしてメディア業界全般にとっての課題は、Apple や Facebook が、かれらの閉じられた空間へのコンテンツ提供を求めていることに対し、まるで首を切り落とされた鶏のように右往左往するのか、それとも、このような提案に対し最も良い対応はなにか、過去の失敗を繰り返さぬためにも落ち着いて、ともに考えられるのかどうかということだ。
同氏は、HuffingtonPost、BuzzFeed、Mashable や Vice News などのメディア名を挙げ、これら新興メディア勢力に続いて、Facebook、Apple そしてGoogle らが、新聞社などが存在してきた伝統的なニュースメディアの分野に次々と参入している事態を、「勇気づけられる」と言います。
いま、テクノロジー寄りの企業やテクノロジー企業がコンテンツの世界に参入してくるのを見ると、基本的には非常に勇気づけられる。
かれらは、ニュースがとても重要であることを認識しているのだ。
それは、われわれが日々語りあっている自分たちの仕事の意義を認める偉大な証だ。
専門的に生み出されたニュースは、社会にとりとてつもなく価値あるものであり、深い道徳的な意義を満たすものなのだ。
しかし、そのように意義と価値の高いコンテンツが直面している課題があるとも、同氏は指摘します。
それは、世界で起きている重要な問題、シリアスな課題を追うコンテンツを生み出す動きに対し、(“スケボーに乗ったネコ”のような)面白おかしいコンテンツ、それがテクノロジー寄りのメディアを通じて猛威を振るっている事態とします。
それによって大切な記事や、編集者と読者の深いきずなというものが少しずつ損なわれており、いずれまったく機能しなくなると憂います。
そのような懸念を示した上で、Lewis 氏はテクノロジー企業各社との間でコンテンツ配信に関する交渉を行っていることを認めます。しかしながら、同氏が率いる Dow Jones としては、同社が敷いている課金(購読)制と相容れない協業の可能性については否定的です。
広告レベニューシェアモデルの提案は、われわれの課金制を尊重しその進展を助けようとするものだろうか?
広告モデルだけでは不十分なのだ。Apple、Facebook、Snapchat らとこの点について議論していることは、秘密でもなんでもない。
やがて、われわれの課金制へのニーズに敬意を払ってくれている存在が明瞭になってくるだろう。そのような存在とわれわれは協業したいと考えているのだ。
同氏のオピニオンには、現在の既存ジャーナリズムにとって、いずれはその存立そのものを揺さぶりかねない課題が、縮図のように見えています。
メディア事業者にとっては、読者の発見を、そして読者にとってはコンテンツの発見を、つかさどる存在。プラットフォームは、“コンテンツ配信”をめぐりこれまで以上に大きな影響力を周囲に与えようとしています。
この先に、新たな関係を有機的に構築していくためには、メディアとコンテンツの意義についての深い洞察と合意が必要になってくるはずです。
ピンバック: ●広がり始めた電子書籍市場 攻めるAmazon、挑む新潮社