メディア戦略 これからの20年を展望する

つねに“いま”を走り続けなければならないビジネス環境。
しかし、縛り付けられている“いま”を離れ将来を展望できるとすれば?
これからのメディアに求められる価値観について、
長期にわたり指針とすべきオピニオンを紹介しよう。

このブログでは、デジタルメディアの最前線に伴走し、時には過去を振り返り、そして時に未来を展望しようとします。
ブロガー Ben Elowitz 氏は、継続的な起業家で、現在はメディアを起点に発する口コミを集約するプラットフォームビジネスを手がけます。
それとは並行してメディアビジネスに関するオピニオンを発信しており、紹介する「The 20 Year Strategy for Media(メディアの20年戦略)」 も、そのエントリのひとつです。

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“今年の業績は?”“来期の事業計画策定は?”“今後5ヵ年の戦略ロードマップは?”
このような日々継続する事項から離れ自由になれるときは、めったにない。
一瞬でも、現在目の前にしている火急の意思決定事項から自由になれたとしたら、代わって“メディアビジネスが成功するために、これからの20年をどのように戦略的に動けば良いか”を考えられるのだが——。

このように語る同氏は、だからこそ20年といった普段考えもしない時間枠でビジネスの将来を考えるべきと示唆します。

本稿は、同氏がこのように日々の活動をいったん休止して導いた「メディア(ビジネス)これからの20年戦略」のポイントに触れるものです。

Elowitz 氏がこれからの20年に視る基本的な枠組みは、シンプルです。

デジタル(メディア)は継続する。他方、非デジタル(メディア)はその消滅へのカーブをさらに突き進んでいく。
ただし、現在もてはやされているさまざまなデジタル(メディア)戦略のいずれが長く生き続けるのかは依然として不明だ。

同氏がそのような視点から挙げるのが、次の12の戦略ポイントです。個々に足を踏み入れる前にまず概観しておきましょう。

  • 希少価値を発揮するコンテンツ
  • 体験的価値がもたらすインパクト
  • ブランドを通じ読者との関係性を築く
  • 複製不可能な人間の才能を重視する
  • ライブイベントがもたらす絶頂感
  • コンテンツと流通を融合する
  • 最重要なのはイノベーション
  • 広告価値の減少は継続する
  • 消費者に支払わせる能力を築く
  • パーソナリティほどユニークなものはない
  • 適合力が必要
  • それらすべて……

残念ながら、これらすべてを紹介するわけにはいきません。筆者(藤村)が、なかでもポイントと見るものに絞り検討していきたいと思います。

希少価値を発揮するコンテンツづくりへ

グーテンベルグの印刷技術の発明以降、メディアの世界では、ただひとつ明瞭で押しとどめようのない方向性が存在する。
それは“希少性から潤沢性へ”の法則だ。(コンテンツは、限られていて数少ないもの、という状態から、同じようなものが溢れかえっている状態へと向かう)
その流れは過去10年でますます勢いを増している。記事、写真、そして動画でさえ、その変化のただ中にある。過去、これらが(希少であるとの)価値を示したものが、いまや小銭を稼ぐことしかできない。

このように述べる Elowitz 氏が強く訴えるのは、低品質で大量生産されるコンテンツからの差別化です。

コスト抑制を旨とするメディア企業が、低コストでありきたりなコンテンツを作ったとして、トラフィックは稼げるだろう。だが、価値あるものを産出しているとは認識されない。
長期的観点から、メディア企業の最大の脅威とすべきは、この“潤沢性”である。永続性をめざすメディア企業は、希少性の高いコンテンツを生み出さなければならないのである。

“体験的価値”に焦点を当てる

次に同氏が掲げるのが、“体験”が生み出す価値の重要性です。これまた、“希少性”に根ざす価値のひとつでしょう。目の肥えた読者らに、感動の体験を提供することは容易なことではありません。

今日では、読者を喜ばせるには、言葉や写真だけに止まるわけにはいかない。動画や音声、その他さまざまな情動的な関係に訴えかけるものすべてだ。
コンテンツは、この“情動的な関係”の一部をなすだけでなく、場の雰囲気やセッティングをも媒介する。

Elowitz 氏が述べる“情動的な関係に訴え、場の雰囲気やセッティング”全体が読者体験を形成するということです。

なにかの途上でスマートフォンをチェックするかもしれない。カウチにくつろいでタブレットを観るかもしれない。あるいは、仕事中ほんの一瞬、情報を観ているのかもしれない。
無際限にあふれるコンテンツの中で、このようなシーンごとに最高の体験を提供してくれるメディア(ブランド)に、読者は再訪しようとするのだ。
リチャード・ブランソン氏率いるバージン航空では、他社が当たり前のこととして見過ごしているさまざまな体験をつねに再定義しようとする。
機中の照明や装飾、音楽、そして安全のためのビデオを変えてみる。
それは決して“革命的”には見えない。だが、日常の中の体験的価値として考えれば、それが非常に大きな顧客の忠誠心、情動的な関係を生み出すのだ。

コンテンツと流通、それぞれの力を融合する

“コンテンツ魂”を強く意識するメディアが、その希少なコンテンツを、高い体験的価値、ビジネス的価値へと磨き上げることに意外なほど無自覚であることがあります。
コンテンツをターゲットとする読者に的確に届ける、また、読者が喜ぶ仕方で届ける仕組み、そしてそこから的確に回収する手法は、過去においても、そしてこれからもメディアのビジネスにとり大きな課題です。

コンテンツ企業は、(すぐれた)流通企業でなければならない——。
この考えは決して目新しいものではない。Timeや(「Better Home」誌や「Gardens」などを擁する)Meredithは、ダイレクトマーケティングの仕組みを何年にもわたり築いてきた。しかし、多くのメディア企業の精神的支柱は、依然として“コンテンツ魂”のほうに止まっている。
(コンテンツの)流通は、過去20年の間に大規模な変化を遂げている。そして、その変化の勢いは、消費者の時間消費がモバイルとソーシャルによりますます変化を加速する。
メディア企業には、流通のマイスターとなる以外の選択はない。

コンテンツ課金、“壁”ではなくビロードのロープに

広告支出が減退するなか、メディア企業にとり、読者課金の仕組みは、今後の最も重要な収入源になるだろう。
これからの20年間、消費者の期待値は、“コンテンツはどこにでも、いつでもそこにある”ものであり、そして、それは“ほんの些細な値段で存在すべきもの”なのだ。この点で、消費者にとって支払いにともなう抵抗感が減少すれば、その支払いの頻度はぐっと増すこと請け合いだ。

個人に対するコンテンツ課金の有望性について、Elowitz 氏はこう述べます。
氏の課金についての考え方は明瞭で、

  • 支払いの面倒臭さを減じる
  • 消費者が求める利便性に応える
  • 体験的価値と希少価値を提供する

が、個人課金のためのドライバだとします。
これらの施策は、“壁”(ペイウォール)を設けるのではなく、ベルベットのロープを消費者に手渡しプレミアムコンテンツの世界へ引き上げるという点で重要だというのです。

これからの長い間、メディアビジネスを遂行する上で重要な多くのポイントが示唆されています。
これらは時間をかけて徐々にその意義を証明していくことになるはずです。

ところで、Elowitz 氏が、このエントリでただひとつ、それら多くのポイントを先取り的に体現しているメディア企業(団体)を挙げています。
それは米国 NFL(the National Football League)です。
ニュース、データ、ゲームの要素がそのサイトには詰め込まれており、ファンはそこで多くの時間を費やそうとします。
テキスト・写真・動画が、Web・モバイル・ソーシャルにまたがって融合されているさまは、確かに今後のメディアビジネスの歩むべき道のりを考える際に重要な道しるべとなるはずです。
(藤村)

“出版の未来” プラットフォーム機能とエコシステムの形成

電子書籍のトレンドを追うようにして、セルフ出版型モデルが注目を浴びている
出版社の、編集の機能はこのまま衰弱していくのか?
出版社は垂直型の機能統合を弱める代わりに、
外部とのエコシステムづくりへ向かうべきではないのか?
出版の未来への道は、プラットフォーム機能の強化である

最近では出版社の役割について悲観的な論調を見かけるようになりました。
たとえば、Amazon による自費出版プログラム POD(プリント・オン・デマンド)、同じく電子書籍自費出版プログラム KDP(Kindle Direct Publishing)などが浸透していくとすれば、場合によれば出版社という中間機構、あるいは編集機能は無用(執筆者には投資対効果が合わない)という見方が飛び出してくるのもわからないでもありません(たとえば → こちら)。

このような変化を、あえて大ざっぱに整理してみましょう。

  • 従来の出版モデルでは、出版社がさまざまな分業を垂直的に統括しながら、流通プラットフォーム部分を分離して他社(流通事業者)に委ねていた
  • 今後に勢いを増すモデルは、流通プラットフォームの担い手が入れ替わり、さらに、出版社による垂直統合的なコントロールが消失し、執筆者のコントロールが前面に出るようになっていく

「あえて」ラフな対比を試みましたが、ここに第三の仮説が浮かびます。それはこうです。

  • 出版社の機能は消滅しない。ただし、垂直統合モデルのかなめとしての出版社の役割は後退し、代わってプラットフォームとしての役割、流通・マーケティングの機能へと比重を移していく

本稿は、未来の出版社は、プラットフォームとしての役割を拡大していく、との展望を提示するものです。

ジャズが好きな読者なら、だれもが知っているレーベルに「Blue Note」(ブルーノート)があります。そのブルーノートブランドを冠した興味深い iPad 版アプリがリリースされました。ただし残念ながら、同アプリの販売は米国・英国限定でわが国からはダウンロードできません。

iPad版 Blue Note アプリ。国内では入手できない

iPad版 Blue Note アプリ。国内では入手できない

では、そのアプリのどこが興味深いのかといえば、このアプリを取り巻く全体図式が未来の出版社の姿を示唆しているからです。
アプリを紹介する記事からポイントを整理してみましょう。
記事は Billboard.biz 掲載「Blue Note Records App for iPad Breaks New Ground With OpenEMI Initiative」です。
まず最初に、Blue Note アプリの概要について、記事の説明を借りて確認します。

アプリはダウロード無料で、伝説のジャズレーベルに関わるアーティストとアルバムのカタログを、豪華な映像や音楽で体験できる。また、月々2ドル弱を支払う会員購読者になれば、1000以上の楽曲ストリームを視聴することができる。他方、非購読者にはストリーム映像(楽曲)の表示が30秒以下に制限される。

アプリは、典型的な“フリーミアム”戦略を採用しているようで、無償ダウンロードでき、ブルーノートが保有するコンテンツのカタログ的な役割を果たします。と同時に、定期購読することにより、米国の音楽系サービスでは常識になりつつある“聴き放題”のサービスとなるという側面も有しています。
ところで、ポイントは、このようなアプリ企画が今後もさまざまな形で登場してくるらしいことです。その背景について説明を見ていきましょう。

(レコード会社EMI内のプロジェクトである)OpenEMI は、開発者にアプリなどの開発に専念させるべく組織された。OpenEMI チームは、権利保有者との関係をクリアにし、アーティスト、そのマネジメント、そしてマーケティング担当との企画協議を促す。
開発者は自らの開発成果の知的財産を保持しつつ、EMI へ販売ライセンスを行い、売上の40%を手にする。EMI はその残余を保持し、権利者への支払いとマーケティング費用に充てる。

OpenEMI を率いる EMI の上級幹部である Bertrand Bodson 氏は、「EMI のアーティストは良いアプリを持つべきだが、そのためには外部の開発者らリソースを刺激する必要があった」と述べます。
また、同氏は「われわれは、アーティストらと連携し優れたアプリを企画する力やビジョンを有しているが、正直なところ、最高のアプリを内製する力は持ち合わせていない」とします。
そこで、OpenEMI は外部のテクノロジー企業と協業し、アーティストら権利者と権利関係を調整の上、利用可能な楽曲コンテンツをデータベース化し、それを外部のアプリ開発者が容易に利用できるように API を整備することにしたというのです。
著名な楽曲や映像コンテンツを用いてアプリを企画し開発する際の最大の悩みが、ライセンス交渉のハードルにあると Bodson 氏は認識していたからです。
開発者らは、この API を通じて、膨大なライセンス可能な楽曲コンテンツにアクセスしてアプリを開発できると同時に、EMI は、その商用利用についての課金を的確に行えることになります。
記事ではさらに、OpenEMI がすでに480社の開発者に API の利用を許諾していること。そこからすでに50もの企画をオファーされていることなどを伝えています。

これから新たなコンテンツを企画し、出版していくための新たなビジネスモデルをどう構築するか。その課題の解き方と同時に、過去に創造された価値あるコンテンツ群を、いかに“再創造”しやすい環境へと整備するかというテーマが、ここに具体的に見えてきたといえます。
筆者がおもしろいと感じるのは、出版社が、コンテンツの権利調整とその再利用の仕組みを整備するという透明性の高いプラットフォームを担うことと、そこでコンテンツ素材を用いて新たな出版企画を実現するという、従来から持っている役割が互いに競合しないと思えることです。
プラットフォーム機能を果たすことで外部パートナーとエコシステムを形成することと、出版社自らが編集(企画)機能を活かして、コンテンツ製品を創り出すことは矛盾しません。
優れたコンテンツの価値は、たった一度の利用で費消されきってしまうものではないからです。

本稿冒頭で述べた3番目のモデルを繰り返すと、こうなります。

  • 出版社の機能は消滅しない。ただし、垂直統合モデルのかなめとしての出版社の役割は後退し、代わってプラットフォームとしての役割、流通・マーケティングの機能に役割を移していく。ただし、アプリの流通プラットフォームについては、Amazon、Apple、Googleらとの提携が必要になるだろう。収益の配分は流動化せざるを得ない

過去の偉大な資産を保有する(権利者との親密な関係を有することも、もちろん資産です)出版社が、データベースと API の整備で外部事業者とのエコシステムを形成していく流れは、ずい所で姿を現わしてきています(下記記事群を参照)。出版社はプラットフォーム化への道を将来戦略に取り入れるべきなのです。
(藤村)

執筆に当たって参照した記事等:

モバイル広告の成長を阻むものは何か? 英国デジタルメディアの主張

モバイル広告が売れない最大の理由は、エージェンシーの問題なのか?
英国のデジタルメディア企業に対する調査結果から、
モバイル化トレンドの中、課題に直面するメディアの動向が見えてくる

英国のデジタルメディア運営者らによる協議団体 Association of Online Publishers(AOP)が、会員を対象とする調査結果を発表しています(AOP Content and Trends Census 2012:調査結果全文は会員限定公開)。
調査は、モバイルメディア市場の状況をメディア企業らがどのようにとらえているかというデータ、そして、今後どのように取り組むべきかについての分析を示しています。
示された内容は、わが国のデジタルメディア関係者にも見逃せない結果となっています。

本稿は、AOP 自身による調査のハイライトを伝えるレポートの紹介を中心に、筆者自身の見解を交えていくものです。

モバイル広告 成長を阻害する要素

最初に物議を醸しそうな調査結果を示します。
英国のデジタルメディア企業らは、モバイル広告(スマートフォンおよびタブレットの広告市場)の成長を阻害する第一の要因を「モバイル市場に対するエージェント(メディアレップ)の姿勢」と見ています。
第二は「実入りの少ないネットワーク広告」。そして、第三に「社内の営業スキル(不足)」です(下記チャート参照)。

スマートフォン/タブレットからの売上増収の阻害要因|UK Association of Online Publishers Content and Trends Census 2012より

スマートフォン/タブレットからの売上増収の阻害要因|UK Association of Online Publishers Content and Trends Census 2012より

ここでいう「エージェントの姿勢」とは何でしょうか?
おそらく、メディアレップらが販売したい、あるいは販売しやすい広告商材は Web 系の広告商材であり、モバイルのそれは、2次的、あるいは従属的な商材としか見ない。このような現象と想像できます。
それは、印刷媒体が中心的な広告商材だった折に、Web 広告商材が直面したものに酷似しています。
メディア企業のために広告を販売するエージェントの多くは、モバイル広告商材だけでなく、従来の Web 広告商材も販売しています。
両者を比較すれば、モバイル広告は価格帯から、あるいは、その効果(測定)その他、Web と異なる販売スキルが求められるという点においても、いまだに Web 広告商材ほどにこなれたものではないということかもしれません。
また、Web 広告では行動ターゲティング、リターゲティングなど、大量の広告在庫を用いながら表示精度を向上させるテクノロジー面での進化を続けていますが、モバイル分野ではまだ、読者ターゲティングの決め手となる商材開発が進んでいないことも背景にあるでしょう。

モバイル広告売上が伸びない要因の第二は、ネットワーク広告と見なされています。
ネットワーク広告(その代表格は、Google、Apple が提供しているものです)は、メディアレップや企業内営業組織が満たせない需要を収集する役割を果たしますが、精読率の高いモバイルユーザーを魅了する高効率な広告フォーマットを、モバイルメディアに提供できずにいます。また、上記のように十分な個人ターゲティングの仕組みを持たないなど、成熟前期を脱しきれずにいます。
さらに、第三の阻害要因にあげられた社内の営業もまた、第一の要因とされた、エージェントの取り組み姿勢がモバイルへとシフトしない不満とまったく同様の現象でしょう。モバイル広告の魅力を活かした営業をなし得ない状況にあるという結果を示しています。自社内外の営業組織や要員が、いまだモバイルへ注力しきれないという状況が見えてきます。

トラフィックの成長とモバイル広告の未成熟

上記のデータで注目すべき点があります。モバイル広告増収の阻害要因として「読者層の規模」をあげる意見に対し、上記エージェントの取り組み姿勢を指摘する声が倍近くある点です。
言い換えれば、読者層の開拓もしくは今後のその成長には、相対的に楽観的であるということです(これは、スマートフォン市場について。タブレットについては大きく懸念が表明されている)。

レポートはこう述べます。

モバイルからの収入の潜在余力を十分に満たすまでにはさらに時間がかかるだろう。
調査では、87%のメディア企業が少なくとも11%のトラフィックをモバイルから得ていること。そして、そのトラフィックから6%程度の売上を得る者がたったの29%にしかすぎないということが判明した。
しかしながら、メディア企業らはモバイルを通じたコンテンツ消費から得られる増収の可能性について、依然として肯定的だ。
タブレットメディアの91%、モバイル(スマートフォン)メディアを運営する85%が、来年における大きな事業機会の成長を予測している。

成長へ向けた事業戦略

このような調査結果やその他データを交え、AOP のレポートはモバイル化トレンドの下、メディア企業の動向について以下のポイントをあげています。

  • (モバイル分野の)広告収入は力強く成長する。——12か月以内にエージェントらはモバイル広告の需要が倍増するのを確認することになる
  • メディア企業は個別プラットフォーム専用のコンテンツ供給を止めていく。——コンテンツ形式を可能な限り多様なプラットフォームへと自動的に適合する技術を活用することになる。たとえばひとつのCMSによってすべてのプラットフォームへコンテンツを配信するなどである
  • コンテンツのばら売り手法の活用が成長する。——(メディア企業は)たとえば、New York Times と Flipboard が提携した事例のように、メディア企業は、サードパーティとの連携によりコンテンツのつまみ食い的な利用法を拡大していく。これにともないコンテンツ単位での課金手法も成熟していく
  • ユーザーデータの価値がますます高まる。——ユーザーは無料で品質の高いコンテンツを手に入れる代わりに、自らのデータを差し出すモデルを受け入れていく。それにより、ユーザーに関するデータ資産の潜在価値はますます高まる。この分野はメディア企業がより一層焦点を当てる分野となる

以上は、私たちが直面する状況に照らしても、日英の市場動向に大きな差異はないといえるでしょう。
わが国のデジタルメディア企業にとっても、このレポートが示唆的である点は、以下の4点に集約できるはずです。

  1. モバイル市場の成長に見合った売上のシフトが進んでいないこと
  2. その理由として、販売に関わる層で特にモバイルへの適合が進んでいないという人的・組織的課題がある
  3. しかし、状況は、今後1年程度で大きく進展するだろう
  4. そのためにも、技術的採用による高効率化と新たなビジネススキームへの挑戦が必須である

これからの12か月が重要な時期になるとレポートは伝えているのです。
(藤村)

モバイル、ソーシャル、ペイウォール New York Times その取り組みを語る

デジタルメディアの各種トレンドに意欲的に取り組む New York Times。
同紙は近年取り組んできたペイウォール化にも一定の実績を築き話題を呼んだ。
同紙編集幹部が肉声で述べる、これまでとこれからの New York Timesを紹介しよう

New York Times (以下、NYT)は、米国の数ある新聞メディア中でも、その規模、知名度においてトップクラスのブランドです。
同紙は、他の新聞メディア同様、昨今のインターネット優位の環境下で財務的な苦戦を強いられる一方、そのインターネットをめぐっては、早くから Web サイト開設(NYTimes.com)やその有料化(“ペイウォール”化)、数々のソーシャルメディアへの取り組み、そしてモバイル化など、果敢な挑戦と技術投資をこれまで続けてきました。

本稿は、Web サイト Talking Points Memo に掲載された NYT のメディアの現場責任者(Assistant Managing Editor)Jim Roberts 氏(同氏バイオグラフは こちら)へのインタビュー「NY Times’ Jim Roberts: ‘The Pace Of Change Gets Faster And Faster’」を紹介します。
NYT がメディアのデジタル化、ソーシャル化、モバイル化にどう取り組んでいるのか、先端を行く新聞メディアでの認識と活動の一端を見ていきたいと思います。
本稿は、上記記事の一部の紹介であることをあらかじめお断りします。その全体や表現の正確性については、ぜひ出典を確認して下さい。

インタビューは、現在、NYT が直面する状況を同氏に訊ねることから始まります。

——NYT での25年間で、最も劇的な変化は何だったと見ますか?

Jim Roberts 氏:間違いなくデジタルへの移行です。それは巨大なものであり、現在進行中です。
変化は激しいものです。そこかしこに生じる破壊的なテクノロジーへの対処にはたくさんのエネルギー、想像力を求められるものです。
われわれ同様、すべての組織(や企業)がそれに直面しているのです。

われわれは、Web を習得したと思ったら、すぐ次に、人々が携帯から情報を得るというまったく新たな環境に直面しています。タブレットは、さらに独自の利用法や情報消費スタイルを生みだしています。
また、ソーシャルメディアはどこにでも存在するようになりました。
もしあなたと4年前にこのような会話をしたとすると、Twitter については話題にしていなかったでしょうね。たぶん、スマートフォンは話題にしていたでしょう。しかし、タブレットについてはしなかった。
変化のペースはどんどん速まっています。破壊的な断絶は一層素速くやってきます。

続いて、氏は同紙が直面する課題に言及します。

ソーシャルメディア(に対処すること)は、さまざまな意味でチャレンジです。
私は、いまだにそれをどう説明すればいいか分かりません。それは、ひとつの生き方のようなものです。ソフトウェアに止まるものではなく、日々進化を続けるものです。人々はそこから毎日、情報を得ています。それはとてつもなく柔軟なものです。これとうまくやっていくためには、われわれもとてつもなく柔軟でなければならないことを意味します。

そして、モバイルも、そのすべてにおいてチャレンジです。
私は、トラフィックのパターンを観察し、自分たちの読者がどう振る舞っているかを注意しています。彼らはわれわれのWebサイトへのアクセスを減らしてはいませんが、スマートフォンやタブレットでの時間をどんどんと増やしています。

もうひとつのチャレンジが、動画です。
われわれは動画をもっと習得しなければと思います。ライブ動画をマスターしなければならないし、そこで敏捷にやっていけるようになりたいのです。

Roberts 氏は NYTimes.com の責任者でしたが、同時にデジタルコンテンツ全般に手腕を発揮しました。ソーシャルメディアへの取り組みは、自身も Twitter のフォロワーが5万人を超えるなど非常に積極的です。記事では同氏のソーシャルメディアへの取り組みを訊ねます。

——NYT におけるソーシャルメディアへの取り組みで、あなたの役割は何ですか?

昨年、リビアのカダフィ大佐が殺害されたときのことを思い返します。それが起きたとき、私は社内のソーシャルメディアチームに、こんな大事件のためには、(Twitterのタイムラインのような)速報フィードを持つべきだと言いました。そのようなわけで、フィード専用の New York Times Live という Twitter メディアができました。ハリケーン「アイリーン」の災害報道にそれを用いたのですが、こういう使い方をしたのはわれわれが初めてでした。
というわけで、私の役割はチアリーダーで、ときどきスタッフをそそのかすのです。基本は、彼らが積極的に、ソーシャルメディアを実験してみるよう奨励しています。

——記者が1日中、Twitter上をうろつくようなことを、ジャーナリズムへの影響という点でどう考えますか?

自分のソーシャルメディアについて言われているようですね。それはまったく Twitter の問題ではありません。確かに私は Twitter を多く使っています。しかし、それは人がソーシャルメディアを通じて情報消費するたったひとつの方法ではありません。それは繰り返し強調しておくべきですね。
ソーシャルメディアはジャーナリズムにとって良いものです。それはわれわれに気づきを与えます。それはシンプルで、情報をもっと良くします。損なうもの以上に良くしてくれることは確かです。そして、情報の流れを多様なものにします。

——あなた自身が、Twitter を通じて得た情報を共有していますね。

それは重要なことなのです。特定の人々の、個別の情報だけを追いかけるのは好きではありません。もし、ニュースというものを追いかけようとするのなら、それが NTY であったとしても、たったひとつのメディア(組織)が、価値ある情報を独占できると思うのは馬鹿げたことです。
違ったポイントから言えば、これは NYT での自分の仕事のひとつなのですが、デジタル(メディアの分野)において、他のメディアや出版社がどうやっているのかを観察するということでもあります。
というわけで、私は競争相手のフィードをたっぷり見て感心したりしています。私が感心し、競争相手が興味を持っているような事象があれば、それを周囲に共有するのです。

次に、NYT が近年取り組みを始めた注目の動向、“ペイウォール”(Web サイトを有料化する等によって、自由なアクセスを制限するアプローチ)について、記事は訊ねます。そして、新聞メディアの内部では電子メディアの成績に対してどう考えているのか、話題が転じていきます。

——NYT がペイウォールを開始したとき、あなたの考えはどうでしたか?

懐疑的でした。いや、懐疑的以上でしたね。私は反対派でした。読者とわれわれとの分離という、ペイウォールがもたらす代償について大いに心配しました。
NYTimes.com がなしてきたことは、これをアクセスされやすいものにすることです。若い層に対しては特にです。ペイウォールはこの若い層、そしてグローバルな読者を損なうのではないかと心配したのです。
しかし、大変に嬉しいことにこの層を堅く維持できています。確かに多少のページビューの低下はありました。しかし、読者層については依然堅調なのです。

——記者や編集者は Web トラフィック(アクセス状況)にどう関心を払っているのですか?

ひとつ注意を払うべきことは、投書のリストです。自分の記事が掲載されれば、それがどんな反響を得ているか、投書リストに関心を持つものです。記事への(ページビューなど)トラフィックがどうだったかに執着しているのかはわかりません。めったに記者から「自分の記事のトラフィックがどうだかったか」と訊かれることはありません。
われわれは誰しも良い結果を求めるものです。そして、自分の仕事に人々が関心を払ってくれているのかを知りたいものです。
われわれの Web サイトの読者規模からすれば、関心をもってもらえれば、間違いなく大きなトラフィックを得ることは分かっているでしょう。

インタビューは、最後に興味深いテーマに触れます。それは NYT のようなブランド性のある新聞内で、記者らが個人のブランド性(パーソナルブランド)をめざすべきかどうかという点です。

——執筆者がパーソナルブランドを築くことに力点を置いていますか? 会社として目指していることはどんなことですか?

答えは、複雑です。われわれはブランドが最も重要なものと信じています。私がいうブランドとは New York Times もしくは NYTimes.com のことです。それがあるからこそ、多くの人がわれわれの仕事を読み、見て、耳を傾けてくれるのです。
同時に、パーソナルブランドという力が台頭していることも理解しています。それはとても良い仕方でわれわれに浸透してきています。
私は、パーソナルなブランド化には肯定的な側面があると思います。
社内の記者らにソーシャルメディアで存在感を築くよう奨励しています。しかしながら、義務づけてはいません。
彼らがソーシャルメディアに対して前向きに付き合えるようにしなければと思うのです。われわれとしては、ソーシャルメディアと付き合い、そこで何ができるのかを経験させたいのです。
(そのようなわけで)ちょっぴり微妙な質問でしたね。

NYT は、新聞メディアとしては異例なほどテクノロジーに意欲的です。それは“未来の新聞”メディアの存立に危機感を持っているからかもしれません。
同時に、そのスタッフがテクノロジーやソーシャルへの親和性を高めていく文化の転換に注力をしているようにも見えます。
冒頭の「巨大で、速い変化」に対し「大きくて、歴史ある組織が、その変化に適合していくさまを見るのは嬉しい」と Roberts 氏が率直に語る箇所があります。
それはまさに変化に適合する意識や文化こそ重要な鍵を握っていることを述べていると受け取れます。

(藤村)

モバイルメディア開発 第3の選択

スマートデバイスに向けたモバイルメディア開発フレームワーク「MediaCloud for Publishers」
これまでの開発手法とどう異なるのか。そのアプローチを解説する

本稿は、筆者が所属するメディアプローブ株式会社が提供する製品に関する紹介です。

メディアプローブは、メディア企業(出版社や Web メディアを運営する事業者)が運営する Web コンテンツを、スマートフォン/タブレットなどスマートデバイスに配信するためのクラウド型コンテンツ配信フレームワーク「CloudMedia for Publishers」を発表しました
CloudMedia for Publishers は、iPhone や iPad をはじめとしたスマートデバイス向けアプリケーションに加えて、XML 型コンテンツ配信サーバー、広告配信、ログ解析など必要なサービスをひとつに集約し提供するものです。

従来、Web 経由でコンテンツを配信してきたメディア企業にとり、そのコンテンツをスマートデバイス対応するためには、

  1. Web 表示をスマートフォンに最適化する(スマートデバイスからのアクセスに対して表示を切り替える)仕組みを開発する
  2. Web コンテンツを用いてスマートデバイス専用アプリを開発する

の2つの方向性がありました。
1. の最適化表示については、Google「最適化の理由」が参考になるでしょう。

“最適化表示”のメリット……スマートデバイスユーザーが Web ブラウザを使ってアクセスすれば、それに最適化した表示をサイト側が行うため、ユーザーの閲覧体験には特別な断絶がない、言い換えれば“特別なデメリットがない”ことがメリットでしょう。

“最適化表示”のデメリット……メディア企業が利用している CMS や生成済みの HTML に手を入れ、スマートデバイス(のスクリーンサイズ)に最適化する仕組みやフローを構築、スマートデバイスからのアクセスをそちらへ振り分ける必要などがあります。
また、歴史のある Web メディアでは PC 向けサイトとして、各種広告やナビゲーションなどがコンテンツに密に結合しているケースがあり、これに対処しなければなりません。過去の記事を適切に表示することが困難なケースも少なくありません。つまり、最適化表示サイト構築にはケースによれば手間のかかる改修を覚悟する必要があります。
また、最適化表示後の多くは、PC 向けサイトのような大型広告を表示できないため収入減要素が伴います。

専用アプリ開発のメリット……一般に、Apple や Google などスマートデバイス ベンダーが熾烈な競争の中で作り込んできた豊富な機能を用いて、操作性や機能など付加価値を盛り込むことができます。ユーザーには Web 閲覧体験以上の価値を提供できる可能性が生じます。
ユーザー満足度を向上できる可能性に加え、提供者にとっての最大の可能性は課金収入への道が改めて開けることです。ペイメントの仕組みが整っています。

専用アプリ開発のデメリット……Web の運営では生じなかったソフトウェア開発のコストや工数が発生します。また、スマートデバイス市場は競争が熾烈であり次々に OS に新機能が盛り込まれるなど、プラットフォーム進化に追随するだけでも開発負荷が重いことも、一般には認識されていない課題です。
さらに、Web メディアとアプリとでは、開発や運用、マーケティング、収入モデルなど、あらゆる面で断絶があることも重荷かもしれません。経験を積み直すことが求められるからです。

メリットデメリット

メディアプローブが考えた解決策は、上記のいずれとも異なる方法です。
CloudMedia for Publishers は、まず“最適化表示”システムの構築以上に迅速にアプリ化できることをめざしました。
そのために、既存 Web コンテンツをはじめとした各種コンテンツのデータソースに柔軟に対応し、アプリ用 XML 型データを生成配信する専用サーバーを運用します。アプリはサーバーから最適化されたデータを受け取ります。
このアーキテクチャにより、アプリは一つひとつのコンテンツを随時取得して記事表示する Web メディアと異なって高速な表示が実現しました。また、モバイルのような不安定な通信環境でもそれを意識させられることが少なくなります。

一方、スマートデバイス専用アプリを用意して、ユーザーに優れたメディア体験を提供します。
高速な記事表示に加えて、スワイプによる快適な記事遷移、複数の記事クリッピングサービスや Evernote との連携、そして Twitter、Facebook への投稿などの機能がスムーズな操作で行えます。
一般にアプリで記事(コンテンツ)を閲読する際にユーザーが求めると思われる機能を、あらかじめ盛り込んであり、今後もそのような機能を追加していく予定です。

MediaCloudforPubs現在は iPad および iPhone に対応する CloudMedia for Publishers
(Android および Windows Phone 対応を計画中)

このように、上記 1. の Web の最適化表示に止まるものでもなく、また、2. の専用アプリ開発でありながら、それに伴う企画・開発・保守(OS の進化への対応)などの重荷は取り除く“第3のアプローチ”として考案したのが「クラウド型コンテンツ配信フレームワーク」です。

たびたび当ブログでは、モバイル向けアプリ開発として、専用(ネイティブ)アプリなのか Web(HTML5)型アプリなのかといった論点を扱ってきました(例えば、「それでもHTML5 Webアプリを選択する理由とは?」参照)。
開発生産性の視点からいずれを選択すべきかとの問いは、メディア企業が限られた予算や開発リソースを活用するためにいずれを選択すべきかという、内向きの議論でした。
次々に OS に新機能が加わる、あるいは、対象とするスマートデバイスを iOS だけでなく、Android、そして Windows Phone などへと広げていく際、プラットフォームに最適化した開発を続けることの課題に対し、CloudMedia for Publishers は、専用サーバーが扱うコンテンツデータはシンプルに、ユーザーが利用するアプリは各プラットフォームに最適化した多様性を提供します。
第3のアプローチによって、メディア開発や運用コストを低減し、同時にユーザー体験は継続的に高めていく方向性が見えてくるのです。
だとすれば、専用アプリか Web メディアかという論点は、少なくともフレームワークを活用できるメディア企業にとっては、過去の論点となっていくはずです。いかにメディアを新たな環境下でマーケティングしていくかという、次の課題へと歩みを進めるべき時期がきているのではないでしょうか。

ユーザーが駆使するデバイスは PC に止まることなく、いまや数種以上へと多様化が進んでいます。さらに、ユーザーにとって最も“お気に入り”のメディア閲覧デバイスの、PC からスマートデバイスへというシフトが急です。
それはメディアビジネスが直面する課題であると同時に、眼前に広がる市場が大きく広がり、動き始めていることをも意味しているはずです。
(藤村)

資料:CloudMedia for Publishers