ここ数年の劇的なスマートフォン(およびタブレット等、これらを以下、スマートデバイスと呼ぶこととします)市場の成長ぶりに目を見張りながら、積極的に論じることができずにきたテーマがあります。
それは、スマートデバイスの躍進という事実の背後にあるものです。言い換えれば、スマートデバイスはなぜ、消費者に受け入れられ、躍進しているのかという理由です。
ある人曰く「スマートフォンは、携帯電話並みのサイズにもかかわらずPCのような機能を搭載したから」。また曰く「メール、カメラ、そしてソーシャルなどの機能をどこにでも持ち歩けるようにしたので」と。そして、また別の人曰く「アプリ開発をビジネス化できる市場を創造できたから」とも。
実際、iPhoneが2007年に登場する以前にも、“スマートフォン”と呼ばれてしかるべきデバイスは何種類も存在していました。メールやブラウザその他、いまスマートデバイスに標準の機能が先取り的に搭載されていたこともあり、過去と現在で、形態や機能において実は大きな断絶はありません。
では、なにが現在のスマートデバイス隆盛の発火点になったのか——。筆者としては、それを“マルチタッチインターフェイスの発明”に見たいとの仮説を持っていたのですが、十分な確信を持てずにいたのでした。
今回、その仮説に根拠を与えるような調査や解説記事に出会うことができました。そこでその解説記事(残念ながら英文のため)を要約して改めてこの仮説とそれがデジタルメディアに与える影響について述べてみたいと思います。
まず参照すべき解説記事(ReadWrite Web掲載Love of Control Has Made Tablets Indispensable)と、その基となった調査概要(米Latitude社の発表資料Tablets & the Future of News)を挙げておきます。本稿は前者Love of Control……を要約しながら議論を進めます。

Love of Control Has Made Tablets Indispensable via kwout
調査は1100名、年齢は十代から50代にわたる米国内タブレット利用者を対象に、おもにタブレットの利用期間でグループ化して行われました(調査手法などはTablets & the Future of Newsを参照)。
この調査で得られた、いくつかの発見を記事(Love of Cotrol……)から以下、要約してみます。
タブレットは“ポータブルPC”以上のものである
多くの回答者が、タブレットはポータブル機で単に便利なもの、という以上の存在であるとする。
タブレット所有歴6か月未満のユーザーで“タブレットは自分の生活の一部になっている”とする者は4割強でしかないが、1年それ以上のユーザーでは7割近くが日常生活に切っても切り離せない習慣へと統合されていると答えるのである。
タブレットは、ニュース消費に向かう意欲を刺激する
回答者の8割弱が、それ以前に比べてより多く広い範囲のニュースを読むことになったとしている。そして、8割強が、タブレットによるニュース記事の閲覧体験はそれ以前に比べ多くの面で改善されたと答えるのである。
このように、総じてタブレットユーザーはタブレットが、想像以上に自分の生活に溶け込み、そして、ニュースのようなコンテンツを閲覧する場合、それを著しく活性化すると感じています。
さて、問題はなぜ、このような“生活の一部”といった親密感や、活性化が生み出されるのかという部分です。調査はこの部分にも踏み込んでいます。引き続き記事を要約します。
タブレット・ユーザーが特に好むのはカスタマイズ性と制御感である
タブレットデバイスでコンテンツを読む体験について、被験者らユーザーの9割近くは、インタラクティブで容易に自分好みのコンテンツが読めるなどのカスタマイズや制御(コントロール)が容易であることを好むとしている。
タブレットに表示される広告にさえ親密感を覚える
被験者らのコメントが動画化されているが、広告について以下のように述べる。
「ノートPCで見る広告は頭にくる」と被験者のひとりMindyは言う。「タブレットだと、そんな感じがしない」。
「もし、それが自分にぴったりしているなら、たぶん、私はそんなに広告を気にしないと思うのよ」と他の被験者、ローレンが言う。
「もし、それをパーソナライズして、自分にフィットさせることができるような面白さがあれば、たぶんクリックして、それを友達に送ったりすると思うわ」。
延々と調査結果に沿って述べてきましたが、記事ではそのタイトルが、私のこれまで気にしていた仮説をうまくコトバにしています。
“Love of Control”。残念なことにうまい訳語が思いつきませんが、「コントロールしている感」「制御感覚」といったところでしょう。もし、UIやUXの分野ですでに定まった用語があれば、示唆していただければと思います。
スマートデバイスでは、それまでのPCなどのコンピュータになかった操作感覚によって、調査の結果全体に現れている“生活の一部化”“(コンテンツ閲覧の)活性化”といった情感的要素を生成していると読むことができそうです。
記事では具体的に述べていませんが、それはスマートデバイスのフォームファクタ(大きさや形姿)とマルチタッチインターフェイスとして具現していると確信できるのです。
(藤村)