本稿では、デジタルメディアの特性をどのように活かすのか、というテーマに触れたいと思います。
デジタルメディアでは、いったん製作されたコンテンツは、複製や転用その他多様な活用が容易です。
これが最大、といってよいほどの大きな特徴です(「メディアのデジタル化が開く根本的な変化」でも触れました)。
言い換えれば、コンテンツは再利用しなければソンなのです。
この点、デジタルメディアの経営を通じてインプットされていたはずですが、下記の記事を読むまで問題意識を希薄化させていたことを正直に述べておきます。
その記事とは、AdverTimes 掲載の片岡英彦氏「ジャニーズ事務所と吉本興業の『二次使用』について戦略広報の視点で考える」です。
同記事は、広報(PR)と広告を橋渡しして効果的なプロモーションを行うことをテーマにしていますが、私たちのようにデジタルメディア推進をテーマに掲げる人間にも示唆に富むものです。一読されるべきでしょう。
ジャニーズ事務所と吉本興業の「二次使用」について戦略広報の視点で考える
「二次使用」の戦略性
コンテンツには、何度でも稼いでもらう。
あるいは、何度でも稼いでもらうことを意識したコンテンツづくり、そのための業務スキームや技術インフラづくりが、デジタルメディア開発や運営にとって重要です。
それが、「コンテンツの戦略的な二次利用(再利用)」です。
筆者が想定するコンテンツ再利用のケースを整理してみましょう。
- 自社メディア用に執筆・制作し掲載したコンテンツを、他のメディア企業や事業会社の書籍、雑誌、パンフレット等印刷メディア用途にライセンスする
- 自社メディア用に執筆・制作し掲載したコンテンツを、他社サイトへの掲載用途にライセンスする
- 自社メディア用に執筆・制作し掲載したコンテンツを、改めて自社の特定テーマサイトなどへと転用する
- 自社メディア用に執筆・制作し掲載したコンテンツの一部または全文を、自社のメールマガジンなどへと転用する
- 自社メディア用に執筆・制作し掲載したコンテンツを、自社のスマートフォン、タブレット用アプリ、電子書籍などのコンテンツへと転用する……
1.および2.の他社へのライセンスでは、対価を金銭、もしくは金銭相当のものとして回収します。これは純然たるコンテンツ商品の販売事業です。したがって、“戦略的”もなにもなく、ライセンシー(候補)に対して、積極的に営業できる仕組みや体制が必要になります。
他方、3.以降は自社内用途に向けた複製、再利用ですので、基本的にはデジタルメディアの特性を最大限に活かしつつチエを絞っていくべきです。
筆者(藤村)は、1.および2.の営業活動に傾注するより、実は3.〜の取り組みのほうが戦略的重要性が高いと考えています。
理由は、こうです。
- コンテンツのライセンス販売は低価格化している。さらには、“無料”(代わりに、トラフィックを戻すからとのバーター型取引)というケースが圧倒的になってきている
- であれば、自社サイトへの“トラフィックバック”に主眼を置き、それに効果的なライセンシーらへ働きかけるべき
- 社内での再利用であれば、“商品”を極小コストで生産できる可能性があるのでより積極的であるべき
このような取り組みには、大きくは二つの方向で課題が待ちかまえています。
再利用を前提としたシステムづくり
ひとつは、再利用性の高いフォーマットでコンテンツを維持すること、そして、できれば各種条件でコンテンツを取り出せるようにデータベースに格納するなどです。
そのための合理的な解決策は、CMSを中心に据えたシステム再構築というのが従来からの常道でした。
コンテンツ執筆・制作〜(Webへの)掲載〜(修正や再利用のための)格納管理と、首尾一貫したフロー、データとテンプレートを分離して管理するなど、システム構築を通じて実現するのは大仕事です。さらには、社内外のライセンシーに向けどのようにコンテンツを受け渡しするかなど、それぞれ違いがあれば、そのつどシステム改修が必要になったりもします。
この周辺は、事業会社向けに設計されたパッケージや絵に描いたようなプロプラエタリシステムが闊歩する世界ですが、最近ではそのような大がかりなシステム(再)構築ではなく、検索技術やデータフォーマットの変換などを組み合わせたりと、気の利いたポイントソリューションでコンテンツ再利用を柔軟に促進するアプローチも見えてきました。
著作権等、権利関係上の対処
もう一つの課題は、コンテンツをめぐる権利関係への対処です。再利用のニーズはあるものの、これがネックで利用に及ばないというケースが多くあります。
映画・TV番組などと異なり、テキスト中心のコンテンツを扱うようなケースは、利害関係者は多くなく、権利関係の調整は比較的ラクなはずですが、それでもタイムリーな活用をしようとすれば、毎度迅速な利用許諾を得る事務手続きは重荷です。
そこで、執筆者との執筆契約(もしくは初回執筆時に交わす包括契約)に、このような再利用のケースを念頭に置いた内容を取り交わすことが肝要です。さらにいえば、平時に常連執筆者との間で包括契約を順次リニューアルしていくなどの計画性が求められます。
忘れてはいけないのが、文章(テキスト)の筆者だけでなく、写真(家)なども権利に関する利害関係者であることです。 ファッション系メディアなどでは、写真として扱われるタレントやモデルらの肖像権なども、任意の再利用が利きにくい契約であることが多いと聞きます。これらを順次計画的に契約書面や報酬制度などとして改訂していくことがデジタル主流のメディアビジネスにとり喫緊の課題になってきています。
社内のインセンティブや考課制度としても検討する
以上で終わりかというと、実はそうではないのです。
上記した3.〜5.の社内利用用途なら、利用は容易かと言えば、そこにはハードルが残されます。
それは、社内他部門で制作されたコンテンツを自由に扱えるようにするには、社内取引上の制度整備が求められます。
厳密に言えば、売上の分配か原価の配賦が求められるかもしれません。
あるいは、“自分が精魂込めて仕上げた記事を横取りされて……”と快くない心持ちが生じるかもしれません。部門間でそれを取引として解消するように地ならしすべきケースもあるでしょうが、たとえば、他部門のスタッフが作ったコンテンツでビジネスした場合、オリジナルに携わったスタッフにお礼を言う“ルール”を設けた(言い換えれば、金銭評価はしないことにした)米国のメディア企業の例を聞いたことがあります。
社内で複雑精緻な取引ルールやシステムを作り込むのも、内向きすぎるかもしれません。上記のようなスタッフ間でリスペクトし合う習慣なども、コンテンツの戦略的な再利用に欠かせない整備なのではないでしょうか?
いずれにしても、どのような再利用が、再度のリターン(稼ぎ)を生むのか積極的なチエの使い方が重要です。
筆者としては、スマートデバイス上にWebとは異なるユーザー体験を創造する方向で、再利用の付加価値を高める可能性を強く意識しています。(藤村)