昨今のマーケティング巧者の企業は、そのブランド力をテコに“オウンド・メディア”の運営に乗り出しています。
米衣料ブランド GAP もその一例。創り出すメディアは、デジタルメディアが取り組むべき条件を見せつけます。
「最新ソーシャルメディア情報ブログ」をうたう ソシエタ が優れたオウンド・メディアの事例を紹介しています。
「GAPの新しいオンラインメディア『Styld.by』はファッション誌の未来となるか?」です。
企業サイトは「オウンド・メディア」とも呼ばれ、多くの顧客を保有しており、企業と生活者のタッチポイントとしての役割を担っています。「オウンド・メディア」は、トリプルメディアといわれる中でも「ペイド・メディア」「アーンド・メディア」とは異なり、直接企業と生活者をつなぐ企業のマーケティングコミュニケーションにおいての入り口になる、特に重要なメディアです。(博報堂他の発表リリース文より)
注意したいのは、従来の“コーポレート・サイト”とは意味が異なり、自社製品やサービスのブランド性向上や販売促進を主眼としつつも、“メディア”として広く読者の満足を目指すコンテンツを用意していくアプローチを取ることでしょう。つまり、消費者にとっては終着点ではなく、入口と位置付けられるサイトなのです。

GAPの新しいオンラインメディア「Styld.by」はファッション誌の未来となるか? « INFOBAHN via kwout
- 周到に準備されたソーシャルメディア連携
- ファッションブロガーとの自由なコラボレーション
- 周到に準備されたEC連携
商業サイトの運営に携わる諸氏にとって、これらのポイントを「商品を売るのが目的の企業サイトと、自分たちとでは違う」と境界線を引いて終わらせるのは得策ではありません。Styld.by は確かに、“ファッション”と“EC”に偏っています。しかし、ここで挙げられた3つのポイントは、筆者が考える(商業メディアなど)オンラインメディアに共通して備わっているべき要素であり、Styld.by はそのみごとな実装例のひとつなのです。
1. のソーシャルメディア連携。記事(やファッションアイテム)について、読者のコメントを付して Twitter および Facebook、Tumblr などへ投稿できる機能は、これからのデジタルメディアにとってマストアイテムです。いまだに SEO(検索エンジン最適化)が重要な施策ではありますが、今後は“ヒト”が仲介、推奨することによる影響力が増す一方です。
コンテンツが、自社メディア以外の場へと紹介、引用されていくことに不快感を表明する商業メディア従事者はいまも少なくありません。
しかし、警戒すべきなのは、単にコンテンツの剽窃が行われて、自社のメディアへ何ら利益をもたらさないケースについてであるべきでしょう。
逆に、自社のコンテンツが自らの手の届かないところにまで紹介や引用の連鎖が広がり、それが自社サイトへの来訪者へと結びつく、あるいは、ブランドを築くということには積極的に手を貸すべきです。そうするためにも、紹介や拡散が(メディア側が望むように)適切に行われるような仕組みが求められます。たとえば、ソーシャルメディアに投稿する際に、メディア名・記事名・URLなど出典情報が自動的に付加されるようなツールを用意しておくなどです。
次に2.「自由なコラボレーション」について。
コンテンツの紹介や拡散をどうして読者は行いたいのかといえば、ひとつはそのコンテンツが読者に取り、自分のブランド性を高めるようなケースであること。もうひとつが、メディア自体やその執筆者に対して身内意識が高い、参加意識が高いことによります。
言い換えれば、コンテンツの紹介や拡散をしやすくするには、1.のような道具が常に用意されていることに加えて、読者心理を、メディア側スタッフとの親近感を一定レベル以上に保っておくことが効果的です。
それをどうするか? 運営しているメディアがブログ系CMSを利用していれば、コンテンツごとにコメントの書き込みを許すオプションがあるでしょう。あるいは、メディアごとに Twitter や Facebook などのアカウントを用意し、そこで読者との適切な交流を築くことになります。Facebook であれば「いいね!」ボタンの設置など、読者、メディア双方にとって心理的負担の低い取り組みから始めることもできます。
最近では、朝日新聞デジタルの例のように、各種公式 Twitter アカウントに加え、「つぶやく記者」というように個人のレベルまでアカウントを明記しソーシャル化に乗り出すケースも当たり前になっています。
もちろん、炎上や過度なコミュニケーション負担にさらされる“リスク”も皆無ではありません。しかし、経験上、コミュニケーションの“やりすぎ”から誘発される炎上などはあるものの、読者から親近感を持たれるケースでは、そうでないケースに加えてずっとリスクが低いものと認識します。
最後に3. ECとのスムーズな連携です。“ECだけは、自分のメディアとは関係ない”と思われる方々もいることでしょう。
筆者はこの数年間のオンライン広告のスランプ現象(一方で、検索型広告などのブームはありましたが)の経験から、広告外収入の積み重ねを重要視します。
広告は、特に専任営業が獲得するような商談ではそれなりに額も大きく、また、獲得できれば大きなマージンも期待できます。
が、広告収入への過度な依存(期待と言ってもいいかもしれません)は、人件費増を招いたり編集要員の生産性を下げるなど副作用を伴うことに注意すべきです。できれば、人手をかけずに自動運用が可能な収入源をいくつか持ちたいものです。
本ブログでこれまで何度か触れているように、デジタルメディアで長く生きぬくには、運営コスト水準(固定費)を極力引き下げることが 肝要です。
適度な広告獲得と併せて、EC等物販へシームレスな接続を行ったり、メディアの特性などを加味して、セミナーやパンフレット(資料)など有償物の販売へつなげるような仕組みは、メディア経営上意義があると考えます。
アフィリエート型ビジネスとの連携であれば、投資を抑えたスタートも可能です。いずれも、メディアづくりに携わる現場の人間の創意工夫のレベルで行う収入源開発に意味があります。自分ではできない、という業務は結果としてコスト増要因となるからです。
改めて整理しましょう。Styld.by が備えるような特徴は、今後はどのような(デジタル)メディアであっても多かれ少なかれ必要です。
メディアに従事する人間一人ひとりがその意義を理解した上で自ら取り組めるような能力が求められます。
重要なことは、そうしなければ、今回の例が示すように、ブランド性の高い企業は自らメディア運営に乗り出すことで十分に満足してしまうはずだということなのです。
(藤村)