揺らぐ“コンテンツファースト”の法則。 アプリは再びメディアを活性化するか?

検索エンジンを軸に形づくられてきた“Web の常識”。
その常識は、ソーシャルとアプリの普及で変化を見せる
本稿では、Web とアプリとの間の断絶を検討する

Web が、メディアを運ぶプラットフォームとしての可能性をもたらしてからおよそ15年が経ちました。
15年の間に、Web はメディア消費のスタイルにおいてさまざまな断絶的な変化をもたらしました。
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中でも、最も著しい変化と筆者が考えるのが、検索エンジンを介してコンテンツへと到達するメディア消費スタイルです。
しかし、検索エンジンがあたかも“神”であるかのように振る舞ってきた時代に、転機が訪れています。
ひとつは、ソーシャルメディアという検索エンジンが入り込みにくい世界が膨張していること。
もうひとつが、モバイルデバイスで浸透をしているアプリ型メディアです。
これらいずれもが、15年にわたり築かれてきた Web の常識を覆す可能性を秘めており、その常識に最適化を重ねてきた Web メディアに新常識を突きつけているのです。
前者については、「Web メディアが SEO を捨て去る理由 The Atlantic の事例を中心に」で論じました。本稿ではアプリがもたらす新常識について述べます。

検索エンジンで自分の探し求める、好みのコンテンツを見いだすスタイル以前では、コンテンツ消費スタイルの基本は、ブックマークするという過渡的な段階を挟み、人や雑誌記事、そしてポータルなどからの紹介を経てコンテンツに到達するというものでした。
しかし、検索エンジンの発展はすべてを変えてしまいました。
大量のブックマークは不要となりました。
あいまいな記憶であっても検索エンジンは見つけだしてくれます。
さらに、多くの人々にとり“良いコンテンツ”の発掘も、検索結果の順位に頼む時代がやってきました。
ここで確立したのは、読者は検索エンジンを仲介者としてコンテンツと触れあうというスキーム(図式)です。
このスキームによって、コンテンツを探し求める行為が普及したのです。探す行為がカジュアルになったことで、たくさんの探し求める人も誕生しました。
Web は、積極的にコンテンツを探し求める層を生み出したのです。

検索エンジンが、人とコンテンツを仲介するという段階が“Web の常識”を形づくりました。
いつしか、メディアというパッケージを見いだすのではなく、その中の一つひとつの記事(コンテンツ)やその内容を、直接探し出すようになりました。“コンテンツファースト”という常識です。
“探し求める人々”の行動はメディアという構造体から離れて、その時々の目的にフィットしたコンテンツを見いだそうとするものになりました。

コンテンツがまず先。次に、そのコンテンツを含んだサイト=メディアを徐々に認識するという順序が当たり前になってきました。
メディアにとっては、検索エンジンで自らのコンテンツを“発見”してもらうことが、第一の重要課題。次に、発見されたコンテンツ以外のコンテンツにも関心を寄せてもらいメディア全体に興味を持ってもらうことが、第二の課題となりました。
視聴者もコンテンツファーストなメディア消費に順応しました。
お気に入りコンテンツを知人に紹介するのは、コンテンツ(の URL)です。自分のために情報を保存するのもコンテンツ(の URL)単位です。

ところが、モバイルデバイス向けアプリの誕生がこの常識に断絶をもたらしています。
例を挙げます。

  1. アプリ内のコンテンツを一意に指し示す URL に相当するものがない
  2. アプリ内コンテンツを例示する手法が、少ない
  3. アプリ内のコンテンツのオーソリティ(SEO 上の「オーソリティ」については、こちらを参照)を分析する手法がない

2.は、App StoreGoogle Play などに示される固定的なアプリ紹介以外に、アプリが持つコンテンツをビビッドに伝える方法がないという意味です。
3.は、1.と関連しますが、アプリ内コンテンツを直接リンクすることができないため、被リンク数などによるコンテンツの評判を評価する仕組みが持てないからです。

Web の常識では、それぞれのコンテンツが評判を築き、そしてそれを束ねるサイトの価値を上昇させるという、時間をかけながらオーソリティを高めるのが最善でしたが、アプリではそれに類するアプローチが未確立です。

“アプリをリリースしたのはいいが、注目度がすぐに落ちてしまう”と一般的にいわれる課題は、アプリ内コンテンツの魅力をアプリ外に伝達していく手法が未確立で、リリース時のアプリの評判頼みになってしまうことを意味します。
代わって影響を及ぼすのが、App Store や Google Play のようなストアです。ストアが持つランキングや検索機能です。両ストアとも Web ページで検索エンジンへと接続していますが、既に述べたようにアプリ内を視聴者があらかじめ確かめたりする仕組みに欠けているという点に変わりはありません。
これらを対照すると、下表のようになります。

■ Web とアプリの違い 対照表

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アプリにおける新常識の一端を確認しました。
すでに感じられたかもしれません。実はアプリの新常識は、Web の常識=コンテンツファーストの以前へと回帰している可能性があります。
それは、一つひとつのコンテンツのオーソリティを決めるのにメディア=ブランドが大きく作用するということです。
「あのメディアのブランドなら、好み」という意識がダウンロードへと結びつく重要な要因として再びハイライトが当たりそうです。

メディアそのもののブランド性が、改めて活性化される時期がやってきます。
また、Web を通じてこのオーソリティを築き上げておくことが、アプリ時代を優位に生きるひとつの材料となるのかもしれません。
コンテンツファーストからメディア(アプリ)ファーストへと転じる端境期を意識しなければなりません。
(藤村)