モバイル、ソーシャル、ペイウォール New York Times その取り組みを語る

デジタルメディアの各種トレンドに意欲的に取り組む New York Times。
同紙は近年取り組んできたペイウォール化にも一定の実績を築き話題を呼んだ。
同紙編集幹部が肉声で述べる、これまでとこれからの New York Timesを紹介しよう

New York Times (以下、NYT)は、米国の数ある新聞メディア中でも、その規模、知名度においてトップクラスのブランドです。
同紙は、他の新聞メディア同様、昨今のインターネット優位の環境下で財務的な苦戦を強いられる一方、そのインターネットをめぐっては、早くから Web サイト開設(NYTimes.com)やその有料化(“ペイウォール”化)、数々のソーシャルメディアへの取り組み、そしてモバイル化など、果敢な挑戦と技術投資をこれまで続けてきました。

本稿は、Web サイト Talking Points Memo に掲載された NYT のメディアの現場責任者(Assistant Managing Editor)Jim Roberts 氏(同氏バイオグラフは こちら)へのインタビュー「NY Times’ Jim Roberts: ‘The Pace Of Change Gets Faster And Faster’」を紹介します。
NYT がメディアのデジタル化、ソーシャル化、モバイル化にどう取り組んでいるのか、先端を行く新聞メディアでの認識と活動の一端を見ていきたいと思います。
本稿は、上記記事の一部の紹介であることをあらかじめお断りします。その全体や表現の正確性については、ぜひ出典を確認して下さい。

インタビューは、現在、NYT が直面する状況を同氏に訊ねることから始まります。

——NYT での25年間で、最も劇的な変化は何だったと見ますか?

Jim Roberts 氏:間違いなくデジタルへの移行です。それは巨大なものであり、現在進行中です。
変化は激しいものです。そこかしこに生じる破壊的なテクノロジーへの対処にはたくさんのエネルギー、想像力を求められるものです。
われわれ同様、すべての組織(や企業)がそれに直面しているのです。

われわれは、Web を習得したと思ったら、すぐ次に、人々が携帯から情報を得るというまったく新たな環境に直面しています。タブレットは、さらに独自の利用法や情報消費スタイルを生みだしています。
また、ソーシャルメディアはどこにでも存在するようになりました。
もしあなたと4年前にこのような会話をしたとすると、Twitter については話題にしていなかったでしょうね。たぶん、スマートフォンは話題にしていたでしょう。しかし、タブレットについてはしなかった。
変化のペースはどんどん速まっています。破壊的な断絶は一層素速くやってきます。

続いて、氏は同紙が直面する課題に言及します。

ソーシャルメディア(に対処すること)は、さまざまな意味でチャレンジです。
私は、いまだにそれをどう説明すればいいか分かりません。それは、ひとつの生き方のようなものです。ソフトウェアに止まるものではなく、日々進化を続けるものです。人々はそこから毎日、情報を得ています。それはとてつもなく柔軟なものです。これとうまくやっていくためには、われわれもとてつもなく柔軟でなければならないことを意味します。

そして、モバイルも、そのすべてにおいてチャレンジです。
私は、トラフィックのパターンを観察し、自分たちの読者がどう振る舞っているかを注意しています。彼らはわれわれのWebサイトへのアクセスを減らしてはいませんが、スマートフォンやタブレットでの時間をどんどんと増やしています。

もうひとつのチャレンジが、動画です。
われわれは動画をもっと習得しなければと思います。ライブ動画をマスターしなければならないし、そこで敏捷にやっていけるようになりたいのです。

Roberts 氏は NYTimes.com の責任者でしたが、同時にデジタルコンテンツ全般に手腕を発揮しました。ソーシャルメディアへの取り組みは、自身も Twitter のフォロワーが5万人を超えるなど非常に積極的です。記事では同氏のソーシャルメディアへの取り組みを訊ねます。

——NYT におけるソーシャルメディアへの取り組みで、あなたの役割は何ですか?

昨年、リビアのカダフィ大佐が殺害されたときのことを思い返します。それが起きたとき、私は社内のソーシャルメディアチームに、こんな大事件のためには、(Twitterのタイムラインのような)速報フィードを持つべきだと言いました。そのようなわけで、フィード専用の New York Times Live という Twitter メディアができました。ハリケーン「アイリーン」の災害報道にそれを用いたのですが、こういう使い方をしたのはわれわれが初めてでした。
というわけで、私の役割はチアリーダーで、ときどきスタッフをそそのかすのです。基本は、彼らが積極的に、ソーシャルメディアを実験してみるよう奨励しています。

——記者が1日中、Twitter上をうろつくようなことを、ジャーナリズムへの影響という点でどう考えますか?

自分のソーシャルメディアについて言われているようですね。それはまったく Twitter の問題ではありません。確かに私は Twitter を多く使っています。しかし、それは人がソーシャルメディアを通じて情報消費するたったひとつの方法ではありません。それは繰り返し強調しておくべきですね。
ソーシャルメディアはジャーナリズムにとって良いものです。それはわれわれに気づきを与えます。それはシンプルで、情報をもっと良くします。損なうもの以上に良くしてくれることは確かです。そして、情報の流れを多様なものにします。

——あなた自身が、Twitter を通じて得た情報を共有していますね。

それは重要なことなのです。特定の人々の、個別の情報だけを追いかけるのは好きではありません。もし、ニュースというものを追いかけようとするのなら、それが NTY であったとしても、たったひとつのメディア(組織)が、価値ある情報を独占できると思うのは馬鹿げたことです。
違ったポイントから言えば、これは NYT での自分の仕事のひとつなのですが、デジタル(メディアの分野)において、他のメディアや出版社がどうやっているのかを観察するということでもあります。
というわけで、私は競争相手のフィードをたっぷり見て感心したりしています。私が感心し、競争相手が興味を持っているような事象があれば、それを周囲に共有するのです。

次に、NYT が近年取り組みを始めた注目の動向、“ペイウォール”(Web サイトを有料化する等によって、自由なアクセスを制限するアプローチ)について、記事は訊ねます。そして、新聞メディアの内部では電子メディアの成績に対してどう考えているのか、話題が転じていきます。

——NYT がペイウォールを開始したとき、あなたの考えはどうでしたか?

懐疑的でした。いや、懐疑的以上でしたね。私は反対派でした。読者とわれわれとの分離という、ペイウォールがもたらす代償について大いに心配しました。
NYTimes.com がなしてきたことは、これをアクセスされやすいものにすることです。若い層に対しては特にです。ペイウォールはこの若い層、そしてグローバルな読者を損なうのではないかと心配したのです。
しかし、大変に嬉しいことにこの層を堅く維持できています。確かに多少のページビューの低下はありました。しかし、読者層については依然堅調なのです。

——記者や編集者は Web トラフィック(アクセス状況)にどう関心を払っているのですか?

ひとつ注意を払うべきことは、投書のリストです。自分の記事が掲載されれば、それがどんな反響を得ているか、投書リストに関心を持つものです。記事への(ページビューなど)トラフィックがどうだったかに執着しているのかはわかりません。めったに記者から「自分の記事のトラフィックがどうだかったか」と訊かれることはありません。
われわれは誰しも良い結果を求めるものです。そして、自分の仕事に人々が関心を払ってくれているのかを知りたいものです。
われわれの Web サイトの読者規模からすれば、関心をもってもらえれば、間違いなく大きなトラフィックを得ることは分かっているでしょう。

インタビューは、最後に興味深いテーマに触れます。それは NYT のようなブランド性のある新聞内で、記者らが個人のブランド性(パーソナルブランド)をめざすべきかどうかという点です。

——執筆者がパーソナルブランドを築くことに力点を置いていますか? 会社として目指していることはどんなことですか?

答えは、複雑です。われわれはブランドが最も重要なものと信じています。私がいうブランドとは New York Times もしくは NYTimes.com のことです。それがあるからこそ、多くの人がわれわれの仕事を読み、見て、耳を傾けてくれるのです。
同時に、パーソナルブランドという力が台頭していることも理解しています。それはとても良い仕方でわれわれに浸透してきています。
私は、パーソナルなブランド化には肯定的な側面があると思います。
社内の記者らにソーシャルメディアで存在感を築くよう奨励しています。しかしながら、義務づけてはいません。
彼らがソーシャルメディアに対して前向きに付き合えるようにしなければと思うのです。われわれとしては、ソーシャルメディアと付き合い、そこで何ができるのかを経験させたいのです。
(そのようなわけで)ちょっぴり微妙な質問でしたね。

NYT は、新聞メディアとしては異例なほどテクノロジーに意欲的です。それは“未来の新聞”メディアの存立に危機感を持っているからかもしれません。
同時に、そのスタッフがテクノロジーやソーシャルへの親和性を高めていく文化の転換に注力をしているようにも見えます。
冒頭の「巨大で、速い変化」に対し「大きくて、歴史ある組織が、その変化に適合していくさまを見るのは嬉しい」と Roberts 氏が率直に語る箇所があります。
それはまさに変化に適合する意識や文化こそ重要な鍵を握っていることを述べていると受け取れます。

(藤村)