Web メディア とるべき5つのデザイン戦略

Web メディアの姿が変わろうとしている。
ユーザー体験(UX)とビジネスの視点から
とるべきデザイン戦略を具体的に提言する。

2013年 “ビジネスとしてのメディア” 方程式をどう解くか」で、台頭するデジタルメディアの新潮流を整理しました。
中でも読者(ユーザー)に、いかなる体験を提供するかという、メディアが最も重視すべき領域に新たな流れが台頭していることが注目点です。
以下に再度整理をしておきます。

  • 新しい Web メディア(本稿で後述)
  • 電子書籍/電子雑誌
  • アプリ型メディア

従来であれば、これら3つは交わる要素は少なく、それぞれ独立した出版テーマでした。
書籍出版社は電子書籍を、雑誌出版を主とする出版社は Web、そして電子雑誌を……という具合で、それぞれはあたかも独自ドメインを形成し、そこに積み上げられるノウハウも異なっていました。
上記拙稿の視点は、これらが別々のものとして発展してきた段階から徐々にその領域がクロス(交差)するようになってきたというものです。特に Web メディアは、十数年という比較的長い歴史を重ねてきたことからも、新たな潮流の台頭を受けて変化が生じている領域です。

本稿では、Web メディアにおける、表現形式(デザイン)の最新動向をアップデートします。
すでに論じてきた「Web メディアの明日、その条件を考える」「デジタル絶好調の米 Atlantic が打ち出す、近未来 Web メディア “QUARTZ”」「ストリーム型メディアの勃興 Web メディアの転換点」と併せて読まれることを希望します。

まず、確認しておきたいのは筆者が意識する新たな Web メディアの事例です。
すでに1度論じた Quartz が存在感を示します。

The Quartz

Quartz

同サイトは、昨年10月開設から2か月間で早くも140万ビジターを達成しています(参照 → こちら)。Quartz の表示形式における冒険は、Web メディアとしての玄関口である“トップページ”を排したことです。代わりに当ブログなど多くの個人ブログがそうであるように、いきなり記事(の全文)を新着順(時系列)でタイムライン形式で表示します。
読者の行動は、これでどう変わるでしょうか? トップページから面白そうな記事を選んで、任意の記事ページへ移動して閲覧するというスタイルから、最新記事から順繰りに時間がくるまで閲読することスタイルへと収れんしていきます。Facebook や Twitter などのソーシャルメディアと同じスタイルです。

従来なら記事を囲む固定位置に配置されてきた広告も潔く排除しています。
これは Facebook や Twitter など以上に徹底したコンテンツ中心思想の展開です。コンテンツを取り巻く表示要素を絞り込んだため、多種のスクリーンサイズへの対応も良好です。

同じく新世代 Web メディアに属するものとして、やはり新鋭の The Verge があります。

The Verge

The Verge

Quartz とは異なり、同メディアは記事タイムラインから分離したトップページを備えますが、それはビジュアルインパクトを重視したアプローチで従来の Web メディアのそれとは一線を画します。
記事面では、インパクトのあるグラフィックと読者のコメント投稿をうまく組み合わせソーシャル性は高めながら、Quartz 同様、読者の閲覧を妨げるような要素を極力排除しシンプルに見せる工夫をします。多スクリーンサイズへの適合にも、力を入れています。

もうひとつ、新世代の Web メディアを紹介するとすれば、老舗メディアが最新のリニューアルを行った The New Republic がよいでしょう。

The New Republic

The New Republic

リニューアルした同サイトについては、ブログ FERMAT の「Chris Hughes が描くソーシャル時代のジャーナリズムと雑誌文化」がていねいな紹介をしています。
同メディアは100年近い歴史を有する老舗の文化・政治分野のオピニオン雑誌として出版されてきましたが、最近になり元 Facebook の創業者のひとり、Chris Hughes 氏が買収、デジタルメディアのテコ入れが行われました。

Hughes は、ソーシャル時代に必要なことはリーチではなく「エンゲージメント」であると考えている。また、そのエンゲージメントを維持し続けるために、メディアは「レスポンシブ」でなければならないと考えている。
一見すると、今回の New Republic のリデザイン/リローンチは、今風のウェブサイトに変えただけのように思われるが、その背後には上述の彼の考え方、彼がソーシャルウェブに対してもつ基本思想が反映されている。いわばそれが一種の設計思想として、98年の伝統を持つ紙と印刷の雑誌を作り替えたわけだ。

デジタル版 The New Republic もまた、レスポンシブなデザインアプローチで多スクリーンサイズに対応します。Web サイトを開けば分かるように、意図してか広告が排除され、トップページはビジュアルインパクトを徹底し、まるで印刷雑誌の表紙の雰囲気を再現し、記事ページではシンプルな読みやすさを重視し、同時に音声による読み上げ機能など、デジタル版ならでの工夫を凝らしています。
同メディアは同時に、iPad版マガジンを提供します。上記2媒体と異なり、集客アプローチとして無料で広く読者に読まれるべき施策を維持しながら、各種のオプション(印刷版購読費のディスカウント、読者意見投稿等々)を設けてそれによって有償購読読者層を生み出そうとします。

上記 FERMAT が述べるように、リーチを広げるアプローチに対して読者とのエンゲージメントを重視していることがわかります。定期購読による印刷版およびアプリ版の提供は、読者との結びつきの強度が成果をもたらすことになるでしょう。
むろん、このような“コンテンツ中心”を体現したメディア表現を推進していくことで、冒頭に記したように、これまで異なる領域として発展してきたメディア表現が融合する流れが顕在化していると理解できます。ソーシャルメディアと Web メディア、あるいは、Web メディアと(タブレットやスマートフォンなどモバイル)アプリといった融合です。

ところで、このような Web メディアに到来する新しい潮流を的確に整理したコンテンツがあります。eMedia Vitals 掲載の「5 web design principles for 2013」(2013年の Web デザイン指針)です。
同記事は、今年、タブレットの出荷台数が PC のそれを上回り、また、モバイルからの Web サイトへのトラフィックが30%に及ぶと予測されている環境下、メディアが向かうべき Web サイトデザインの指針を5つにまとめます。
それをかいつまんで紹介します。

  1. “アプリに似た”ユーザー体験を創造せよ
    ……いまや米国の多くの消費者がタブレットを保有し、また、タブレットからコンテンツ消費を行うことが広まっている。記事では  USA Today の昨秋リニューアルを率いた責任者は、 同サイトのデザインは、iPad によるコンテンツ消費体験にならうことが目的だったと述べている。
  2. サイト上の雑多な要素を削減せよ
    ……USA Today のリニューアルで意図したものは、どのページを開いても大量の情報による爆撃を受けるという混沌としたユーザー体験ではなく、読者が本当に気に留めるような小粒の情報に到達できるようにすることだった。また、老舗メディア The Atlantic でも Web サイトリニューアルに際して、ビジュアル面の柔軟性に配慮し、大きなグラフィックの表示やビジュアルインパクトのある広告表現などを目指したと同メディアの編集長は述べている。
  3. サイトをスリム化しスピードアップせよ
    ……Engadget の例をあげ、Web では老舗であるようなメディアは、改修に次ぐ改修でスパゲッティ化したサイト要素(あるいはコード)を整理することで、ページ容量を半分にまで“スリム化”した。これによりパフォーマンスも倍加したという。デザイン要素よりも表示パフォーマンスを向上させる方向性も重要だ。
  4. ソーシャル共有をもっと掘り下げよ
    ……単純にソーシャルメディアに共有するための投稿機能を備える以上の深掘りが重要だ。先述の Atlantic では“ソーシャルストリップ(帯)”と呼ぶ機能を設け、同メディアのどの記事がソーシャルメディアで人気になっているかを一覧できるようにしている。また、Mashable では、各記事ごとにソーシャルメディアでの評価を示すと同時に、Velocity graph という記事の人気急上昇度を示すグラフまで備える。
  5. 広告体験をコンテンツ体験へと統合せよ
    ……いくつかの Web メディアは業界標準とされるようなバナー広告を排除し“ネイティブ広告”(参照 → こちら)に取り組んでいる。それは従来型広告がサイズ固定であり多スクリーンサイズに適合しにくいことが理由である。USA Today のケースでは、ページ内に広告を散乱させる代わりに、記事から記事へと遷移する間に広告を挿む独自フォーマットを開発した。

最後の項目に登場した“ネイティブ広告”は、従来フォーマットの広告に代わって新たに収入を押し上げるかもしれないと期待されるものです。
しかし、総合的に見れば Web メディアの収益源=バナー広告という方程式が崩れようとする時期に同期して、ユーザー体験視点からサイトの表現形式を大きく見直す動きが顕在化していると見てとれます。
読者とのエンゲージメントを重視するメディアがとるべき方向性は、広告収入から読者課金にまで広がっています。そして、それが推進力となって多様なデザイン的な模索へと還流していきます。

メディア経営には厳しい時代が続きます。しかし、それがユーザー体験を抜本的に改善する機会となっているとすれば、今後登場する新たなメディアには期待しないわけにはいきません。
次回はそのような文脈から、“超小型出版”の潮流を検討しようと思います。
(藤村)

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