新メディア形式の誕生か—[「WIRED シングル・ストーリーズ」刊行にあたって]

少々個人的なお話から始めます。

自分自身がWeb専業メディアに長く携わってきたことに、関係してなのかあるいは無関係にか、軽いコンテンツを浴びるほど読むよりむしろ歯ごたえのあるコンテンツを少しだけ味わいたい……との欲求に駆られることがあります。そんな“ある程度じっくりと”とのニーズに適合するメディア(もしくはコンテンツ)の形式とはどのようなものかと考えてみました。

それは、通勤時間の往復プラスアルファぐらいの時間で読み切れるものではないでしょうか。

ここからがさらに個人的なのですが、遠距離通勤の私の場合、それは往復で3時間〜程度で読み切れるものが最適となります。
新書サイズで言えば100〜200ページ程度でしょうか。また、雑誌の読み応えある特集部分などもその要件を満たしそうです。
さらなる欲求としては、このようなテーマの“冊子”をその時の気分次第で選択できるよう、数種類は持ち歩きたいところです。
と、こんなボリュームとテーマに電子書籍のメリットを組み合わせた形式に、いま欲求を感じているところです。

そんな折りに出会った告知が「 『WIRED シングル・ストーリーズ』刊行にあたって」です。

海外版『WIRED』のアーカイブから、未邦訳の傑作記事をお届けするeBook限定のシリーズ「WIRED シングル・ストーリーズ」の刊行を、11月下旬よりスタートします。 「WIRED シングル・ストーリーズ」では、US、UK、イタリア版『WIRED』の過去の記事のなかから選りすぐりの「記事=ストーリー」を独立したパッケージ商品として、1本¥170から販売していきます。 テクノロジー、サイエンス、ビジネス、カルチャーなど多彩なテーマ、『WIRED』ならではの斬新な切り口、そして一流ジャーナリストたちの筆力……日本の新聞や雑誌ではお目にかかることの少なくなったロングフォームジャーナリズムの醍醐味を、日本語で存分に堪能していただくことが可能になりました。 電子デヴァイスを通して気軽にアクセスでき、30分~1時間ほどの読書時間で無理なく読み通せる、かつてなかった読み物の形式「シングル・ストーリーズ」。12月以降は、毎月2本ずつ新作をリリースしていく予定です。ぜひお試しください。

諸手を挙げて賛同したい企画です。「WIRED」という実績あるブランド、「eBook限定」という切り口、そして「1本¥170から」との価格政策、いずれも腑に落ちる企画です。

むろん、“過去記事の再利用”ではとか、“テーマが狭そう”など異見も予想します。しかし、本企画が成功すればそれぞれ得意な出版社からの後続企画を期待できます。また、分量に合わせて原価が小さくなるとは言えないので、 大胆な値付けを行うためにも当面はこのような再利用系企画が妥当でしょう。

ところで、このような重厚な書籍と軽い単発記事(コンテンツ)の中間に位置するメディア形式が、すでに米国では発進済みでした。昨今、出版をめぐる台風の目である、Amazonによる「Kindle Single」がそれです(2010年10月サービス開始)。

Kindle Singles
kindlesingle.netの「What is a Kindle Single?」ページ

Kindleという同社の電子書籍リーダーに照準を合わせ、「 5000〜30000ワードで、30〜90ページ相当」の軽量ながらまとまりのある多ジャンル向けのメディア形式が「Single」です。肝心の品揃えはまだまだ豊富とは言えませんが、ある程度にはなってきたようです(販売ページ参照)。

ややもすると「軽薄短小」との評価に傾きがちな、インターネット時代のメディア、ジャーナリズム。
それに対し読み応え、歯ごたえをもたらす。また、死蔵されがちな過去の特集記事のような価値あるコンテンツを蘇生させるため。「シングル」形式の電子書籍の流れに期待したいのです。
(藤村)

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