“アンバンドル化”の先にあるもの——「コンテンツの『断片供給』と『小口課金』」を考える

先にメディアとコンテンツのアンバンドル化について触れました(「メディアのデジタル化が開く根本的な変化」)。

簡単に要約するなら、デジタルメディアの世界では、メディアの提供者が作り上げる“パッケージとしてのメディア”が、そもそも分解されやすい構造を本質的に持っていること。
すなわち、パッケージに含まれているコンテンツがバラバラに消費されたり、あるいは、提供者が意図したデザインや書式さえ取り払われて流通してしまうという“危機”に直面しているのです。
ここで、危機をあえて括弧でくくったのには理由があります。これを危機(リスク)とみなしそれに抵抗するのか、あるいは、新たな事業機会として考えるのかで、今後デジタルメディアを運営していく際の大きな分岐点になると見るからです。

本稿では、このアンバンドル化現象から生じる「機会」について、少し論じたいと思います。
その起点は、村上憲郎氏の「カギ握るコンテンツの「断片供給」と「小口課金」 スマートTV大戦争(続編)」です。

氏は元Google日本法人代表で、ご存知の方も多いことでしょう。
その氏が、今後大きなトレンドになると言われている「スマートTV」に触れた記事が本稿です。
当該記事で、氏はYouTubeが映画コンテンツのレンタル配信を有料で行うとの「画期的」な発表について触れ、コンテンツ課金の今後について言及します。
そこで用いている概念がコンテンツの「断片供給」と「小口課金」です。

スマートTVのユーザーは、ある一つのコンテンツ全編をいちどきに観るのではない。多種多様ないくつものコンテンツを同時並行的に渡り歩き、あるコンテンツから他のコンテンツに行ったきりで戻ってこなかったり、戻ってきても、さっき観ていた部分とは別の部分に戻ってきて平気で観続けたり、といった縦横無尽・自由奔放な視聴を行うものと思われる。

だとすれば、スマートTVは、ユーザーのそのような想定不可能な視聴をサポートしなければならない。コンテンツ供給者側も、ユーザーの縦横無尽・自由奔放な視聴に対応して、コンテンツを断片的に供給できるように準備しなければならない

ここで「スマートTV」と呼ばれているものは、現下のデジタルメディア全般と読み替えても大きな違いはないでしょう。
冒頭で触れた「 メディアのデジタル化が開く根本的な変化」で示したように、提供者の意図に沿ってパッケージされたメディア(コンテンツの束)に対し、読者(視聴者)はその意図を裏切るような消費行動を行う時代です。
まさに村上氏が形容する「縦横無尽・自由奔放な視聴」がコンテンツ消費の奔流となってきているのです。
このような視聴者に向き合って、メディアビジネスを成立させるためには、パッケージ化されたメディアによる収益(従来、おもには広告表示が中心だった)設計から、アンバンドル化、すなわちバラバラに消費されるコンテンツ単位にまで降りていき(断片化)、それを収益へと結びつける仕組みが必要になるのです(小口課金)。

いつの間にか、話が広告ではなく課金(購読)ビジネスになってしまっていると指摘されそうですが、筆者自身はこの「断片化」を起点にする収益事業は、課金に限らず、そして広告だけでもなく、たとえばライセンス販売等さまざまに収益化する方法が、原理的に成立すると考えます。
むしろ、コンテンツ単位まで細分化できれば、第三者としての事業者はコンテンツの加工や再パッケージ化などをしやすくなり、また、読者(視聴者)にとっては、楽曲の流通でiTunes Storeが果たしたような、楽曲のばら売りによる刹那的な消費、お試し的消費、友人からのオススメ消費……などが促進される可能性が高まります。要するに、ミクロではありますが、事業機会が一気に多様化すると想定できるのです。

課題は、記事1本単位でも、読者(視聴者)による消費を追跡可能にする技術上の解決であり、同じく、1本の記事がどのように読まれるかを前提にした広告の適切な配信の仕組みでしょう。
印刷物のようなかつてのパッケージメディアでは、各コンテンツと広告や販売モデルが一意に規定されており変更不可だったため、メディアとコンテンツが密結合状態にあったと言えるでしょう。
次にやってきたデジタルメディアの時代は、このパッケージとしてのメディアと、各コンテンツとの間は疎な結合関係であったため、現在、これを容易に分離して任意の消費スタイルを築くことが可能になってきているのです。

では、その次はどのようなモデルがあり得るでしょうか?

ひとつは、検索エンジンのように、コンテンツ一つひとつの所在や動向を追跡監視可能な巨大プラットフォームが新たな広告・課金モデルの実現を担う方向性。これはすでにGoogleらが構想として手がけ始めています。
そして、もうひとつ、密なパッケージに代わって、コンテンツ一つひとつに最適化しやすい通信機能や履歴追跡などの機能を有したカプセル、もしくは“コンテナ”のようなものが生み出されるのではないかとも考えます。
まだ、不確かな面もあるため、本稿では具体的な実装に言及せずに終わることになります。
(藤村)

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