“起業家的ジャーナリズム”の光と影——デジタルメディアが直面するチャレンジ

Webメディアを成功に導く方程式のひとつに、「制作費を究極まで下げる」があることに間違いはありません。
これは、先日ポストした「“最強ニュースサイト”実現の方程式」を通して整理したことです。そのためにシステム化や、外部の(寄稿)スタッフ活用などがポイントになることも併せて紹介しました。取り上げた記事では、過激にも「6000人の無給のブロガー」を組織といった施策まで飛び出したのでした。

また、一方でメディア事業者が、ライターらに金銭的インセンティブ以外の支援も与えつつ、自らの圏域にエコシステムを築き上げる方向が顕在化していること動向についても、「イーブンパートナーへと変化する筆者とメディア事業者」や「メディアビジネスにおける新しい“エコシステム”を考える」で紹介してきたところです。

今回ご紹介するのは、そのようなコストダウン要請と外部スタッフとのエコシステム形成を推し進めるためのバックボーンとなる論点です。
それはFORBESが最近になり打ち出した「起業家的ジャーナリズム」(Entrepreneurial Journalism)というものです。
早速、つたない訳を交えて紹介していきましょう。

Forbes.com 掲載の「Forbes Update: Our New Model For Journalism And How It Benefits Our Audience」(フォーブズ アップデート:ジャーナリズムの新モデル、それはいかに読者に寄与するのか)で、そのアプローチを高らかに宣言しています。

デジタル出版が引き起こす破壊的な力は、コンテンツがどのようにして作られ、届けられ、そして消費されるかを決定的に変えてしまった。
それは多くの人々を起業家的チャレンジへと連れ出すものだ。知識ある専門家たちにとっては、今やいつでも・どこでも“出版”が可能となり、読者を見いだせるならいくばくかのお金を得ることができる。
FORBESはこのような新しい時代、すなわち起業家的ジャーナリズムのリーダーなのだ。

われわれは、まず最初に、ジャーナリスト、著者、学識や企業家ら外部寄稿者諸氏に対してインセンティブ型支払いモデルをスタートさせた。“多くの熱心な読者(を生む人)には、多くの稼ぎを(与える)”。デジタル分野でスタートしたが、これを印刷メディアにも適用していく。……

今やわれわれは、1000名もの専門的な執筆者らを(外部に)分散的に擁するに至ったのである。

Forbes.com責任者が語るこのビジョンは、メディア事業を営む際の経済的側面に根ざしたひとつのマニフェストです。
ここで注目すべきは、このインセンティブプログラムや執筆陣を外部寄稿者へと大きくシフトし、執筆動機を刺激しつつ人的コストを変動費化する手法の総体が、「結果として“高品質”“スケーラブル(需要に即応できる仕組み)”“能率的”なメディア」を導くと主張するところです。

こうなってくれば、片方からは異論も湧き上がってきます。事の公平を期する意味でもそれを紹介しましょう。
その代表は MediaPost 掲載の「Performance-Based Pay For Content Has Gone Mainstream — Which Is Probably Good For Authors」です。
タイトルを文字通り読めば、「コンテンツに対し成果主義的な支払いモデル(インセンティブ型を指す)が主流へ。それは“多分”筆者らにとって良いことなのだろう」です。

同記事は、まず紹介したFORBESの「起業家的ジャーナリズム」の主張に批判や懸念を呈します。

起業家的ジャーナリズムのアプローチは、最近では論争の的であり、異端的なものだ。
筆者が稼いだ読者という成果に基づき支払うという考えは、どんなMBAホルダーも納得させるものではある。それがコンテンツの果実を生み出す著者と、その果実を得る広告主とを直交させる(合理的な)モデルだからだ。
しかし、筆者らは一般的に3つの点でそれを強く嫌悪する。

  1. 支払いが、筆者の努力が及ばない範囲で左右されるリスク
  2. 成果に見合った支払いとは、結果的に支払いに見合う程度の努力へとなり、コンテンツ品質を低下させていく
  3. 筆者らがもっとも不名誉と嫌う、自らのコンテンツを売り込む振る舞いや、検索エンジンに最適化するような執筆を強いられる……

詳しくは議論しませんが、立場が異なればこのような反論が出てくることは理解できます。

さて、この MediaPost の反論記事は、決して悲観的なものではありません。というのも後段で面白い仮説を開陳しているからです。それはこうです。

もし、 筆者らがメディア事業者ぐらい賢ければ、上記(3つの)懸念を解消できる。というのも、自らをうまくコントロールし、コンテンツの乱造を避け高品質なものを生み、それを自分の熱烈な読者を引き寄せることに当てれば、収入の基となるパフォーマンスを予測できるし、なにより自分の執筆に誇りを持てる。

さらに、筆者らが事業者より賢ければ、自分自身の熱心な読者を引き連れて他のメディアや場においても、収入を得ることができるだろう。

ここで述べているのは、メディア事業者が仕掛けるジャーナリストの起業家化というアプローチに対し、執筆者らが自らのイニシアチブで事業主(起業家)として振る舞う方向性についてです。
メディア事業は、だれにとっても平坦なビジネスではなくなっています。しかし、事業者にとっても執筆者にとってもチャレンジすべき方向は見えてきたのだと言えます。
(藤村)

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