電子の時代、作家はネット起業家になるのか?——アマンダ・ホッキング氏の場合を例に

自らの努力で、電子書籍小説を100万部以上売った、若きベストセラー小説家アマンダ・ホッキング。
ついに、巨額の前払契約をもって大手出版社と出版契約を結ぶ——。
本稿は、彼女の周到で執拗な自助努力の一端を紹介し、
ネットの時代、電子書籍の時代の作家が生きる道と、
改めてメディアビジネスがなすべきことを検討します。

米国に ENTREPRODUCER というユニークなブログメディアがあります。
“アントレプレナー+プロデューサー=アントレプロデューサー”という造語を媒体名にしたこのメディア、コンテンツビジネスに関わるスタートアップ(誕生間もないベンチャー)や、ネットの力をうまく使って勝負しようとする起業家的な人々を対象に絞り込んだ、それ自体非常にベンチャー精神を漂わせるとてもおもしろい存在なのです。

その ENTREPRODUCER が最近掲載した記事「Why the 21st Century Author is an Internet Entrepreneur」(21世紀の作家が、インターネット起業家でなければならないわけ)が、これまたとても興味を惹くのです。今回はこの記事を紹介していきたいと思います。

Why the 21st Century Author is an Internet Entrepreneur | Entreproducer via kwout

記事で取り扱われているのは、アマンダ・ホッキングといういまだ20代の電子書籍作家。
彼女を知らない人は、こちらこちらを参照ください。写真や動画なども交えて紹介されています。
すでにAmazon Kindleや各種Eブックを使って通算で100万部以上を売ってきた電子書籍時代の最初のヒロインと言える人物です。
これまで出版社とは組まず(組んでもらえず)自助努力によってベストセラー作家の地位を築き上げてきた彼女。1年ほど前には、米著名出版社と200万ドルの出版契約を取り交わしたことでも話題となりました。
記事では、このホッキング氏が出版社や編集者のサポートを得ようとして得られず、ならばと、自らインターネットや電子書籍の仕組みなどに取り組み、現在のベストセラー作家の地位を築く道のりやポリシーなどを紹介しているのです(この努力の過程については、翻訳家の林田陽子さんブログで紹介しています。こちらも併せて読まれることをお勧めします)。
  • 17歳で最初の小説を執筆するも、50社もの出版社から出版を断られる
  • 19の時、彼女は趣味ではなく執筆専業を決意した(起業)
  • そして、書店や出版ビジネスをしらみつぶしに調べ上げ、自分のテーマに関してどのような本が出版され、それがどのように売れ、読まれているのか検討した(市場調査)
  • その間、引き続き出版社へ原稿を送り続け、そして断られ続ける。最後の“お断わり状”を受け取ったのは2010年2月のこと(既存資源活用を試み断念)
  • Kindleフォーマットによる処女出版を決意、2010年4月に出版した(新技術の受容、新市場を対象に)
  • 著作の定価を1〜3ドル未満にするという試みを行う(価格破壊)
  • 最初は1日数冊の販売が続くが、徐々に情勢は変化し……
  • 2010年6月は6000部販売、7月は1万部、翌年1月には1万部以上……そして、夏には毎日9000部以上へ(販売成長)

販売実績の成長はそれだけ見るとマジックのように見えますが、そうではないと記事は説明します。ホッキング氏は周到に取り組んだというのです。

彼女は、自分の小説作品をスタートアップ(新規事業)のように扱った。

記事は電子書籍の市場はいまだ黎明期にあり、たとえば読者が彼女の作品を知り購入し始める過程を他人(市場、たとえばAmazon)任せにすることはできないのだと指摘します。

あれやこれやの手法を用いながら、作家は自らの“読者”を生み出さなければならない。
たとえば、作品を売りに出すのに先駆けてフリーのオンラインコンテンツを提供してみるなど、スマートな起業家的手法を用いて読者を創造するのである。

言い換えれば、インターネット出版の起業家となるのだ。自らの作品を、芸術家が生み落すようなものではなく、自らの“プロダクト”のように扱うのだ。
そしてそのために活用できる最大の資産は、自身の読者なのだ。

この記事が彼女を通じて言いたいことはおわかりになると思います。先に挙げた林田氏のブログでは、ホッキング氏のブログや彼女へのインタビューなどから、彼女がどのように“起業家”的に振る舞ってきたかを具体的に整理しています。最後にそれを要約しておきます。

  • 人気のあるジャンルの小説を書く
  • あらゆる販路を試す(紙の自費出版から始め、Amazon、そして各種の電子書籍市場を活用するに至る)
  • 作品を量産する(「次々と作品を出していかないと、今までやってきたことがすべて無駄になる」)
  • 価格を安くする
  • 書評ブロガーに紹介を依頼する
  • 作品の完成度を上げて、商品価値を高める(推敲過程を公開し、フィードバックを求める)
  • 読者の意見や希望を収集して、作品に反映させる……

これらが、いかに新規事業を立ち上げる過程に相似しているかが分かると思います。「芸術家なら」「すでに知名度を得た作家なら」わざわざ取り組まないような“事業立ち上げ”的プロセスを、彼女はたった一人で、忠実にそれを実践しているのです。

私たちメディアビジネスに関わろうとする人間にとって、アマンダ・ホッキング氏の事例から学ぶことは、今後このような電子時代の作家、ライターが続々登場するだろうということ。そして、彼ら彼女らは、好むと好まざるとに関わらずこのようなプロセスを自ら、あるいは提供されるプラットフォームを活用していくだろうということです。そのようなサポートを彼ら彼女らは求めるのです。
ちょうど林田氏のブログ記事の最後で、ホッキング氏が「私は書くのが好きだ。私はマーケティング、特に読者とやりとりするのが好きだ。編集作業なんかに構っていられない。私は自分の会社を経営したいなどとは思わない」と述べているように、そこにメディアビジネスにおける起業家とその支援者との望ましい新たな接点が示唆されているのです。
(藤村)

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