ユニバーサルなメディアブラウザを構想する

Twitter や Facebook のタイムラインは、
未来のメディアのあり方を示唆している。
メディアとコンテンツが爆発的に増え、情報発信がリアルタイム化する時代。
その最適なメディア形式の未来を構想する。

さまざまな型のコンテンツ、さまざまな情報源に対して統合的に、かつ的確にアクセスできるもの。
加えて、最も快適にそれをナビゲーションするユーザーインターフェイス(UI)。
これを“ユニバーサルなメディアブラウザ(普遍的なメディア閲覧ソフトウェア)”と定義するなら、それは“新たな Web ブラウザ”の発明を意味するかもしれません。

ヒントは、すでに当ブログで何度か言及してきたストリーム(タイムライン)型メディアにあります(たとえば → これこれ)。
ストリーム型メディアの実装例は、“商業(Web)メディア”においては、新鋭メディア Quartz などがありますが、いまだ主流を占めるとはいえません。
けれど、ブログ形式の流れを汲むメディアでは、時系列(タイムライン型)の記事配置のほうが一般的です。むろん、ブログの影響下にあったとしても、商業メディアではタイムラインとは異なる記事へのリンク集を“トップページ”(インデックスページ)として設ける従来メディアとの折衷型がほとんどなのですが。

一方、モバイルアプリでは、ITmedia アプリをはじめとしてタイムライン型メディアの実装例があります。
また、Facebook や Twitter など、商業メディアをしのぐ影響力あるソーシャルメディアでは、タイムラインを UI の中核にすえるのは常識になっていることは指摘するまでもありません。

ストリーム(タイムライン)型メディアがユーザーにもたらすメリットは、大きく3つと思えます。

  • “いま何が起きているか”という情報ニーズへの最短の解である
  • 大型ディスプレイからモバイル機器の小型ディスプレイまで、ユーザーのメディアアクセス環境の遷移に柔軟である
  • コンテンツ間の移動操作は“無限スクロール”中心であり、操作が非常にシンプルである

筆者が、ストリーム型メディアとそれを統合するユニバーサルなメディアブラウザというアイデアに注目する事情についても述べておきましょう。

ストリーム型メディアが台頭する背景には、四六時中情報を発信(更新)するメディア主体が極端に増えたことがあります。
筆者自身がそうであるように、インターネットを用いればだれもが少ない負担で情報発信者となれる時代です。
この“だれも”が、いずれは“どんなものでも”となっていくことは間違いありません。
今後は、ヒトに限らず自動車や電車、バス、そして、家電製品のなど多くのモノまでが、続々と“情報発信者”へと連なっていくことでしょう。
発信されるコンテンツの量が爆発的に増えているだけでなく、それが24時間化していることも大きな異変です。
大小無数のメディアが間断なくコンテンツを発信し続ける社会は、大小無数のラジオ局が24時間放送を続けるのに似たストリーム型情報社会といえるかもしれません。

メディアの選択はチューニングへ……

メディアの選択はチューニングへ……

Facebook や Twitter 上にこのような情報社会の一端を見ることができます。このことは情報消費への意欲の高い人々から順番に、徐々にストリーム型の情報消費(コンテンツ受信のスタイル)へとシフトをしていることを示すものです。
つまり、ソーシャルメディアの中に、すでにユニバーサルなメディアブラウザの実装的な萌芽があるのです。

大小の放送局という比喩を用いましたが、ユーザーの情報選択も、チューナーで周波数を合わせるような“選局”、もしくはチューニングという行為に近づいていくことでしょう。(Twitter や Facebook では、その選局を“友だち”の選択として行っている)

こんなメディアの近未来図を描く研究が米国にあります。
CNET Japan 掲載記事「『未来のブラウザはストリームブラウザになる』–米イェール大D・ジェランター教授」(この記事の基となった Wired 記事は → こちら )がその動きを紹介しています。

人々が本当に欲しているのは、情報に「チャンネルを合わせる」ことだ。近い将来、サイバースフィアには莫大な数のライフストリームが存在するようになるので、われわれの基本的なソフトウェアはストリームブラウザになるだろう。それは、現在のブラウザに似ているが、ストリームの追加、削除、およびナビゲートも行えるように設計される。

タイムストリーム内のコンテンツ検索は、ストリーム代数学の問題だ。それは、今日のウェブのような空間に基づく構造の代数学より簡単だ。2つのタイムストリームを足すと、3つめのタイムストリームができる(単純な例では、AP のニュースフィードと筆者の友人である Freeman 氏のブログストリームを統合して、時系列で表示させるということ)。そして、コンテンツ検索はストリームの引き算の問題である(「クランベリー」に言及しないすべてのエントリーを減じるだけで、それに言及するすべてのエントリーを得ることができる)。ストリーム代数学が持つシンプルで合理的な特徴には、大きなメリットがある。それは、オーダーメイドの情報が得られることだ。

記事で紹介される野心的な研究は、World Wide Web がもたらした情報のリンク関係的世界観に対し、情報の時系列的な世界観を対置します。それは「現在の『空間に基づくウェブ』から『時間に基づくワールドストリーム』へ移行」させようとするのです。

Web 的世界の歩み方(ナビゲーション)は、関連リンクをたどりながらページ間を遷移することです。ワールドストリーム的なそれでは、ナビゲーションは、「チャンネルを合わせ」(実際は不要情報を排除する)、現在から過去に向かってスクロールすることへと変化します。
リンク的な情報配置に最適化されたメディア受信機が、Web ブラウザだとすれば、「ワールドストリーム」的世界観に最適化されたメディア受信機が求められます。それが記事のタイトルに表われた「ストリームブラウザ」という概念なのです。筆者(藤村)が考えるユニバーサルなメディアブラウザとはそのようなものを指しています。

もし、ユニバーサルなメディアブラウザが与えられたとすれば、情報(メディア)消費のスタイルはどう変化するでしょうか?
ユーザーは、まず最初に統合されたひとつのメディアストリームに接することになります。
ストリーム内のコンテンツの粒度にチューニングを加えれば、通勤時間の車中に適した“メディア”が動的に生成できるかもしれません。あるいは、週末の時間のある際には、もっとたくさんのコンテンツをというようにチューニングできるでしょう。
もっとコンテンツ数を絞り、代わりに読み応えのあるものをピックアップすることもできそうです。
メインのストリームに多種多様なストリームチャンネルを足し合わせれば、新鮮な発見のあるメディアストリームを得られるかもしれません。ビジネス寄りからエンターテインメント寄りへというように、メディアのテイストを滑らかに遷移させることも可能でしょう。

このようなスタイルが、スマートデバイスの普及を前提にした“リーンバック2.0”(参考 → こちら)を加速するのは間違いありません。
キーボードとマウスといった入力デバイスを多く用いるアクティブな情報探索(リーンフォワード)スタイルは、PC という情報機器と情報探索にアクティブなユーザーの特性に適したものでした。スマートデバイスではユーザーからの入力は少なくなっていきます。代わってごくシンプルな操作で十分にナビゲーションできるストリーム型メディアが台頭します。タッチ操作を中心としたスマートデバイスの特性に適しているからです。

こう考えると、ストリーム型メディアとユニバーサルなメディアブラウザの誕生は、ソーシャル(であり、かつパーソナルな)メディアの誕生と、モバイルデバイスの多様化に、ぴったりと重なり合った変化だと理解できます。

いまだイメージの中にあるユニバーサルなメディアブラウザですが、その実装形についてもう少し踏み込んで言及しておきましょう。
ユニバーサルなメディアブラウザは、上記のようにユーザーにあらかじめひとつのデフォルトであるメディアストリームを提供すると考えます。これには一般的に人気や知名度の高いニュースフィードを用いられるでしょう。
並行して、いくつものメディア(ストリーム)チャンネルを用意します。Twitter や Facebook といったソーシャルメディアストリームもそこに含みます。
ユーザーは、テレビやラジオに対してそうするように、必要に応じてチャンネルを切り換えてコンテンツを楽しむことができます。
しかし、ユニバーサルなメディアブラウザの特徴は、選択したいくつものチャンネルを総合したものをデフォルトのストリームとすることができることです。これは、一人ひとりのユーザー専用のパーソナルなメディアストリームの生成を意味します(パーソナル化)。

ユニバーサルなメディアブラウザは、PC からポケットに入るスマートフォンなど多種多様なデバイス上で稼働させるため、軽い実装であることが必要です。そのためにも、このメディアブラウザのために、各種のメディアストリームを選択可能なチャンネルとして複数提供する外部サービスが必要になるでしょう。
「メディアチャンネルサーバー」と呼ぶべきこのサービスは、多種多様に発信されるコンテンツを発見しては、メディアブラウザに表示しやすい情報形式に変換するとともに、これらを豊富なメニューとして提供します。
商業メディアがメディアブラウザへの表示を意識しなくとも、メディアチャンネルサーバーはそれを自動的に収集しメディアブラウザに適したデータへと変換を行います。

 

メディアブラウザを実現する構造

メディアブラウザを実現する構造

価値の高いコンテンツを創造できる商業メディアは、メディアブラウザへと配信されるストリームの情報源の一つひとつとしてその存在価値を発揮し続けるはずです。

ただし、ユーザーがそれらを取捨選択してユニバーサルなメディアストリームを生成すること(パーソナライズすること)を妨げることはできないものと展望します。
(藤村)

「ウェブサイトでもない、雑誌でもない、本でもなく」 “超小型出版”がメディアを革新する時

クレイグ・モド氏の『超小型出版』の出版が引き金ともなり、
難易度が高かったアプリ出版に改めてハイライトが当たる。
プロフェッショナル化が進行した先行市場を
覆しかねない可能性が、そこに見えてくる。

Web、電子書籍、そしてアプリ。それぞれ異なる系統樹から誕生したデジタルメディア形式がクロスボーダー化しています。
これが、筆者がたびたび述べてきたデジタルメディアをめぐる情勢論の中心です。

Web には、“ページ”という概念が実は希薄であり、スクロール可能な巻物的な表現形式が本質的に得意です。また、“リンク”という Web ならではの強力無比な機能により、良くも悪くも融通無碍な情報ナビゲーションや表現を実現してきました。
では、後の二者、すなわち電子書籍やアプリという形式はどうかといえば、現実界にある書籍や雑誌的なナビゲーション、表現を再現するのに適した発展をしてきたといえそうです。テキストとビジュアルが混在するレイアウトをページ単位でまとめて読者に提示します。電子書籍では特にそれらページをシーケンシャルなナビゲーションに形式化するのが得意です。

クロスボーダー化には、印刷メディアになれた作り手の創造的な意思を忠実に再現するために、Web 以上の表現形式を整えてきたという意味合いがまずありました。
ファッションなどの分野で、印刷媒体からアプリを生成し、次にアプリを模した Web メディアが誕生するといった流れが見えてきたのは、旧来メディアの作り手の欲求に即したクロスボーダー化と見なすことができます。詳細は省きますが、New York Times 配下の T-Magazine などはまさにクロスボーダー化の流れにあるファッション/ライフスタイル系メディアです。

しかし、クロスボーダー化がもたらすもうひとつの方向性があります。
Web の“柔軟すぎるナビゲーション”でもなく、印刷メディアの表現形式の再現でもない、純粋に読み物と読み手の“快”に焦点を当てる表現形式へと向かう動きです。それが「超小型出版」と概括する新たなメディアづくりの動きです。

いくつか例をあげてみましょう。
Marco Arment 氏がスタートし発行人を務める The Magazine。毎号エッセイを数点収めた月2回定期刊のアプリ版“文芸誌”の風情です。シンプルな画面と操作性、派手なビジュアル要素を極力抑えテキストを中心に読むために徹したつくりで、モダンでありながら復古的でもある新たな出版スタイルの息吹を印象づけた最初の存在です。
ちなみに、Arment 氏は“後で読む”サービスの代表格 Instapaper の創業者です。

次に、メディア系ベンチャーやプロジェクトを次々に傘下に収めている Betaworks が昨秋より提供を始めた超小型出版サービス Tapestry があります。
これはエッセイ、絵本、詩集などに適したオーサリング(編集・制作)とアプリの生成・販売に至るサービスを提供します。
生成されるメディア(というより“作品”というべきでしょう)では、タップによりページを進める、ソーシャルメディアに投稿などのナビゲーション機能ぐらいしか盛られていません。しかし、シンプルながらセンスの良さが画面全体から伝わってくるなかなか魅力的な作品がそこには生み出されるのです。

さらに、29th Street Publishing が提供を開始したアプリ生成基盤があります。
これを用いた女性タレントの専用週刊ミニメディア Maura Magazine や、商業メディアの週末エディションである The Awl:Weekend Comapinon など複数のメディアがラインナップされています(参照 → こちら)。
同社の創業メンバーらが、ブログプラットフォームで一時代を築いた Six Apart の出身ということもあってか、「ブログをするのと同じくらいシンプルな定期購読メディアを販売」とのコンセプトを打ち出しています。

超小型出版3種。左からThe Magazine, Tapestry, Maura Magazine

超小型出版3種。左からThe Magazine, Tapestry, Maura Magazine

このような、ほぼ同時多発的に誕生したメディア群に共通する特徴があります。
「ウェブサイトでもない、雑誌でもない、本でもない」(後述するクレイグ・モド氏の表現)というものです。
それは、冒頭に述べたクロスボーダー化したメディアトレンドを映し出しているといえます。

このトレンドに“超小型出版”という名を与え、概念をまとめあげたのがクレイグ・モド氏です。同氏は“ソーシャルマガジン”とのコンセプトで評判を呼んだニュースリーダーアプリ Flipboard のデザインに携わりました。
「超小型出版」とはもちろん邦訳であり、そのオリジナルは“Subcompact Publishing”です。さまざまな意味でコンパクトであり、かつ機能を削いだとの含意があります。

モド氏が整理した超小型出版の要件を、『超小型出版 シンプルなツールとシステムを電子出版に』から紹介しましょう。

クレイグ・モド氏『超小型出版』表紙

クレイグ・モド氏『超小型出版』表紙

超小型出版ツールと編集美学の特徴としては、さしあたり次のようなものがある(これが全てではない)。

  • 小さな発行サイズ(3〜7記事/号)
  • 小さなファイルサイズ
  • 電子書籍を意識した購読料
  • 流動的な発行スケジュール
  • スクロール(ページ割やページめくりといったページネーションは不要)
  • 明快なナビゲーション
  • HTML(系)ベース
  • ウェブに開かれている

これらの特徴は互いに影響を与え合っている。

同書は上記の要件をさらにかみ砕いて解説していますが、以下に筆者(藤村)の視点からコメントを付していきましょう。
最近のアプリが“高機能な”雑誌や書籍の電子版という方向に足元をすくわれてしまっているのに対し、超小型出版を体現するメディアは、いずれも豊富な機能を誇りません。
目に付きやすい機能は削ぎ落とし、読者とのインタラクション要素も抑制的です。
その結果として、これらメディアは読者がコンテンツを読むことに徹するメディアというコンセプトで共通しています。これを“コンテンツ中心主義”と呼んでいいかもしれません。

目に付きやすいさまざまな要素を排除することは、おのずと広告的な収入モデルを排除することにもなります。紹介した各メディアにはいずれも広告を掲載しません。
代わっての収入モデル(無料のケースもある)は、Apple の定期購読・配信サービス Newsstand を基盤とします。同サービスは定期刊の雑誌などを自動的にダウンロードする機能と、定期購読料の徴収や、フリートライアル後に他号を有料購読するなどの滑らかな課金機能を備えています。

現時点で、超小型出版を選択することは、アプリ出版を行うことと同義です。
しかし、通常はアプリ開発にはエンジニアリング能力が必要です。また、たとえば、Apple のアプリマーケットである App Store にアプリをリリースするためには、煩雑な手続きもあり個人が気軽にこなせるものではないハードルが待ち構えています。
モド氏もこう述べています。

プログラマーは現代の奇術師である。多くの業界でそれは明らかだが、ついに出版界でもそのことが明らかになりつつある。マルコ(注:Marco Arment 氏のこと)がすぐに The Magazine を生み出すことができたのは……彼がプログラマーだったからだ。

エンジニアが出版の分野においても高い価値を発揮することには同意しますが、それが多くの出版者にはハードルであることももちろんです。
Arment 氏は The Magazine の開発(編集・制作)基盤を提供していないようですが、29th Street Publishing や Betaworks は外部への提供を行っており、そのため扱うタイトルが増えていく流れにあります。
前者のシステムは、WordPress など普及したブログ CMS などと連携する仕組みを採用しています。
後者はサービスにサインインすれば会話形式でメディアタイトルが制作できるようになっており、“アマチュア”に門戸を開くアプローチをとっています。

最後に、当ブログの主題でもある、メディアビジネスからの視点で超小型出版の可能性について要点を述べておきます。

  • かつて Six Apart らが切り開いたブログプラットフォームのアプリ版となる可能性があり、多くの個人出版の基盤となる可能性がある
  • そして、“自己出版”トレンドを、定期購読ビジネスへと直接つなげていく可能性がある
  • “機能限定・開発容易”な出版手法は、Web、電子書籍、アプリの各分野で先行するプロフェッショナルなメディアビジネスが築く市場の隙間を開発する可能性がある
  • 広告ビジネスが侵入しにくい出版市場を生み出す可能性がある
  • アプリ同様、App Store 等の課金プラットフォームにマーケティングを委ねる要素が弱点であり、出版者は継続的に Web やソーシャルメディアを通じて告知活動を継続しなければならない

筆者は、超小型出版の流れが“コンテンツ中心主義”に焦点を当てていることに、強く興味を惹かれます。
「コンテンツはありあまっている」「コンテンツに価値は薄く、価値は人間(ソーシャル)の側にある」との論調が高まる時代に、コンテンツを前面に立て、そして、それを価値(課金)へと直接結びつけようとする流れだからです。まだまだ小さな市場とはいえ、注目に値する動きであるのは自明です。
(藤村)

Web メディア とるべき5つのデザイン戦略

Web メディアの姿が変わろうとしている。
ユーザー体験(UX)とビジネスの視点から
とるべきデザイン戦略を具体的に提言する。

2013年 “ビジネスとしてのメディア” 方程式をどう解くか」で、台頭するデジタルメディアの新潮流を整理しました。
中でも読者(ユーザー)に、いかなる体験を提供するかという、メディアが最も重視すべき領域に新たな流れが台頭していることが注目点です。
以下に再度整理をしておきます。

  • 新しい Web メディア(本稿で後述)
  • 電子書籍/電子雑誌
  • アプリ型メディア

従来であれば、これら3つは交わる要素は少なく、それぞれ独立した出版テーマでした。
書籍出版社は電子書籍を、雑誌出版を主とする出版社は Web、そして電子雑誌を……という具合で、それぞれはあたかも独自ドメインを形成し、そこに積み上げられるノウハウも異なっていました。
上記拙稿の視点は、これらが別々のものとして発展してきた段階から徐々にその領域がクロス(交差)するようになってきたというものです。特に Web メディアは、十数年という比較的長い歴史を重ねてきたことからも、新たな潮流の台頭を受けて変化が生じている領域です。

本稿では、Web メディアにおける、表現形式(デザイン)の最新動向をアップデートします。
すでに論じてきた「Web メディアの明日、その条件を考える」「デジタル絶好調の米 Atlantic が打ち出す、近未来 Web メディア “QUARTZ”」「ストリーム型メディアの勃興 Web メディアの転換点」と併せて読まれることを希望します。

まず、確認しておきたいのは筆者が意識する新たな Web メディアの事例です。
すでに1度論じた Quartz が存在感を示します。

The Quartz

Quartz

同サイトは、昨年10月開設から2か月間で早くも140万ビジターを達成しています(参照 → こちら)。Quartz の表示形式における冒険は、Web メディアとしての玄関口である“トップページ”を排したことです。代わりに当ブログなど多くの個人ブログがそうであるように、いきなり記事(の全文)を新着順(時系列)でタイムライン形式で表示します。
読者の行動は、これでどう変わるでしょうか? トップページから面白そうな記事を選んで、任意の記事ページへ移動して閲覧するというスタイルから、最新記事から順繰りに時間がくるまで閲読することスタイルへと収れんしていきます。Facebook や Twitter などのソーシャルメディアと同じスタイルです。

従来なら記事を囲む固定位置に配置されてきた広告も潔く排除しています。
これは Facebook や Twitter など以上に徹底したコンテンツ中心思想の展開です。コンテンツを取り巻く表示要素を絞り込んだため、多種のスクリーンサイズへの対応も良好です。

同じく新世代 Web メディアに属するものとして、やはり新鋭の The Verge があります。

The Verge

The Verge

Quartz とは異なり、同メディアは記事タイムラインから分離したトップページを備えますが、それはビジュアルインパクトを重視したアプローチで従来の Web メディアのそれとは一線を画します。
記事面では、インパクトのあるグラフィックと読者のコメント投稿をうまく組み合わせソーシャル性は高めながら、Quartz 同様、読者の閲覧を妨げるような要素を極力排除しシンプルに見せる工夫をします。多スクリーンサイズへの適合にも、力を入れています。

もうひとつ、新世代の Web メディアを紹介するとすれば、老舗メディアが最新のリニューアルを行った The New Republic がよいでしょう。

The New Republic

The New Republic

リニューアルした同サイトについては、ブログ FERMAT の「Chris Hughes が描くソーシャル時代のジャーナリズムと雑誌文化」がていねいな紹介をしています。
同メディアは100年近い歴史を有する老舗の文化・政治分野のオピニオン雑誌として出版されてきましたが、最近になり元 Facebook の創業者のひとり、Chris Hughes 氏が買収、デジタルメディアのテコ入れが行われました。

Hughes は、ソーシャル時代に必要なことはリーチではなく「エンゲージメント」であると考えている。また、そのエンゲージメントを維持し続けるために、メディアは「レスポンシブ」でなければならないと考えている。
一見すると、今回の New Republic のリデザイン/リローンチは、今風のウェブサイトに変えただけのように思われるが、その背後には上述の彼の考え方、彼がソーシャルウェブに対してもつ基本思想が反映されている。いわばそれが一種の設計思想として、98年の伝統を持つ紙と印刷の雑誌を作り替えたわけだ。

デジタル版 The New Republic もまた、レスポンシブなデザインアプローチで多スクリーンサイズに対応します。Web サイトを開けば分かるように、意図してか広告が排除され、トップページはビジュアルインパクトを徹底し、まるで印刷雑誌の表紙の雰囲気を再現し、記事ページではシンプルな読みやすさを重視し、同時に音声による読み上げ機能など、デジタル版ならでの工夫を凝らしています。
同メディアは同時に、iPad版マガジンを提供します。上記2媒体と異なり、集客アプローチとして無料で広く読者に読まれるべき施策を維持しながら、各種のオプション(印刷版購読費のディスカウント、読者意見投稿等々)を設けてそれによって有償購読読者層を生み出そうとします。

上記 FERMAT が述べるように、リーチを広げるアプローチに対して読者とのエンゲージメントを重視していることがわかります。定期購読による印刷版およびアプリ版の提供は、読者との結びつきの強度が成果をもたらすことになるでしょう。
むろん、このような“コンテンツ中心”を体現したメディア表現を推進していくことで、冒頭に記したように、これまで異なる領域として発展してきたメディア表現が融合する流れが顕在化していると理解できます。ソーシャルメディアと Web メディア、あるいは、Web メディアと(タブレットやスマートフォンなどモバイル)アプリといった融合です。

ところで、このような Web メディアに到来する新しい潮流を的確に整理したコンテンツがあります。eMedia Vitals 掲載の「5 web design principles for 2013」(2013年の Web デザイン指針)です。
同記事は、今年、タブレットの出荷台数が PC のそれを上回り、また、モバイルからの Web サイトへのトラフィックが30%に及ぶと予測されている環境下、メディアが向かうべき Web サイトデザインの指針を5つにまとめます。
それをかいつまんで紹介します。

  1. “アプリに似た”ユーザー体験を創造せよ
    ……いまや米国の多くの消費者がタブレットを保有し、また、タブレットからコンテンツ消費を行うことが広まっている。記事では  USA Today の昨秋リニューアルを率いた責任者は、 同サイトのデザインは、iPad によるコンテンツ消費体験にならうことが目的だったと述べている。
  2. サイト上の雑多な要素を削減せよ
    ……USA Today のリニューアルで意図したものは、どのページを開いても大量の情報による爆撃を受けるという混沌としたユーザー体験ではなく、読者が本当に気に留めるような小粒の情報に到達できるようにすることだった。また、老舗メディア The Atlantic でも Web サイトリニューアルに際して、ビジュアル面の柔軟性に配慮し、大きなグラフィックの表示やビジュアルインパクトのある広告表現などを目指したと同メディアの編集長は述べている。
  3. サイトをスリム化しスピードアップせよ
    ……Engadget の例をあげ、Web では老舗であるようなメディアは、改修に次ぐ改修でスパゲッティ化したサイト要素(あるいはコード)を整理することで、ページ容量を半分にまで“スリム化”した。これによりパフォーマンスも倍加したという。デザイン要素よりも表示パフォーマンスを向上させる方向性も重要だ。
  4. ソーシャル共有をもっと掘り下げよ
    ……単純にソーシャルメディアに共有するための投稿機能を備える以上の深掘りが重要だ。先述の Atlantic では“ソーシャルストリップ(帯)”と呼ぶ機能を設け、同メディアのどの記事がソーシャルメディアで人気になっているかを一覧できるようにしている。また、Mashable では、各記事ごとにソーシャルメディアでの評価を示すと同時に、Velocity graph という記事の人気急上昇度を示すグラフまで備える。
  5. 広告体験をコンテンツ体験へと統合せよ
    ……いくつかの Web メディアは業界標準とされるようなバナー広告を排除し“ネイティブ広告”(参照 → こちら)に取り組んでいる。それは従来型広告がサイズ固定であり多スクリーンサイズに適合しにくいことが理由である。USA Today のケースでは、ページ内に広告を散乱させる代わりに、記事から記事へと遷移する間に広告を挿む独自フォーマットを開発した。

最後の項目に登場した“ネイティブ広告”は、従来フォーマットの広告に代わって新たに収入を押し上げるかもしれないと期待されるものです。
しかし、総合的に見れば Web メディアの収益源=バナー広告という方程式が崩れようとする時期に同期して、ユーザー体験視点からサイトの表現形式を大きく見直す動きが顕在化していると見てとれます。
読者とのエンゲージメントを重視するメディアがとるべき方向性は、広告収入から読者課金にまで広がっています。そして、それが推進力となって多様なデザイン的な模索へと還流していきます。

メディア経営には厳しい時代が続きます。しかし、それがユーザー体験を抜本的に改善する機会となっているとすれば、今後登場する新たなメディアには期待しないわけにはいきません。
次回はそのような文脈から、“超小型出版”の潮流を検討しようと思います。
(藤村)

“成長の壁”を超えるメディア クックパッドをケーススタディとして

印刷メディア事業の“危機”が語られる一方で、インターネットメディアも成長限界に悩んでいる
広告市場の縮小とモバイルシフトに苦しむネット系メディア。そこに突破口はあるのか?
本稿はクックパッドの事業展開をケーススタディとして検討しよう。

2000年を前後して現われたインターネットメディアの多くが、成長性の維持という点で苦しんでいます(たとえば → 参照)。
“成長の壁”とは、以下のような点に集約されます。

  • 広告市場の停滞
  • ソーシャルメディアへの潮流シフト
  • モバイル化へのシフト

これらは実は根っこで共通している事象かもしれません。それはともかく、まずそれらはじわじわと潜在的に進行し、2008年の“リーマンショック”という事件をきっかけに一挙に顕在化したと筆者は理解します。
実際、日本の広告費は2008年に前年比減少トレンドに転じました。また、iPhone が発売されたのは2008年のことでした。
筆者の体験からも、2008年はインターネットメディア企業にとっての大きな曲がり角でした。以後、現在に至るまで次なる成長エンジンの模索を続ける時期が続いていると見ています。
本稿はここに掲げた3つの“成長の壁”をどう克服するのかという課題をめぐる思索の一端です。さらにいえば、これら3つを成長の糧としているメディア企業の検証でもあります。

クックパッド株式会社という企業があります。
同社は、周知のようにクックパッドを運営する企業です(参照 → こちら)。
創業1997年と、インターネットメディア企業第一世代として誕生しつつも、2009年に IPO と遅咲きであること、以下に検討するように上記の3つのポイントを成長エンジンへと転換した、“第二世代”の資質を備えるなど興味深い企業です。

同社の中核事業は、言うまでもなく「レシピコミュニティーサイト」クックパッドです。会員登録したユーザーが自らのレシピを投稿、これをさまざまな形で共有できる集合サイトです。言い換えれば典型的な CGM、ソーシャルメディアです。現在では食をめぐるプロ・セミプロもが投稿するような場へと成長を遂げています。
事業収入は、2008年ごろまでは「マーケティング支援事業」という食材関連事業者の商材をプロモーションする各種企画、すなわち広告関連収入を成長エンジンに成長してきました。しかし、同社はもともと事業収入をユーザー課金に求めるという“原点”を有していたといいます(参照 → こちら)。

次のチャートは、同社が公開している決算資料(こちら および こちら)を基に作成しました。
cookpad_chart
このチャートを見ると、2009年度下期をもって広告関連事業が低成長段階に入ったことがわかります。電通発表の「
日本の広告費」でも、「食品」分野の広告費が2009年をもってマイナス成長(対前年比 -3.4%)へ転じたことからもそれが跡づけられます。
その一方で注目すべきは、広告関連事業収入の頭打ち状況を力強く補っている「会員事業」の存在です。
2008年度上半期と2012年度同期を比較した両事業の成長率では、広告関連事業が205%でしかないのに対して、会員事業は3200%と目ざましい成長ぶりです。

同社の会員事業とは、有料「プレミアムサービス」やクックパッドの携帯サービス「モバれぴ」などから構成されます。特にスマートフォンに対応したプレミアムサービス収入が成長を牽引します。
次のチャートは、上記の決算資料からの引用です。CookPad_Mobile
無料・有料を合わせたスマートフォンからの利用者数の増大と、月額300円ほどのプレミアムサービスの利用者数の増大が、ほぼ連動した成長を見せていることがわかります。
広告収入の停滞を突破して同社が成長を遂げている要因は、有料会員事業であり、その会員事業の大きなドライバー(原動力)が、モバイルへの取り組みであるということができそうです。
2009年度から2010年度にかけて、広告関連事業と会員事業の収入比の転換が見事に行われています。広告収入の成長低下を意識して内部では必死の会員事業の開発が行われたものと見ます。また、iPhone 登場に代表されるモバイル化のトレンドを鋭敏に受け止めたのだとも見ることができます。

スマートデバイスから見た「クックパッド」

スマートデバイスから見た「クックパッド」

もう一度、本稿冒頭の3つの壁に立ち返りましょう。
多くのインターネットメディアの収入源泉は、今も広告収入です。したがって、広告予算の縮小傾向は新興のインターネット分野においてさえ深刻です。
また、PC のスクリーンを対象にして発達してきたインターネット広告は、モバイル分野ではまだまだ力強い突破口を見いだせていません。
広告単価が低迷する中でも、大きな画面であれば、大サイズの広告や、数多くの広告を配置するなどの小手先の対処がありえます。
しかし、小スクリーンのモバイルデバイスでは、そのような対処はかないません。
広告効果の高い新たな広告フォーマットの開発を待つか、非広告収入へのシフトを進める必要があるのです。

クックパッドでは、後者の会員事業へのシフトが大きな成果をあげ、これが“成長の壁”を突破することを可能にしたわけです。

同時期に登場したインターネットメディアが成長停滞に悩む中、同社が見事にそれを突破した要因はなんでしょうか? 思いつくまま以下に掲げてみます。

  • 既存のコンテンツに対し、読者が求めるような付加価値を追加開発したこと(たとえば → 参照
  • モバイルデバイスに最適化したコンテンツ表示を、Webおよびモバイルアプリとして提供していること
  • 事業の遠い初期には会員事業を、次に広告関連事業、そして今また会員事業へというように、機敏に事業の軸を転換できた経営資質と技術基盤

プロの記者らがニュース等の情報を提供するメディアサイト運営者からは、クックパッドのような読者投稿型レシピサイトとは事業の根幹が異なるから参考にならない、という反応が聞こえそうな気もします。
けれど、筆者はニュース提供系のメディアサイト事業であっても、上記のポイントに対するリスペクトが必要と考えます。

いかにコンテンツを読者が喜ぶ形態として提供できるか。

(ニュースなどの)メディアビジネスは、情報サービスビジネスのひとつと理解するならば、まだまだ取り組めることがあることを同社の展開は示唆します。また、読者にとっての利便性が十分に高まってくれば、広告と異なる直接の対価(会員事業)の可能性が高まることも想定できるとも見ます。それがいったい何なのかを考える時期なのです。
(藤村)

メディアのコンテンツ課金 新たなブレークスルーの出現

大小、さまざまなメディアが“課金”への取り組みを模索している。
多様化する課金ニーズに対応する柔軟なシステムが、
メディアのこれからの生き方を広げるはずだ。

2012年末に、ある“事件”が米国メディア業界の注目を集めました。
人気政治ブログで知られる Andrew Sullivan 氏率いるブログメディア The Dish が、Newsweek を買収したことで知られるデジタルメディア大手 The Daily Beast 傘下から独立すると公表したのです。

ブログメディアとはいえ、知名度・影響力ある Dish の移管が注目されるのは当然です。しかし、筆者が“事件”と書いたのは、その移管(独立)にともなって、同メディアが、Daily Beast 時代のビジネスモデルである広告を捨て、購読制の道を選択したというのが理由です。
さらに興味深いのは、同メディアが選択した“年間購読制”は、約20ドルととりあえず購読料を定めてはいるものの、それはあくまでメドで、支払額は読者の判断に委ねられるユニークなものだという点です(参照 → こちら)。

正直にいって、どのくらいの価格にセットすればいいかわからなかった。選択のための前例がない。しかし、19.99ドルは真剣な事業的アプローチからする最低限の価格ではあると思う。われわれは、納得感のある範囲で収入を最大化したいと願っているのだ。

こう Sullivan 氏は述べるとともに、このアプローチの結果、サイト独立公表から丸1日で12000人近くの購読者が集まり、30万ドルを超える購読料を集めたことも公表しています(参照 → こちら)。
要するに、平均約25ドルの支払いを購読者らは選択したというわけです。むろん、熱烈な“Sullivan 信者”が、初速値に大きく寄与しているのに間違いはありません。Sullivan 氏は驚きとともに、今後はサイト独立を知らなかったような人々からの購読料金が逓増する期待を述べています。

さて、本稿では中小のメディアサイトが課金制へと移行する手法について、新たな動向を伝えようと思います。
すでに、米国では New York Times をはじめとする数多くの新聞社系、雑誌系サイトで、“ペイウォール”(課金の壁)を設けることは認知されたトレンドへと発展してきています(米国新聞協会加入新聞では、すでに156媒体が導入している → 参照)。むろん、わが国でも同様に、日経新聞および朝日新聞などの電子版がそのトレンドをなぞっていることは周知の通りです。
筆者が当ブログで述べてきたように(参照 → こちら)、厳格な課金制は Web メディアにはなじみづらく、一般的な解として、一定の記事閲覧数以上を課金するようなメーター制、あるいは、無償閲覧記事の中に課金記事を盛り込むようなフリーミアム型モデルが当面主流となっていくでしょう。サイトへの読者アクセスを極力減らさずに課金収入を追加するアプローチが、これらだからです。

しかし、述べてきたような複雑なペイウォール事例は、体力のある大手メディア運営者が時間をかけて企画し、かつ大規模なシステム再構築という“伸るか反るか”の投資をともなうものというのが暗黙の前提でした。
ところが、本稿で取り上げた Dish では、大手新聞・雑誌社が大がかりに実施するようなプロプラエタリ(専用)なシステム投資は行っていません。代わって用いたのが、TinyPass という課金ソリューションです。
同社サイトに掲載された短い動画で、個々の記事を課金コンテンツとして公開するプロセスを確認することができます。

簡単に筆者が理解する TinyPass を説明しましょう。
TinyPass は、WordPress をはじめとするいくつかの一般的なCMSのプラグインとして提供されます。各記事を通常のように編集し、公開時に記事への課金を選択し、価格やダイアログに表示するメッセージなどを設定します。
設定を終えて公開すると、記事のタイトルやリード部分などの下に購買を促すアイコンが表示され、逆に記事の多くの部分が非表示となるのです。
一般的な CMS へのプラグインと書きましたが、API も提供されているため、簡単なコーディングでプロプラエタリな CMS からでも TinyPass の課金メカニズムを呼び出すことができます。
さまざまな課金モデルを選択できることも、特徴です。The Dish のケースのように、“寄付金”のような固定額ではない課金もサポートします。たとえば、以下のようにです。

  • 個別コンテンツへの課金
  • 月額/年額などの定期購読
  • 寄付金型課金(金額任意)
  • メーター制課金(サイト全体で無料閲覧記事数を定め、それ以上に課金)
  • 期間(時間)限定課金(あるいは非課金)
  • ファイルダウンロード課金
  • (たとえば筆者とメディアの間で)課金のシェア

TinyPass への支払いは、開発費用等は不要であり、各課金取引で生じる額の一定額を TinyPass 側が取得するというシンプルで透明なものです。

このように、あらかじめ適合範囲が広く柔軟性を備えた TinyPass は、特色ある課金モデルを実装したいものの、開発スタッフや開発投資予算を持ち合わせないというような中小サイト運営者には重宝しそうです。
冒頭で例に挙げた、Sullivan 氏の“寄付金型年間購読”モデルの実装も、この TinyPass を用いて実現しているのです(参照 → こちら)。

実は、コンテンツ課金を汎用的にサポートするソリューションは TinyPass に止まりません。同様のアプローチに Press+があります。こちらについても紹介しておきます。
同製品「For Publishers」ページを見ると、提供されている機能は TinyPass に遜色なく、著名 CMS プラグインがサポートされておらず、Press+ API 向けにコードを数行追加するのが前提になっていることぐらいが、実装上の差異と見えます。
Press+が、TinyPass に比べてメディア運営者に魅力的な選択に映るのは、むしろ、機能的な差異ではなく提供されるサービスのほうかもしれません。
「Analyze and adjust your meter to reach the optimal settings」(「貴社メディアのメーター制が適切な設定となるよう分析し調整する」)と訴えている箇所です。
たとえば、コンテンツ購読価格をいくらにセットすべきか? 購読有効期間をどのくらいにすべきか? メーター制で無料記事を何本閲覧可能にするか? など、コンテンツ課金制では考えるべき点、試行錯誤しなければならない点がいくつも残されています。
Press+が訴えるのは、同社の課金ソリューション利用サイトを横断的に分析し、上記のチューニングすべきポイントやベストプラクティス(それぞれの成果を集約した成功モデル)を、Press+ 利用メディア運営者に対して指南するとしているところです。

アプリ幻滅期を超えて モバイルアプリ開発、3つのブレークスルー」で、メディアがモバイルアプリを開発する際、個別に内製開発する手法がコスト上の重荷や経験不足が足かせとなり限界に突き当たっている状況に触れました。
そこで、およそモバイルアプリ型メディアで必要とされる機能などをあらかじめ備えた開発基盤を提供するサードパーティが現われ、アプリ開発コストや期間を圧縮するアプローチが潮流となっていることも解説しました。
コンテンツ課金についても、同様の状況が到来しているといえそうです。
先行する重量級のメディアビジネスが個別に内製開発してきた手法を、中小のメディア運営者も利用できるような汎用ソリューションとすることが必要になってきているというべきかもしれません。
マイクロメディアのビジネス化は可能か? Publickey のメディア戦略、全公開」で触れたような専門性の高い、マイクロメディアでこそ特色のある課金制が機能する可能性があります。広告予算が潤沢に見込めないような領域において、2013年は課金モデルに進展があるでしょう。
(藤村)