ニュースメディアの基本的な文法が変化しようとしている
変化は、読者のニュース消費が非習慣化していることに起因する
では、新たな方向性は何か。新興メディアの主張を聞く
“ニュースとは、もはや記事のひとつずつのことではなく、ひと固まりであり、ひとつの流れであるものをさしている”。
記事ひとつずつに丹精込めて取材、執筆しているジャーナリストにとっては、こんな論調ははなはだしく違和感あるものでしょう。
丹精した記事のひとつずつが、結果として読者を感銘させ、読者とのエンゲージをつかさどる。このような信念があることは当然です。
しかし、“コンテンツこそ王様”を是とする一方で、メディア(ビジネス)は読者のコンテンツ消費の文脈的な変化に追随しなければなりません。
それは、“仕組みとしてのメディア”再構築に着手しなければならないことを意味します。
そしてそれは、15年ほどは続いてきた検索エンジンと個々のコンテンツとで築き上げる蜜月と異なる文法を用いることになるはずです。
さて、冒頭に掲げた乱暴な命題をメディアビジネスの側に引き寄せて、少していねいに言い換えてみましょう。
“読者によるニュースの消費は、いまや記事ひとつずつの選択としてではなく、ひとまとまりの連続した情報の流れや波のようなものを対象としてなされている”。
これは、テレビやラジオのニュース番組を連続的に視聴している状態に酷似しているといえば、理解しやすいはずです。
Poynter. 掲載「Here’s why thinking of news as atoms and waves can grab readers」(ニュースを原子やウェーブとして考えることが、読者をつかんで離さない理由はこれだ)が、ニュースコンテンツの消費スタイルの変化をめぐって的確な整理を行っています。
記事は、米国で10月に開催されたカンファレンス内のパネルディスカッション「Optimizing Your Narrative: An Exploration of New Story Formats」(あなたのストーリーを最適化する:新たなストーリー用フォーマットの探求)のエッセンスを紹介したものです。
記事は、まず Vox Media、Quartz、そして Circa といった新興メディア企業が、ニュースをより多く読んでもらえるようなフォーマットの開発に取り組んでいると述べます。
その方向性とは、読者がつねにモバイル上においてニュースを消費できるような方向であり、さらに(ニュースを読むような)習慣的な時間の外にあっても、消費に向かってもらえるようにするというものです。
それが、ニュースを一つずつの記事としてではなく、ひとつの情報のストリーム、もしくは波のようなものとして接し消費するというものです。
Vox Media のプロダクト担当幹部はこう述べます。
人々がひとつのストーリーをシンプルにフォローしたいと思うとき、ばらばらの記事ページでは用をなさない。
Vox でそれを果たすのはストリーム型のニュース更新情報だ。コンテンツを時系列降順に並べることで、読者が最新情報や投稿を追いかけられる。
Washington Post や Reuter など他のメディアも、同じようにタイムラインやストリームのフォーマットで提供をするようになっている。
また、記事ではストリームのようなアプローチとは別の方向として、読むべきコンテンツをひとまとにする“まとめ”手法があり、また、記事を細分化して紹介する手法があるとします。
(たとえば、ニュースアプリの)Circa ではニュース記事のヘッドラインと記事の短い要約をスマートフォン向けに届ける。
また、国際経済情報をカバーする Quartz では、読者に対し短い要約版か、あるいは、長文の解説記事を読むのかの選択肢を提供している。
Quartz の編集幹部は、次のような示唆的な意見を述べています。
メディアの運営者は、読者におけるニュース消費の変化に早く取り組まなければならない。
ニュースの読者はこれまで、習慣的に定まった時間帯にニュースをチェックしてきたが、いまは、随時、気ままにチェックするようになっている。
“ニュースを閲読する習慣は、もはや存在しないのだ”。
人々は、ニュースを読んでいるとも言わないだろう。というのも、彼ら読者は、ニュースを求めて(プル)、ニュースサイトを訪れたり、新聞を購入したりはしなくなった。
代わって、Twitter や他のソーシャルサイトをフォローする。ニュースがつねに提供(プッシュ)される状態にあるのだ。
これらの動向はすべて、ニュース(という情報)を小さく作り、アトム化し、読者に消費されやすくすべきことを立証している。
記事は、このような論調を補強する例として、米で躍進中の新興メディア Business Insider の記事見出しの付け方、また、2011年に New York Times の記事で最もクチコミされたニュースは、“記事”ではなく東日本大震災の被災地を撮影した衛星写真だった……などを挙げています。
関心ある方は、ぜひ記事を直接参照してください。
改めて本稿の主題に立ち返れば、数々のニュースを日々提供し続けるビジネスという点で、読者を引き寄せ離脱させないためになすべきことは、ニュースコンテンツひとつずつでの差別化を推進するのとは別に、読者のニュース消費文脈の変化に適合することです。
ユーザーは、価値のあるコンテンツを手に入れることの満足と同じくらい、自分の好んだ時間、場所、そして方法で、そのコンテンツに触れられることに重きを置いていると理解すべきでしょう。
記事でも触れられているようなメディアの新たな取り組みが、そのような読者の価値観の変動を端的に示しているのです。
参考: