テクノロジーがメディアを変える/“台風の目”となるか? 新たな出版システム

米国では、既存メディアを離れて続々
新たに特徴的なメディア、ジャーナリズムが誕生している。
本稿は、そのような起業家精神に満ちたジャーナリストを魅了する、
注目の出版技術の動向について触れる。

先ごろ、米 Vox Media は、事業を停止した Web サービス Editorially の中心メンバーら4人を迎え入れたことを発表しました。 Vox Media は、傘下に Vox.comThe VergeSB NationEater など、各分野で特色と実績を誇る7つの成長メディアを擁したメディアコングロマリットベンチャーです。
特にこの4月には Washington Post(WaPo)を離れて自らの新メディア開設をめざしていた著名ジャーナリスト Ezra Klein 氏を主幹にすえた Vox.com をフラグシップとすることでさらに話題性を高めています。
一方の Editorially は、Web やモバイル上で執筆、編集、出版を協調的に行える新しい出版サービスの提供をめざしていました。
惜しいことに事業としては軌道に乗らず、この5月にはサービスを停止していました。
Vox Media のスタッフブログによれば、同社は Editorially の創業、中心メンバーを吸収するものの、その事業やユーザーは引き継がないことを明言しています。その点で、まさにメンバーの採用発表といった趣きです。

では、米国メディアのとある人員採用がどうしてここで重要なのでしょうか?
その説明のためには、Ezra Klein 氏の話題に戻らなければなりません。

WaPo で政治をはじめ、いくつかの分野のカバーや、WaPo 配下の人気ブログサイト Wonkblog を主宰して知名度の高かった Klein 氏。
同氏が WaPo を飛び出してまでして自らメディアを運営しようと決意した背景には、むろん同氏が試みたいメディアの方向性があったことに違いはありません。
それはすでに開設から約2か月を経た Vox.com がそれを体現しています。 「ニュースを理解する」とのキャッチコピーの下に、「Aereo 裁判で知るべきすべてのこと」「GDP について知るべきすべてのこと」など、注目の話題を、いくつもの視点に分けたカードのように簡略化して解説していきます。
それは、新しいフォーマットを駆使した“解説型ニュースメディア”の誕生と理解できます。

Vox.com "Everythig you need to know about the Aereo case"

Vox.com “Everythig you need to know about the Aereo case”

その Klein 氏が Vox Media に参画するにいたった理由として、注目すべきことを New York Times(NYT)に述べています。
記事「Vox Takes Melding of Journalism and Technology to a New Level(Vox、ジャーナリズムとテクノロジーの融合を新次元へ) から紹介します。

「(Vox Media との)最初のミーティングで、われわれはここに参加すべきと理解した」と彼(=Kline 氏)は言う。「われわれが発明しなければならないと考えていたテクノロジーを、彼らは持っていたんだ」。(同記事より)

ここで“テクノロジー”と呼ばれるているもの、それは Vox Media が擁する元気の良い、個性溢れる各種媒体に共通する出版システム、同社の CMS(Content Management System)のことです。
それを同社は“Chorus(コーラス)”と呼びます。 Kline 氏が参画を決意した重要な動機が、Vox Media が運用している Chorus にあったという点について、記事はこう述べます。

WaPo は素晴しい出版だと、彼は言う一方、印刷物として毎日発行される新聞というものが、そのジャーナリズムの慣習に深く根ざしており、そして出版システムに反映されていると言う。
つまり、それは日刊紙を出版するということをまず優先する。 そして、彼および同時に WaPo を離れることになった同僚は、この点でまったく新しいなにかを創り出したいと欲していた。
それこそが、彼らが Vox Media と提携した理由である。Vox Media は、SB NationThe Verge などのサイトを擁した、日の出の勢いのデジタルメディア帝国であり、彼らが探していたものを持っていたのである。(同記事より)

記事は続いて、このような新しいテクノロジー主導の出版システム(CMS)が、急成長する、たとえば、BuzzFeed など新興メディアの背景にあると指摘します。

テクノロジーはすべての編集組織にとって決定的に重要な要素になっている。
だが、すべてのテクノロジーは同じようにデザインされてはいない。 印刷メディアの時代に生まれた編集組織では、Web サイトを運営するにも、長年、グラフィック、ソーシャルメディア、そしてユーザーコメントなどをスムーズに統合せず、別ものとして組み合わせてきた。

(一方、)完全デジタルの編集組織は、自身の CMS をいちからインターネット上に創り上げてきている。彼らの戦略は、多くの人々が語るように、“ジャーナリズムとテクノロジーを、より一層有機的に統合していくこと”にある。……

「多くのジャーナリストは、彼らに与えられている出版システム(CMS)を憎んでいる」と、Kline 氏とともに WaPo を飛び出した WaPo の元プラットフォーム担当幹部 Melissa Bell 氏は語る。 「Chorus は背中に子猫を乗せた一角獣、というジョークがある。というのも、すべての課題をそれは解決してしまうのだから」と。(同上)

たとえば、最近外部に漏えいして話題となった NYT の内部改革レポート「INNOVATION(イノベーション)」には、こんなか所があります。

NYT では、記者や編集者が“出版”ボタンを押せば、仕事は終わりになると、Huffington Postの創業メンバーの Paul Berry は述べている。
だが、Huffington Post では、“出版”ボタンを押してから、記事のライフサイクルが始まるのだとする。(「INNOVATION」より)

ここで、内部からの改革視点で述べられているのは、読者やソーシャルとどう関わっていくべきかという点で、編集者や記者の職業意識や内部組織論の旧態依然性を明るみにしているのですが、同時に、これは出版テクノロジーの課題を語ってもいるはずです。

さて、Editorially チームの話題に戻りましょう。実はこれを発表したスタッフブログの執筆者こそ、Vox Media にて Chorus の設計開発を率いてきたチーフプロダクトオフィサーの Trei Brundrett 氏であることは、象徴的です。
本稿の最後に、テクノロジーでメディアを主導していく気概を示す Brundrett 氏の主張をブログポスト「Editorially Joins Vox MediaEditorially、Vox Mediaへ参加)」 から紹介します。

われわれの会社はブロガーによって創り出された。
(Vox Media が擁する)7つのメディアの編集長や有能な編集者はブロガーとして出発した。
われわれは何者であるのかと説明する際に、この背景は重要だ。
多くのメディア企業が、Web 出版の課題を社内の IT 部門に任せきりにするのとは異なって、われわれは、どのように記事を伝え、読者コミュニティを Web にどう創り上げるのかを知り抜いたブロガーとの繰り返しの会話を通じて、プラットフォームを創り上げてきたのだ。……

われわれは、多くの技術系企業と同様のアプローチでプロダクトを開発する。それはユーザー体験に焦点を当て、迅速でデータ指向によるものだ。(同ブログポストより)

このように述べた上で、同社のユーザー中心のメディアデザインとテクノロジーに向かう情熱を共有できる仲間として、事業としては挫折を経験したEditorially の創業チームを、最大限の形容詞を用いて誇らしげに紹介していきます。
ブロガーの間では、MediumHi などに代表される新しいタイプのブログ(CMS)プラットフォームなどの隆盛が見えてきています。
テクノロジープラットフォームを競争優位のテコとする同社は、そのリードを拡大するために、ソーシャルな出版システムにチャレンジした Editorially のエッセンスも取り込んでいく戦略のようです。

同時にそれは、テクノロジーがメディアを変革する駆動力になるとの誇りと確信に満ちた精神の高揚を伝える発表だといえます。

■ 参考:

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