Disruption This Week—–26/1/2024

目に止まったメディアとテクノロジーに関する“トピックス”。2024年1月25日から2024年1月26日まで。

How AI could sap — or save — local news - Poynter
「ここにアイデアがある:2.6兆〜4.4兆ドルの経済価値を生み出すとされ、数十億ドルの投資を受けているジェネレーティブAI部門は、2万5,000人の地元記者を支援する資金を援助すべきだ。地元に特化したジェネレーティブAIサービスを実際に提供することができるようになる」。

——ある米ローカルメディアの経営者が語る、ジェネレーティブAIが抱える数々の課題。反則かもしれないが、同氏が最後に述べるポジティブな提案。ネガティブな論点を読むのも良いし、最後のポジティブなアイデアを検討するのも良いと思う。

サムスン、AIスマホで巻き返しなるか
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「サムスンにとって賭け(=オンデバイスAIへの賭け)の度合いは大半の企業より高いと言えそうだ。同社は長い間販売台数に関してスマートフォン市場で首位の座にあったが、2023年に販売が大きく落ち込み、初めてその座をアップルに譲った」。

——オンデバイスAIのトレンドが、これからのスマホやスマホ外のスマートデバイスにどのような影響を与えるか? AI処理がリアルタイム化することで、これまでは“SF的”だったようなサービスが可能になる先陣を切ったサムスンは、そのフロンティアを行くかもしれないが、悪い冗談として終わることさえある。
同社にとって(スマホ分野においては)社運を賭けた戦いになるのかもしれない。

読売新聞、Web記事の“生成AIへの学習利用”を禁止に 利用規約を改定 スクレイピングなどもNG
「禁止事項として新たに3点を追加。『データマイニング、テキストマイニングなどのコンピュータによる言語解析行為』『クローリング、スクレイピングなどの自動化した手段でデータ収集や抽出、加工、解析、蓄積などをする行為』『生成AIなどに学習させる行為、生成AIなどを開発する行為』を禁じた」。

——ご存じ米国でのNew York Timesらによる訴訟問題なども背景にした厳しい動き。一方で、記事にあるように「これらの禁止事項を含めた情報解析のために、同メディアの記事を利用したい場合は、読売新聞とライセンス契約を結ぶ必要があるとしている」という道を残しているわけだが。

アップル、アプリストア開放で手数料を計画
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「米アップルは、スマートフォン『iPhone(アイフォーン)』に外部ストアからサードパーティー製アプリをダウンロードできるようにする一方、新たな手数料と制限を導入する方針だ」。

——WSJのスクープ記事。ただし、適用されるのは欧州市場だと記事は述べている。もともと「アップル税」をオフロードされるなら、別途30%に限りなく近い仲介料を取る動きがあると報道されていたので驚きは少ないのだが。

食べログが逆転勝訴 アルゴリズム変更「合理的」、独禁法違反認めず:朝日新聞デジタル
「(原告は)『評点を下げることになるアルゴリズム変更をしない義務があった』とも新たに主張していた。
だが、高裁は『原告が契約上、アルゴリズムの変更について、何らかの権利や法律上保護される利益を持つとは認められない』として退けた」。

——この辺りは重要な論点として、今後も検討されていくことになるのだろう。

How The Guardian raised a record amount of reader revenue in the U.S.
英The GuardianのUS版は、北米の読者から通年でおよそ3000万ドルの寄付収入を獲得。米英全体でも1/3が北米からの収入だという。同メディア編集部が読者に訴求するメッセージに加え、募金総額以上に重要視してきた指標などを解説した記事。
Netflixの純利益17倍 2023年10〜12月、会員増最高の1300万人 - 日本経済新聞
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「売上高が前年同期比12%増の88億3200万ドル(約1兆3100億円)、純利益が17倍の9億3700万ドルだった。アカウント共有の禁止や広告付きの安いプランを広げたことで、会員数は12月末までの3カ月間で約1300万人増え、増加幅は10〜12月期として過去最高だった。3四半期連続で増収増益を確保した」。

——ポイントは、1) 不正なアカウント共有の取締策、2) 広告表示付き廉価版の好調、およびそれに連なる施策ということのようだ。一方でNetflixを追っていたはずの他ストリーミング勢は足もとの業績および投下資金の減少で、息切れを起こしつつあるようだ。

Los Angeles Times to Slash Newsroom by Over 20%
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米The Los Angeles Times(LA Times)が115名に及ぶ記者・編集職の削減を公表。2018年に富豪Patrick Soon-Shiong氏が買収してから初のレイオフ。
同氏は「われわれはほぼ10億ドルを投資し、その遺産を守り、その未来の確保に献身してきた」と述べる。
「フェイクニュースの年」2024年にファクトチェックは役に立つのか?
「デバンキングの介入は、新型コロナの誤情報について、参加者の識別力を向上させ、信じやすさを低下させるのに役立った。19件のデバンキングの介入のうち16件(84%)で、参加者が誤情報を信じることや正確性の判断を改善した」。

——平和博さんのブログから。ファクトチェックの無力、脆弱さを指摘する声がたびたびあがる。実際、技術支援なければ無力だったりする。その意味では、銀の弾丸探しから、社会に遍在する点と点を結んでいく仕事の重要性も増す。それも技術的な可視化支があると効果的なのだが。

Infographic: Where False Information Is Posing the Biggest Threat
“選挙イヤー2024”を迎えた世界。世界経済フォーラム(通称ダボス会議)開催に合わせて、世界34か国で生じる偽誤情報リスクの度合いを専門家チームが分析。データビジュアル化のstatistaがインフォグラフィック化してわかりやすい。色彩濃度でそのリスク程度も表現している。

Disruption This Week—–19/1/2024

目に止まったメディアとテクノロジーに関する“トピックス”。2024年1月15日から2024年1月19日まで。

EU calls for laws to force greater algorithmic transparency from music-streaming platforms | TechCrunch
欧州議会、ストリーミング事業者に推奨アルゴリズムの公開を強制する新法案を採択。欧州全域での音楽ストリーミングにさらなる公平性と透明性をもたらす新たなルールを求める。と同時にAI生成によるコンテンツの明示化、収益分配の公平性なども求める。
レトロかわいいAIデバイス「rabbit r1」を体験--新たなトレンドを作れるか?
「Lyu氏(「rabbit r1」を開発した創業者Jesse Lyu氏)は、スマートフォンとは独立した、専用のデバイスの必要性を感じている。その方が、気が散らなくていい。スマホで同じことができるからといって、その方が操作性に優れているわけではない、とLyu氏は主張している」。

——ジェネレーティブAIを組み込んだ新たなハードウェアへの期待は、要するに“スマホをいじりすぎ”という問題へのアンチテーゼだったか(笑)。実際、私は寄る年波もあって目を使わない入力(まあ、音声ということだ)への期待値が高いのだが。

「TVer」月間4億再生に迫る 3割がテレビで見た 23年12月
「TVerは、民放のテレビ番組をネット配信するサービス『TVer』 (ティーバー)で、2023年12月の月間ユニークブラウザが3129万(前年同月比を約124%)に達し、初めて3100万を超えたと発表した。再生数は3億9800万回超(同約150%)と、4億再生に迫った」。

——「TVer好調」という話題。だが、一方のYouTubeは、Googleの発表に拠れば、昨年半ばで国内7,000万MAUということだ。また、その半分がコネクティッドTVでの視聴だともしている。

Apple、米国版App Storeポリシー改定で外部決済へのリンクを可能に ただし……
「アプリ外決済をめぐって長年Appleと争ってきた米Epic Gamesのティム・スウィーニーCEOはこの変更について、27%の手数料は『反競争的』であり、外部サイトに移動する際に表示される画面はユーザーを怖れさせると批判した」。

——Epic GamesとApple間の係争は、アプリストアを運営するAppleに譲歩を迫る結果となった……かと思いきや、アプリ事業者に外部決済を認めたとは言え、ユーザーを震え上がらせるような警告を表示をしたり、事業者に27%もの手数料を請求するなど、実質上、外部決済を無効化するような対抗策を打ち出している。いやはやなんとも。

Newsroom Meddling, Money Woes: How A Billionaire Owner Lost His Star Editor at the Los Angeles Times | Exclusive
昨日紹介したばかりだが、米LA Timesのスター編集長Kevin Merida氏の退任をめぐる話題。米メディアThe Warpは、富豪オーナーPatrick Soon-Shiong氏が編集部や編集長の独立性を守らず干渉を行ったこと、経営再建策の欠如などが原因とする内部の6人の声を紹介する。
Thomson Reuters is exploring an AI deal as more tech giants court news publishers
法律、税務、会計など専門情報で世界大手のThomson Reutersが、やはりジェネレーティブAI企業との提携交渉を進めているとの報道(報道元はBloomberg)。専門情報メディアはAI企業にとって宝の山だろう。どのAI企業と交渉中かという情報は開示されていない。
The incredible shrinking podcast industry | Semafor
Apple、ポッドキャスト市場に大きなインパクト。同社純正ポッドキャストアプリの自動ダウンロード機能を見直し、最近ほとんどポッドキャストを聴かないユーザーにはダウンロードしない。
これにより累積的に水ぶくれしてきた市場の指標は劇的に収縮することに。老舗タイトルほど影響を被るとする記事。著名なポッドキャストタイトルではダウンロード数を40%も減らした例もあると指摘。
日経BPのデジタルメディア、有料会員数が15万人を突破
「日経ビジネス電子版は6万7510人、日経クロステックは5万1406人となり、4媒体がそろった2019年から年平均12%の増加となります。専門媒体として年間2万本以上の記事コンテンツを公開し、ビジネスに欠かせない情報プラットフォームを目指してきた結果です」。

——「なお、4つの媒体を複数併読する有料会員の方々も1万人超に達しています」とあるので、重複を省けば15万人程度となるのかもしれない。ともかくも、さすがだという印象。逆の見方をすれば、あれだけ潤沢な印刷媒体を取り揃えていた同社が得た読者データが15万人だったということでもあるが。

Netflix Games gains traction with installs up 180% year-over-year in 2023, thanks to GTA and others | TechCrunch
2年前、ゲーム分野への参入を本格化した米Netflix、調査会社Sensor Towerによると、2023年、Netflixゲームのダウンロード数は前年比180%以上増加した。同社のゲーム「GTA」は配信開始後1週間足らずで、3本合わせて640万ダウンロードを記録しモバイル分野を牽引している。
Instagram創業者のAIニュースアプリ「Artifact」、2月で終了
「シストロム氏はブログで、『コアユーザーに愛されるものを構築してきたが、継続的な投資を正当化できるほど市場機会は大きくないと結論付けた』と説明した。
コメントや投稿の管理と監視にかなりのリソースが必要であることも撤退の一因のようだ」。

——Instagram創業者らによる新たなニュースアプリということで、注目された「Artifact」が事業終了に。新しいAIアプローチに期待したのだが。個人的には同アプリのUIはあまり感心しなかった。

Disruption This Week—–12/1/2024

目に止まったメディアとテクノロジーに関する“トピックス”。2024年1月1日から2024年1月12日まで。

声で指示すれば、あとのアプリ操作は“AIウサギ”におまかせ 小型AIデバイス「rabbit r1」登場
「rabbitsは、最新情報を検索するといった単純なタスクから、次の旅行のオプションを徹底的に調べて予約したり、ネットスーパーのカートに商品を入れて購入したりといった、複雑なデジタルタスクを処理できるという」。——開催中のCES2024で、ジェネレーティブAI活用に特化した新たなハードウェア+サービス製品が登場した。「たまごっちなどのレトロガジェットを彷彿させる」デザイン。独自のLLM(オープンソース利用?)で動作し、外部の各種アプリやサービスとの連携を、現在トレーニング中だという。200ドル程度と買いやすい価格設定からか、すでに予約で1万台を受注。

Netflix’s Ad Tier Now Has More Than 23 Million Monthly Active Users, Advertising Chief Says
米Netflixの広報担当幹部、広告表示付き廉価版NetflixのMAU(月間アクティブ数)が全世界で2,300万人を突破と説明。2か月前の1,500万人から急増。全世界12か国での新規契約者数の3割がこの廉価版層。エンゲージメントも高く、この層の利用者は85%以上が月に2時間以上視聴しているという。
オープンAIがCNNやFOX、タイムと交渉-コンテンツ使用巡り
「米オープンAIはニュースコンテンツのライセンス取得を目指し、CNNとFOX、タイム誌と交渉していることが複数の関係の話で分かった。オープンAIは著作権侵害疑惑に直面しながらも、AI製品を構築するためコンテンツへのアクセスを確保する取り組みを広げている」。——New York Timesによる提訴とは並行して、OpenAIは多くのメディア(報道機関)との提携交渉を進めている…ようだ。TimeのCEOは交渉を認めたが、あげられた他のメディア関係者はコメントしていない。交渉の存在をリークする動きも含めて微妙なバランスでメディア業界は動いている。

OpenAI launches a store for custom AI-powered chatbots | TechCrunch
OpenAI、開設が遅れていた「GPTストア」の開設をアナウンス。ChatGPTの表紙部分に「By ChatGPT」という項目でサードパーティ製GPTアプリ多数示される。記事によれば現時点では、サードパーティがアプリに課金できないが、今後課金も可能になる見込みだ。

Journalism, media, and technology trends and predictions 2024

Reuters Institute for the Study of Journalism

Journalism, media, and technology trends and predictions 2024
Reuters Institute、「2024年のジャーナリズム、メディア、テクノロジーのトレンド予測」を公開。50以上の国から300名以上のメディアリーダーから聴取。
「1.ジャーナリズムにとって今年も困難な年に」「2.プラットフォームシフトとリファラルモデルの終焉?」「3.人工知能時代の検索の未来」「4.ジャーナリズム・ビジネスはさらなる激変に直面する」「5.ニュースの形式が変わる:音声と動画が増える」「6.ニュース断絶と選択的ニュース回避」…と刺激的な項目が続く。
How Google perfected the web
「インターネットは少しずつ、Googleのイメージ通りに作り変えられている。そして、その結果に対処しなければならないのは、機械ではなく人間なのだ」。
Google検索が支配するWeb。検索結果の上位をめざし最適化を繰り返すことで、すべてのページがGoogle好みになってしまった。米Vergeが実験的にWebページを制作してさまざまな問題点を指摘。
この記事自体、動的なページ、ビジュアルづくりはなかなか魅せるものになっている。
Americans Are Canceling More of Their Streaming Services
【有料購読者向け記事】:
米消費者のストリーミングサービス解約が加速。調査会社Antennaによると、Apple TV+、Discovery+、Disney+、Netflixといった主要サービス加入者の内4分の1が過去2年間に3つを解約。2年前には15%だった。背景に値上げと広告付き廉価版の台頭がある。

The New York Times’ AI Opportunity

Stratechery by Ben Thompson

The New York Times’ AI Opportunity
「New York Times AIをめぐる機会(チャンス)」。ブロガーBen Thompson氏が自身のブログで、NYTがOpenAIを訴えた件で、長文の論考を公開。
「フェアユース」が論点となるが、NYTのプロンプトによりChatGPTがWirecutterの記事をそのままダンプしてしまった点に勝利の可能性があるとする。OpenAIはそれを“バグ”として修正済みと主張するわけだが。
(サムネールで赤字が並記されているのが、原文とGPT-4が出力したものが、これだけ共通していると主張している箇所)
OpenAI and journalism
OpenAIがNew York Timesによる提訴に反論。
その骨子は、1) 報道機関と協力し、新たな機会を創出している。2) 学習はフェアユースであり、オプトアウトを提供している。3) (指摘されている、記事をそのまま吐き出す)“問題”は稀なバグで、それをゼロにするために取り組み中だ。4) 同紙は全容を伝えていない、といったもの。
出版状況クロニクル188(2023年12月1日~12月31日) - 出版・読書メモランダム
「23年11月の書籍雑誌推定販売金額は865億円で、前年比5.4%減。
書籍は493億円で、同2.9%減。
雑誌は372億円で、同8.5%減。
雑誌の内訳は月刊誌が313億円で、同9.2%減、週刊誌は58億円で、同4.2%減」。——2023年の1〜11月の書籍および雑誌の(推定)販売の動きがわかる。12月分はこれからだが、23年も9・10月のいくぶんのプラスを除いて壮烈な状況。