Disruption This Week—–29/12/2023

目に止まったメディアとテクノロジーに関する“トピックス”。2023年12月25日から2023年12月29日まで。

How Artificial Intelligence Will Change in 2024
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米InformationのやはりAI論説担当のStephanie Palazzolo氏が2024年のAIを展望。1) OpenAIとMicrosoftは仲違いへ、2) AI企業のM&Aが活発に、3) 高コストで雑なTransformerベースのAIから代替手法が台頭、4) 大統領選がAIで混とん化、5) AIハードウェア新潮流へというラインナップだ。
アルトマン氏ら、AIデバイスでアップルのベテラン起用-関係者
「アップルを退社する幹部のタン・タン氏がこの取り組みの一環としてアイブ氏のデザイン会社ラブフロムに加わり、同社は新製品の外観と機能を形作る。アルトマン氏はソフトウエアの基盤を提供する計画」。

——すでに紹介した話題だが、元Appleのデザイナー主幹であったジョニー・アイブ氏(iMacやiPhone、iPadの製品デザインをリードしたとされる)と、OpenAI CEOのサム・アルトマン氏が組んで、ジェネレーティブAIを駆使するハードウェア製品を創るとのプロジェクト。記事は、このプロジェクトにやはりiPhoneとApple Watchデザインを担当タン・タン氏が加わるという話題。
まだ、まったく先行きがつかめるところにきていないが、もし、具体化するとすれば興味津々だ。

New York Times Co.’s OpenAI-Microsoft Suit Is a Negotiating Tactic
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米New York TimesがOpenAIとMicrosoftを訴えたが、「これは交渉戦術だと考えるべきだ」と米The Information論説委員Cory Weinberg氏が述べる。かつ、NYTにとって「危険」な戦術でもある。裁判の動きによっては、交渉上の優位性を失いかねないとする。
記事は、「著作物の限定的な利用を認めるフェアユースの原則が人工知能モデルにどのように適用されるかをめぐって、Times紙が裁判を起こすのはあまりにも危険だ。裁判所は、OpenAIが合法的に運営されていると判断すれば、Timesが求めるライセンス収入の一部を得ることができなくなる」と述べる。
How one of the world’s oldest newspapers is using AI to reinvent journalism
「世界最古の新聞社がAIを活用してジャーナリズムを改革する方法」。英Worcester Newsは、1690年創刊の老舗ローカル紙。「AIアシスト記者のおかげで、編集部の他の記者は、裁判所に行ったり、議員に会ってコーヒーを飲んだり、村祭りに参加したりできる」と同紙編集者は語る。
The Times Sues OpenAI and Microsoft Over A.I. Use of Copyrighted Work
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米New York Times、OpenAIおよびMicrosoftの両者を、同社の「数百万の記事を、信頼できる情報源」としてChatGPTなどのAIに学習させたことを、「価値ある著作物を違法なコピーで使用」したと提訴。生成したLLMやトレーニングデータの破棄を求める。当該New York Timesによる報道。
TikTok teams up with fact checkers to stop election disinformation on site
TikTok、1月に行われる台湾総統選をめぐり、TikTok上の偽情報の拡散を抑止するなどの目的で「2024年選挙ガイド」を策定。台湾のファクトチェック団体MyGoPenとパートナーシップを提携。選挙の中立性を守るため、公式情報への誘導、真偽確認のヒントなどを提供していくという。
TikTokの親会社が中国大陸発であることを考えると、興味深い動きだ。
Emplifi Reports Instagram Reels Outperformed All Other Video Content Across Instagram, Facebook, and TikTok
SNSマーケティング支援プラットフォーム提供の米Emplify、Instagram、Facebook、そしてTikTokの動画によるマーケティング効果を比較調査。中でもInstagram Reelsの効果が最も高いとし、その長尺化で、短尺と比較して広告主により多くのエンゲージメントを提供しているとする。短尺動画全盛から、中・長尺化への動きがここでも進展。
イスラエル・パレスチナ問題の100年を読み解く 「三枚舌」起点に - 日本経済新聞
【有料購読者向け記事】:
「問題の根っこには、100年以上前の英国による『三枚舌外交』がある」。

——日経新聞が3つのグラフィックと3つのQAで難しい問題を分かりやすく解説する試み。“お子様向け”の体だが、もちろん、実は大人が難しいと感じているニュースを解説する試みだ。

Apple Explores A.I. Deals With News Publishers
【有料購読者向け記事】:
これはちょっとした衝撃のスクープ。
ジェネレーティブAI関連で音沙汰のなかったAppleだが、水面下で、著名メディア(出版社)とAI学習のための許諾交渉を進展させているという。複数年で5,000万ドル規模だと米New York Timesが報じた。提案を受けた企業には冷淡な対応を示しているところもあるという。
Online searches to evaluate misinformation can increase its perceived veracity - Nature
「誤報を評価するためのオンライン検索は、誤報の信憑性を高める可能性がある」と、科学雑誌「Nature」に掲載された新研究。情報の真偽を確かめるべく検索を行うことで偽情報をより信じてしまうと、5つの実証実験。
(パブリックエディターから 新聞と読者のあいだで)読みやすさへ、スマホ仕様の編集を 藤村厚夫:朝日新聞デジタル
【ご紹介・有料購読者向け記事】:
朝日新聞パブリックエディターとしてのコラム第2回目を執筆しました。個人的に、「新聞(の記事)は難しい」のが課題だと思っています。が、多くの人は「難しい」とは言いません。悩みつつ裾野からアプローチしてみました。
ビートルズの「新曲」発売にAIの力 - 日本経済新聞
【ご紹介】:
日経MJ紙への寄稿が、日経電子版に転載されました(大部時間が経っていますが笑)。よろしければご一読を。➡ ビートルズの「新曲」発売にAIの力

Disruption This Week—–22/12/2023

目に止まったメディアとテクノロジーに関する“トピックス”。2023年12月18日から2023年12月22日まで。

I gave ChatGPT the last 13 years of Nieman Lab predictions
こちらもカスタムChatGPTを用いたジャーナリズムへの応用を試したとする論説。「箇条書きを段落に展開したり、記事を要約に収縮させることができる。ニュースレターのプレビュー用の要約や、通知用の短いフレーズなどだ」など実践的に使えることを述べる。
また、過去Nieman Labが掲載した1,369本の将来予測記事を学習させ、それによる検証を行ったところ、正解と誤回答を得たとレビューする。こちらも興味深い。
How less, not more, data, could help journalism | Semafor
米Semafor記者らが、カスタムGPT作成ツールを使い、3種のAIボットを実験的に開発。分かったことは、少量データでもLLMを効果的に構築することができること。もっと言えば、適切にデータを絞るのが有用ということだ。記事は、「ジャーナリズムを変えるかもしれない」とする。
The obsession with “trust” will end
報道メディアが、読者に自身への「信頼」を闇雲に求めるのは間違っていると語る英ジャーナリズム研究者。
「読者にあなたの働きを示し、あなたの間違いを認め、訂正しなさい。知らないことを正直に述べ、読者が興味を持っていることに耳を傾けなさい」と述べる。
AIと著作権、明確化の一歩 データ検索や回答生成「許諾必要な場合も」 文化庁「考え方」素案:朝日新聞デジタル
【有料購読者向け記事】:
「今回示された素案では、生成AIによるデータ検索や回答の生成は、著作権法上許諾が必要となる場合もあると記した。また、生成AIによる学習をパスワードなどで防いでいるデータベースの著作物に対し、それを回避して学習させることは、法の定める『著作権者の利益を不当に害する場合』に該当するとした」。

——ある種のガイドラインの働きをする、考え方を示したというもの。案外影響力を及ぼしそうだ。

TikTokのバイトダンス、23年売上高1100億ドル突破へ-テンセント抜く
「短編動画投稿アプリ『TikTok(ティックトック)』で知られる中国のスタートアップ、字節跳動(バイトダンス)は、2023年の売上高が1100億ドル(約15兆7800億円)を超える可能性があることが関係者の話で明らかになった」。

——米、インドなどで叩かれつつ、それでもTikTokパワーは止まらない。中国国内でも最大級の企業へと成長。

広告掲載料は0円。3万部がすぐに在庫切れ。京都の型破りフリーマガジン『ハンケイ500m』編集長/円城新子さん【編集者の時代 第8回】|クリエイティブのコアとカラーに迫るメディア「CORECOLOR〜コレカラ」
「円城:ハンケイ500mは、京都のあるバス停を起点に半径500mのお店を紹介するマガジンです。なので、まずは編集部のメンバー数人で、その範囲を歩きます。普段の歩くスピードより、ゆっくりと。そして、ここ、面白そうという『触覚』が反応したお店に入る」。

—— 古幡さんの「出版業界ニュースまとめ」の紹介で見つけた記事。一気に読んでしまうのが惜しいような楽しいインタビュー。

Inside The New York Times’ Big Bet on Games
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「いまや、New York Timesは、たまたまニュースも提供するゲーム会社でもある」。社内で冗談めかして語られるほど、「Wordle」「Connections」「Spelling Bee」と同社はゲームがもたらす収益に賭けている。同部門の人員は約100名となった。
EU、DSA(デジタルサービス法)違反の疑いで正式にXの調査を開始。調査の主要対象は、イスラエル・ハマス間の先頭をめぐる違法性の高いコンテンツ。その他にも研究者へのデータ提供、コンテンツ監視態勢、広告をめぐる透明性その他も調査される。
News Publishers See Google’s AI Search Tool as a Traffic-Destroying Nightmare
【有料購読者向け記事】:
米メディア「Atlantic」のタスクフォースの調査では、Google検索に、新たなにAIによる検索が導入されれば、ユーザーのクエリに対する完全な回答を提供してしまう。同サイトは、そうでなければ得られたであろうトラフィックを75%の確率で逃してしまうことがわかったとする記事。検索からのトラフィックに依存していたメディアはその脅威に怯えている。
TikTok is pushing longer videos. Some creators worry about the vibe shift | CNN Business
TikTokが中・長尺動画投稿をクリエイターに呼びかけている動きはすでに紹介した。収益化をめざすクリエイターらへのインセンティブプログラム「Creator Fund」を廃止し、新たに「Creativity Program Beta」を開始。だが、短尺を動機にしてきたクリエイターは困惑しているとの記事。
メディア感度格差、データで顕在化! 若者にとっての「ネオ新聞一面」はこれ  | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)
【ご紹介】:
「どの層も、マスメディアへの信頼度よりも高い割合で『マスメディアが大きく扱うニュースは重要だ』と感じる傾向がみられた 一方、『重要だと思うニュース』について『新聞1面に掲載されるニュース』を選択した割合には、世代差が如実にあらわれた」。

——先般発表したスマートニュース メディア研究所による調査結果を取り扱った記事。引用箇所にも現れたように、大きく3つに分けた年齢階層のいずれも、マスメディアの発信に価値観、重要性を依拠している。
記事が指摘するように、年齢階層によりそれが異なるのもポイントだが、自分としては、それよりも全体としてマスメディアを重視していることがわかったのが、発見だった。

Disruption This Week—–15/12/2023

目に止まったメディアとテクノロジーに関する“トピックス”。2023年12月11日から2023年12月15日まで。

News avoiders shouldn’t be ignored
「ニュースの特定のトピックやニュース全体から意図的に離れている(多くの場合、あまりに憂鬱になったり、消耗したりするため)という人々は、通常、意図的にニュースを避けていると報告していない人々とほぼ同じ量のニュースを全体的に消費している」。

——ニュースの「選択的回避」議論が少しずつ高まっている(Reuters Instituteが何年も前から指摘している)。これが何をもたすのか自分も気にしているが、スペインの学識である筆者は引用箇所のように述べている。選択的回避者は、一方でニュースの熱烈な回避者でもある可能性。

People are watching longer TikToks. What does that mean for competition with YouTube?
TikTokが数十秒の短尺動画だけでなく、クリエイターに長尺(最長で15分程度)系を推奨し始めたことは紹介した。米Insider Intelligenceは、この動きもあってか、2024年には米成人のTikTok平均視聴時間が55分と、YouTubeを5分程度上回ると予測する。
ただし、その利用者数比でいえば、23年においてYouTubeはTikTok(1億230万人)の2倍以上(2億3740万人)ではあるが。
オープンAI、独メディア大手のコンテンツ有償利用へ
【有料購読者向け記事】:
「生成AI(人工知能)の『チャットGPT』を手掛ける米オープンAIは、ドイツの出版・メディア大手アクセル・シュプリンガーと複数年のライセンス契約を交わした。AIツールによるコンテンツ利用に対価を受け取りたいメディア業界には画期的な動きだ」。

——昨日は、米NYTimesがジェネレーティブAI担当幹部を外部から招聘という話題を紹介した。続く今日は、この話題。独最大手メディアが、OpenAIと手を組んだ。AP通信やGetty Imagesなどとの提携に続く大きな動き。記事は「共同発表によれば、チャットGPTはユーザーの質問への回答にアクセル・シュプリンガー傘下メディアのコンテンツを基に要約した回答を作り、回答の下に出典へのリンクを表示する。この新形式は近く利用可能になる予定」と伝える。このようなフォーマットがこれからメインストリームになる可能性が高い。

電子版「For You」開始 一人ひとりに最適記事をお届け - 日本経済新聞
「日本経済新聞社はこのほど、日経電子版アプリに一人ひとりの興味や好みに応じて記事を自動配信する読者専用ページ『For You』を新設しました。記事を読む目的や関心のある分野などの3つの質問への回答をもとに、好みを反映した記事20本をおすすめします」。

——いろいろなコンテキストからニュース(記事)に出会う仕組みが必要。紙面の編成だけが新聞の読み方ではない。

アップルにも影響必至、グーグル敗訴でアプリストア市場揺らぐ可能性
「スマートフォンのアプリストア運営を巡りグーグルがゲーム大手のエピック・ゲームズに敗訴したことで、年2000億ドル(約29兆円)近くを生み出すアプリストア市場のグーグルとアップルの2社による複占が揺らぐ可能性がある」。

——「陪審は全員一致で…エピック側の訴えを認める」とある。同様の訴訟でEpicはAppleに一度は敗れているが(2021年)、状況の変化は加速している。いずれ複数のアプリストアが並び立ち、“税金”のディスカウントが始まる…のだろうか。

WSJスクープ | 米紙NYタイムズ、AI担当の編集幹部を初採用
【有料購読者向け記事】:
「米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)は、同社初の人工知能(AI)担当編集ディレクターにデジタルメディア『クオーツ』の共同創業者、ザック・スワード氏を起用した。主要報道機関の間でAIの潜在性やリスクが議論される中、この新技術を重視する姿勢を浮き彫りにした」。

——懐かしい「Quartz」の名が。それはともかく、NYTimesはやはり、ジェネレーティブAIにリーチしてきた。対外的にはAIへの抵抗感や懸念を打ち出しているが、内部的にはどう活用するかを真剣に検討していることは想像できた。さて、国内勢諸紙はどう感じたか?

Audiobox
米Meta、自身の音声を数秒間サンプリングするだけで、人工音声を生成するサービス「Audiobox」を公開(デモ版)に供した。先月発表されていたもの。
自身の音声に加えて、さまざまな効果音を追加できる。単なるスピーチデータだけでなく、“番組”を創れるというわけだ。
The Next News Disruption Has Already Begun
【有料購読者向け記事】:
先日も簡略に紹介したが、厳格なペイウォール制に賭け、広告に依存しないメディア「The Information」が開設から10周年。
創業者でCEOのJessica E. Lessin氏がこれまでの10年、今後の10年を語る記事を執筆。広告(主や売上の)プレッシャーをはねのけることで、スクープに専念できたと誇ると同時に、テクノロジーへの期待も述べる。
「生成AIを使って、読者は質問により新しいことを学ぶことができるようになる。チャットボットが世界を征服するとは思わないが、新しいツールは今後も大きな心理的変化を促し、読者の出版物に対する期待も変えていくだろう」。
「ChatGPT」から個人情報含む学習データの抽出に成功--Google DeepMind研究者ら
「プロンプトでコマンドを入力し、『poem(詩)』といった単語を延々と繰り返すようChatGPTに求めたところ、学習データを含むテキストの断片を丸ごとChatGPTに出力させることに成功した。アライメントされたプログラムでは通常、そのような漏えいは起こらないはずだ」。

——ジェネレーティブAIがユーザーのプロンプトによって、機微な情報を出力しないよう調整する仕組みを「アラインメント」と呼ぶ(らしい)。これをハックするアプローチが次々と発見されているとする記事。GenAIの脆弱性が顕在化されてきている。

日経、デジタル購読数100万に 専門メディアで法人開拓 - 日本経済新聞
「日本の有料ニュース媒体で100万超えは初めて。電子版有料会員数は89万7千、電子版以外のデジタル購読数が3年前の約2倍の11万5千。英文媒体『Nikkei Asia』とあわせると107万となりました。世界の新聞社の有料ニュース媒体では日経グループの英フィナンシャル・タイムズ(FT)に次ぐ5位水準で、FTとあわせると326万と世界3位の規模です」。

——デジタル版購読100万人突破は、国内メディアとしては“悲願”だっただろう。チャートでもわかるように、専門(バーティカル)系など、多メディア化が寄与している側面もある。

有料ネットニュース利用、日英は9% エンタメと競合 - 日本経済新聞
【ご紹介】:
日経MJ紙への連載コラムが日経電子版に転載されました。よろしければどうぞ。➡ 有料ネットニュース利用、日英は9% エンタメと競合
保守・リベラル、日米で差異 - 日本経済新聞
【ご紹介】:
「日本の有権者の政治的価値観を扱った調査結果がこのほど明らかになった。スマートニュースメディア研究所が大学教授らと取り組んだ『スマートニュース・メディア価値観全国調査』だ」。

——スマートニュース メディア研究所が実施した大規模な世論調査結果から。まだ、発表時のリリースや解説中心に紹介されているが、今後、データを用いた本格的な研究が現れてくるだろう。

スマートニュース、有料ビジネスニュースとクーポンを集約した日本初の購読サービス『SmartNews+』を提供開始 国内外25以上のメディアの厳選記事が読み放題
【ご紹介】:
「ニュースアプリ『SmartNews』で、有料ビジネスニュースとクーポンを集約した日本初となる、購読サービス『SmartNews+』(スマートニュースプラス)の提供を開始しました」。

——ビジネスメディア系の各種プレミアムコンテンツを定額で読み放題に。いずれ購読すべきメディアを発見するのにも良いかもしれないです。

Disruption This Week—–8/12/2023

目に止まったメディアとテクノロジーに関する“トピックス”。2023年12月4日から2023年12月8日まで。

100k Club: Exclusive ranking of world’s top paywalled news publishers
英Press Gazette、恒例の購読者10万超の英字メディアのトップランキングを更新。1位は想像通りNew York Times。わずか3か月で電子版のみの購読者数を21万増とし940万人に。2位は、なんと420万人を数えた同じNYT傘下のThe Athletic。Wall Street Journalは350万で3位となった。
ChatGPTが15秒で作った条例が議会で可決、ブラジルで物議
「250字の指示で、わずか15秒後に条例案が完成。同案は委員会で審議されたとはいえ、表現の一部が修正された程度で内容はほぼ当初通りになったという。ホザリウ氏(条例案を提案したハミル・ホザリウ市議)は『AIが作ったブラジル初の条例』と胸を張る」。

——ChatGPTが生成した条例案に一言一句を加えずに上程されたのかどうか確かでないが、問題のある行為とも思えない。要は実質的に正しい、賛意を得る条例であるかどうかだ。

Journalism prepares for a post-search, post-social future
報道メディア業界は、身近に迫ったポスト検索、ポスト・ソーシャルの世界に備えなければならない。
過去10年間、報道メディアはGoogleやMetaのようなデジタル媒介に依存して、記事を配信し、リーチを拡大してきたが、この時代は終わりを迎えようとしているとする、British Columbia大のジャーナリズム研究者によるミニ論説。
「このニュースはAIで生成」と表示するとメディアの信頼度が落ちる、そのわけとは?
「我々はここで、『AIの情報開示のパラドックス』と呼ぶものの証拠を発見した。(中略)透明性が報われず、むしろ これらの(AI)ツールの利用を公表する報道機関は、信頼性が低いと認識され、そのため、そのようなインセンティブが低下する可能性がある」。

——先日紹介した学術論文について、平和博さんが詳しく紹介。要はAIが生成した記事(とそれを掲載するメディア)への警戒感が読者側にあるのだが、これを受けて透明性を高めるべく「AIが生成した記事」といったラベルを、メディアが記事に付したりすると、むしろ、読者はそのメディアに対して不信感を高めるという結果が見えてきた。ヒトの心理機制って、そんなものなのだろう。

トップパフォーマンスのコンテンツをカウントダウンしてみると、現代で最も影響力のあるプラットフォームの1つであるTikTokにおいて、私たち一人ひとりの体験がいかにバラバラであるかがよくわかる。
「私がTikTokで見ているものは、必ずしもあなたが見ているものとは限らないのだ」。
[情報偏食 ゆがむ認知]第5部 操られる民意<1>「中国発」偽情報広がる
【有料購読者向け記事】:
「(NewsGuardアナリストの)ワン氏は、アメブロについて『確認したPFの中で、単一の言語で偽情報を広めたアカウント数が最も多かった』と述べ、『(投稿は)米国は悪の国だと日本の世論に働きかけ、日米関係にひびを入れようとする狙いがある』と指摘する」。

——日本ドメスティックなプラットフォーム(やSNS)などにも影響力工作の動きを読売が大きく紙面を割いて展開。ややこしいのは、日本(の政権)などを直接的に攻撃するようなキャンペーンではないものの、日米の間を裂く取組が動きとして顕在化されていること。日本でも影響力工作は着々と浸透を続けている。

テレビ番組の“今の視聴率”が分かるWebサイト登場、SNS投稿も 「リアルタイム視聴への関心を高めたい」
「その時間に放送しているテレビ各局の番組名とリアルタイム視聴率、視聴率推移グラフなどを確認できるWebサイト。3時間前までの視聴率を確認できるため、少し前のクライマックスシーンの視聴率なども分かるという」。

——「調査パネル(関東: 1万2000人、関西: 4000人、中京: 2000人)のデータから、リアルタイムの視聴率データを生成する」という仕組みだ。そのデータをSNSで共有することもできるという。これはけっこう流行りそうなサービス。

How Jessica Lessin’s The Information Has Survived a Decade of Media Tumult
「現在、Jessica Lessinによれば、Informationのアクティブ読者数は47万5000人(有料購読者と無報酬のニュースレター購読者)である。同氏によれば、今年は黒字を見込む。2023年には、会社の売上計を前年比30%成長させる」。

——米メディアThe Informationが創刊10周年。その間、VCマネーと広告の仕組みを用いて鳴り物入りで誕生した数多くの新興メディア(たとえば、BuzzFeedはその最たるもの)が誕生しては消失していった。Wall Street Journal記者出身のCEO Jessica Lessin氏は、VCマネーに頼らず、広告非表示・厳格なペイウォール型のメディアを創業し、成功に導いた。

Shuffle, subscribe, stream: Consumer audio market is expected to amass listeners in 2024, but revenues could remain modest
調査会社Deloitteが毎年恒例のテクノロジー市場の近未来予測「TMT Predictions 2024(Deloitte Center for Technology, Media & Telecommunication)」を公表。さまざまな分野に焦点を当てるが、紹介するのは継続的な成長が期待されるオーディオ市場。特に、ポッドキャストは全世界で月間17億人のリスナー市場へと成長。
箱庭化するSNS、他サイト誘導2〜4割減 XやFacebook - 日本経済新聞
【有料購読者向け記事】:
「SNSのうちフェイスブック経由は41%も減少した。運営する米メタは投稿の表示順を決めるアルゴリズムを頻繁に変えている。特に5月はニュースサイトなどの外部リンクの掲載順位が下がったとされる」。

——米New York Timesらが“プラットフォームのニュース離れ”と報じてきた事象。記事のとおり、それぞれのプラットフォームの囲い込み的な事情によるのはもちろんだが、ジェネレーティブAIのブームで見えてきたように、利用者も自分の知りたいことを教えてくれるストレートな利用法に傾いているのだろう。

Disruption This Week—–1/12/2023

目に止まったメディアとテクノロジーに関する“トピックス”。2023年11月27日から2023年12月1日まで。

On ChatGPT's first anniversary, its mobile apps have topped 110M installs and nearly $30M in revenue | TechCrunch
ChatGPTがサービス開設からようやく1周年。モバイル関連調査企業data.aiによると、1周年を迎えた現在、ChatGPTのモバイルアプリバージョンは合計で1億1,000万インストールを突破、消費者からの売上は約3,000万ドルに達した。
出版状況クロニクル187(2023年11月1日~11月30日) - 出版・読書メモランダム
「今世紀に入っての雑誌の凋落が一世帯当たりの消費支出にも露わである。2000年の5386円に対して、22年は2526円と46.9%になり、まさに半減してしまっている。
しかもこれは平均であり、20代の場合は2000年7916円に対し、22年は959円、30代は7740円に対し、2154円となり、かつての雑誌のコア読者層の雑誌離れが歴然となっている」。

——引用箇所は、『季刊出版指標』(2023年秋号)が特集した企画から「一世帯当たりの年間品目別支出金額〈雑誌・書籍〉」を惹いた部分。注意したいのは年齢を平均化した記述である点で、年齢階層別に見ると、「とりわけ20代は半減どころか、90%近いマイナス…」となる。これだけを見れば、「雑誌」フォーマットは、もはや消滅に向かっていると言っても良さそうだ。

<img src="https://www.niemanlab.org/images/caleb-woods-VZILDYoqn_U-unsplash-700×467.jpg" alt="So who are the consistent news avoiders?” />
「私たちが、何者であるか(アイデンティティ)、何を信じているか(イデオロギー)、そして私たちが利用するメディアの経路(インフラストラクチャー)が、私たちがニュースとどのように関わるかに大きな影響を及ぼしているということだ」『ニュース回避』。

——「はっきりさせておきたいのは、若者や女性、社会経済的階層の低い人たちのすべて、あるいはそのほとんどが、一貫してニュースを避けているということではない。それは事実ではない」と新刊書『Avoiding News:Reluctant Audiences for Journalism』は述べているという。

Federal government reaches deal with Google on Online News Act | CBC News
Googleとカナダ政府、オンラインニュース法(ONA)をめぐる争いで合意に達し、Googleがニュースメディア企業に年間1億ドル規模の支払いをする見返りに、カナダ国内でニュースのオンライン共有を継続することとなったとする報道。政府高官もそれを認めた。
ttps://www.cbc.ca/news/politics/google-online-news-act-1.7043330
オープンAI内紛 「効果的利他主義」巡る騒動
【有料購読者向け記事】:
「アルトマン氏は今年の春、世界各地を回って、AIは深刻な害をもたらす可能性があると警鐘を鳴らしたが、同氏はまた、EA(=「効果的な利他主義」)を『非常に奇妙な目新しい行動』を見せる『信じられないほど欠陥のある運動』と呼んだ」。

——OpenAIのCEOをめぐる大騒動の背景にあった要素のひとつに、「EA」と「e/acc」(「効果的な加速主義」)があったとの指摘が徐々に明らかになっている。本記事もその視座で解き明かそうとしている。当事者や社員向けの(会社からの)メッセージも、明瞭な説明をしていないので、判定が難しいのだが。

インスタ創業者が作ったニュースアプリ「Artifact」、AIのおすすめが的確すぎて驚いた
「Mark as Clickbait Titleは、要するに“釣りタイトル通報ボタン”です。これはニュースを読んでいるときに媒体にフィードバックしたいことですね。書き手のしての私としても、読者のこういう情報はぜひ欲しいです」。

——いしたにまさき氏によるニュースアプリ「Artifact」試用記。
アルゴリズムがニュースを選択、提案は一般的だが、それへの反応でユーザーのステータスを変化させ、そのステータスに対応した機能を提供する…という相互作用的な特徴が興味深い。併せて、引用箇所のような、“荒れない”ユーザーからの意思表明の仕方については学べそうだ。

Sports Illustrated’s Parent Says Articles by Allegedly Fake Writers With AI-Generated Photos Came From Third-Party Provider
水着写真などで有名な米スポーツ専門老舗メディア「Sports Illustreated」、Webサイトに掲載した記事がAIが作成した顔写真入りで、実在しないライターによる記事と指摘され、それがパートナーから供給を受けた記事だったと認め、パートナー契約を破棄したことを公表。ライターの略歴なども仮想のものだった。
WSJ News Exclusive | Instagram’s Algorithm Delivers Toxic Video Mix to Adults Who Follow Children
【有料購読者向け記事】:
米Wall Street Journal、十代もしくはより幼いインフルエンサーのみをフォローするInstaアカウントを設定し、Reel広告にどのような表示をするか検証。子供たちのきわどい映像やあからさまに性的なアダルトビデオを表示するアルゴリズムだと判明した。
TikTok Ignited a Frenzy for Short Videos. Now It Wants Longer Ones
【有料購読者向け記事】:
「YouTubeはわざわざTikTokのような存在になろうとし、いまやTikTokはYouTubeのような存在になろうとしている」。
YouTubeが短尺動画のShortsに乗り出す一方、短尺動画の本家TikTokは、「1分以上の動画」投稿を奨励。実際、ユーザーの視聴時間の半分が、これらやや長めの動画視聴に集まっているという。
ソーシャルメディアはテレビになるのか
【有料購読者向け記事】:
「ソーシャルメディアがマスメディアへと変貌を遂げたのは、中国系動画投稿アプリ、TikTok(ティックトック)が登場し、テレビを通じた体験を再現できるものが今でも非常に好まれていることが世界中のソーシャルメディア企業に実証されたことが大きい」。

——このテーマはメディアの変遷を考えるうえで、それなりに重要だと思う。TikTokやInstaで人気を博すコンテンツ(投稿)は一握りの人気クリエイターだ。SNSが多種多様な社会的島宇宙を形成している…と想像できる時代は過ぎ去ってしまった。言いかえれば「SNS」と呼ばれるものはもはや消滅してしまった。

新聞・テレビ「信頼」68%…メディア価値観調査
【ご紹介・有料購読者向け記事】:
「『ニュースを十分かつ正確、公平に報道する点においてマスメディアを信頼しているか』との質問で、『信頼している』とした回答は、政治的立場が保守的の人は69%、リベラルは67%、中間は70%だった」。

——こちらもスマートニュース メディア研究所が発表した世論調査の結果からの記事。「マスメディア」への信頼度の高さと政治的な偏りの少なさで、米Pewなどとの調査結果と大きな隔たりが示された。「問題」は、先ほど紹介した「時事」の記事にあったように、若者の新聞離れの進行で、将来の分断の芽がそこに含まれているかもしれない点だ。